この耳を温めて
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この耳を温めて

2018-07-05 19:29
  • 6

今まで私が忘れられない恋の話ですか。

他人の恋の話を聞くのは好きだけど、
惚気(ノロケ)話はノーサンキュー。
それが人間と言う生き物の殆どかと思われます。

その点ワタクシ、人の惚気話が大好きと言う奇特な人種でしてね。
そのサガ故に若い頃からまぁ色んな相手に話をせがんだものですよ。
誰それと誰それが付き合ったらしいよ、
なんて聞いたら居ても立っても居られない。
熱愛渦中の本人の所まで飛んで行って一から十まで根掘り葉掘り。
そんな性格が災いしてか私の『人の話を聞く力』はメキメキと上がり、
気付けば惚気話のみならず恋の話しまで食指を伸ばす様になった塩梅です。

そういう人生なもので色々その手の話は聞いてきたのですが、
忘れられないのは香子の眼鏡ですかね。
いや、眼鏡の話じゃござんせんよ、
これはちゃんと恋の話です。

瀬戸香子(せときょうこ)、
というのは中学の二年で同じクラスだった女の子で、
席替えしたのに隣の席が三回も続いたという神の悪戯で仲良くなった間柄。
話の下りからお察しの通り、この香子が眼鏡をかけていた訳ですが、
ある時ひょんな事から帰り道で一緒になり、
年も若さが唸りを上げて、惚れたの話しに花吹雪。
要するに、恋の話に盛り上がり始めた訳ですね。

話し始めるにも先手後手でまず競り合った訳ですが、
まぁ御存知の通りですよ、お前が言えよ、いやお前が先に、というアレ。
で、私も自分の惚れている相手の事を喋るのが吝(やぶさ)かではなかったので、
私が先手で惚れた相手を歯が浮く台詞で褒めちぎり、
さぁ今度はお前だ、と香子にバトンを渡す所まで漕ぎ着けました。
すると香子、

「私、眼鏡してるやん」

と何故か眼鏡の事を話しだしたのです。

ちなみに皆さんは眼鏡をかけてますか。
あの、耳にかける眼鏡の部分があるでしょう。
つる、とかテンプル、とかいうらしんですが、
そのもうちょっと先の部分があるじゃないですか。
耳かけの「く」の字になっている、
あれをモダンや先セルと言うらしいです。

話は元に戻りまして、
香子の恋の話が続きます。

トコ、アキやん、カッチーという、
当時とても私と仲良くしてくれた女の子三人の名前を羅列して、

「みんな、中学になってコンタクトにしたやん?」

と香子が歩きながら言うのです。
私と仲の良かった女の子達は小学生から中学生になる事により、
まるで何かの通過儀式の様に眼鏡をコンタクトに変えたのでした。
「でも私は眼鏡やん」と言う香子。
そう、香子だけはその通過儀式を避けて眼鏡女子のままでした。

香子は眼鏡が好きなんだけど、
一気にコンタクトに乗り換えて行った周りの目が気になったのかな、
そうだよね、流行って乗らない人間に対して冷たいものね。
じゃあせめて私は香子の味方でいるよ、
なんて私の心の中だけの意気込みを短い言葉にする為に私が、

「香子は眼鏡が似合っとうよ」

と言ってあげると、

「まじ?ありがと。
 けどねー、これには理由があるんよ。」

と、いよいよ香子が恋の話を始めました。

「あのね…ほら、おるやん」
「誰の事よ」
「え……福田」
「そっかぁ、香子、福田かぁー」
「まぁ、まぁ聞け。
 でね……なんかそういう機会があったとって!」
「どういう機会よ」
「福田がね、私の眼鏡、貸してって。」
「眼鏡を?」
「そんで貸したと!」
「……で?それで好きになったん?」

どうなっとるんや、お前の乙女心は。

そんな言葉も言いたかったんですがね、
ここは三回も隣の席になったよしみ、
黙って言葉を飲み込みましたよ。
そしたら。

「最初眼鏡持ったままどっか行くんかなーと思ったんやけど、
 そのまま目の前で眼鏡かけたままじっと黒板の方見とうと!」
「ほーん?それで」
「んでね、……んでね!」
「聞いとう、聞いとうから。続きどうぞ。」
「眼鏡かけたらもっと目が良くなるかと思ったけどならんねって、
 そんなこと言ってね!」
「……は?福田確か視力1.5とかなかった?」
「そー!それ!アホやろ!?」
「アホやな。アイツ眼鏡の機能ってもんを判って無いんか」
「でね!でね!」
「え、なに、まだ続くん?」
「こっから!」
「え、ごめんね」
「返してもらった眼鏡がね!ちょー温かかったと!」
「………ん?」
「うん!」
「え?ちょっとどうしたん、アタシ本気で判らんのやけど」
「もうね、ここ、ここ!」

香子が指さしたのは自分がかけている眼鏡のモダン。

「ここがね、ちょー温かかったと!」
「……福田の温度?」
「そう!それがずっとなんか温かくてね!
 その後の数学もね!」
「いつの数学よ」
「それはもう覚えとらんけど、
 でもね、なんかずっとじんわ~って温かくって、
 ヤバイやろ!?もうヤバいやろ!?」

ヤバいのはアンタの頭よ。
という心の声は胸に仕舞っておいた。

だが本当に中学生の私には何がヤバイのかさっぱり判らなかった。
二週間後の中間テストの方がもっとヤバイのではと思ったし、
アキやんの上履きの匂いのヤバさもそろそろ何か言ってあげなくてはと思っていた。

「とにかく、香子が福田の事大好きなんは良く判った」

と言って香子と二人、
茜差す帰り道で鞄をぶらぶらさせたあの日から約五年、
私は初めて男性の首という部位に右手を添えた。

温かかった。

手の平に動脈の動きを感じる。
ピク、ピク、と生きている者が絶え間なく弾く鼓動が掌に伝わり、
それより何より、その首の熱が思ったよりも高くてびっくりした。

「うっとりするほど?」

そう言ったのは首を私に触られている相手だった。
私はどんな顔で彼の首を触っていたのだろうか。
きっとブラのホックを外されても文句が言えない顔をしていたのだろう。
事実、その後にホックを外されたし、
服と言う服は何もかも剥ぎ取られ、
成人を前に私はかつてない位に異性と身体を密着させた。
表面積の何パーセントを密着させたのかは知らないが、
密着させればさせる程、私の温度は相手に移り、
相手の温度が私に移って、
二人の間で行ったり来たり。

「足冷たいね」

と相手に言われた私の足だが、
相手が果てた後にそっと足に足を寄せてみたら彼の足の方が冷たかった。

温度を渡して、渡されて。
そりゃ、こういう事を好きな人とするわけだ。
だって気持ちがいいんだもの。

くらりくらりと頭がほうけて、
知らぬ間に夢見心地のベッドの中。
ふと、思い出したのが香子の眼鏡だった。

それから夏休みに入り、
久しぶりだから皆で会おうよと散り散りになった仲間が集まった。
トコ、アキやん、カッチーに香子。そして私。

まだ小学生だった頃、
私以外は皆眼鏡だった四人だけど、
今では香子しか眼鏡をかけていない。

皆がきゃいきゃいと再会を楽しむ中で、
香子の眼鏡が真新しくなっているのに気が付いた。
リムレスフレームと言うやつだ。

ねえ香子教えて。
昔に香子がかけていたあの眼鏡はどうしたの。
もう捨てちゃったかな、それともどこかに保管してたりするの。
もしまだ手元にあるのだとしたら、
久しぶりにかけて福田の事を思い出したりするの。

それともその眼鏡、
香子の今のイイヒトが気紛れでかけたりして、
それこそ昔みたいにその温度を眼鏡伝いに思い出したりするの。

そう考えてしまうと、
香子の眼鏡がとても見てはいけないよう物の様に思えてしまって、
その日、私は香子の顔をまともに見る事が出来ませんでした。

それが香子の眼鏡の話ですかね。

今でも眼鏡はエッチなものだと思って見てます。
「これちょっとかけてみて」って眼鏡を差し出すのなんて、
それはもうセックスしたいと言ってるのと同じですよ。

私の中ではね。


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2連続で恋愛の話ですかこれは、片方はマイケルだけども。京都に魔法はあるんだなって(混乱)あの等間隔についてレポートして提出した学生の方がね、確か昔ありました。今は眼鏡の話ですね。私、目が弱いんでして、コンタクト着けられなくて万年眼鏡なんですよ。えっちー。
中学校に上がると何だかみんな背伸びし始めますよね。小6と1年しか変わらない癖に、この変わり目には魔法の力がありますね。先生方が申して曰く、お前らなんかしばらく小学7年生だって事だそうですけれども。じゃイギリスとかでは(ハリポタが申して曰く)11歳の夏に背伸びを始めるのかしら。温度と言えば、どうして恋って体や顔が赤くなって体温が上がるんでしょう。激しい運動をする準備を本能的にしてるんでしょうか。だとしたら人間の動物としての成熟は、今の世間よりずいぶん早いんだな。体がえっちぃ。いきものだもの。ちろる。
ちなみに私、恋物語の一番好きなシチュエーションはファーストキスです。お相手との初めてのキス、それも拙い感じが一番きゅんきゅんする。周りが喪女と喪男ばっかりだから実際の話は聞いたことないんだけどね!
ああ、外は大雨・・・。
19ヶ月前
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>>1
Tyrol様

万年眼鏡ですって?まぁ、なんて破廉恥な子なの。良いわもっとかけなさい。
ファーストキスですか。Tyrol様、Tyrol様…わたしの声が聞こえますか…。
よい事を教えましょう…実はセカンドキスの方がロマンがあるのですよ…。
二回目はどのタイミングでやったらいいのか…それとも次は怒るのかな、とか…。
一回目よりも二回目の方が心の駆け引きが複雑だったりも場合によってはあるのです…。
19ヶ月前
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>>2
(ファミチキください) ああ聞こえますけんいちろう様!なんて罪なことをお教えになるのですか! 誰か私に機会を得るために様々な場所に出向く勇気を!
昨晩ペットのクワガタに10分くらい噛まれました。出血しない程度に指に穴を開けるテクニシャン、いやらしい子!
19ヶ月前
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Tyrol様

騙されたと思って何も考えずに一歩だけ前に踏み出してみて。
そうすれば勇気は知らぬ間に付いてくる。
19ヶ月前
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小5から今現在までずっとメガネ男子ですがね、他人に自分の眼鏡かけてみて?なんて口が裂けても言えませんわ。まさしくセックスですよ。
18ヶ月前
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>>5
ヤワラ様

重要な証言を有難う御座います!
実は私は目が非常に良いのです。
なので自分から誰かに眼鏡を貸した事はありません。
いつも貸してもらう側で、持ち主の温もりを幽かに感じていました。

眼鏡を自ら貸すのはセックス!
18ヶ月前
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