誇り高き出不精達
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誇り高き出不精達

2015-09-05 23:18
  • 2

魔法使いは出不精なのが多い。
空が飛ぶのが好きな輩は例外だが。
しかしそれを考慮しても出不精なのが多い。

エッペンルーヤは魔法使い達が集う。
そこに集まって何をしようと言う訳でも無い。
最初はたかが十人ほどの集まりだったが、
10人が20人に、20人が50人に、50人が100人に。

「エッペンルーヤに凄腕の魔法使いがいるらしい」

という最初の噂が人を集め、やがて噂は

「エッペンルーヤに魔法使いが集まっているらしい」

というものに変わり、
おうおう、そうなのかとアチラこちらから魔法使いが集まり始めた。

最初は『エッペンルーヤ』というただの土地だった名前が、
今では『魔法村エッペンルーヤ』と進化を遂げた。

このエッペンルーヤに住む人間の種類は殆どが魔法使いだが、
しかし砂の中に金が混じるように、ちらほらと非魔法使いがいる。
彼らは料理人だったり、床屋であったり、音楽家であったり。

くどいようだが魔法使いは出不精なのが多い。
エッペンルーヤから年に一度出るか出ないか、
そんな魔法使いもザラにいる。
故にエッペンルーヤは自活しなければならなかった。

そこで非魔法使いの人材である。
余所から引っ張って来た人材もいれば自ら好き好んでやってくる人材もいたが、
それらは運命の巡り合わせと言って良い。

数少ない非魔法使い達がエッペンルーヤの娯楽や文化の一端を担っているのは言うまでも無いが、
その中でもジェノンはひときわ異彩を放つ人材だった。

ある日の事である。
エッペンルーヤにこんな話が広まった。

「どうやら王族が来るらしいわよ。」
「王子か?姫か?それとも皇后様?」
「皇后は綺麗だって聞くねぇ、一度拝見してみたいもんだ。」
「いやぁ、皇后様は今体調を崩してるって聞いてるぜ。多分くるならガキだろ。」

そんな噂話が乱立する中、
エッペンルーヤを名目上取り仕切るナキという魔法使いのもとに一通の手紙が届いた。

『この国の国王がエッペンルーヤに参る』

という内容の手紙をほほう、と眺めるナキに何の手紙だ、と傍の者が尋ねると、
ああ、なんか国王が来るんだって、と短く返事をナキがした。
聞いた相手も、へーそうなんだー。と返事をするだけ。
エッペンルーヤは魔法使いの巣窟。
彼らは好き勝手に生きることを信条にしているが故に、
国王が来ようが魔王が来ようが好きにしてくれ、といった構えなのだ。

しかし話は瞬く間にエッペンルーヤ中に広がった。
なにせ来るのは国王だ。噂は光が反射するが如く広がり、
ジェノンの耳にも入ってきた。
まぁ、ここは魔法村エッペンルーヤ。
非魔法使いである自分に国王が用事などある筈もない。
そう思うジェノンは国王が来るという噂話が往来で飛び交う様を眺めるだけだった。

そして国王様がやってきた。

「あ、国王様だ。」
「へぇ、今日来るのか。」
「初めて見た。」

と行き交う魔法使い達は口々に言うが誰一人として平伏そうとしない。
護衛の者達は目くじらを立てたが国王は笑った。

「流石エッペンルーヤ、たかだが国王が一人来た位では平気な顔か。
 まぁ、それも今のうちよ。」

傍の者達をそうやって宥めながら国王はエッペンルーヤの内部へと歩き始めた。

国王がやって来たという知らせはナキの耳にも入った。
そうかそうかと身支度をしたナキは靴の踵を鳴らし合わせて魔法を使った。
瞬間移動だ。あっという間に国王の傍に現れたナキは頭を垂れた。

「ようこそ国王様、エッペンルーヤへ。」
「おう、そちがナキか?」
「お初にお目にかかります。」
「そうかそうか」
「ではこちらへ。」

とある家の前まで来ると、ナキはドアを問答無用で開けた。
鍵は掛かっていない。ドアは何の抵抗もしなかった。

「ジェノン、今日が約束の日だが…おい、なんでこんなに人がいるんだ!」

家はジェノンの家だった。
ナキが開けたドアの先は小さな部屋だが人が五人いて、
それでも十分に犇めき合うほどに見える。

「おう、ナキ。なんだ、手ぶらか?」
「俺は別にお前と遊びに来たんじゃない。」
「そうか、じゃあちょっと待ってくれ。あともう直ぐでパンが手に入る。」

ジェノンはチェス盤を挟んで一人の男と迎え合わせに椅子に腰かけている。

「パンなんてどうでもいい!」
「おいおい、俺の昼飯だ。」
「今日は国王が来る日だって、言ってただろ!」
「そんな事を言っても、俺はまだ昼飯を食べてない。」
「お前いつ起きたんだ!」
「いや、ついさっきだが」

淡々と返事をするジェノンの手はサッサとチェスの駒を動かし続けた。

「はい詰み。俺の勝ち。パンありがとう。はい、次。」
「次、じゃない!お前たち、申し訳ないが今日の所はこれまでだ。」

ナキが追い立てるように他の四人を狭い部屋から追い出した。

「おいおい、俺の昼ご飯をパンだけにするつもりか。」
「いや、だからお前」
「冗談だよ。どうも国王様、ジェノンです。」

狭い部屋だ。
それをあからさまに、なんだこの狭い部屋は、といった顔で国王が入ってきた。

「うむ、そちがジェノンか。」
「お初にお目にかかりまして光栄です。」
「なんでも、エッペンルーヤで一番チェスが強いとか。」
「ええ、まぁ。」
「この村には数多の魔法使いがいる。
 中には相当頭が切れる者もいる。
 その誰よりも、お主が強いという噂は、わしの所にまで響いておるぞ。」
「へぇ」

へぇ、じゃないだろ。
ナキがきつい目線をジェノンに送るが、
当の本人はどうした?とでも言いたげなとぼけ顔だ。

「というワシも、実はチェスの腕には自信があってな。
 城の中でワシに敵う者はおらんのだよ。」
「へえ、すごいですね。」
「そこでだ、ジェノン。ワシと勝負をしようじゃないか。」
「ああ、ナキから話は聞いております。」
「うん、では早速だが、ちとここでは狭い。」
「そうですか?」
「ああ、だから広場に机と椅子を持て。そこでやろうではないか。」
「はぁ、構いません。」

村の広場に机と椅子を構え、
それに座った王様の顔は余裕に満ち溢れたものだった。
対面に座るジェノンはパンを一つかじっている。
ナキはそれを目を細めて見ていた。

「では、どうする。」
「どちらでも。」
「ではジェノンよ、先に打つがよい。」
「分かりました、では。」

小さい机だ。ジェノンの家から持ち出したのだ。
その小さい机をぐるりと集まってきた野次馬の魔法使い達が取り囲む。
中には手にチーズを持っている者や、葡萄酒を持っている者もいる。
まるで決闘する戦士を取り囲むような様相を呈する中、
ジェノンが最初の一手を指した。

それから間もなく。

「詰みです国王様。」
「……!」
「では、私はこれにて」
「待て!」
「う?」
「もう一局だ!」
「え?…はぁ……」

ジェノンは視線を飛ばした。ナキの目に飛ばした。
ナキがとても渋い表情をしている事はジェノンにも理解できた。
じゃあそれでは、と言ってジェノンは国王ともう一局打ち始めた。

「詰みです国王様。」
「ん……!」
「では私はこれで……」
「貴様!」

貴様、という荒ぶる声を出したのは国王ではなかった。
そのそばに使える立派な服を着た若い男が出した声だった。
その男がジェノンを睨み付けた後にナキも睨んだ。
睨まれたナキはもう呆れた、どうしようもないという顔でジェノンの顔を見た。

「…何か?」
「……!」

どうした、という雰囲気のジェノンに対し、若い男は肩で息をしている。

「(おい、ジェノン)」

とナキが魔法で語りかけてきた。

「(お前、国王とチェスをやる時に、わざと負けてやれと言っただろう)」
「……あーなんかそんな事も言ってたな。」
「なに?」
「あっ、馬鹿…!」

国王がジェノンが漏らした言葉を聞いて盤上から顔を上げ、
ナキは少し焦ったように声を出した。

「いやね、私がわざと負けるように、と言われてたんですがね。」

もう、いい。全てが台無しだ。
ナキはよほど肩に力を入れていたのか、
息を吐き出す時に肩がすーっと下がった。

「まぁ、そんな馬鹿な事、俺がするわけないだろ。」

キングの駒をひょいと取り上げ、ジェノンが手の中で転がしながら話し始めた。

「王様、ここには一杯魔法使いがいるんですがね、
 しかし魔法使いじゃない人間もいるんですよ。俺みたいなね。
 そういう人間はどうやってここで生きているか知ってますか?
 散髪、料理、洗濯に計算…それぞれがずば抜けた一芸を武器に、
 魔法使い達から金を稼いでるんですよ。
 もちろん稼げない奴らもいます。そういう輩はここを去る。
 私ももう随分とここにいるんですがね、
 私が持っている一芸はこれですよ。」

カン!とジェノンがキングの駒を盤上に叩き付ける音が響いた。
目の前の国王によく聞け、と言わんばかりに。
それをぐるっと囲んだ魔法使い達が何も言わずに眺めている。

「ここに住む魔法使い達は、あらゆる物を持ち寄って私とチェスをしに来ます。
 昼飯、晩飯、酒に服、紙やソーセージとか。
 私に負けたら、それを置いていけ。
 年寄りの魔法使いから幼い子供みたいな魔法使いまで、誰彼問わず。
 それが私とチェスをする時のルールです。
 私が負けたら、そのまま帰って良し。
 しかし私はここで一度たりとも負けた事がありません。
 勝てなくなったら、それは私の死ぬ時です。」

ナキはジェノンの言葉をずっと目を閉じたまま聞いている。

「それに魔法使いってのは負けず嫌いな奴が多くてね。
 そこにいるパライヤってのは炎の使い手なんだが、
 ある時俺に負け過ぎて頭に血が上り、
 自慢の炎で俺を焼き殺そうとした。
 おかげでポケットに入れていた干し肉がこんがりと焼きあがった訳だが」

周りを囲んでいた魔法使い達がどっと笑った。
ジェノンに指をさされたパライヤ本人も大笑いしている。

「でもな、それで死んだなら俺もそこまで。
 国王様、俺はねぇ、これしか出来ないんですよ。
 チェスで勝つことしか能がないんですよ。
 もしそれが原因で魔法使いを怒らせて殺されるならそこまで、
 それでもまだ生き延びるならそれも良し。
 しかしね、ここの魔法使い達は誇り高い奴らばっかりだと知りましたよ。」

魔法使い達が、静かに聞いている。
ジェノンの言葉を静かに聞いている。

「チェスの勝負は、チェスで。
 魔法を使って俺をどうこうするのはお門違いだと。
 それはきっと魔法の世界でも言えるのでしょうね。
 まぁ、俺は魔法使いじゃないからよく知らないけど。
 
 おれはね、
 俺はね、王様。
 俺はこのエッペンルーヤに生かされてるんですよ。
 このチェスの能力だけで、今日まで生かされてきたんですよ。
 俺はこの人生を誇りに思っている。
 感謝もしている、このエッペンルーヤに。」

いいぞ、ジェノン!
ジェノン、ジェノンと周りの魔法使いが声をあげた。

「その俺がチェスで負けることは許されないんだ。
 たとえ誰が相手であろうとも。国王であろうと魔王であろうと。
 俺が負けることは、即ちこのエッペンルーヤが負ける事と同じ意味だ。
 この誇り高きエッペンルーヤに泥など決して塗らせないぞ…。
 おい、そこの、そこの若いの。
 どうせお前はこのジジイにおべっかつかってわざと負けたりしてるんだろう。
 それがお前の生きる術なら俺はとやかく言わねぇ。
 しかしそれは狭い城の中だけだとよく理解するんだな。
 いいか、ここはエッペンルーヤだ、
 偏屈だが偉大な魔法使い達が大勢集う村だ!
 皆がみんな、手加減などせずに切磋琢磨し、日々を生きている!」

そうだそうだ!
エッペンルーヤ万歳!
周囲の魔法使い達の声が荒ぶってきた。

「国王様よ、申し訳ないがチェスで勝って気分が良くなりたいんなら、
 ヘコヘコすることが仕事のあなたの家来達と遊ぶんだな。
 悪いがここはエッペンルーヤ、
 誇り高く生きるこの村に、
 媚びへつらう習慣など微塵もない!」

水がはち切れんばかりにたまった布袋。
それが一気に弾ける。まさにそれ、さながら。
見物で広場に集まっていた大勢の魔法使い達は雄叫びのような声を上げた。
中には空に向かって自慢の魔法をぶっ放す者も現れる始末、
挙句は竜に変化した魔法使いが空で踊りくねった。

それを一瞬静まらせたのはナキだ。
力いっぱい右足で広場の石畳を踏みつけ、
石を蹴り割る音は周囲の魔法使い達を一瞬静まらせるには十分だった。

「…国王、最初に申し上げた通りですが、
 このエッペンルーヤ、魔法使いの集まりでございます。
 何分偏屈も多く、様々な無礼もあるのでお越しになるのはいかがか、と私は申しました。
 しかしそれでも構わぬ、と確かに伺ったのも、私はしかと覚えております。
 色々と手は回したのですが、
 エッペンルーヤにできる持て成しは、これが精一杯です。
 ですが万が一!」

今度はナキの声が広場に響き渡った。

「今回の事が無礼であるとし、
 この村を処罰、最悪攻め落とすと言うのなら、
 このナキ、今度は別の『持て成し』をさせて頂きましょう。
 その時は心して参られよ。」
「ナキだけじゃねぇ、俺も『持て成し』てやろう!」
「私もよ、国王様、毒蛇はお好きかしら?」
「今は夏だ、俺の氷でひんやりさせてやろう!再び溶けるかは知らんがな!ガハハ!」

次々に魔法使いが声を上げる。
再び広場は祭り騒ぎの様相を呈した。
そのやんややんやの騒ぎの中、ジェノンが一言、国王にこう囁いた。

「――国王様、なんならもう一局、やりますか?」

ここは魔法村エッペンルーヤ。
誇り高き魔法使い達が切磋琢磨する場所。

今日もチェス打ちジェノンの家に、何かを持った魔法使いがやってくる。


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氷の魔法使いのキャラが好きです
34ヶ月前
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>>1
私は最後にヘコヘコした態度から開き直っちゃうナキが大好きですね。
34ヶ月前
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