けんいちろう、小学校の学芸会へ行く。
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けんいちろう、小学校の学芸会へ行く。

2019-11-17 17:05

    先日とある小学校へと足を運んだ。
    そこで行われる学芸会を見る為だ。
    もっと言えば、
    私が作った物語を演じる子達を見る為だ。

    人生不思議なもので、
    私自身、演劇というものは成人して以降、
    二度位しか見た事が無い、いや、二度も怪しい。
    はっきりしているのは今年見に行った一回だけで、
    もう一回は、確かどこかで見た気がする、程度のものだ。

    恐ろしい話だと思ってくれていい、
    そんな人間が演劇の原作を書き、
    あまつさえ台本の形にも仕立てた。
    乱暴な例え話になるかも知れないが、
    ハンバーグを一回しか食べた事の無い人間が、
    いきなり肉とフライパンを前に腕まくりするようなものだ。

    電車を二回乗り継ぎ、
    早朝に降りた事の無い駅に身を降ろした時、
    もう既に私の胃は謎の緊張によって黒焦げだった。
    前日からじっくりコトコト丁寧に煮込んだもので、
    もうねじ切れんばかりの痛みを発している。
    だが足は健康であるのが不幸中の幸いだった。
    胃の痛みは上半身に任せ、
    私は下半身を小学校へと向かわせた。

    演じてくれるのは五年生である。
    知り合いに教師がいる訳だが、
    その人の頼みが全ての発端、

    「年内に学芸会をやるのですが、
     手元にある台本がどれもマンネリで、
     良ければなにか、一本書いてくれませんかね」

    と言われた酒の席、
    受けてしまったのが全ての始まりだった。

    学芸会当日、
    早朝の駅を後にし、Googleマップを手に、
    辿り着いた門の前で思わず立ち止まる、
    何せ『小学校』なんていう学び舎の聖域に入るのは何年振りだ。
    不審者と間違われて追い出されたらどうしようと不安がりながら、

    「〇〇先生の知り合いなのですが」

    と受付で申し出ると名前を書かされ、名札も頂く。
    どうやら不審者には見えなかったようだ。

    これまた長年入った事の無い体育館という建物に侵入し、
    スリッパへ履き替え、来賓の席へと座る。
    『先生からの挨拶』が終わるといよいよ照明が落ち、
    胃にタバスコでも塗りたくられたような気である。
    正直なんで緊張しているのか判らなかった、
    だって舞台に立つのは子供達であって私ではない、
    私は来賓席で真っ暗の中座っているだけなのだ。
    割り当てられている台詞の一つもありゃしない。

    でも私の書いた物語が演じられるんだ。

    体育館の中には大勢の大人がパイプ椅子に座っていた。
    その一人一人が誰かの親であり、
    舞台に立つ子供達は一人残らず親の視線を受けている。
    自分の子供が舞台で演技をするというのも緊張するだろうが、
    それが他の親も一緒に見てる前で、となると一層緊張が強いだろう。

    結局、私も同じだった。
    私はこれから演じられる物語の書き手であり、
    舞台で繰り広げられる物語は、多くの視線を浴びる事になる。
    もう、緊張の高まりはそこらの親にも負けてない。

    「それでは今から五年生の演目です」

    もう、腰が浮き、膝が伸び、
    それまで座っていた椅子を暗闇の中で置いてけぼりに、
    私は体育館の一番後ろに立って仁王立ちした。
    観客全体の雰囲気と一緒に、舞台を見たくて仕方がなかった。

    子供達はうまく演じてくれるだろうか、
    それを見た大人達はどんな反応をするだろうか。
    私がもう親にも似た感覚を覚えながら暗闇で悶えている最中、
    ついに演劇が始まってしまい、
    もう胃は雑巾絞り状態。
    これでもかという程締め上げられているかのよう。
    それでも舞台の上は踊り始める、
    演目は『王様はロバの耳』。
    元々は『青鹿の楽団』という題名だったが、
    「それではどんな内容か判らない」と教諭側に変更されたのだ。
    大丈夫、題名を変更されるのなんてこれが初めてじゃない。
    ちなみに笑う所である。

    「ある森の中を――」

    始るナレーション、静まり返る体育館。
    もうやり直しの効かない40分間が始まる。

    あ、みんな、台詞ちゃんと言えてるね偉い。

    そこから暗転だよね、暗い中気を付けて。

    ええ、そこそういう風に演じるんだね。

    おっ、君、めっちゃ声通るじゃん、いいね。

    そうそこ、そこから長い台詞回しなんだよね。
    長くしちゃってごめんね……頑張れ!


    もう、
    作者なのか、親なのか。
    二種類の感情が入り混じりつつ、
    舞台は無事に終幕を迎え私が抱いた思いは、

    「我ながら良い作品を作ったな」

    ではなく、

    「もっと良い作品を作れたかも知れない、皆ごめんな」

    であった。
    そしてその感覚に安堵もしていた。

    正直、小学五年生にどんな物語をやらせればいいのか、
    またどんな内容なら理解できる年齢なのかは全くの未知であった。
    恐らくそこに明確な答えなんてものは無いのだろうが、
    私がこしらえた物語は、少々最善点からは逸れていた気がした。
    少なくとも、場面転換の数が多すぎた。
    暗闇の舞台の上を忙しく歩き回る子供の足音を聞きながら、
    何とも言えない気持ちで唇を噛んだ事は私しか知らない。

    誰かがこう言った。
    大人に説明するよりも子供に説明する方が難しい。

    その通りだと思う。
    これから成長していく子供の中に残る何かを、
    どんな言葉で、どういう風に伝えれば良いかなんて、
    どんなに頭を悩ませても足りないだろう。

    私が今回良い作品を作ったと手放しに言えない理由は二つある。
    一つは単純に、色んな改善すべき点が自分で目に付いた事と、

    もう一つは、
    小学生の彼らがこの物語から何かを得て答えを出すには、
    恐らく、まだあと五年以上は時間がかかる。
    この作品が良いものだったか、悪いものだったか、
    それを決めるのは極論私ではない、
    演じてくれた子供達、一人一人がそれを決めるものだろう。


    これだから物書きは辞められない。


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