【東方】『未在伝承記』_06
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【東方】『未在伝承記』_06

2016-02-19 07:19
  • 4

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夕が過ぎ去り、宵が降り。
夕食を取らせようと、博麗がるみあを起こしました。
しかし、起きたるみあは何時もより大きく瞳を開いて瞬かせ、
随分と間延びした声で博麗に尋ねてました、
おお、何か良い匂いがするねぇ、と。

不審に思った博麗と同じく、
私達もそのるみあを見て不審に思いましたが、直に理解しました、
須藤の死に耐えられなく、魂が記憶を封じたのでしょう。
そのまま夕食を平らげたるみあは、
博麗に教えてもらった名前をどうしても「るーみあ」と間延びしてしか言えず、
博麗の教えに痺れを切らして、

「今夜は月が綺麗だから、見ないと勿体ないね」

そう言って、博麗の神社を飛び出して行ったのです。
そして、それから記憶を失った彼女が、
再び博麗の元に戻る事は、ありませんでした。

「須藤もとかの『もとか』という字は、
 禍を求むると書いて、『求禍』。
 時に、親と言えども人とは残酷で御座います。
 そんな名前を付けられた須藤は、未在(みあ)という名前と生い立ちを聞いて、
 他人事とは思えなかったのでしょう。
 随分と須藤は彼女の事を可愛がったと言います。」

阿求さんの言葉が潰えて、
縁側の外から吹き込んだ風の束が三つ、
近くで夕食の支度が始まったのか、随分と良い匂いを連れて流れ込んできた。

「縁起には、真実を書きます。
 多少、表現を水増しする事もありますけれど。
 しかし、知る必要のない事は、書かない事にしています。
 これは、悪い事でしょうか」

阿求さんの放った視線は何処を求めたか。
それを辿ってみると、見事に受け止めている主様の眼があった。
すると、主様の口がゆっくりと開く。

「……私の昔の話で申し訳ないけれど、
 惚れた男が一人いたわ。
 彼の事を全て知りたいと思って、
 あの手この手で全てを暴いた。
 その恋が終わって、暫くして悟ったものよ、
 ああ、あの時は若かったな、って。」
「え…主様のそんな話を聞くの、初めてです…」
「当たり前よ、こんな話、滅多にしないわ。」

そう言った主様は口が渇いたのか、
手元の湯呑みをゆっくりと持ち上げた。

「書かなくて良かったかどうかなんて、
 私は人の幸、不幸なんてどうでもいいから余計な事はあれこれと言わない。
 でもね、わざわざ人を悲しませるような事を書くのは、悪い事なんじゃないの」

この人は相変わらずだと思う他無かった。
素直に一言「書かなくて正解」と言えば良いのに、
回りくどく言葉をあれこれと積み重ねて、
挙句に締めの言葉がこれだなんて。
主様の悪い癖。

「…で?」
「え?」
「他に、面白い話しは?」
「え?いや~、ちょっと…」
「なに、もうネタ切れ?こっちは三日分くらいのネタがないと困るのだけど」
「いやぁ…」
「ところで、どうしてルーミアの話しを私達に?」
「……泉の近くの紅魔館、
 近くに居る者のよしみならば、
 彼女と仲良くなる御方が増えるかな、と。
 増えたら、嬉しいな、と。」
「お節介ね」
「あと、暇つぶしを御所望ならば、
 今度はパチュリー様の事をお聞かせ下さい。
 よもや先程の話し、茶菓子一つで賄えると思ってもらっては困ります。
 宜しければまた翌日、今度はパチュリー様お一人で。」
「私一人?」
「私も、こんな身でございます。
 魔法だの何だの、言われても馬の耳に念仏という諺が苦しい程に似合います。
 そんな私が楽しめる話題と言えば限られておりますわ。例えば、色恋とか。」

なんだなんだ、恋の話か?
面白い話か?
そう騒いだかどうかは知らないが、
外の風が強さを増して、庭の草木を左右に揺らした。

「そんな話を御付き添いの方に聞かれても良いのでしたら、明日もどうか、お二人で」


「それで、明日は勿論私もご一緒するんですよね?」
「なんでよ」
「だって、私は主様の用人かつ護衛ですから!」

稗田亭の帰り道、茜が差した西の空、見える烏がカァと鳴く。

「来なくて良いわよ」
「いえ、この身が灰になろうとも」
「そんなに私の話しが聞きたいの?」
「そりゃあもう!」

しかも色恋話なんて、これを聞かずに何を聞くって言うんですか。

「ああ、じゃあついて来なさいよ」
「本当ですか?良いんですか?」
「私の話しの前菜に、まずお前の話しを聞かせてあげなさい」
「は?」
「主のお膳立てをするのは用人の務めでしょう」
「いや、でも私」
「その年で恋の一つも知らないとは言わせないわ」

竹藪突いたら蛇が出た。
私達の帰り道は森の上、空の中。
主様と二人で夕焼けの茜色に染まっていると、ふと、主様がこんな事を仰った。

「今夜は、散歩にでも出てみるか」
「どちらに?」
「湖の近く」
「良いかもしれませんね。
 金髪紅眼の面白い輩に会うかも知れませんしね」
「お菓子でも手に持っていく?」
「肉の方が良いのでは?」
「お菓子にしておいてあげましょ。悪い事を思い出させてもいけない」
「それにしても、喰い気ばかりの子にしては、
 頭にリボンなんかしてるんだなぁと思っていたんですよ。ああいう訳だったんですね…」
「似あうから良いじゃない、だってあの子、」

可愛いもの。


―――宵に潜まず、
黒を纏いて夜の空に躍り出る物の怪あり。
これの名をルーミアと呼び、彼の者、黄金色の髪を風に流し、
紅の眼にて万を見るに、童らの如くかく言いけり。
汝は喰らうてよい者か―――

日々の昔に、
須藤求禍と言う刀鍛冶在り。
この者、紅き眼を持って生まれるも、
これを失いて光を掴めず。
されど、見えぬ身体で博麗と共にあり、数多の物の怪を退ける。

求禍の葬儀にて、
片手の手首から先が無い事を不思議に思った者が博麗に尋ねるが、
博麗これに一言も答えず。

求禍の煙が天に伸びし折に、
天が闇に覆われるを人達が見るも、その後に禍は無し。
ただ、博麗が頭を垂れ、深く眼を閉じるを、とある村人が見ゆ。
求禍の身体に紅き禍が集まったと人々が言いけるも、その真を知る者は無し。

いまはむかしのものがたり。



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【後書き】
けんいちろうです。
東方の二次創作話という事で、お付き合い下さった方有難う御座いました。
ルーミアは当初気にも留めてないキャラだったのですが、
書けば書くほど愛しさが沸いてきて今ではすっかり好きになりました。
(当初はアリスの話にしようと思ってました。急カーブはいつものこと)
明日からまた通常運転に戻ります。
東方を知っている方、そうでない方、
本日まで『未在伝承記』のご愛読、誠に有難う御座いました。
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→お付き合い有難う御座いました。もし宜しければリツイートなどお願い致します←

東方Project
同人サークル『上海アリス幻樂団』の作品です

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長編連載お疲れ様でした。
私事ですが、他愛もないような自分のコメントにも返信してくださり有難うございました。
我儘かもしれませんが、またこのような長編を時々執筆してくださると嬉しくおもいます。
最後となりましたが、今回のオハナシも面白かったです。
44ヶ月前
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>>1
キョートウ様

ご愛読有難う御座いました、楽しかったです。
コメントを頂ける事は書き手としては本当に嬉しいものです。
また、礼儀正しい方が多いので、頂いたコメントには誠意をもって返そうと思っております。

長編は時々書いていこうと思っております。
(自分が予期せず長編になってしまう事も、ままある事です)
その折にまた楽しんで頂けたら幸いです。

けんいちろうでした、どうか良い休日を。
44ヶ月前
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ちょっと遅れたけど全部読んだ
無学な俺にはろくな感想も書けないけども。面白かったよ

東方はゲームちょっとやったぐらいで詳しくないけど、サラッと読めた。昔の言葉風の日記が違和感なく読めてすごかった
長編お疲れ様。これからも楽しみにしてるよ。
44ヶ月前
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>>3
のら様

どうも有り難う御座います、私もeasyしかクリアした事は無いです。
動画でもっと凄いレベルをクリアしているのを見ると、
「これ人間やってないんじゃ」って思うタイプが私です。

感想は思って頂いた事を伝えてもらっただけで、
それだけで私には素晴らしい力の原動力になります。
読了有難う御座いました、お時間の都合がいい時に、またどうぞ。
けんいちろうでした、今週も頑張っていきましょう。
44ヶ月前
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