よみのさび ②
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よみのさび ②

2018-04-25 19:19

    →前回←
    ―――――――――――――――――――――

    山の中とは言え、
    窓の外が静か過ぎる、と私の『冷静さ』が肩を叩いてくる。

    家の中とは言え、
    外の世界がこんなにも干渉して来ないだろうか。

    赤川さんが口を一瞬閉じた。
    だがカメラは止まらない。
    ポケモンの一匹も、この部屋の中にはいない。

    小さくタン、と赤川さんの口が鳴り、
    いよいよ話の続きが始まった。

    「まだ私の親父が生きていた頃の話です。
     当時はまだモンスターボールがそこまで普及してなく、
     トレーナーの半分程が使っているか使ってないか、
     そんな程度でした。

     ぼんぐりという物を知ってますか?
     
     ご存知ですか。
     そうです、モンスターボールが開発される以前、
     ポケモンを捕獲する為に用いられた木の実が、ぼんぐりです。
     最近はそのまま使っているという噂を全く聞かなくなりました。
     加工原料としての使用が殆どらしいですね。

     私が子供の頃、
     ある日に親父が一つのぼんぐりを持って家に帰ってきました。
     私は五人兄弟の末っ子でしたので、
     ぼんぐりの中を見ようとしても上の兄達の身体が大きくて、
     なかなか見せて貰えませんでした。

     すると一番上の兄がコイルだ、と言ったんです。
     当時、コイルは比較的に新しく発見された種類のポケモンでした。
     もう、胸がわくわくしました。

     私が子供の頃はですね、
     電気の供給が今よりも不安定だったもので、
     夜に家族でご飯を食べていると突然パッと電気が消えたりするんです。
     そうすると真っ暗になってお椀の中が判らないでしょ。
     シイタケだ、と思って箸で掴んだ筈が、
     口に入れて見たら実は茄子でうえっとなった、という事もありました。

     そんな時代だったもので、
     まだあまり人里にコイルはやって来ていませんでした。
     たまにきていたみたいですが。話に聞くと、
     好奇心旺盛なコイルが電線から電気をちゅーちゅー吸って、
     元々供給が不安定なものですから、お腹一杯になる前に送電異常が起きて、
     そのまま山に帰って行ったりしていたようです。
     ええ、勿論突然の停電はそういうコイルの仕業でもあったでしょう。
     
     その日は親父が家に帰っている途中、
     電柱の傍にこっそりとそのコイルが座ってて、
     身体が小さくなる程に弱っていたので、
     近くの木から適当なぼんぐりを一つ取り、
     コイルをそっとぼんぐりの中に隠して持ってきたと親父は言いました。

     それを見て怒ったのはおふくろですね。
     そんなの拾ってきて、ともうカンカンでした。
     当時コイルは結構肩身の狭い立場にあるポケモンだったんです。
     電気を吸って回るもので、当時の大人達はあまりコイルを好きじゃありませんでした。
     まぁ、今の時代でもコイルをあまり好きではないという人は居るかもしれませんが……。
     ですがあの時代はもっと酷いものでありました。

     でも親父が、コイツが道端で弱ってて可哀想だからと拾ってきたんですね。
     おふくろはカンカンでしたが、私達兄弟はもう興奮していました。
     弱っているから電気を喰わせてやろうと、
     ぼんぐりから出してやったそのコイルを親父がコンセントの近くに持っていくと、
     兄弟みんなしてコンセントの近くに群がりましてね、
     よろよろとコンセントに近づくコイルに頑張れ、なんて言って見ていました。
     するとコイルがコンセントに張り付いて電気を吸い取りましてね。
     兄弟全員がわぁ、と笑って親父にも「吸ってる吸ってる」と言うと、
     親父も笑ってうんうん、と言ってました。

     するといきなりパっと電気が消えてしまいましてね。
     台所からおふくろのコラーって声が聞こえて、
     その時の親父の顔はこんなヘの字口をしていましたな。
     大声を出して笑っては全員おふくろに怒られてしまうので、
     私達兄弟は鼻でふっと密かに笑っていました。

     それから我が家はよく電気が消えるようになりました。
     夜なんてもう頻繁にチカチカチカチカ、
     モールス信号でも打っているのかという程電気が落ちました。
     ご近所さんから一回電気会社に見て貰ったら、なんて言われて、
     いやいいです、大丈夫です、とおふくろが気まずそうに言ってましたなぁ。

     そう言えばこんな事もありました。
     ある日に家族で夕飯を食べていると、
     いきなりパッ、と居間の電気が落ちました。
     おふくろが、もう、またなの、お父さんいい加減にして、と、
     別に親父が悪い訳では無いのですがおふくろは決まってそう言ってました。
     親父も親父で、まぁまぁ、暫くすれば元に戻る、と言うのがいつもの事で、
     その時も暗い中で家族で飯を食べ続けた訳です。
     
     しかし、なかなか電気が戻って来ないんです。

     あれ、おかしいな、と家族が思い始めたくらいで、
     二番目の兄の裕二がこう言いましてね。
     あれっ、廊下のあかりついてら、って。
     閉めたふすまの下あたりから廊下のあかりが幽かに差し込んできてて、
     よく調べて見ると居間の電球が切れてたんですね。

     それからが可笑しくて、
     部屋の隅っちょでコイルがじぃっとおふくろを見つめていたんです。
     僕が悪いんじゃないよ、と、そう言っているみたいにね。
     すると流石におふくろもバツが悪かったのか、
     悪かったわ、と謝りました。
     すると不思議なもんでね、コイルもおふくろの足にすり寄ってくるんです。
     そしたらおふくろが初めてそのコイルに笑いかけました。

     それでこう言うんです、
     そうだわ、この子の名前をつけてあげましょう、と言い出すんですよ。
     それまで私ら兄弟はネジ坊、ネジ坊と呼んでいたんですが、
     それでは愛嬌が足りないと言って、
     おふくろが勝手に「さがみ」と名付けてしまいました。
     じゃあそれならと言った具合に、
     家の中ではそれからそのコイルをさがみ、と呼ぶようになった次第です。」


    ―――――――――――――――――――――
    →三話へススム←

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