【東方】『未在伝承記』_04
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【東方】『未在伝承記』_04

2016-02-16 07:22
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八代稗田の日記が続きを語る。


須藤の事が気になって、
翌朝早くに須藤の家に赴いた。

須藤と博麗は、
付いて離れずと言う仲ではないが、
共に一戦交えた後に、
早々に片方だけが帰る仲とも思えない。
もしやと思い、足早に須藤の家の戸を横に流すと、
そこには既に博麗の姿あり。

須藤は寝床に伏しており、
目に包帯が巻かれていた。
須藤の目を見るに、目が見えなくなる程の傷だと見て取る。

昨日の晩にやられたのかと聞くと、
須藤がそうだと答える。
しかし博麗が、いいや違うと言う。
二人の言葉が違うとはどういう事か。
問い詰めれば、博麗がこの様に言う。

「阿弥は『稗田』の子なれば、
 真を知りてそれを書き残す務め在り。
 今ここで嘘を吐くは、選ぶべきにあらず。」

博麗のその言葉を聞いて須藤が言う。

「私の二つの目玉は、昨晩の物の怪にくれてやった」

そこで驚いて思わず一言尋ねた。

「では、博麗が持ってきたという二つの目玉は誰のものか」

すると博麗が答える。

「あの黄金色の目玉は物の怪のもので、
 今、物の怪が付けている目玉は須藤のものだ」

話しを聞くに、
昨晩の騒ぎの化け物はまだ生きている。
一体どういう事だと重ねて問い詰めると、
博麗がはきはきと、滝が水を吐くように喋りだした。

「昨晩に男が腕を食いちぎられたと言う悲鳴を聞いて、
 須藤と二人で物の怪のいる場所まで駆けつけた。
 男は逃げだす寸前で、
 逃がすまいとする物の怪を二人で抑え、
 遂にはこれが立てなくなる迄打ち倒す。
 人を二度も襲った物の怪なれば、
 このまま生かしておく訳にはいかずと思ったが、
 博麗の役によりまず、何故人を襲ったのか問いただした。
 物の怪曰く、己は元々人として産まれたが、
 産まれてこのかた身体の何処にも毛が生えず、
 それを不吉と思った親により森へと捨てられた。
 親と毛が生えないこの身を憎み、
 怒りで山を駆けずり回るうちに物の怪になった。
 しかし、ある時一人の僧に出くわし、
 気が付いたらこの土地に弾き飛ばされていた、
 と、かくの如く言いけり。
 そして鶏や牛等を喰らっていたが、
 これまでに憎みに憎んだ心が弾け、遂に人間をも襲った、と。
 それを全て聞いた須藤が、
 物の怪に「死にたくはなかろう」と尋ねると、物の怪もこれに息も絶え絶え、
 「死ぬまでに一度位は、好かれると言う事がどんなものか知りたいものだ」
 と答え、私もそれを静かに聞いていた。
 すると次に須藤が言った言葉は、
 「おい、博麗、こいつを殺めるは人を殺めると同じ事だ、だから助けてやろう。」
 それを聞いた瞬間目が点になった。
 すると更に須藤がこんな言葉を重ねだす。
 物の怪よ、もう人を食べようとしてはいけない。人を襲ってもいけない。
 この二つの事を誓うと言うのであれば、
 その黄金に光る両目を繰り抜け。
 死ぬよりかは、幾分ましであろう。
 すると、物の怪も笑って「それもそうだ」と言い、
 自らの指で二つの目玉を繰り抜いた。
 さあ、それをもって村人の所に行くが良い博麗。
 そして、この目玉は物の怪の屍より抜きだした確かな証拠だと言えば良い。
 その須藤の言葉に叩き出されるように、
 私は村人の所へ行かされた。
 帰ってみると、目玉を繰り抜いた物の怪の姿は無く、
 逆に目玉を繰り抜いた須藤がいた。
 目玉はどうしたと聞くと、あの物の怪、
 暗い中で目が見えなくては困るだろうと思って、
 自分の目玉をくれてやった、などと言う。
 呆れて物も言えなかった。
 物の怪を追おうとも思ったが、
 須藤が私の裾を掴んで一本調子に
 「追ってはならぬ、追ってはならぬ」
 と言うもので、結局は取り逃がしてしまった」

そこまでの博麗の言葉を全て聞き終えると、
今度は一言、須藤がぽつりと呟いた。
あの物の怪はもう二度と人を喰らわぬと約束をした。
必ず、と言っていた。だからこれで良い、と―――


「馬鹿なの?その須藤っていう奴は」

私が日記を読む中で一呼吸置いた時、
どんぴしゃりのタイミングでそう言ったのは、主様だった。
私もそれを聞いて、まあそう思うよな、と心の中で首が折れる程頷いた。

「初めて会った妖怪に目を両方ともくれてやったって言うの?」
「理由があるのです」
「当たり前だわ、無かったらこの先、モヤモヤして聞いてられないわ」
「須藤もとかの瞳は、紅眼だったのです」
「?だから?」
「今でもそうですが、
 人間が紅眼を持って産まれてくる事はまずありません。
 紅は禍の象徴。そんな紅眼を持った須藤もとかは、
 一族はおろか、人の間で忌み嫌われていました。
 博麗の近くで住んでいたと言うのも、それが理由です」
「家から追い出されたって事?」
「御明察」
「何時の時代も同じような事が起こるのねぇ…でも、
 それが目をくれてやった理由にはならないわ」
「須藤は、自分の境遇に物の怪を重ね合わせたのでしょう。
 もしや自分がこうなっていたのかも知れないと思ったのでは。
 湧いた情で御座いましょう」
「ふーん……」

御主人様の声が途切れたので、見計らって続きに目を落とした。


そろそろ楓が色を変える頃だろう。
あれから須藤の傷も落ち着いたと耳にしたが、
見えていた者が見えなくなるというのは、
どれだけの苦労がある事だろうか。
足繁く須藤の家に通う事を昨今の習慣とす。ある日に須藤が、

「甘い茶菓子を食べたいが、
 目が見えないので買いに行くまでが苦労する」

と判りやすい甘えた声で言うもので、
まんまと買い出しに出かけてやる。
茶菓子を下げて須藤の家に戻ってみれば、
須藤の横に黄金色の髪を流した見慣れぬ人の姿あり。
凝らして見ると、傍に妖気が漂うに、
すぐさま物の怪であると知る。
しかし須藤が落ち着き払った声で一言、

「阿弥、これは客だ」

と私に教える。
物の怪の瞳をみるに、
須藤とよく似た紅の眼をしているので、
目の前の妖怪が、件の闇の妖怪だと悟る。この物の怪が言うに、

「これまで人には追われるか憎まれるしかされた事が無かったが、
 哀れだと言って命を救われた事は初めてだった。
 それだけに飽きず、
 よもや両目を差しだしてくれるような輩はこの後先、一人としていまい。
 その上、黄金の瞳を繰り抜いたせいか、
 これまで毛の一本も生えて来なかった我が身に、今度は黄金の髪も生えてきた」

己の常の癖か、物の怪に名を尋ねてみると、「みあ」と名乗る。
名前の意味など、あるものだろかと問えば、かくの如く言いける。

「一本の毛さえ生えぬこの身なれば、
 家の者に忌み嫌われ日々を過ごした。
 ある日に客が来て、我が父に「そう言えば子はおらなんだか」と問えば、
 我が父、「未だ、我に子は在らず」と答える。
 これを聞き、その日の夜に寝床に伏す親の首を絞めるも力足らず、
 その日の内に森の中へと投げ込まれる。
 かくして森や山の中に生きる事になったが、我、既に人に非ず。
 父が言うように、未だ「我」という人、ここに在らず。
 故に、己の名前を未在(みあ)と呼ぶ」

この全てを聞きたるに、
これらの言葉の上に重ねるとすれば、
如何なる事を口にすれば良いのかも判らず、ただ口を閉ざす。
すると、須藤が口を開いた。

「昔の恨みを名前に残すなど、甚だ愚かな事だ。
 そんな過去は忘れ、お前の名は響きだけにするが良い。
 加えて、お前は『るみあ』と今日から名乗るがいい。
 何故なら『みあ』という物の怪が、
 私の世話をする為に、これから長くこの家に留まるからだ」

『留まる未在』で『留未在(るみあ)』と呼ぶは大層安直な事だとは思ったが、
未在がそれを聞いて柔らかに目を細めたので、
最早、我が出る幕は無しと思い、
茶菓子を置いてその日はそのまま須藤の家を去りぬ。

本日は雨。
雨だと言うのに、空から下る雨の間に、
見えぬ筈のあの人の背中を探して玄関の外を見てしまうは


「あ、あ、すみません、ちょっと」
「え、あ、はい」

慌てた声が急に聞こえたかと思うと、
ひょいと阿求さんの細い腕が伸びてきた。
事の全てを悟った私はそのままするりと日記を渡し、
「ああ、流石に喉が渇きますね」などと白々しい言葉を振りまきつつ、
主様ににこにこと笑ってみた。

「なるほど、本当に『日記』なのね」

と主様が言った一言が、
途端に阿求さんの頬を赤らめさせたのは言うまでも無い。
ぎこちない手つきで帰って来た日記の開かれた部分には、色恋に関するものではなく、
ちゃんと先程の続きが書かれてあった。



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初めまして。いつも楽しく拝見しております。
けんいちろうさんのここまで読んで、文章の引き込み方や発想力に思わず感嘆しました。
今回も面白かったです。次回も楽しみにしております。
44ヶ月前
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>>1
キョートウ様

どうも!ご愛読頂いてまして恐悦です。
文章を褒めて頂けるなんて書き手冥利に尽きます。
発想力まで褒めて頂くともう幸せ中枢が満腹です、有難う御座います。
一日お休みをいただきます、すいません。
次回もお楽しみに!
44ヶ月前
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