未払い残業代を骨が笑う 酔編
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未払い残業代を骨が笑う 酔編

2019-03-22 19:06
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前回から登場している魔王の弟ですが、
あらすじで用いた魔弟(まとうと)という語句が私の中で大ヒット、
以降これを使用しますので御留意下さい。



心と言うのは何処にしまわれているのでしょうか。

魔弟に一番近い給仕は優秀だった。
彼はオークの出だったが勤勉で物分かりも良く、
そのオークらしからぬ繊細さに目を付けて魔弟が召し抱えた。
ただ珍しい物を見た時の視線が抑えきれなくて、
対象をジロジロ見る癖があるがそこは御愛嬌、
全てが満足いく生き物などこの世に無い事は魔弟も熟知している。

先程の言葉は給仕のものだった。
心の在処を話題に出すとは、
あの骨の兵士の動く様を見て思う事があったのだろうと、
魔弟もまた彼の心中を察した。

「あれだけ広いとかえって置き場に困りそうだな」

魔弟はユーモアを言葉にふりかけたつもりだが、
給仕の反応はよく見られない。
何かを考えている時の癖で、
彼は鼻の穴をすぼめて縦に細くなっている。
それを見た魔弟はもうそれ以上言葉を出さないのだった。

ヴイカはというと、
魔弟から部屋を用意されてそこで休むように言い渡された。

魔王には長い任務の疲れを癒す為、
また汚れた身体でお目通りするのは失礼なので一日頂きたい、
そう骨の兵士が申してますので、と伝令を送った。

その間に全ての用意をするのである。

何の用意か?

当然魔王を殺す段取りだ。
魔弟は各所に連絡を放った。

魔弟の周りに漏れた幽かながらの緊張が給仕にも伝わる。
伝わってしまえば具合が悪いもので、
極力魔弟を刺激しない様にと距離を取って支度を勧める。

そんな中、給仕ははたと気付いた。
あの骨、メシはどうしているのだろうか。

水は飲んだな、あの骨は。
飲んだというよりぶちまけた感じだったが、
それが生きてると実感する上で大切な事だと言っていて、
その線で考えるなら飯も食いたいのではないだろうか。
きっと喰った物体を骨の隙間からボトボト落とすのだろうが、
落ちる事は問題じゃなくて、
『食べる』という行為が重要なんだ。

そう、
彼は生きている。

コンコン、と二回ノックをしてオークがドアを開ける。
ヴイカが休む為に与えられた部屋だ。

「おいアンタ、飯はたべる   お?」

その頃魔弟はと言うと緊張により心がパンパンに張っていた。
魔王を殺す、実の兄を殺す、
それもかなり前から練っていた策だ。
今が千載一遇の時、これを逃してなんとする。

頭の中で何度も兄である魔王が死んだ後の演説を考えていた所に、
給仕が飛び込んできた。

「   何が起きたと思いますか!?」
「は?」
「いやすいません、骨がいません!」
「え!?」
「先程飯は食うのかと思って部屋まで行ったんですけど、
 どこにもいなくて、骨の一つも見当たらなくて!」
「――逃げたのか!?」
「いや、逃げたと言われればちょっと判らないんですが、
 とにかく部屋に骨の姿はありませんでした!」
「  さがせ!」

波が二つ。

魔弟の中に、波が二つやってきた。

第一波は唸るような大きさを持ち、
それに打たれた魔弟は身体を硬直せざるを得なかった。

彼の頭の中に巡ったのは今日一日で準備をした全て。
魔王が死んだ後の魔王派の粛清、
自分に協力してくれる勢力への漏れの無い伝令。
その後の人間との橋渡し役への通達。
その他諸々、
緊張をもってやっただけに、
その全ての意味がなくなる瞬間、
それらが魔弟の頭の中を一気に押し流していった。

しかし、
押し寄せた波が引く速さも見事なものだった。
一気に押し寄せた苦労と緊張の様々な物事が、
来た時と同じ速さで引いて行った。

「 待て!」
「え!?」
「待て、待て待て……そうか……。
 酔いが切れたか。」
「何の話ですか?」
「英雄酔いが切れたんだな、きっと。
 おい、ヴイカを追うにしても乱暴には連れ戻すな。
 務めて優しくしろ。急いでも駄目だ。いいな」
「あっ、……宜しいので?急がなくても」
「急いだら何もかもが水の泡になりかねん。
 言った通りに探すんだ、いいな」
「判りました。」

英雄は酔う。
悲劇に酔いもすれば自らの功績に酔う。

ヴイカに関しては洞窟の中が彼を酔わせた。
沈黙と闇が心を痺れさせ、
長い時間が酩酊させる。

最後の仕上げは勇者だった。
かの勇者を生き埋めにした事でヴイカの英雄酔いは最高潮に、
だから魔王を殺せ、等と言われても承諾出来たのである。

しかし、時間が悪かった。
与えた時間が、悪かった。

魔弟が休む為にと与えた部屋、
そして『時間』。

一人きりになり、冷静になり、
ヴイカは思い出した、自分が一介の兵士であった事を。

自分は勇者でも無い、偉人でもない。
落盤した際に位置が良くてたまたま逃げられたただの兵士で、
残業代を出すからと言い包められた、ただの兵士で。

勇者に何回も殺された事のある、ただの兵士だ。
その度に魔王様に蘇らされて、
そうだ、知っている、
死ぬのは恐い、死ぬのは怖い。

首に剣が捻じ込まれた時なんか太い血管が弾ける感覚が怖かった。
脳天を割られた時なんて耳に響く頭蓋のきしむ音が

「これからお前は死ぬよ」

と言っている様で恐くて、
そう、
死ぬ事は怖い。

もし、
自分が魔王様を殺した時になんらかの繋がりが立ち消え、
このどうやって生きているのか判らない骨の身体が死ぬとしたら、
今度はどんな怖さを味わわないといけないんだ。


英雄の酔いが、
一気に抜けた。

魔弟と給仕が話している頃、
ヴイカは走っていた、街の外へと。

もう夜が始まろうとしていた。


→森編へ続く←

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まとうと~
いきるには活きると宛てたい、読者です。続きは3週間ぶりと言うことになりましょうか。他のユーザーさんがUPた記録が過去を下に押し流していく中、もしか、何かあったのか…と気付けば時が経っていました。物語が脳波と筆の間で詰まる感じが時々あります。
ヴイカはどこに向かうのか、家族に会いたいのか、魔王様に残業代を確認しに行きたいのかそうして題名が回収されるのか、明確に告げ口しに行ったわけではないと予想しています。

……ところで、「かこつ」というコトバはこういうシーンで使う「ナントカおつかれさまです」の略語でしたっけ…?
5ヶ月前
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>>1
Tyrol様

まとうと、語感完璧でございましょ?
結構な間が空きましたがボチボチでも書いて行けたらと思っております。
かこつ、確か「書き込みお疲れ様」だったような。
5ヶ月前
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