涙鶴けんいちろうさん のコメント

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涙鶴けんいちろう
>>1
Tyrol様

このシリーズはなるべくぶっ通しで終わらせたいですね。頑張ります。予定では次の後編で終わりの筈です。だが予定は未定、いつかは終われば良いんですよ。
それにしてももう二年ですか…もう四年は書いてる気がしてるんですがね。
No.2
20ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
このオハナシは続き物です。 →前回を読む← ――――――――――――――――――――― 鼻に入って来た酒の匂いはそれほどのものでも無かった。 きっとこのドアを開けたら酒の匂いがする。 そう思っていたが故に現実と予想の合致がその威力を弱めた。 バリンテンは酒好きの魔法使いだと聞く。 十分前に上着を羽織りながらのダイスダーグから聞いた話だ。 カルヴァンの家で御馳走になって夜も星が駆ける良い時間、 そろそろバリンテンも酒を楽しんでほろ酔いの筈。 押しかけるなら今だと瞳をギラつかせてダイスダーグが言葉を放つと、 ネイチェが弱腰を見せた。 「もう遅いから明日にした方がいいんじゃ…」 「酒を飲む人間には二種類いる。  誰かと楽しむ為に飲んでる奴と、  誰かに迷惑をかけたい為に飲んでる奴だ。  バリンテンは前者さ。」 戸口まで見送りにきたカルヴァンも酔ったバリンテンの人の良さを推す。 そう言われてしまえば弱腰だったネイチェも肩眉を上げて「そうなの?」と言ってしまい、 結局バリンテンの家のドアを叩くダイスダーグの腕を止める事もしなかった。 まずバリンテン家の前に着いてダイスダーグがネイチェに、 「君がドアを叩くかい?」 と尋ねると二回瞬きしたネイチェが首を横に振った。 そうか、じゃあ力仕事は僕の役割だねと言ったダイスダーグ、 三軒先まで聞こえるかと思う程の音を立ててドアをぶっ叩くではないか。 思わず眉間に皺が寄ったネイチェが辺りをキョロキョロすると、 目の前のドアののぞき穴から小さな瞳が二つ現れた。 「どこのどろぼうさんですか?」 「泥棒じゃないよ、ダイスダーグだ」 「ダイスダーグおじさん、泥棒になったの?」 「違う違う、俺は客だよコルイ」 「お客さんはそんなに激しくドアを叩かないよ」 「今度演奏会があったら君のお父さんに大太鼓役をやらせてもらいたくて。  今のはそのアピールさ。」 「アピールし過ぎだよ」 鍵が転がる音がするとドアが開いて子供が現れた。 「こんばんは、お父さんはお酒をお楽しみかな」 「多分ダイスダーグさんだから見てきてよって言われたんだ」 「流石、正解だ。」 「でも次はあんな叩き方をしない方が良いよ、  次やったらきっとパパがダイスダーグさんを叱るんだから。」 「ごめんよ、次は擦る様に叩く」 「聞こえるの?それ」 見知った仲なのだろうか、 ダイスダーグとバリンテンの子供と思われる少年がドアの向こうへと進む中、 ネイチェも遅ればせながら家の中に入ると、 「そうだ鍵をかけなきゃ」 とコルイと呼ばれた子供がドアの方に戻ってきた。 「お姉さん初めまして」 「初めまして」 「コルイって言います」 「ああ、可愛い名前ね。私はネイチェよ」 「やめて」 「え?」 「可愛いって言われるの、僕嫌いなんだ」 そう言うコルイが先に早歩きで消えてしまったので思わずダイスダーグを見ると、 彼は顔を上下に伸ばしておどけた顔をした。ふざけている。 まずかったかなぁ。 そう思いながらネイチェゆっくり中へ進むと突然横に人影が現れた。階段の横である。 見てみるとそこには鏡に映った自分が居た。 更に覗き込むと目の下にクマが見える。しかも結構な大物だ。 ネイチェは思った。 こんな大きなクマを蓄えたままで世界を滅ぼしたら、 きっと神様が立派な悪人顔だとアタシの事をなじるかしら。 そして居るか判らないけど陪審員達もこの人相を見て地獄行きの沙汰を下すわ、きっとそう。 いや世界を滅ぼして悠々地獄を免れるとも思ってないけど、 せめてもうちょっと綺麗な顔の時に死にたいもんだわ。 客間に通された二人を出迎えるバリンテンは気持ちよく酒に酔っていた。 「多分お前だと思ったよダイスダーグ」 「こんな夜更けに現れる紳士が俺だってことか?」 「こんな夜更けに馬鹿みたいにドアを叩くのがお前って事が!」 「あはは!」 「ははは!」 バリンテンは酔っているとして、 酒の一滴も飲んでない筈のダイスダーグ、あんたはどうしたの。 まるで酔っ払いの雰囲気にも負けない明るさのダイスダーグ。 回れ回れと言わんばかりに酒を注ぎ自らも飲むダイスダーグの横で、 ネイチェはちびちびと杯を傾けるだけ。彼女は筋金入りの下戸だった。 「で、まぁそういう訳でお前の力を借りたい」 「祭りか!いいだろう!祭りはいい!  曲を奏でて、酒を飲む!  踊って回れば、酒を飲む!」 このバリンテン、酒をとにかく飲みたいらしい。 「それで三十人から四十人の規模の補助魔法曲をお願いしたいんだが」 「いいともいいとも、久しぶりに仲間総出でかけつけよう、  かなり大きな祭りになるだろ、奏者も入れ替わらせよう、  いいぞ!良い祭りになるぞ!はぁっは!」 「そうだろうそう思うだろう。きっと大成功だ、なぁネイチェ」 「ええ、まぁそのつもりよ」 「それで、なんだ?」 なにが、なんだ? 一人椅子から前のめりになるバリンテン、 それに首をかしげる客二人。 「その祭の最中にお前達、結婚でもするのか?」 「はぁ?けっこん?」 「ほぁ!?」 横隔膜が跳ねたのはネイチェの方。 結婚という言葉に無縁な人生を歩んできたため、 いきなり当事者かと問われて筋繊維が飛び跳ねた。 「なんで!?」 「いや、こんなに大きな祭りをやって、  しかも別に何かの古代習慣や記念を祝ったものでもない、  だとしたら、お前達が勝手にやりたいだけの祭だろう?  じゃあなんでお前達二人の都合で祭りを始める?  結婚するからそれを派手にお披露目する為じゃないのか?」 「いやっ……そのっ……!」 「このネイチェが踊りたいと言ったんだ」 何喰わぬ顔で、淀みも歪みも無い口調でダイスダーグ。 ネイチェが一瞬戸惑うも、バリンテンが、 「踊りたい?」と言葉を継ぐ。 「そうだ、なんでも踊り狂いたいらしい。」 「ほほう」 「世界を滅ぼす程に踊りたいと言ったんで、  それは面白いと思ってな、だってそんな理由聞いた事無いだろ?  だから俺が乗った。どうだ?良い理由だろ」 何を言ってるんだコイツは。 全身の血管が血液の輸送を止めたのだろうか、 ネイチェは眼球以外の運動を休止させ、その両目は宙を泳いだ。 右の壁に辿りついては左の壁を求め、左に辿りついては右へ折り返し、 どこまで泳いでも部屋から出られる気配はない。 「ネイチェさん」 「は、はい」 「アンタなかなか面白い事をいう女(ひと)なんだね、気に入った」 「は、はぁ」 「私もねぇ!演奏する時はいつもこの世を音で割ってやろう!と思いながらやってるんだよ!  こう、バァーっっとね!  それであんた、世界を滅ぼす程に踊り狂うって、  いやあ、気に入ったね!私も一枚噛ませてもらおう!」 「ど、どうも」 「それにしてもいやぁ失礼した…。  てっきりアンタ達、良い仲なんじゃないかと思ってね?  ほら、ネイチェさんはオシャレにアイシャドー塗って、それ。  ダイスダーグ、お前の好みかと思ったじゃないか」 「これはただのクマです……」 「クマ?いやぁ、綺麗に縁取られてるんで化粧かと思ったよ、  黒は女を美しく見せるだろう?はっはっは、いや、これは失礼した」 夜更けに訪問したにも拘らず、 酒が助けてくれたのかバリンテンにも力添えをする事を快諾して貰った。 いよいよ夜も深まって来たのでバリンテンの家を出てダイスダーグがこんな申し出をした。 「家まで送ろう」 「アンタが?」 「他に誰がいるんだ、俺しかいない」 鼠の足音も聞こえない。 聞こえるのは夜の闇達の聞こえない足音だけ。 カツ、コツ、音を鳴らしながら夜の道、 ネイチェが言葉を零す様に出した。 「びっくりしちゃうよね……」 「なにがだ?」 「こんなに早くコトが進むなんて」 「だろ?世界が滅びるまでもうすぐだ」 「あー…ねぇダイスダーグ」 「なんだ、酔ったのか?俺はここにいる」 「知ってるよ、何言ってんの、酔ってるのかい?」 「勿論だ、酒を飲んだんだぞ、俺は」 「あー……あのな。  世界なんて滅びれば良いと思ったのはアタシだけど、  どうしてダイスダーグ、アンタは話に乗ってくれたの」 「お前が俺に相談に来たからだ」 「……それ、理由になってんのかい?」 「俺も昔この世を滅ぼそうと思った事がある」 「アンタが?」 「俺が。意外か?」 「いやぁ…意外だね」 「それで研究した。そして気付いたんだ。一人じゃ無理だと」 「へぇ?」 「魔法使い一人の魔力じゃ世界を滅ぼすには魔力が足りない。  たとえエッペンルーヤの五本指に入ると言われている、この俺であってもだ」 「それを自分で言うのがアンタの凄いトコだよ」 「お褒めに預かり恐悦の至り。  この世を滅ぼす魔法ともなると何十人の魔法使いの協力がいる。  でも出来るか?」 「え?何が?」 「他の魔法使いに、世界を滅ぼしたい、手伝って!って。  そんな端から相手にされないような事をもちかける奴がいると思うか?」 「……もしかして今アタシ盛大に馬鹿にされてる?」 「ちがう、褒めてるのさ!  それがいた、いたんだよ、それがネイチェ、君だ!」 歯を食いしばり、唇を上下に剥き、眉を歪め、 ネイチェが作ったこれ以上ない不快感に溢れる表情を見たダイスダーグは笑った。 「だからね、思ったんだ。これは面白いぞって!  そこまで世界を滅ぼしたいっていう奴の、  まさに世界を滅ぼす様を見てみたいと思って。  だから君に肩入れしてる。」 「ダイスダーグ……アタシは知ってるよ、アンタは凄い魔法使いだ。変わり者だけど」 「どうもありがとう」 「このエッペンルーヤでも指折りの魔法使いだし、  体格も良い、髭も生やしてて自信家に見えるし、  それに…なんだ、まぁ見てくれも悪くない」 「君の好みか?」 「さぁ……。それに年齢もほどほどだ。  アンタ今三十半ばだろ、」 「今年三十七歳だ」 「若くもないが老けてもない、良い年齢だ。嫁こそ居ないが」 「なんだネイチェ、夜に紛れて男を口説いてるのか?」 「……なんの不満もなさそうなアンタが世界を滅ぼしてなんの得がある?」 「交換条件だ」 「えっ」 「君の世界を滅ぼして得する何かを教えてくれ。  そしたら俺も君に教える。」 「アタシ、アタシは……」 玉ねぎの様に。 ネイチェは自分が世界を滅ぼしたい理由を心の中で探したが、 それはさながら玉ねぎの皮を剥く仕草の様であった。 茶色の皮、白い皮、透明な皮、 散々剥いた後に残ったのは小さな緑色の芽で、 それが一体何であるかをネイチェ自身は判っていたが、 それを言葉で表現する事は躊躇された。 恥ずかしかったのである。 「……別に、教えるもんでもない。  アンタの理由も特に知りたい訳でも無い」 「はっは、そうかそうか」 ダイスダーグは紳士だった。 ネイチェを家の前まで送り届けたダイスダーグだったが、 ネイチェが家のドアを開けるの待ち、厚かましく中に入り込む事もせずに、 ただ一言「それじゃあ今夜は良い夢を」とだけ言い残し、 ネイチェがドアを開けるのを見る事もせずに去って行った。 ネイチェはまた一人になった。 自分しか住んでない部屋に、まだ入っても無いのに。 鍵を取り出し、ドアを開け、 暗い暗い部屋の中に入ると手馴れた捌きでランプに火を点けた。 暗い明かりを受けた瞬間に部屋がネイチェに尋ねてきた。 もう、世界を滅ぼす段取りは出来たのか、と。 それを問うたのはベッドであり、本棚であり、椅子だった。 他にも問うたものはいる。開きっぱなしの本達、閉めっぱなしの窓、 溶け切って使い物にならない蝋燭、なかなか減らない口紅。 部屋中の何もかもが世界をいつ滅ぼすのか、と聞く中、 そのただ中でネイチェは一人ぽつんと立ち尽くした。 何処を向いても部屋は彼女に世界を滅ぼす提案をしている。 だが部屋は喋らない。 一人暮らしの女を惑わせるだけ。 女もそれを判ってるから、わめき声の一つも上げない。 だまれ、とか、うるさい、とか。 出来る事と言えば、脱ぎ散らかしたままの靴下を整える事がやっとだった。 靴下を揃え、床に正座する形になると、ふと鏡に視線を取られた。 鏡の中も、この部屋同様に暗い。そこここが、暗い。 どんよりとしてわざわざ眺めたくもない惨状だが、 ネイチェは両膝を付いたまま鏡へと寄り、その中を覗き込んだ。 自分の顔を見ている。眼だ。いや、その周りだ。 「……アイシャドーじゃないっての……」 薄暗がりの中、 鏡の前でネイチェの細い指が瞳の下をゆっくりとなぞった。 まるで何かを伸ばすかのようだった。 ――――――――――――――――――――― 後編へ続く
この人生、誰を恨むでもない。

所詮は書かずにおられぬこの身よ。

言葉を作るのではなく、

言葉によって生かされている。



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