踊り滅ぼせこの夜に 踊編②
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踊り滅ぼせこの夜に 踊編②

2018-06-11 21:11
  • 2

このオハナシは続き物です。
→前回を読む←
―――――――――――――――――――――

夕方。
明るさはもう空から恵んで貰わずとも結構。
ここは魔法村エッペンルーヤ、
太陽に頼らずともランプやロウソクに頼らずとも、
我らは自らの力で光を放つ事が出来るので、
あとは好き勝手にやらせて頂く所存にて。
そう言わんばかりの光が村の大広場に現れた。

光を見て思わず上がる観衆の声を指揮棒代わりに、
バリンテン率いる演奏隊が激しくその口火を切った。
観衆の声は音に飲まれて人々の心が昂り切り替わる。
そんな中で最初に踊り始めたのは小さな子供が二人だった。

子供には好奇心がある、先行心がある。
大人の様に様子見を深くしないし、大人しくもない。
一人の男の子が一人の女の子の手を引いて魔法陣の中央に駆け込むと、
誰が教えたのだろうか、二人で鹿の如く踊り始めた。

それに追って大人達も魔法陣の上に向かい始める。
子供ばかりにやらせておけるか、俺達も楽しもう。
ある人は女を誘って、ある人は酒を片手に、
手拍子、靴音、笑い声、祭りに欠かせないものが一斉に揃い始めた。

魔法使い達は楽しみたがりの上に自由気まま。
踊りながら天に突き立てた指から炎を出す輩も居れば、
その後ろでふうっと氷の息を吐いて粉々にする輩もおり、
龍に変化して空中で踊りだす奴なんて生来の踊り好きで世話も無い。
大体の魔法使いは自分の使える魔法を惜しみなく使いながら踊る。
そのため非魔法使いを見分ける方法はとても容易い。
笑顔で踊ってるだけの人間がそれだ。

「ネイチェ」

なんて事を考えながら椅子に座って微動だにしないネイチェの所に、
ダイスダーグがやって来た。
右手に酒瓶、左手には肉の乗った皿、
祭りを楽しむのに完全と言える装備でやって来た。

「どうした、踊らないのか」
「踊った事が無いんだよ…」
「そうなのか?簡単だぞ。跳ねときゃ良い」
「そもそも激しい運動が苦手なんだ」
「激しい運動は気持ちいいぞ」
「人には好き嫌いがある」
「まぁそう言わずにどうだ。
 お前が言い始めで起こった祭りだぞ。
 それに、お前が踊らずにどうする。
 お前が滅ぼしたいと言ったんだ。」

靴の音が五月蠅いし、
何より魔法使い達の派手な叫び声が五月蠅い。
ダイスダーグの声はネイチェにしか聞こえてないだろう。

「自分で滅ぼしたいとは思わんか」
「思わんね」
「本当か?お前は損な奴だ、こんな事、俺なら他人に任せておかない。
 世界を滅ぼす魔法だぞ?うんせうんせと頭を使って術式組んで、
 あれこれ人に声をかけて祭にしたてて、
 ほら、見ろ、後は七日踊れば結果が見れる。
 それを全て他人に任せるなんてな、そりゃあ詰まらないだろ!」
「ダイスダーグ、その殆どはアンタがやってくれたよ」
「……なんだ、俺が出しゃばり過ぎたからへそ曲げてんのか?」
「そういう訳じゃないよ。
 アンタには本当世話をかけたと思ってるし、凄いとも思ってるし……。
 ただね、ちょっと」
「ちょっと、なんだ」
「……いや、でもアンタの言ってる事は判るよ。
 こういうのは自分の手でどうにかしなきゃいけないし、
 自分の手でどうこうしなきゃ意味が無いって」
「判ってるじゃないか。じゃあ踊ろう」
「後でね。今はもう少しこうして眺めていたい。」
「……その気になったら思う存分踊れよ、なんせ七日もある。」

大人は引き際を弁えていなければならない。
ダイスダーグはそれ以上言わず語らず、
酒瓶と共に祭りの中へと溶けていった。

魔法使い達の乱痴気騒ぎは手を変え品を変え、
このまま非魔法使いの人間達の所に繰り出せば大量のおひねりが飛ぶだろう。
誰かが踊りながら大げさな水魔法を使ったもんだから大量の水が打ちあがり、
ドバシャと落ちてきた水に身体を濡らされながら踊り手が歓声を上げる。
調子に乗ったのだろう、それもう一度、と水が夜の中空に再び上がると、
今度は他の誰かがそれを魔法で霧に変えた。
広場のあちこちに灯る光が夜空の霧を照らし、
空は夜だというのに色とりどりの光が反射して明るいものになった。
綺麗だね、そうだね、という観客の声が引き金になったのか、
光魔法の使い手達が我こそが一番槍と言わんばかりに空に光の線を放った。
もう祭は大盛り上がり。
人々は踊り、喰い、飲み、頭の上は艶やかな霧が目を楽しませる。
よもや誰一人としてこれが世界を滅ぼす魔法だとは思ってはいない。
ただ二人を除いては。

ネイチェは只ぼうっとして眺めていた。
指の先一つも動かさない彼女の体の中で、
誰にも見られない、ただ脳だけが思考を激しく行っていた。
眼も開かれていたが網膜はその仕事をしていたのだろうか。
周りが浮かれて踊って忙しい時に一人だけこの様な場違いな雰囲気を醸し出し、
誰かが声をかけそうなものだが生憎魔法使い達は自分らの楽しみで忙しかった。

我が心、此処に在らず。
ネイチェの身体は置物同然。
彼女の周辺だけ温度が違うようであった。

「おめでとー!」

だが、ネイチェの温度が急に祭りの意識に飲まれる瞬間がやってきた。
皆が踊り狂っている魔法陣の方向から一際大きな声が突進してきたのである。

「おめでとう!」
「本当か!?おめでとう!」
「おめでとう!いやぁ、おめでとう!」

魔法陣の上空は覆っていた霧が更に氷結魔法で輝く天然の宝石の様になっていた。
その下、祭りの広場である。
それまで勢いよく踊り回り円陣を描いていた人々が徐々にその速度を落とし、
魔法を放っていた両手も拍手に変わって遂にその回転を止めた。
おめでとう、おめでとうと口々に放たれる祝いの言葉だが、
ネイチェには何が起こっているのか、良く判らない。

「えっ、なに、なに?」

これから世界を滅ぼそうって段取りだったのに、
一体何がめでたいのか。
いやそれよりもマズイ。
一旦踊り始めた回転を止めてしまっては。

「結婚おめでとー!」
「おめでとー!」

回転を止めてしまっては術式が止まってしまう。
止まってしまっては、土地脈が術式用に回復するまでに一年かかる。
もう今夜はこれ以上世界を滅ぼす方向に進めないし、
結婚おめでとうってどういう事なの。

両目をかっちり開いて拍手の鳴る中心を覗いて見ると、
うら若い男女が照れくさそうに、
しかも男は女を抱き上げているではないか。
こいつらまさか、この祭りの最中に永遠の愛でも誓ってしまったのか。
空には輝く光、酒や肉を飲み喰い出来て、踊り踊って気分も高揚、
確かに愛も誓いたくなる気分に高まるだろうがここは衆目雨霰(あめあられ)、
そんな人様の目が縦横無尽に広がるこの祭りの広場で、
誓ったのか?愛を?

「あおめでとー!」

どうやらそんな大胆で破廉恥な事をしたらしい。
拍手がパチパチと広場を満たす中、
演奏隊も気を効かせて頼んでも無い結婚行進曲を奏でだすではないか。

ダイスダーグも「あらら」という顔をしている。
ネイチェはぽかんと口を開けているのだがこの二人を除いて広場の誰もがにこやかで、
両手は拍手喝采、十秒前まで世界を滅ぼす魔法に加担していたとは思えぬ朗らかさ。
おめでとう、おめでとうと祝われる二人はトドメにキスまでかまし、
祭りはもう結婚式へと生まれ変わってしまっていた。

「いや~、参ったなこりゃ」
「ダイスダーグ……」
「誰かはやるんじゃないかと思っていたが、
 本当にこの祭りに乗じて結婚を申し込む奴がいたとはな…。
 しかもそれが目出度く『お受けします』ときたら、
 いや、もうこの祝賀の雰囲気をぶち壊す程脳タリンじゃないし」
「………」
「ネイチェ、世界はまた来年、滅ぼそうや」

誰かが悪い、訳じゃない。

祭りは楽しいものだし、
酒は誰かを酔わすものだし、
結婚は目出度くて誰もがそれを祝う事も知ってるし。
この広場に集まる誰も彼もが足を止めて拍手を送る事も、致し方ない。
何せ結婚だ。

「今年は、こいつらの結婚に譲ろう。
 世界を滅ぼす機会は毎年やってくるけど、
 こいつらが結婚する機会は恐らく今夜しかない」
「……そうだね。」
「おっ」
「えっ、なに」
「いや、そんなに物分かりよく言うとは思ってなかったから、
 ちょっと驚いたぞ。そんな顔しながらそんな事言うとは」
「あたしそんな顔してる?」
「してるしてる」
「そう……」

誰かが悪い訳じゃなく、
誰かを消したい訳でもない。
差し詰めこのエッペンルーヤの広場、
祭騒ぎが結婚式へと進化し、
この夜、最早誰も何のケチをつけるそぶりも無い。

村人達は祝う為に叩いた手が疲れたのか、
パラパラと音が収まり始めた。
バリンテン率いる音楽隊は確かに手練れ揃いだったようだ。
結婚行進曲を巧みに祭りの曲に戻し、
それに促されるように人々がまた踊り出す。

だが、
もうそんなに長くは続かなかった。
一度発動した魔法が停止した為に魔法陣の効果も途切れてしまい、
バリンテン達演奏隊の補助魔法だけでは人々を踊り続けさせる事は出来なかった。
そもそも魔法発動の段階で大量の魔力を消費した魔法使い達は一人、また一人と脱落し、
そこかしこに放たれていた光魔法が徐々にしぼむ頃、

「皆さん、本日はここまでにしよう!」

というダイスダーグの声掛けと共に、
世界を滅ぼす祭りは幕を閉じた。

―――――――――――――――――――――
滅編へ続く
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これだけ人が集まれば、予想外の事もあるってもんですね。祭だもんせ!末永く爆発しよう! ネイチェちゃんは…本来の目的とは離れてしまったけど、この町を動かしたじゃないか。言い出しっぺからここまで来れたのだもの。見事だよ。……方法があるのに世界が続いてるってことは、いつもこんな風に、予想外が滅亡を遮ったのかな。さて、話はまだ続く様子…

…彼女が、羨ましいな。今、辛い事があって悩んでるけど、ここじゃチラ裏だよ。話に雑音は立てたくなくて…。
19ヶ月前
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>>1
祭りだもんせ、気分が昂りプロポーズの一つや二つやっちゃうでしょう。だって祭だもの。

恐らく次回が最終回なので、宜しければそのコメント欄に書いて下されば、私なんかで良ければ相談事を聞きますよ。聞く事しかできないと思いますが、それでも宜しければ。お待ちしております。
19ヶ月前
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