飛びたかったの
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

飛びたかったの

2018-06-15 19:33
  • 3

「そろそろらしいぞ。」
「おっ本当?リカルドの嫁だよなぁ。」

お店の中で声が聞こえた。
僕の母親の噂話だ。
わざと話の方向に歩いて話をしている男達の視界に自ら入った。

「…お。」
「っと…。」

驚いたように言葉を発する先程の二人。

僕と眼が合うと二人はしまった、という顔で、
そそくさと店から出て行った。
僕は今晩の夕食の食材を持って会計に行く。

「やあ、お母さんはどうだい?」

店主が品物を数えながら聞いてくる。

「あんまりよくありません。」
「そうか…こんな事を聞くのもなんだけど、
そろそろ近いのかい?」

「…ええ。」
「そうかい…綺麗に逝けるといいね。」
「ありがとうございます。」

僕は麻布の買い物籠を手に家路についた。その途中。

「タム。」

一番近い家のルーシュが声をかけてきた。
連れている犬は眉毛のせいでいつも困った様な顔をしていて、
いつも撫でずにはいられないのだが生憎今は籠で両手が塞がっている。

「散歩?」
「うん。買い物?」
「うん。」
「そう…。」

もう夕方、日も暮れ始め、
仕事帰りの人で狭くなり始めた道を暫く二人で黙って歩いていた。
その沈黙を破ったのは、ルーシュから。

「おばさん、もう近いの?」
「うん。」
「眼の色は変わったの?」
「奥の方が金色に輝いてる。」
「そっか。アタシのおじいちゃんの時は赤だったよ。」
「火星だったんだ。おじいちゃん。」
「うん。おばさんは金星みたいね。」
「うん。」
「おじいちゃんの時ね、
 夕暮れがいよいよ黒に染まってきたって時に死んだんだ。
 …とっても綺麗でさ、青黒い空に飛んでったおじいちゃんの元心が。」

僕たちの民族は死ぬと「元心」と呼ばれる魂のようなものが星に帰る。
僕たちの民族は太陽系八惑星のうち、
地球を除いた七惑星のどれかに属している。
属した惑星種によって性格等の特徴が分かれると言われている。
色々推測は出来るが、はっきりと属星が判るのは死ぬ間際。
死ぬ間際になると、眼球の奥の方で色が輝く。
その人の属している星の色がキラキラ輝くのだ。

「お兄ちゃん!」

いよいよ家に近づくと弟が飛び出してきた。

「お母さんが…!」

「始まったのか!?」
「早く!飛んでっちゃうよ!」

僕は目の前まで見えている我が家に向かって突っ走った。
中からは父に抱きかかえられた母が出てきた。
母は毛布に包まれて、まるで赤子のようで、
丁度僕が駆け付けた瞬間に父は母を抱いたまま地面の上に屈みこんだ。

「外に出るの?寒いのに!」

僕は二人に駆け寄って屈みこんだ。
母は身体が輝き始めていた。

「あ…タム。」

母が口を開く。

「家の中だったら…屋根…突き抜けちゃうでしょ?」
「そんなこといいのに、直すからさぁ。外寒いよ。」

母は息も絶え絶え、もう苦しそうでたまらない。

「おばさん…。」
「あ、ルーシュちゃん…タムと仲良くしてやってね」
「はい……見ておばさん、綺麗な夕暮れですよ。」

ルーシュは日の方向を指差す。


「ああ、本当だ…。綺麗…。」

母の輝きが一層強くなりだした。

「あたし、あの空に飛んでいくのね…。」

「セツ。」
「子供の時から空を飛ぶのが…夢だったのよ、アタシ。」
「セツ…。」

父が優しく母の頬を撫でるその指には、
どんな思いが宿っているんだろう。

「リカルド…あたし、あなたと居れて良かったわ。リカルド…」
「…なんだい?」
「愛してる」

そう言い終わると母は光となって爆音と共に空に飛び立っていった。

「僕もだよー!!セツーーーー!!!」

父は光に向かって叫び通した。

「愛してる、愛してるよーーー!!セツーーー!!!」

光の筋が、暫く父の腕の中の毛布から立ち上っていた。
光は音より早いと学校で習った。

「綺麗…。」

黄金色に輝く母の光の柱を見てルーシュは呟いた。

「ああ、綺麗だ…。」

僕も夕暮れに映える母を見て呟いた。
毛布からはもう光は出尽くしていた。

「母さんは、綺麗に逝ったなぁ…。
 父さんも、母さんと一緒になれて良かったよ…。」

僕たち四人は、
正確には近所の人たち全員が見つめていたのだろうけど、
僕達四人は冬の空の下、母さんの輝きをじっと見ていた。

「…タム。」
「ん?」
「悲しいよね。」

ルーシュが指の背中で僕の目じりをぬぐった。

僕の目じりには涙がついていた。
知らぬ間に僕は涙を流していた。
輝く母さんを見つめながら、涙を流していた。

「屋根の心配をするなんて、おばさんらしいね…。」

その言葉を聴いた瞬間、一気に涙が出てきた。
恥ずかしいが嗚咽も出てきた。弟も見ているのに。

「タム。」

痛みを知る触り方は毛布を子供にかける母親の様で、
ルーシュの手の平が僕の手の甲にかかり、
でも寒かったからだろうか、
僕の手の甲の方が、熱かった。

「アタシも泣いたよおじいちゃんの時。
 止まらなかったよ、涙が。」

知らぬ間に涙が出ていたルーシュと一緒に、
夕暮れ空に輝く母を暫く眺めていた。

父の最後の言葉は母に届いただろう。
光は音より早いと学校で習ったが、
愛が光より遅いとは習っていない。

母の流星痕は空を分かつほどに長かった。


広告
×
\射出ー!/惑星に還る民族ってなんだか…ロマン。パクりたい(露骨) 星の子、みたいな感じなのかな?彼らにとって惑星って何だろう、天国?故郷?魂の母体?描写から見るに体も飛び立ってるから…考察したいけど今度。私も空飛びたいなあ。いや、ロケットみたいじゃなくて鳥みたいに、だけど!w
死ぬ後に行く先が明確にわかってるなら、死も怖くないかも。うちらにも人が死んだ時、それが遠くからでも見えればいいのになー。

シンプルに。前回はありがとうございました。特定の、誰かにね、聞いてもらえて、へんじ、もらえたの、うれしかったの、最近みんな、いそがしいで、はなしするよゆうも びええええん
19ヶ月前
×
ついき:大阪地震こっちにも来ました。縦揺れ横揺れが同時に来るもみくちゃな地震で、幸いうちの家は人も家屋もみんな無事です。地震は怖くないのでノンキしてましたが、NHKで被災人数が増えていくのを見ると背筋がうすら寒いですね…。普段通り生活しながら余震に警戒します。
家がぶっ飛んで焼けたり海がうねったりはしてねーみたい、淡路の時ほど大型じゃねーだけど、色んな所が順繰りに揺れてあーまた地元に戻ってきたかーというか。…防災用品大丈夫かな
19ヶ月前
×
>>2
Tyrol様

返信遅くなりました。Tyrol様関西にお住まいでしたか、本日の朝は大変でしたね、御無事の様で何よりです。地震はその後の余震も続いたりしますからね…このままもう何も追加の災害が起こらないままに平常に戻る事を祈るばかりです。

前回は少しはお力になれたでしょうか。聞く事しかできませんでしたが…色々と思い悩むという事は、それが大切だから思い悩んでいるのだと思います。どうか良い時間をお過ごしください。けんいちろうでした。
19ヶ月前
コメントを書く
コメントをするには、
ログインして下さい。