踊り滅ぼせこの夜に 踊編①
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踊り滅ぼせこの夜に 踊編①

2018-06-07 12:15
  • 2

このオハナシは続き物です。
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日常は捻じれる、粘土よりも脆い。

道の上を歩く人の密度もすぐ変わる。
子供達の笑い声の大きさも一定ではない。
昨日は無かった魔法陣が広場に描かれ始め、
何処からともなく用意された椅子が運ばれる。

今日は祭、日常を捻じる。

だが事の発端からまだ三日、
祭とは言えその実態は世界を滅ぼす魔法の発動、
荒れ狂う濁流の上の浮袋に掴まって流されるかの様な心境で、

「主催者が寝てたら駄目だ、こういうのは全部楽しむもんだ」

とダイスダーグ促されるも、
着替えながらネイチェは心ここにあらずだった。

そもそもネイチェには心配な事が幾つもある。
ダイスダーグと並んで歩く道中、その全てを尋ねた。
まず家を出る時に最初の質問を投げかけたが、それはこのようなものだ。

「バリンテンは大丈夫なのかい?
 だって頼んだのは二日前、それなのに、もう演奏を」
「出来る。だからバリンテンに頼んだ。
 アイツはその道に関しては第一線で活躍している。」
「よくは判らないけど、作曲とかは?」
「アイツは若い時から色んな所に呼ばれて色んな曲を作って弾いた。
 だからもう今更新しい曲を作る事はなかなか無いんだ。
 それにアイツは一日最低五時間は演奏練習をしている。
 あんなデブ腹だからそんな奴には見えないだろ?
 でもやっぱりアイツは凄いんだなぁ。
 アイツの仲間も凄腕揃いさ、今回の演奏は心配いらない」
「そうなの……。」

バリンテンに関する心配は土俵の外につり出し。
道を歩きながら左右を走る子供が追い抜く中、次に移る。

「カルヴァンは魔法陣……」
「絵描きを二人手配した」
「へぇ?」
「大規模な魔法陣ともなると文様が複雑で手間がかかるからな、
 流石に一人で全部となると間に合わないと言うんだろ?
 俺もそう思ったから手練れの絵描きを二人手配しておいた。
 カルヴァンには全体図を用意して貰ってて、
 今三人がかりで広場に這い蹲って頑張ってるよ」
「へぇ……」

カルヴァンに関する心配事もスルリと抜けて場外へ。
いよいよ広間が見えてきた所で三つ目の心配事。

「ダイスダーグ…資金は?」
「資金?」
「こんなに人を動かして、他にも肉屋や酒屋も出店を出すだろ?
 広場を押さえるのだって…詳しい事は知らないけど…。
 さっきの事だって、絵描きを二人も手配したって。
 ダイスダーグ、言うのは恥ずかしいけど、
 あたしの懐にはそんなにお金は無いよ。」
「なかなか可愛い事を言う」
「いや、現実的で重要な話だろ」
「俺は確かに多方面に人材の手配をかけたが、
 それらは別に全部が全部『依頼』だった訳じゃない。
 殆どが『商売』の声掛けで、俺だけが金を出す訳じゃない。
 純粋に依頼という形でお願いしたのはバリンテンとサルカヘだけで、
 他はほぼ相殺出来てる。
 それに役場のナキに申請を通したから補助金も出る。」
「いや、それでも幾らかは」
「ネイチェ」
「は、はい」
「俺は若い奴が無茶な事をするのが大好きでね。
 だから年配が応えてやらなきゃ嘘だろ。
 要するに俺だ。」

二人の会話に覆いかぶさるものがあった。
広場から聞こえる多種多様の音と声がそれだった。
椅子を並べる音、露店を運ぶ男達の掛け声、
子供は相変わらず明るい笑い声を放ち回り、
見物客も待ち遠しいように井戸端会議を咲かせていた。

どうだ、と言いたげな顔をして、
両手を腰に広間の前で仁王立ちしたダイスダーグだが、
くの字に折れた腕は掴んでくれと言っているようなものだった。

「おっとと」

ぐいぐいと引っ張られる事を止める事も出来ず、
そのまま路地裏へと連れられると、誘拐犯はネイチェだった。

「最後に聞かなきゃいけない事があるよ、アンタに!」

他に聞かれないように抑えたネイチェの声だが怒気がある。

「本当に滅ぼすのかい!?」
「はは、何言ってるんだ?」
「このまま本当に世界を滅ぼして、
 それでアンタは良いのかって聞いてるんだよ!」

両手でダイスダーグの胸倉を引っ掴んで引き寄せ、
つんと突き出したネイチェの鼻先がダイスダーグの顎髭に何度も触った。

「滅ぼしたいと言ったのは君で、面白いと言ったのは俺だ。
 それで今の今まで進めてきたんじゃないか。
 協力してくれる皆にもこの世を滅ぼす程踊り狂うと正直に言ってある。
 そうだろ?」
「そうだけど……」
「あとは踊るだけだ」

そうだ、後は踊るだけなんだ。
一緒に作ったんだ、ネイチェにもそれが判っている。
術式に間違いは無いし、あとは七日間踊れば世界は滅ぶ。

広場の一角が賑やかさを増した。
誰かが小さな机を運び込んでチェス盤を広げたらしい。
片方に座るのは先日、とある国王を負かしたチェス打ち。
魔法使い達が集まって順番を争い始めたようだが、
ネイチェにとってはどうでもいい、なにせ世界が滅ぶかを話している。

「もう気が変わったのか?」

一瞬広場の声に注意を引かれた所にダイスダーグの声が刺さった。

「滅ぼす気が失せたか?」
「そんな事は無い!滅ぼしたいと思ってる…けど」
「けど?」
「……」
「取り敢えず始めよう。祭りが始まれば踊りが回る。
 踊っているうちに考えもまとまるだろ。」

取り敢えず始めようって。
サンドイッチを作るのとは訳が違うんだぞ。
サンドイッチは具材をパンで挟めば出来るけど、
世界はパンで挟んでも滅ぼせない。
物事の重みはそれぞれ違う。
それなのにさも、簡単な事の様に言うなダイスダーグ。
アンタは頭がおかしいのか。

いや、おかしいんだ。
だからあたしはアンタの所に話を持ってきた。
この男ならアタシの話を聞いてくれるだろうって。
それで思った通りにアンタはアタシの話を聞いてくれて行動にもしてくれた。
凄いよ、たった三日でここまでしてくれちゃって。
もうこの広場に居る皆、今日から祭があるって思ってるじゃない。
いや、きっと村中の皆が思ってるし、知ってる。
ダイスダーグの事だ、抜かりはないだろうよ。
だが違う。

ダイスダーグが集まった人間それぞれに声をかける中、
ネイチェは一人椅子に腰かけて広場を眺めていた。
視線はあちらこちらと飛ぶ。
魔法陣は徐々に完成に近づき、露店の構えも形になり、
バリンテン率いる演奏隊もちらほらと姿を見せて楽器が準備運動をし始める。

日も傾いてきた頃、光使いのコルベリが広場のそこここに光を放ち、
いよいよ広場は祭の様相をいかんなく振るい始めて、
人々もそれに応えるようにわらわらと集まり、
魔法村エッペンルーヤの広場は今、
始まりの声を待つばかり。

「では!」

その点についてダイスダーグは申し分ない。

「本日お集まりの皆様!
 今宵はどうぞ楽しんでいって下さい、
 私ダイスダーグ、そしてそちらへ控えるネイチェ!」

人前での演説は何度もこなし、
人に聞かせる声の出し方も心得ている。

「この二人で力を合わせて祭の口火を切らせて頂きました!
 並びに協力を頂いた皆々様、真に有難う御座います、
 あとは、皆で踊り狂うだけ!」

その全てに慣れていないネイチェは、
声を張り上げるダイスダーグをただ、椅子に座って眺めるしかできない。

「皆さん踊り狂った事はおありですかな!?
 今日はそれが出来ます、させます、記念にしよう!
 世界を滅ぼす程に踊り狂ってやったと!
 七代先まで語り継げる夜にしよう!今夜は祭、さぁ、
 世界を滅ぼす程に踊り尽せ、踊り狂え!」

大勢の人間が上げる声は地面を揺らし、
あちこちの建物をキシキシと鳴らした。
熱を帯びてあらゆる物が動き始めるエッペンルーヤの広場の隅っちょ、
ネイチェだけが物言わず座っていた。

―――――――――――――――――――――
踊編②へ続く
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おーっとここで延長戦だー!
なあにまれによくある。私もお話を書いていたら、あれよあれよと言う内に2千字増え、1万字増え、あのシーンでこれを語っておかなければと5千字挿入し、気付けば長々と語り口、要約する所が見当たらない!うまく説明するための語彙や技術が身につけばよいのですが。とりあえず、書いて、それから考えればいいのか?何ともはや。
エッペンルーヤの話、そこで見覚えのあるような登場人物がちらり一人…。
蒸し暑いですね、祭と川辺が恋しいです。紫陽花を見ると酸性アルカリ性を連想するタイプ
19ヶ月前
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>>1
Tyrol様

長いだろ、これ元々は二話で収めようとしてたんだぜ…。
知らぬ間に二千増え、一万増え、あれれ~おかしいぞ~?ってどこかのコナン君が首をかしげそうな勢いで増えてます寝、いい加減にしろと自分でも言いたい気分です。でも増えたからには仕方がない。書けば書くほど登場人物たちの気持ちが伝わってくるし、その人となりが見えてくる。あら、君そういう性格してたのね、なんて感じ始めるともう可愛くなって筆が止まらなくなるのも無理の無い事、全ては自然の摂理なのです。
そして紫陽花が土壌のpHで色が変わる事を今初めて知りました。なんとまぁ…うちの実家の花壇にはたくさん紫陽花が咲いてたというのに何も知らなかった…(ショック)
19ヶ月前
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