パッサスの手
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パッサスの手

2018-08-17 20:01

    パッサスのおじちゃんは凄いんだ。
    パッサスのおじちゃんの手はね、
    人の心を読み取れるんだよ。
    僕も実際に読み取られた事があるんだ!

    『ねぇねぇパッサスさん!僕が今何を食べたいのか当ててみて!』

    僕がお願いするとパッサスのおじちゃんの手が僕の胸に当てられた。

    『エート何々…ドラゴンの尻尾のスープ?』
    『凄いー!あたり!』
    『ドラゴンの尻尾のスープとかあるのかい?』

    だから凄かったんだ。

    『僕が今考えたの!』

    パッサスのおじちゃんの手は本当に凄かった。

    そんなある日の事だった。
    パッサスのおじちゃんが大勢の人の前に出る事になった。
    きっと何か凄い事をするんだ!
    僕はそう思ったからお母さんに行きたいと言ったんだ。
    でもお母さんはあまり良い顔をしなかった。

    「子供が見るもんじゃないわ。行ったら駄目よ。」
    「何で!だって、パッサスのおじちゃんがいるんでしょ?」
    「駄目よ。行ったら駄目。いい?」

    よくない。

    大人が「行ったら駄目」っていうお祭りとかは、
    たいてい凄く面白いんだ。
    でも夜遅くまでかかって帰りが遅くなるから見せないんだ。
    でもそれは本当に面白いからなんだと僕は知ってるもん。

    こっそりと家を抜け出した。
    抜け出す途中でお母さんに見つかって言われた。

    「どこにいくの!」

    こういう時の一番の言い訳。

    「ちょっとそこまで遊びに!」

    一番心配させない言葉さ。
    僕はパッサスのおじちゃんがいる広場へと行った。
    凄い人だかりだった。
    子供の僕には前が見えない!
    これは余程面白い事が起きるんだと僕は心臓がドキドキした。
    僕は小さな体を大人の足の間にめり込ませて前に進んだ。
    そして何とか目の前に誰もいない所まで来れた。
    二回くらい蹴られたけど、それがなんだい。
    子供は頑丈なんだ。

    「ねー、パッサスのおじちゃんどこー?」

    と隣のおばちゃんの服を引っ張ってみた。

    「なんだい、子供がこんな所に来たのかい?」
    「いいじゃんか!」

    つまみ出されるかも知れないと思って僕はそこから横にずれた。
    パッサスのおじちゃんがいつ出てくるのかはじっと待つ事にした。
    周りを見て見ると警官の人達が立っていた。
    その警官の人達の後ろに木で出来た舞台がある。
    そこには偉そうな服を着た人達が何人か座っていて、
    黒い布を被った人も何人か居た。

    パッサスのおじちゃんは現れた。

    「パッサス、前へ。」

    偉そうな人の一人がおじちゃんを呼んで、おじちゃんは舞台へ上がった。

    「それでは、第二回審議へと移る。
     罪人パッサス、今からお前は神の名によって裁かれる。」

    何かが始まるみたいだった。

    「ではパッサス、これを読め。」

    とパッサスのおじちゃんに紙が渡された。

    「朗読するんだ、パッサス!」

    偉そうな人が怒鳴り声を上げる。
    これは自分が期待していたものとは違うんじゃないかと僕は思い始めた。

    「…被告人パッサスは、二日前の三月27日、
     その妻コルイデを自らの手で絞め殺し庭に埋める。
     理由は自らの浮気と…それを知った妻との口げんか。
     その後、妻が行方不明になったと自ら言い出し…、
     …それを疑った妻の妹メイルをも撲殺…する。
     よってパッサスが殺したのは妻とその妹の…二人である。」
    「ではパッサス!」

    僕は瞬きをいつも以上にパチパチさせた。
    僕の耳には、確かに「絞め殺す」という言葉が聞こえた。

    「お前はその手により、相手の心のうちを喋るという。
     間違いないな!」
    「……その通りです。」
    「ではパッサス!
     最後の一文をもう一度読め!」
    「…よってパッサスが殺したのは妻とその妹の二人である。」
    「では自分の胸に手を当てよ!」

    パッサスのおじちゃんの手が、
    パッサスのおじちゃんの胸に当てられる。
    そうだ、あの手だよみんな。
    あの手に触られたら、誰でも自分の気持ちを言われちゃうんだ!

    「………『なんて残酷な事をさせるんだ』。」

    そうだよ、おじちゃんの手は

    「『私の手によって私の罪を認めさせるなど』」

    絶対に触れた人の思ってる事を知れるんだ。

    「『これでは私が妻とその妹を殺した事を
     
     認めざるを得ないじゃないか』…。」
    「……パッサス、その手を下ろせ。」
    「……。」
    「妹の方の死体はまだ見つかってないが、
     その罪を認めるか?」
    「………    はい、認めます。
     妻とその妹は、私が      殺しました。」

    それが例え、
    自身の気持ちであっても。

    パッサスのおじちゃんはその夕方、縛り首になった。
    僕の胸を触ってくれたその手は、
    ただ今となっては、ブランと地面に向いてぶら下がってるだけだった。

    パッサスのおじちゃんの手が最後に読み取ったのは、
    パッサスのおじちゃん自身の罪。

    夕暮れの風のせいで、
    パッサスのおじちゃんの体はくるくると回り続けていた。


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