地獄御免之鬼恋慕 ⑥
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地獄御免之鬼恋慕 ⑥

2018-03-30 21:15
  • 2

→前回←

このオハナシは以下の曲をBGMに聞きながら書きました。
良ければ聞きながらどうぞ。
→楽しみを希う心←
―――――――――――――――――――――


加藤ミキは『泣いた赤鬼』という絵本が好きだった。

泣いた赤鬼は人間と仲良くしたい赤鬼が主人公だ。
だが鬼だ。人間は赤鬼を怖がって仲良くしたがらない。
そこで青鬼が一計を案じる。
俺が人間を襲うから、それを殴って追い返せ、と。
それを聞いて戸惑う赤鬼だったが、
結局青鬼の言う通りに一芝居を打ち、
めでたく赤鬼は人間達と仲良くなることが出来た。
だが青鬼はその後行方をくらませ、
赤鬼は置手紙が張ってある青鬼の家の前で涙するのであった。

加藤は損な役回りの青鬼の事を子供心に痛く気に入った。
自己犠牲の塊のような青鬼の存在に美しさを感じ、
それに類するような出来事を聞くのが好きな生前だった。

眼鏡鬼、アザヲ管理佐に刺又の事を問われた時、
加藤は青鬼になりきる覚悟をした。
女と女の約束を交わしたんだ。
人間と鬼であっても守る。守り通す。
ここで自分が当の眼鏡鬼に事の真相なんて話せない。

だが「ノコギリ引き」という単語を聞いた時、
思わず加藤の両足が細かに震えた。

ノコギリ引きと言えば地獄の中でも破格の拷問である。
過去に刑を受けた罪人は二度と悪さをしなくなるといわれる噂もある。
噂に聞けば、自分の身体が引き裂かれる為に何度もノコで引かれるのは、
想像を絶する恐怖と痛みらしい。
それが九百九十回も。
即ち、加藤の身体に対してノコギリが九百九十回往復する。

身体がバラバラになるのでは?
という冷静な自分の意見に過去の見聞が答えた。
引き千切れた身体も元に戻る。
その時の痛みがまた酷い。
千切れてはくっ付き、またノコ引きされ、
それが千切れたらまたくっ付いて苦しい。

「地獄は死ねない、狂えない。
 せめてもう二度とあんな目に遭わない様に大人しくするだけだ。」

そう肩をすくめて呟いた罪人の目はどんな目をしていたか。
刑場に向かう際中、加藤の指先までも震えてきた。

「入れ」

鬼が六人も立っている。
いずれも加藤の三倍は背丈がある。
逃げ出せる筈も無い。

加藤の指の震えが止まらない。
恐怖の表れ。
女鬼との約束の為に美しい自己犠牲を払った。
その陶酔感が僅かに加藤の恐怖を和らげていたが、僅かだけ、僅かだけ。

仰向けに縛られ、
手も、足も、力でどうこうなるものではない。
そして加藤の顔面に器具が付けられた。
開眼器だ。
目を閉じられない様にする為の拷問具。

拷問とは身体的な痛みもさることながら、
視覚的、引いては精神的な痛みも重要である。
人は目を閉じて危機を待つよりも、
視認して危機を待つ方が絶望が増すという。
激痛を持って次々に加藤の身体にノコギリの刃が入る事だろう。
それから目を逸らす事すら許されない。
破格の拷問の名の轟きは伊達ではない。

手と足を縛られ加藤の陶酔感はもう消えた。
冷たい黒の革が脈が止まる程に加藤の身を縛り、
恐怖がその他のありとあらゆる気休めを追い出しきり、
今にも加藤はその場で失禁しそうなほど恐怖している。

誰もこの刑の最中を見た事は無い。
ただ受けた誰もが口を揃えて「二度と受けたくない」と言う。
この悪人の見本市である地獄の罪人共が。
それが何を意味しているか、
加藤にも当然わかっており、
それが今自分の身に降りかかると思うと、
まだ刑が始まっても無いのに自然と涙が溢れてきた。

しかも六人いる鬼では足りないのか、
もう一人、新たに鬼が入ってくる足音が聞こえる。
二の腕までもが震える。

すると鬼達がいよいよか、足音を立てて動き始めた。
鬼達の様子なぞ怖くて見れない。
どすぐろい地獄の空も今日だけは見つめて続けたくて、
涙でドロドロになった空を加藤はじっと見続けた。

鬼達の足音が一所に集まったようで、
そのまま一所で物音がする。
ノコギリを用意しているのだろう。
足音は依然として聞こえ続けている。
それが段々と薄くなっていったかと思うと、
一つの足音がドシドシと近寄ってくるのが判った。

「よっ」
「  ?」
「大丈夫?泣いてんの?」
「   え!?」

視界が涙でまどろんでいるなか、
縛られているので手で拭うことも出来ない。
ただ自由な耳が鬼の声を判断した。
女鬼の声だ。あの腹筋鬼の声だ。

「ちょっと待って、外すね」

革が外され脈が加藤の身体にドクンと流れ出す。

「アンタの刑が変わったよ」
「………話したの?」
「うん」
「全部?」
「うん」
「どうして!?」

野口が全てを見ていた。

加藤が刑場に連れていかれる為に管理佐室で出た直後、
野口がうらめしい顔で女鬼の事を睨むように見ていたが、
その女鬼の口から舌が少し出て、唇を濡らした。

「管理佐。彼女の罪状ですが」
「どうした、何か意見が?もっと重い方が良いか」
「いえ、彼女の罪状ですが、不適当です。」
「理由は?」
「彼女の犯した罪が違うからです。」
「要するに彼女はナナベ君を脅してないと?」
「  ええ、彼女の罪状は脅しではなく、嘘吐きです。」

それを聞いたアザヲ管理佐は腕組みを解き、
机の上で柔らかに拳を作った。

「彼女の話ではナナベ君の秘密を握り、君を脅した、という話だったが」
「半分ほどは合ってます。
 彼女は私の秘密を握りました。
 私が刺又を落とした際、拾って私に返してくれたのは彼女の裏の無い善意です。」
「というと?」
「私が仕事で駄目な面を見せない為に彼女が取り計らってくれたのです。
 私が刺又を落とした時、彼女は迅速に拾い上げ私に返してくれました。
 私はそれで刺又を落とした失態を見られていないと思ったのですが、
 相手の観察眼を侮っていました。」
「誰の観察眼だね」
「管理佐です」
「私の?」
「事実、私は刺又を手から滑らせた際、心底しまったと思いました。
 管理佐が来た瞬間に動揺して手の力が緩んでしまったのです」
「はは、部下を緊張させてしまったのか私は」
「いえそういう訳では無く」

女鬼の言葉が詰まったが、
胸の奥で一瞬熱く何かが燃えたかと思うと、
次の瞬間彼女の腹筋がキュンと締まった。

「私が管理佐に恋慕の情を抱いているからです。
 惚れた相手にしくじった場面を見られると思い動揺しましたが、
 私の心中を察してくれた彼女が素早く刺又を拾ってくれました。
 そのまま何事もなく終わるかと思いましたが、まさかこんな事になるとは」
「二つ、聞いて良いかね」
「はい」
「どうして、彼女が出ていくまでその事を話さなかった?」
「私が、
 この事を管理佐に話す、度胸が無かったからです。
 覚悟がありませんでした。」
「二つ目の質問だが、どうして今話してくれたんだい」
「彼女が、
 あの人間がこの部屋を出ていく時、
 指先が震えていました。
 ノコギリ引きは人間の間でも有名な刑です。
 それを言い渡されても彼女は……私は自分が恥ずかしくなりました。
 管理佐。」
「うん」
「ここの担当でこられてその仕事での手際の良さに惚れました。
 ずっとお慕いしていました。
 好きです。
 それがあの人間が知っていた私の秘密です。
 どうか刑の変更を。」

その二人のやりとりを腕組みをした野口だけがじっと見ていた。
そして、革を外しながら女鬼が語って聞かせ、
加藤が苦笑いする今に至る。

「……なんだよ、結局言ったんじゃないか、この」
「あはは」
「それで、どうだった?」
「え?」
「え?って。いや、結果よ、結果。どうだったの」
「異動だって」
「……は?いどう?」
「違う相の地獄にすぐに異動になるんだって。
 だから君の気持は嬉しいが応える事が出来ないって言われた。
 よかった、別に嫌いだからイヤとか言われなくて。」
「……えぇ、本当に?」
「あのさ」
「え?」
「泣いた赤鬼って話知ってる?人間から聞いた事があるんだけど」
「ああ、知ってる」
「アタシ、あれ大嫌いなんだよね」
「そうなの?なんで。」
「青鬼と赤鬼、二人して一芝居打ってさ、
 それで赤鬼は人間と仲良くなるじゃない?
 それから人間は赤鬼の家に来るようになって楽しく遊んでたけど、
 青鬼の事を思い出して家に行ってみたらもう旅に出ていたって。
 そこで赤鬼は泣いて、話は終わりだよね。
 ―――そんな酷い話、ある?
 人間と仲良くなる切欠を作ってくれた、
 しかも自分の身を切る真似してまで協力してくれた相手をさ、
 自分が人間と仲良くなれて念願の生活を手に入れられたからって、
 ずっとほったらかしにして、
 ありがとうも言わなくてさ?
 それでちょっとどうしてるかなって、
 そんな気分で行ってみたら、
 居る、と思った相手が旅に出てて、
 ありがとうも言ってないんだよ?
 そのくせ家の前で泣くなんて、
 酷い話だよ」
「でも、
 ごめん、
 アタシはその話、結構好きなの。あはは」
「あはは、本当に?ごめんごめん」
「はは、大丈夫大丈夫」
「でもね、
 泣いた赤鬼みたいに、自分の都合優先して、
 でも、私達はまた直ぐに会うじゃない。
 どの面下げて会えるか、恥知らずの行いだよ。
 ちゃんと言いたかったんだ。
 ありがとう、約束、守ってくれて」
「そんな……でも、
 アンタが本当の事を言わなくても、私はアンタを恨むつもりは無かったよ。
 世の中ってはそういうもんだって思ってたから…。
 知ってる?とある聖人の話。
 その聖人が奇跡を起こして十人の病人を救ったけど、
 ありがとうって言いに戻って来たのはたったの一人だったんだって。
 あとの九人は自分が治った事が嬉しくてそのままどこかに行ったって」
「余程嬉しかったんだよ。」
「泣いた赤鬼も一緒じゃない。
 鬼も、自分の願いが叶った嬉しさで」
「待った」
「え?」
「その物語、
 書いたのは人間だから。
 アタシ、鬼だから。」
「   あは、あはは!」
「ふふ」
「あはは!そうだね!そうだねそうだね……。
 ――ごめん、結局告白させた。
 アタシの力及ばずで」
「いやいや、結局さ、何の為にここまで腹筋鍛えたんだって話だよ。
 管理佐に少しでもアピールする為にバキバキにしたのに、
 今更好きだと言わないなんて嘘だろって自分でも思ってさ。
 でもありがと、今回の事がなかったらきっと言えなかった、
 言えてよかった。腹筋のやり場に困る所だった。」
「腹筋のやり場?」
「口を突いて出た」
「なによそれぇ」
「えーとところで、刑がなくなった訳じゃなくて、
 管理佐に嘘を吐いた事で別の刑が発生したのね。
 それで関係者として私が責任もって執行する事になったの」
「うんまぁ、ノコギリ引きじゃなけりゃ……どんなの?」
「尻叩き一回」
「……は?」
「尻叩き、一回。心を込めて。」
「……あはっ、じゃあさっさとお願いするわ」

女鬼の膝の上にうつぶせに加藤が寝ころぶと、
女鬼の手の平が乾いた良い音を鳴らした。
そのまま笑って刑場を出ていく二人を、
野口がやはり腕組みをしてじっと見ていた。

次の日、
掃除夫がノコギリ引きの刑場に入ってみると、
その壁一面に石でこすった跡がぎっちりと並んでいた。
よく見れば人間の文字であるようなので一人の人間を連れてきて読ませていると、
一緒に立ち会っていた管理佐が途中でその読み上げを止めた。

そのまま人間を帰らせると掃除夫にこう言い渡した。
この壁の文字全て、綺麗に消す様に。
掃除夫は管理佐に良いのかと聞いたが返事はこうだった。

「この文字の内容を知るべき者達は、
 ちゃんとその事を知っている」

その後、人間並びに鬼の中で刑場に文字を書いた者を探したが、
アザヲ管理佐が異動になる時が来ても当事者は見つからず、
管理佐の異動を持って該当者探しも打ち切られたという。


今日も地獄は曇り。
人は苦しみ、
鬼は苦しめ、
だがその人鬼の交わりの中に少しばかりの情の通じる仲があるのは、
このオハナシここまで読んでくれた、

あなただけが知るばかり。


―――――――――――――――――――――
読了有難う御座います。
早速ですが皆さん、「光のおとうさん」を御存知ですか。
つい少し前にテレビドラマ化もされたとある親子の物語です。

長々と書くのも無粋ですので端的に言いますと、
国民的ゲームファイナルファンタジーの中で、
重い病気を患った父とその息子が起こした奇跡です。

胃癌を患った父をオンラインゲームに誘い、
息子は自分と悟られないように一緒にゲームを遊び、
ラスボスを倒した後に実は僕は貴方の息子なんです、
と告白をするなんとも大掛かりな吃驚イベント。

なにより驚いちゃいけないのがこの計画、
なんと息子さんのブロマガで随時進捗が報告されてたという事です。
皆さん、これがどれほど凄い事が判りますか。
息子さん本人も言っていたのですが、
ブロマガで大々的に公開していたにも関わらず、
ゲームの世界の誰もが、一人としてお父さんに計画をバラさなかったという事!

息子さんも計画開始時既に有名なブロガーで、
「光のおとうさん」計画が火種になり更に有名になります。
ファイナルファンタジーもビッグタイトル、
何万人が遊ぶ箱庭なのでしょうか。

それなのに、
誰一人として、お父さんに計画の事を教えなかったそうです。

「この世界の皆の優しさを知った」

後にそう語っている息子さんでしたが、
これが今回のオハナシの内容を悩ませました。

地獄にやって来た罪人達が、

「あの鬼の恋をどうか黙ってやってて」

と言われて、
果たしてそのまま黙っているのでしょうか。
ファイナルファンタジーの世界も紐解けば色んな人がいるでしょう。
聖人の様な優しい人もいれば、
中には性根のひねくれ曲がったプレイヤーもいるでしょう。
ですが、誰も計画を潰そうとしなかった、黙っていた。
そういう事が、現実の世界で起きたんです。

私は知っています、
昔ビートルズが流行っていた時、
番組でビートルズが流れている時間は犯罪が起こらなかったという伝説を。

しかし地獄、
遠心分離機で綺麗に分けられたような罪人達が、
そんな美談の様な事をするのかと?

少し前、
時間を一分だけ巻き戻す人間のオハナシを書いた時、
人間の美しい部分に焦点をあてて話を書いた。

なら今回は、人間の汚い部分を書こう。
何せ、地獄を書いているのだろうから。

と思い、
罪人の全部が、という訳でもないだろうて、
半分の罪人が要らぬ事をはじめ、
また別の半分がそれを喰いとめにかかる、という筋書きになりました。


地獄ではどんな事を思うのだろう。
随分と間が開いた作品でしたが、
ここまで読んで頂いて有難う御座いました。


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「光のおとうさん」…! すごく見たかったのですが、テレビを見る習慣があまりなくて、結局見そびれてしまいました。色々と興味深い物を見逃す自分。そしてもう一つの話、「泣いた赤鬼」…あまりにも有名なので筋書きだけ知ってるのか実際に見たのかわからなくなってる作品。綺麗な話だとは思うけどやりたくないしやらせたくない印象ですね。
そしてこのオハナシに繋がる。今回はかなり考え込んで書いているんだなって思っていました。
黒か白かと喧嘩はおよし白と言う字も墨で書く。人間の評価が、単色なんて、ないけど、その時のイルミネーションが(上手く表せない病)…その一側面ですね。そういえば親からの叱られ方も小さい頃から変わったな…。せっかくなので件の一秒戻す話のリンクもいかがでしょうか 今回誤字がちょくちょく見えるので、そのついでに(
今回も、ごちそうさまでした。
22ヶ月前
×
>>1
Tyrol様

御指摘の通り見返したら、まぁ誤字の酷い事。いつも酷いものですが、今回はまた一段と酷い誤字の嵐でした、最後まで読んで頂き本当に有難う御座います(笑)
光のおとうさん、本当に良いドラマでした。私はテレビはちょこちょこ、通しでは書籍を買ったんですけど書籍で楽しむのもオススメです。
泣いた赤鬼は私も子供の頃に読んだきりだったのでネットで内容を復習しました。赤鬼さん、嬉しすぎて青鬼さんにありがとうと言うのを忘れちゃったあわてんぼさん。駄目よ、ちゃんとありがとうって言わないと、お母さんに言われたでしょ。
今回随分と間が開いたのは色々考えちゃったからですね。もう少しえいやと書いても良かったかなと今更ながらに思います。
けんいちろうでした、読了有難う御座いました。
22ヶ月前
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