刃の粋 前編
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刃の粋 前編

2018-06-19 19:40
  • 2

『危険』と目されるポケモン種がある。

その筆頭はご存知『凶悪ポケモン』のギャラドス。
他にもマグカルゴ、スリーパーなどもあげられるが、
忘れてはならないのが、そう、エアームド。

熱いから触ってはならない、
連れ去られるから近づいてはならない、
そもそも気性が荒いからお話にならない。
危険と目される理由は様々ある。

エアームドが危険視される理由、
それは単純な物理的エネルギーに他ならない。

鳥類ポケモンのエアームドは成体平均で体重およそ50kg、身長が170cm。
空中で飛ぶ最高速度がなんと時速で300km。
その体は頭の上から足の先まで鋼で、翼の鋭さは刃物同然。
理系の方々は重さ50kgの金属の塊が時速300kmで動く危険度を御承知だと思うが、
そうでない方々は刃物の塊が新幹線の速度で突っ込む場面を想像して頂けたらと思う。
これを危険で無いと思う人はいないだろう。

エアームドの危険度は御理解頂けたと思うが、
危険なものには魅力的な物が伴うのが世の常らしい。

高速の刃物と呼ばれるエアームドから獲れる金属は非常に質の高いもので、
古くは武士達が使う刀にそのまま使用されたといい、実物もかなり現存している。

今や時代も移り変わり、刀の存在意義など鑑賞する為と成り果てたが、
今でもエアームドの羽を用いて刀を作る刀匠は僅かながらに存在する。

うちの祖父もその一人だ。

祖父の住まいは緑豊かな田舎のど真ん中、祖母と二人暮らし。
近くには伯父夫婦が住んでいる。

不便嫌いは裸足で逃げ出すという好立地も車と通販さえあればなんとかなる。
祖父の娘である母はいつもそう笑いながら私に話していたが、
昔は車も通販も無い、詰まる所は人間と土地の相性だろう。

私も何度か子供の頃に祖父達の家に遊びに行ったが、
家の周りは優しさで包み込まれる様な一面の緑の風景だった。
田んぼもある、かかしもある。申し訳程度のポケモンセンターが一軒と、
後は思い悩んだ末に進出しましたと言いたげなローソン、これも一軒。
品揃えもびっくりする程簡素な店内だと中学生の時に思ったものである。

私はと言うと大学を卒業後にシルフカンパニーという会社へ入社し、
ポケモン達に投与する薬の研究開発の部署へ配属された。
そこで知り合ったのが平尾である。

配属三年目のこと、
春先の飲み会でふと平尾と隣の席になった。
平尾は仕事こそ出来るもののその人物は大変変わったもので妙な人気があった。
滅多に世間話をしない林課長も平尾にだけは世間話を持ち掛ける。
平尾の口から出てくる語彙も特殊で味わいのあるものだったが、
何より彼の経験談やこれから行く旅行の予定などを聞くとやはり面白さに不足は無い。

そんな平尾が飲み会の席でこんな事を聞いてきた。
そう言えばお前の実家はどこだっけね、と。
配属三年目、もう血液型から何から話し尽しているようなこの時期で、
今更かとも思える実家の所在に対する質問は一周回って新鮮なものだった。

「カントーだよ、サイタマ」

と私が返すと、

「へぇ、家系的にずっと?」

と平尾が会話を繋いできた。

「いや、母方のばあちゃん達はカナズミに住んでる」
「じゃあなんだ……野菜でも作ってんの?果物とか。
 果物だったら今度の夏にお中元で頼みたいな」
「残念ながら果物は作って無いんだな、野菜も。
 うちのじいちゃん、刀匠やってんの」
「刀匠?刀作ってんのか!知り合いで刀匠やってる話初めて聞いた」
「しかも普通の刀匠と違ってカタナ打ちなの」
「カタナ打ち?」
「知ってる?カタナって」
「刀?」
「あー……日本刀の中にはカタナって種類があるんだ」
「なんかそれ聞いた事あるな」
「(流石平尾……)」
「えーでもいいなー」

平尾は酒をあまり飲まない人間である。意外であった。
言葉巧みで話題が豊富、会話を円滑に進められる人間は酒好きだと思っていたのだ。
本人の技量もあるだろうが酒は人を柔らかくするという印象がある。
ところがどっこい、平尾は酒を好まない。
この飲み会でも平尾のコップには黒色の炭酸水が入っており、
パチパチと控えめな拍手を気泡を出す事で放っていた。

「何がだ?」
「親戚にそういう人が居て。
 うちなんて親はサラリーマン、その上の代もサラリーマン。
 それで俺は何をやってるか知ってるだろ?」
「サラリーマンだな」
「だから羨ましいと思うんだよ。
 自分とは全く違う仕事をしている人の話を苦労なく聞けるだろ。
 刀匠なんて、俺の場合何処かの工房に行って自己紹介からしなくちゃいけないし、
 その後に誰だコイツはと不審がられて追い返されるのがオチだ。
 でも親戚なら、ちょっと仕事風景を見せて、仕事の話を聞かせて、
 なんて言っても二つ返事でOKされるだろ。
 ああいいなぁ、俺もそういう親戚が欲しかった。」

と言うのだ、平尾が。
様々な話題を持ち、あちこちへと旅行へ行く、
そんな平尾の『羨ましい』という言葉には、魔力があった。

「そうだよ、割と凄い事でさ、
 親戚に刀匠がいるなんて、僕自身も聞いた事無くて」

そんな言葉も口から突いて出たあかつきには、
平尾がこう止めを刺しに来るのである。

「ああ~じいちゃんが刀匠かぁ。
 俺なら次の長期連休で仕事を見せてとせがみに行くな~。
 うらやましい。」

そして夏が来たのであった。

電車に乗ってカントーからカナズミへ向かう。
道中、両親の不満そうな顔が目に浮かんだ。
あんた、夏の休みはどうするの?と両親に聞かれた折り、
馬鹿正直に祖父の家に行くと言ったら、あら、こっちはどうするのよ、ときたもんだ。
実家なんていつでも帰れる距離でしょ、長期の休暇だからカナズミまで行く意義がある。
そう伝えた所、

「まぁお爺ちゃん達も喜ぶだろうし良いけどさぁ」

とあからさまに不機嫌な声が聞こえた。
親は子供に帰って来た欲しいのだろう。
けれど子供は祖父の仕事を見に行きたい。
母が『ド田舎』と愚弄した土地は今、魅力的に思われる。

祖父の方にも事前に連絡をしたのだが、
その仕事を見学させて欲しいと頼み込んだ矢先、

「ええ~、多分見てても面白くないよぉ」

と言われてしまった。
けれど迷惑そうな口調ではない上、
久しぶりに遊びに行きたいと申し出た時には本当に嬉しそうな声を聞かせてくれた。
見たいんだ、面白いかどうかは別にして、一回で良いから見たいんだ。
そうねだる様な声を出して願いを押し通すと、

「いいよいいよ、じゃあおいで」

と僕の夏の予定を埋めてくれた。
ありがとうおじいちゃん。

「あんらぁ、よく来たねぇ!」

の祖母の声を皮切りに、
抱きしめられ、お菓子を出され、ニコニコとした笑顔を見せつけられつつ、
庭の柿の木とサクランボの木が今年は調子が良いと語られる。
更には最近近くの山本さんちの犬が子供を産んだから一匹貰おうと考えてるとか、
最近はかき氷のグレープ味に目が無いとか、
正直社会人三年目の成人男性が聞いたところで何の益も無い話なのだけど、
本当に嬉しそうに笑いながら喋る祖母を見ていたら、

「あんまり遊びに来なくてごめんねバアちゃん」

と、零れるように言葉が口から勝手に出た。
だが祖母はこっちを向いてニコ!と笑うだけで、

「しんちゃん本当、よくきたねぇ」

と僕の名前を呼んでくれた。
ばあちゃん、本当にごめん。

「そう言えばタツさん戻ってこないねぇ。
 今日はしんちゃんが来るからこの位の時間には帰るって言ってたんだけど」

祖母は祖父をタツさんと呼ぶ。
祖父も祖母をみっちゃんと呼ぶ。
だがうちで母は父をパパと呼び、
父は母をママと呼ぶ。
ただそれだけ、それだけの事なのだが。

まぁ、もうちょっと待ってようね。
祖母がそう言い終わってイモケンピを一つ齧り終えた時、
玄関の流し戸だろうか、何かがレールの上を滑ったようだ。音が聞こえる。

「あっ、帰って来たね」

そういう祖母の言葉通り、祖父が帰って来たらしかった。
おうい、という声が聞こえて、はぁいと祖母が返事をする。

「おういだって」

腰を上げた祖母に着いて行くと玄関では祖父が頑丈そうな靴を脱いでいる所だった。
私を見つけた祖父も祖母同様、

「おお、しんちゃん!よく来たね!」

と満面の笑みを見せてくれた。
祖父と会う。何年振りだろうかとは考えない。最早覚えてないからだ。
頭の中は記憶の照らし合わせが行われ、
記憶の中の祖父の顔と今の祖父の顔を照らし合わせてみる。余り変わってない。
顔の皺が増えたように思えないし、目尻のくしゃくしゃも記憶のまま。

「久しぶり、おじいちゃん」

祖父の明るい声につられて思わずこちらも明るく応えた。

夜は伯父さん夫婦もわざわざ来てくれて大勢揃って晩御飯。
大勢とは良いものだ、賑やかとは良いものだ。
親族ともなれば遠慮も無くて、しんちゃん彼女はいるの?なんて事も聞いてくる。
この際そんなプライベートな話も緩んで喋る。
親父達には言わんで下さいよ、実はここ一年一人もんでしてね。
えぇ、じゃあここの土地の子でイイ子探しなよぉ、皆明るいよぉ!
なんて笑いながらの会話の応酬をしていたら、
ふと祖父がこう尋ねてきた。

「しんちゃん、本当に俺の仕事、見たいのかい」

それがちょっと沈みこむような語気だったんで、

「やっぱり、駄目かな」

とおずおず尋ねた。

「いや、まぁ相手はもう慣れた相手だから大丈夫だよ。
 でもねしんちゃん、仕事場じゃあ俺の言う事を絶対聞いてくれるって、
 そう約束して貰わないと俺はちょっと困るな」
「約束する、親方、宜しくお願いします」
「はは、親方なんて呼ばれるのは初めてだ。
 じゃあ、明日は二人で山まで行こう。」

気分は釣りにでも行く気でいてくれや。



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前後編です
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天狼殿!けんいちろうさんのポケモンだ!
エアームド、気に入りました?ドット時代の黒白+2色でしかポケモンが表現できなかった中、銀と赤の見事な翼と、あの特徴的な姿は本当に勇ましくて素晴らしいです。図鑑説明も豊富だし、今では出現数が増えたとは言え変わらぬ捕獲率の低さは強者の貫禄があります。ちなみに色違いは鈍い銀と赤色が緑になるのですが、これはこれでキレイでして ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙
……はっ、アツく語ってしまった。んー好きな子の話楽しみ
18ヶ月前
×
>>1
Tyrol様

エアームド、気に入ってました!前からカッコいいなというかちょっと怖い顔してるなと思ってたんですよ。そして実際調べてみたら予想以上に怖い性能をしてるじゃないですか。なので今回危険種族に認定させて頂きました。後編をどうかお楽しみにお待ちください。
18ヶ月前
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