艦これRPGシナリオ『よくあること・冬』
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

艦これRPGシナリオ『よくあること・冬』

2018-07-28 06:14
    シナリオ『よくあること・冬』テストプレイ済

    【シナリオスペック】
    よくあるシナリオ(冬)
    使用:『着任ノ書』『抜錨ノ書』(選択:『建造ノ書弐』)
    艦娘人数:2~4人
    プレイ時間:3時間程度
    リミット:1サイクル
    任務:1、鎮守府フェイズのシーンを[PC人数-1]回達成する
      :2、艦隊戦に勝利する
      :3、決戦フェイズにて、NPC「翔鶴」を中破(損傷点2以上)にさせない

    【あらすじ】
    冬の日に目覚めました。
    暗い洞窟で、冷たい泡雪の中、目覚めました。
    冬の海に漂っていました。
    私は自分の居場所を探して、暗闇を彷徨っていました。
    どうしようもなく孤独でした。
    降る雪はとても冷たくて、私の体と心は凍えてしまいました。
    だから、わたしは諦めてしまいました。
    そんな私を暖めてくれるひとたちが、手を差し伸べてくれました。
    冬にあった、よくあることでした。

    降る雪の中に佇ちたるわたしたち――
    その問いかけの、答えは何処に?

    【NPCデータ】
    翔鶴/正規空母
    シナリオ重要NPC。
    優しい性格の艦娘で、少し抜けた(ドジな)ところがある。
    多少の物事を悲観的に考える面があるが、それはこの艦娘特有の事情によるものであり、
    根っこの部分は子供のように他人を信じやすく、また、他人に対して純粋である。
    ※シナリオにおいて、艦隊戦に参加するため、提督はあらかじめレベル2の状態でデータを用意しておくこと
     データの一例として用意したものを下記する。特に問題がなければ該当項目を参照の上でこのまま使うこと
     ●戦力
      命:0,火:0,回:1,装:9,装備力:3,行動力:8
     ●得意カテゴリ
      制空/守勢
     ●初期個性
      優しい/食べ物/機動/航空戦/幸運X/楽観的X
     ●修得アビリティ
      空中阻塞/身代わり(幸運)
     ●固有アビリティ
      【後継者】
      ※固有アビリティ【後継者】の詳細は、『抜錨ノ書』のP42を参照すること
     ●初期装備
      流星(航空戦)/彗星(機動)/紫電改二

    補足:『よくあること』シリーズ登場NPCの今作での扱い
    ここでは、このシナリオまでに公開してきた『よくあること・夏/秋』に登場するNPCについて解説する。これはこのシリーズを公開順に、つまりは夏、秋、冬と遊ぶ人を対象とした解説である。尚、このシリーズ自体は舞台としての繋がりはあれども、各話はそれぞれ独立したものであるので、今作『よくあること・冬』から始めても問題ない。
    以下、解説。
    ・『よくあること・夏』/少年
    少年のその後は、各々の卓での夏を遊んだ展開そのままに扱ってもらって構わない。
    このシナリオで少年は、【■サイドストーリー1「冬の目覚め」】において、海辺の洞窟に流れ着き、潮が満ちる前に浜辺へ脱出したNPC「翔鶴」を発見・鎮守府へ通報した者としての役割が与えられている。これは、夏を遊んだプレイヤーに対するサービスのようなもので、少年自体にこれ以上の役割は、このシナリオでは与えられていない。もし、夏の展開によって、あるいは夏自体を遊んでおらず、夏の少年が登場すると困る場合は無理に出す必要はない。
    ・『よくあること・秋』/萩風・嵐
    秋に登場したこの二人に関しては、今作ではこれといった役割は与えられていない。
    ただ、『よくあること』シリーズを通して遊んでいる場合、プレイヤーからこの二人に関して何らかの接触がある可能性が高いと思われるため、一応の今作での二人について記述する。
    嵐に関しては、PC達とは別の鎮守府へと転属したため、扱いに困るということはそれほどないだろう。彼女は転属先の鎮守府で戦果をあげており、そのことはPC達の鎮守府にも届いている。
    萩風に関しては、前作でPC達と同じ艦隊となったために、扱いに困る人もいるだろう。
    彼女はいわゆる「お助けNPC」としての枠でもある。秋でPC達に対して上昇した【感情値】はそのまま保持されているため、シーンに登場させたり、場合によっては艦隊戦に登場させてもよい(その場合はPC数が1人増えたものとして扱うこと)。また、セッションの省力化のためにシナリオ上で役割を持たないNPCを出したくないという場合は、萩風は秋のシナリオ結末において、「冬になったら休暇を取って嵐に会いに行く」と約束していることを理由に、今作のシナリオ期間中はPC達の鎮守府に不在とするとよい。もしくは、「艦隊戦には登場させたくないが、鎮守府フェイズ等では登場してほしい(そのことに対する理由付けがほしい)」という場合は、冬の期間中は嵐と萩風は休暇を取り、それぞれの鎮守府に遊びに行ったり来たりと「デート」をしているため、鎮守府フェイズでPC達と遊ぶことはあっても、艦隊戦には参加することはない……等の理由でプレイヤーに納得してもらうとよい。


    【導入フェイズ】
    綿雪の降る冬の朝のことだった。
    PC達は夜通しの任務を終えて、報告のために提督の執務室を訪れている。
    執務室は暖房が効いており、任務で冷えたPC達の身体を落ち着かせてくれる。
    執務室にいるのは提督だけだ。秘書艦の姿はない。
    PC達の任務というのは、よくある哨戒任務だった。

    それは数日前に遠海で確認された深海棲艦を警戒するために行われた。
    結果は空振り。敵の姿はなく、冷たい海の夜に綿雪が降るばかりであった。
    「深海共が確認された時に偶発的な戦闘があったようだ。味方の被害もあったそうだが、殆どの敵は沈めたらしい。現場の混乱もあり詳しい報告がなくてな。」
    ※『味方の被害』:PL/PC達が聞くようであれば、「空母が一隻轟沈したらしい」と伝えるとよい。
    任務の報告を終えた頃には、執務室の窓から見える空が明らんでいた。
    外には冬の朝の澄んだ空気の中をきらきらと舞う綿雪がみえる。
    「とにかく、これで任務は完了だ。別命があるまで通常業務に戻ってくれ。」
    そうして提督はPC達から仕事の書類へと目を向けた。

    執務室を出ると、PC達と入れ替わるようにして秘書艦とすれ違う。
    彼女はPC達に一礼すると、そのまま執務室へと入っていった。
    ==========================================
    翌日、PC達はまた執務室にいた。任務通達のために提督から呼び出されたのである。
    PC達が揃ったことを確認した提督は、以下の内容を伝えた。

    昨日、鎮守府近郊の浜辺で艦娘が保護された。艦娘の名は「翔鶴」、正規空母である。
    発見時、彼女は損傷を負っていたが既に修復は済ませてあり事後に問題はない。
    彼女は他の鎮守府の艦隊からの落伍艦かと思われたが、どこにも属さない艦娘だという。
    そのため、鎮守府は彼女を所謂『海域邂逅』の艦娘であると判断した。
    ※『海域邂逅』:「建造」以外による艦娘の発見のこと。関係者の間では「ドロップ」という俗称でも呼ばれる。

    「そこでキミ達は、しばらくの間、翔鶴と艦隊を共にしてもらい面倒をみてやってほしい。」
    「彼女にとっては慣れない鎮守府生活だ。だから仲間として彼女を扶けてやってくれ。」
    そこまで云って、提督は少し困った顔をして続ける。
    「彼女にはどこか塞ぎ込むようなところがある。」
    「おそらく、この鎮守府で、自分の居場所を見つけられていないというのが理由だろう。」
    「まあ、つまりは、キミ達の艦隊が彼女の『居場所』となればいいということだ。」
    「ともかく、まずは信頼を築くことだな。」
    現在、翔鶴は訓練のために訓練海域に出ているという。
    「艦隊の件はまだ翔鶴には伝えていない。キミ達が伝えてやってくれ。」
    「彼女との顔合わせも必要だろう? さあ、行ってくるといい。」
    そうして、PC達は執務室を去り、訓練海域へと向かった。
    ==========================================
    翔鶴を初めて見た時、どこか孤独な印象を抱いた。
    それは提督が云ったように彼女が未だ自分の居場所を持たないためなのだろう。
    ――あるいは、冷たい海の上でひとり佇む姿を見たからか。
    彼女の動きは良く訓練も手を抜かず熱心にやっていることから誠実さが窺える。
    だが、そんな彼女には誰が見てもわかる致命的な欠点があった。
    艦載機の発艦が出来ないのである。
    弓を番えるまでの流れは堂に入ったものであるのに、飛ばない。
    放った矢は艦載機に変わり空へと翔ぶ前に水面へぽとりと落ちる。
    彼女はそれを幾度も繰り返している。――

    そんな様子をPC達が見ていると、翔鶴もPC達に気づいたらしい。
    落ちた訓練矢を拾い照れくさそうに頭を下げたあと、こちらへやってくる。
    「あの、すいません。こちらで訓練をするように言われたのですが、場所を間違っていましたか? ……あっ、私は昨日からこちらに所属することになった正規空母の翔鶴です!」
    彼女はPC達を見て自分が訓練海域の割当場所を間違えたのではないかと懸念したようだ。
    PC達は、これから翔鶴は自分たちの艦隊に加わること、同じ艦隊として新人の翔鶴の面倒を見ること、これからは自分たちの艦隊が彼女の居場所になること等を伝える必要がある。

    翔鶴はPC達の言葉に瞳をきらきらと輝かせた。
    「わぁ……! では、みなさんは仲間なのですね。うれしい……!」
    最初に感じた孤独な印象はどこへやら、いまは無邪気に喜んでいる。
    「……見ての通り至らない私ですが、できるだけみなさんのご迷惑にならないようにしますので、どうか、これからよろしくお願いします。」
    翔鶴はもう一度、大きく頭を下げた。こうして、艦隊に新たな仲間が加わった。
    そしてこれが「彼女」とPC達との物語の始まりである。

    ■サイドストーリー「冬の目覚め」/Interval1
    タイミング:導入の描写を終えた後
    サイドストーリーの取り扱い方
    このシナリオでは、イベントの合間に【■サイドストーリー】が挿入されることがある。
    これは、「NPCの心情・背景」を「NPCの視点」で描写するものである。マスターシーンをよりNPCに特化させたものと考えればよい。サイドストーリーは、あくまでNPCの視点で語られるものであり、状況のすべてが描写されるわけではないが、PLがNPCについてより深く把握することができ、PCのRPをする際の参考となるだろう。
    セッション時、GMはこれを【シーン】として演出するより、【情報】として扱うとよい。
    これは、サイドストーリーが挿入されるタイミングは、シナリオにおける「区切り」のタイミングでもあるため、休憩等を入れるのにちょうど良いからだ。
    休憩中にPLが確認できるようにメモ等で提示しておき、GMは進行の確認や、次のイベントの準備等をするとよい。
    無論、通常のマスターシーンのように扱ってもよい。GMのやりやすいように。
    提示の際の提示例を挙げると、【「翔鶴」は鎮守府に保護されてから、自身で『秘密の日記』をつけている。これは、その日記の内容にあたるものをシーンとして再構築(リプレイ)したものだ。無論、PC達が読むことは「翔鶴」の抵抗により叶わないだろうが、PL達は覗き見ることができる。】等。
    描写
    冬の日に暗い洞窟で目が覚めた。
    意識が覚醒した私は体中の痛みに顔を歪める。
    それでも何とか起き上がり、あたりを見渡した。
    自然が岸壁に穿った小さな洞窟だ。洞窟の入り口からは海が見える。
    空は薄暗く、どうやら泡雪が降っているらしい。
    風に舞い窟内にはいってきた泡雪が頬にさわった。
    (つめたい……寒い……)
    はじめて私は自分が震えていることに気がつき、驚愕する。
    (状態は……大破ね……)
    後に「限りなく轟沈に近い状態」だったと聞いて目眩がしたが、この時はそう自己診断した。
    再び、窟内をみる。ここは海辺の洞窟で壁などをみるに干潮時にだけ姿を現す場所らしい。
    おそらく干潮である時間はそう長くはないはずだ。
    私自身は海水で沈むことはないが、一刻も早くここを離れたいことには変わりない。
    (とりあえず、ここから出て、誰かに助けてもらわないと……)
    私は重い体を引きずるようにして洞窟を出た。
    損傷は体感以上に酷いらしい、小さな洞窟から出るだけで時間を要した。
    そうして疲労困憊の私は浜辺を這い進み、体を横たえて仰向けになった。
    泡雪は降り続いている。
    倒れ込んだ私の顔や体にもぽつぽつと冷たい雪が落ちてくる。
    だが、それを気にする余裕はもうない。
    とても疲れていた。
    「泡雪のなかに、いくつもの、世界がある……だったら……」
    朦朧とする私は、何処かで聞いたうろ覚えの歌をつぶやく。
    頭の中でとりとめもない思考がめぐる。

    今、自分は何かとても恐ろしいもの――死――が近づいて来ているのを感じている。
    それは、とても怖くて、逃げ出したいというのに、疲労した体は動いてはくれない。
    それどころか、恐ろしく感じながらも「これで終わる」と思う私もいるのだ。
    混濁する意識のなかで、私はもう、考えることをやめようと思った。
    目を閉じて、全てを投げ出して、あとはもう泡雪の降るままに任せよう……。
    朝が近づいてきたのだろう。閉じた瞼を通して明るい光を感じた。
    悲劇のヒロインじみているが、静かな暁光のなかで朽ちてゆくことは美しく思えた。
    そんな、今わの際を受け入れて目を閉じる私に、声が掛けられた。
    「あの、だいじょうぶ?お姉ちゃん、艦娘、だよね。」
    聞こえてきた声は、私に少なからず衝撃を与えた。
    まだ幼さを残す声――おそらく少年のものだろう。
    (………そうか、わたし……艦娘を助けてくれる誰かがいるのね……)
    だが、私はその問いかけに答えるだけの気力はない。
    「怪我してる。鎮守府の人を呼ぶから……お姉ちゃんの名前は?」
    答える気力なんてなかったはずなのに、それでもその温かな声に対して、口がうごいた。
    「…………しょう、かく……」
    こうして、私は保護された。―――泡雪が降り続いている。

    最後に、感情点の処理。任意のキャラクターを選び、そのキャラクターに感情点を1点取得
    また、PCはNPC「翔鶴」に対して【感情値】を1点上昇させること
    なお、NPC「翔鶴」はPCに対して【感情値】を1点上昇する
    ※NPCの声援はPL任意の時に使うこと

    【鎮守府フェイズ】
    シーンエディット:日常、交流、遊び(選択追加:任務)

    補足:
    鎮守府フェイズにおけるNPC「翔鶴」のRP
    今シナリオにおける重要NPC「翔鶴」は、その役割上、鎮守府フェイズのイベント等にほぼ登場すると思って構わない。そのため、どのようなRPをするかについて、注意すべき点を記述する。以下、注意点。
    ・このシナリオにおける鎮守府フェイズは、PCと翔鶴の仲を深めるためのものである
    展開上、鎮守府フェイズを通し、PCと翔鶴の仲が深まるようにRPをするとよい。よって、翔鶴のRPはネガティブなものよりも、PCとポジティブにイベントを楽しむようなものが望ましいだろう。
    ・翔鶴のRPを通して、「翔鶴のこと」をPCに伝えていくとよい
    翔鶴はPCと仲良くなりたいと思っている。そのため、自分のことについては積極的に伝えるようにするとよいだろう。何が好き、何が嫌い、気になること、PCをどう思っているか、周囲のものからどう思われていると感じるか……そのようなことを隠す必要はない。
    翔鶴がこの時点で伝えられないことは、「自分が元深海棲艦である」ということだけである。
    補足:シーン演出のすゝめ
    もし可能であるならば、別鎮守府(轟沈した翔鶴の鎮守府)の提督を登場させて、PCたちと共にいる元空母水鬼の翔鶴と交流させるシーン等をもうけるとよい。これを行うことで、【■シナリオエピローグ】の内容がより自然なものになるだろう。この時、別鎮守府の提督がPCたちの鎮守府に来る表向きの理由としては、「夏」と「秋」等でのPCたちの活躍を知り、所属する鎮守府の運営に興味が湧いた等、PCたちを持ち上げるものであるとよい。PCたちと別鎮守府の提督が行動を共にする理由は、『訪問した別鎮守府の提督の案内をPCたちの提督から任された』等で十分であると思われる。

    ■マスターシーン「雪解け」
    タイミング:鎮守府フェイズの最後
    描写
    あれから艦隊生活を共にして翔鶴のことが分かってきた。
    彼女は、海が好きなこと。特に夜の海が好きなこと。
    ひとりの時はよく港に行って、海を眺めていること。
    他に趣味らしい趣味はないこと。甘いものが好きなこと。
    他にも、色々なことが。
    そして確かなことは、もう彼女はPC達の仲間――友達ということだ。

    ある冬の日の夜、PC達はふと彼女の姿が見えないことに気がついた。
    きっと、彼女のお気に入りの静かに海が見れるあの場所にいるのだろう。
    明日は朝に提督から任務の通達があるということを秘書艦から聞かされている。
    もう夜も遅いのだし、迎えにいってあげよう。――

    そうして、PC達は港へとやってきた。
    港の中でもあまり人気がなく目立たない、海の音を静かに聴ける場所。
    彼女は――翔鶴は、ぼうと海を見つめている。
    綿雪の降る寒い夜だ。彼女の眼前にある海は暗闇に波音を響かせている。
    彼女もPC達の存在に気づいていたのだろう。
    暗い海を見つめる「翔鶴」は――キミ達に背を向ける「彼女」は――PC達に尋ねた。
    「戦うことが、怖くはありませんか?」
    それは唐突で、とても純粋な問い掛けだ。彼女はいったい、どうしたのだろう?
    暗黒の海を見つめ続ける彼女は問い、PC達の「答」を待つように静かに佇んでいる。
    ※PCが答えられるようなら答えさせるとよい。無理なら答えを待たずに先へ進めるとよい。
    翔鶴は、未だ背を向けたまま、言葉を紡ぐ。
    「わたしは、戦うことがこわいです。敵と戦うことは、とても怖いことに思えます。」
    「戦えば誰かが傷つきます。戦えば次の戦いの原因となります。」
    「なによりも、戦うことでいちばん傷つくのは自分自身なのだと、私は思います。」
    「まるで、引いた弓の先にいるのは敵ではなく、自分自身であるようなのです。」
    「それを考えるだけで、震えが止まらないくらい、こわくなります。」
    翔鶴は嘆く。どこか虚無感の漂う、絶望を含む声であった。
    「みなさんは、私と出会う前、ある哨戒任務に就いていたそうですね。」
    「遠海で確認された深海棲艦の生き残りを探す任務だったと聞いています。」
    「その生き残りがどんなモノであったか聞きましたか?」
    そこまでの情報は、この鎮守府には届いていなかった。
    「その生き残り――轟沈寸前のそれは空母の深海棲艦だったのです。」
    「こちらでは、鬼や姫と呼ばれているモノでしょう。」
    「命からがらに撤退した『それ』は、気がつけばある洞窟にいました。」
    「目覚めたとき、とても驚きました。」
    「だって、自分は敵の姿になっていて、『翔鶴』としての意識があるのです。」
    「でも、自分が『深海棲艦』だったときの記憶もありました。」
    彼女は語る。かつて自分は深海棲艦で在ったこと、いまは艦娘として在ることを。
    「艦載機を飛ばせないのではありません。弓なんて、使ったことがないのです。」
    「敵の攻撃を避ける機動は、生き残るために散々と実戦で学んだのです。」
    「戦うことが恐いのです。だってそれは、かつて仲間だったモノに弓を引くことだから。」
    「それに、もし私がもう一度沈んだら、その時はどうなるのでしょう?」
    「一度目は、あの洞窟で今の私が新生しました。」
    「でも二度目は? 二度目があったとしても、そのときの私はどっち?」
    「みなさんから見た私は、『翔鶴』でしょう。でも、次はどうなのでしょうか?」
    「私が引く弓の先にいるのは、敵なのですか? 私達の戦いとは、何なのですか?」
    そこまで捲し立てた翔鶴はようやく暗い海からPC達の方へと振り返った。
    その表情はどこか翳があり、それでいて子供のようでもある、よく知る翔鶴のものだ。
    「……あの洞窟で目覚めたときから、ずっと、考えていました。」
    「みなさんは優しくて、きっといまの私は、前よりも幸せなのです。」
    「でも、だからこそ、私は戦うことが、弓を射ることができなくなるのです。」
    「何が『正しいこと』なのか、分からなくなるのです。」
    彼女の頬をつたう涙はきらきらと輝いて降る雪とともに落ちていく。
    綿雪の積もるこの場所こそ、彼女が孤独に耐え忍ぶ場所であった。

    こうして、キミ達は翔鶴の「真実」を知った。
    「真実」を知ったとしても、やることは変わらない。
    艦隊の仲間として、友人として、鎮守府の先輩として、彼女の居場所となる。
    それだけは、この先何があっても、変わることはないのだ。
    きっと、『正しいこと』とは、そういうことなのだから。

    最後に、PCからNPC「翔鶴」に対する【感情値】を1点上昇させる。

    ■サイドストーリー「夜だけが聴いていた」/Interval2
    タイミング:マスターシーン描写後
    描写
    あの後、私は眠れずにいた。
    その理由は、私の秘密を彼女たちに話してしまったからだ。
    艦隊の仲間だから?
    トモダチだから?
    鎮守府の先輩だから?
    私の、居場所だから?
    でも、それだけで。そんなことだけで、話す理由になるのだろうか。
    本当は誰にも話すつもりなんてなかった。
    だって、伝えられても困るに決まっている。知る必要だってないことだ。
    でも、彼女たちには、彼女たちだけには話したかった。知っていてほしかった。
    そして、それでも私の居場所は此処なのだと思いたかった。
    私は自分勝手に、自分の苦しみを和らげるために、彼女たちに苦しみを分けた。
    (でも、少しだけ、ほんのすこしだけ、話すことで軽くなれた気もするのです)
    これはどうしようもない、私の本心だ。
    この自分勝手を、優しい彼女たちは赦してくれるに違いない。
    …………『だからこそ』…………
    さあ、私も明日に備えて、心を鎮めて眠らなければならない。
    予感があるのだ。
    私はきっと、明日の任務によって、弓を引くことになるだろう。

    最後に、NPC「翔鶴」からPCに対する【感情値】を1点上昇させる。

    【決戦フェイズ】
    翔鶴がPC達に真実を打ち明けた翌日の朝。
    PC達の艦隊は提督の執務室にいた。
    「キミ達が以前した哨戒任務で伝えた深海棲艦の生き残りが発見された。」
    背後の翔鶴が息を呑んだ。
    「敵は、ここから少し離れた海域に単独でいる。うちの偵察隊が発見した。」
    「個体の識別も既に済んでいる。敵深海棲艦は『空母水鬼』だ。」
    現在、空母水鬼は何らかの理由で単独で行動しているという。
    その動きも何らかの目的があるというよりは、漂流といえるものだ。
    偵察隊によって周辺の哨戒もなされたが、罠や別働隊の気配もない。
    「疑問はあるが、これは鬼級を沈める絶好の機会――叩くのならば今だ。この機会を逃す手はない。そして、この任務はキミ達に任せたい。キミ達の実力ならば出来るはずだ。」
    提督は翔鶴を見、云う。
    「翔鶴、キミのことを何か言うものがあることは知っている。それに対して、キミが負い目を感じていることも。実は私の方にも、キミが戦うことを避けているという報告があった。」
    「戦いたい、戦いたくない、その気持ちは自由だ。だが、鎮守府は戦えない艦娘を許容することはできない。だから、これはキミの艦娘としての分水嶺であると思ってほしい。
    「私はキミが艦娘であると信じている。キミも、自分が艦娘であることを証明するんだ。」
    翔鶴はPC達を見た。その表情はいつもの彼女のもので、すこし哀しく微笑んでいった。
    「………はい。私はもう弓を引けます。――だから、戦います。」
    後戻りはできない。後は無事に皆で帰投できるよう最善を尽くすだけだ。
    そうして、PC達は冬の海へと抜錨した。――

    【艦隊戦】
    戦闘に関する特記
    この戦闘にはNPC「翔鶴」がPC側の艦隊として参加する。
    この戦闘は通常の艦隊戦と変わらないが、異なる点が幾つかある。
    それを下記する。
    ・NPC「翔鶴」は、【行動力】が「0」になり、「行動不能」になっても
     航行序列に残り続ける。
    この時、NPC「翔鶴」の行為判定はすべて自動失敗となる。
    ・NPC「翔鶴」は、必ず、敵「空母水鬼」と同じ航行序列にプロットされる。
     (『空母水鬼は翔鶴を狙っているようだ』等の描写を入れるとよい)
     ただし、これはNPC「翔鶴」及び「空母水鬼」のプロットを公開するものではない。
     あくまで、「同じ航行序列にプロットされる」というだけである。
    ・艦隊戦の開始時に、PLに対して上記のNPC「翔鶴」のプロットについて伝えること。
    GMに対する通達
    この艦隊戦では、NPC「翔鶴」は轟沈しない。これはシナリオにおける特殊な処理である。
    また、このことをPLには伝えなくてよい。
    もし、艦隊戦中にNPC「翔鶴」が「轟沈」した場合は、
    ・誰かが事前に「翔鶴」の艤装に、アイテム【応急修理要員】を忍ばせていた
     (翔鶴のことを気にかけ、「居場所」を作ろうとしているのはPC達だけではなかった)
    ・PCは「翔鶴」を気にかけていた(全員【感情値】がある)ため、
     戦闘後の回収を確実無事に行うことができた
    等の理由を付け、艦隊戦終了時に【損傷状態】が「大破」の状態で艦隊に復帰させること。

    敵編成
    PC数2:空母水鬼×1
    PC数3:空母水鬼[elite]×1
    PC数4:空母水鬼[flagship]×1
    ※PC達の平均レベルが5以上であれば等級を1つ上に上げてもよい。
    (elite→flagship→改)

    戦闘条件
    戦闘勝利条件:「空母水鬼」の撃破
    戦闘敗北条件:PC艦隊の全滅
    ==========================================
    [戦闘勝利]→【終了フェイズ】へ移行し、[エンディング]を描写する。
    [戦闘敗北]→PC達は敗北。任務の失敗を描写し、成長処理へ。

    【終了フェイズ】
    [エンディング]
    艦隊戦はPC達の勝利に終わった。
    後に残ったモノは、沈んでいないPC達と、致命的な損傷を受けて沈みつつある空母水鬼だ。
    翔鶴は「それ」に近づいてゆく。翔鶴を映す「それ」の瞳は、既に光を失っている。
    ――最期の時、「それ」は醜く歪んだ表情で「翔鶴」を睨んでいた。
    沈みゆく空母水鬼を見つめていた翔鶴が静かにつぶやいた。
    「そういうこと、なのね。」
    PC達へと振り向いた「彼女」の顔は悲痛に歪んでいる。
    「きっと、私が同じだからなのでしょう――いま、確信しました。」
    「あの時、あの戦いで沈んだのは――変わったのは、私だけじゃなかったのです。」

    「『彼女』こそ、本当の『翔鶴』だったのです。そして、ほんとうなら『私』が……。」
    PC達の脳裏に、あの哨戒任務の報告の時に云われた、提督の言葉が思い出された。
    『……被害もあったそうだが、殆どの敵は沈めたらしい……
    被害はあったのだ。正規空母一隻を失うという被害が。
    「互いに突然の戦闘で混乱していました。だから彼女は助けられずに沈んでしまった。」
    「そして彼女は目覚めたのです。……私と、同じように。」
    「そうでなければ、」
    どうして、彼女は独りで海を漂っていたのだろうか?
    どうして、彼女は偵察隊を攻撃もせずに自身の居場所を知らせることを許したのか?
    どうして、彼女は艦隊戦において翔鶴を執拗に狙ったのか?
    「――どうして彼女には、私の時のように、やさしい誰かがいなかったのでしょう?」
    そのかなしい問いに「答」を出すことはできない。
    確かなことは、PC達も翔鶴も、今は沈んでいないということだけだ。
    そうして、空母水鬼の残骸は、光の届かない水底に沈んでいった。

    日が沈みだした。綿雪が降っている。
    降る雪に消えてしまいそうなか細い声で翔鶴は水底へ向けて云う。
    「戦えば誰かが傷ついて、戦えば次の戦いの原因となって――」
    「それはまるで、自分自身に弓を向けているようなのです。」
    「分かってはいるのです。こんなことはきっと、よくあることなのでしょう。」
    「……それでも……」
    と、翔鶴は降る綿雪をやさしい両手で受け止めていった。縋るような『それでも』だった。
    「私は彼女が静かで安らかな水底から、もう二度と浮かんでこないよう、祈ります。」

    空母水鬼の轟沈によって、PC達の任務は終わった。
    さあ、鎮守府(いばしょ)へと帰投しよう。
    港の光は、すでに灯っている。

    【エピローグ】
    ■シナリオエピローグ「答えは何処に? 答えは此処に」
    戦いの後、PC達は帰投報告をするために提督執務室を訪れていた。
    報告することはそれほど多くはない。
    敵を沈め、PC達は沈まなかった。たったそれだけだ。
    結局は、あの戦いすらも日々無数に行われている戦いのうちのひとつなのだろう。
    「ご苦労だった。単独とはいえ、鬼を冠する深海棲艦を倒したのは素晴らしい。」
    提督はPC達の功績を労う。そして、翔鶴に目を向けた。
    「翔鶴、キミも、キミ自身で自分が艦娘であることを証明したな。よくやった。」
    「そして、もう答えは出ているだろうが、私はキミ達に問わなくてはならない。」
    提督はPC達に目を向けた。
    「『翔鶴』は、ちゃんと『艦娘』として戦えていたか?」
    近頃、キミ達は「答」のない問いに直面してばかりだった。
    けれども、この問いに対する「答」は、確かに持っている。

    PC達の「答」を聞いた提督は、満足げな顔で大きく頷いた。
    「ならば、やはり翔鶴の居場所はここのようだな。」
    提督は執務机の上に一枚の書類を置いた。それは艦娘の転属に関するものだ。
    「実は、ある鎮守府から『翔鶴』譲渡の提案があった。」
    「その鎮守府は近頃、ある事故によって『翔鶴』を失った。」
    「残骸は見つかっていないが、捜索は既に打ち切られ轟沈として処理されているという。」
    「無論、先方の失った『翔鶴』は、うちの『翔鶴』とは違う。」
    「……そう伝えたが、あちらの提督は、それでも是非と言う。」
    「失われた『翔鶴』と、見つかった『翔鶴』。ふたつの出来事は時を同じくしている。」
    「そこに何か考えるところがあったのかもしれないな。」
    「そこで私は、翔鶴、キミに選ばせることにした。」
    「キミは、キミ自身の意志で、自分の居場所を選ぶんだ。今なら、出来るだろう?」
    提督は、翔鶴に問うた。
    「…………わたしは。」
    彼女はPC達を見た。PC達の顔を、慈しむような瞳で見、その問いに答えた。
    「はい。私の居場所は此処です。―――ここが、私のいちばんですっ!」
    「他の場所なんて、いりません!」
    それは、いままで問うてばかりだった彼女が出した、「彼女」としての「答」であった。
    「答」を聞いた提督は大きく頷いて、机に置かれた書類を破り捨てた。
    「そうか。なら、この話はこれでおしまいだ。私も、優秀な空母を渡すのは惜しい。」
    「……はいっ!」
    そう答えた翔鶴の表情は、翳りなんてどこにもない、屈託のない笑顔であった。
    「――提督、それから、みなさんも、これからもずっと、よろしくお願いします!」
    これが、PC達と「彼女」の物語の顛末である。

    だが、「彼女」との物語は、結末の後も続いてゆく。
    そして、それこそが、ある「問い」に対する「答」であった。

    『どうして、わたしたちは戦い続けるのだろうか?』
    ―――――その「答」は、此処にあった。

    演出終了後、成長処理を行ってください。
    シナリオは終わりです。お疲れ様でした。

    【シナリオノート】
    今回のシナリオは、「彼女」――つまりは「翔鶴」が居場所を見つけるまでを描くお話です。
    PC達は、自分たちの艦隊を彼女の居場所とするために、仲間として過ごし、絆を結び、そして『自分たちはどうして戦うのか?』という疑問に対する、自分たちなりの答えを探すお話でもあります。

    今作『よくあること・冬』は、既に公開されている『よくあること・夏』を意識したお話として作りました。
    夏では人と深海棲艦の関わりを小さな淡い恋として描きましたので、冬では艦娘と深海棲艦の関わりを描こうと考えました。そして、艦娘と深海棲艦の関わりにおいて、日常最も『よくあること』は、「戦い(艦隊戦)」です。なので、このような形となりました。

    書いているときに考えていたことは、『水と油が交わることは決してない。けれども、水が油に、油が水になるとしたら、今まで水/油であった油/水は、どうなるのだろう?』ということです。そして、艦娘と深海棲艦は、まさにそういう関係ではないかと思ったのです。
    また、これは拙作『ある艦娘の「最期」あるいは「それから」
    』の時にあった、『死後には次の人生があるとして、ならば実際に死ぬことができるのか?』という問い掛けの再燃でもあります。
    「彼女」は、そんなことはイヤだと、結論しました。

    自分は今が幸せで、この場所こそ自分の居場所なのだ。この場所にいるために戦うのだ。
    そのような「答」を、PCと過ごすことによって、見つけたのです。

    一般的に、冬はぬくもりが恋しくなる季節として扱われることが多いように思います。
    もちろん、ぬくもりの形は、暖房の暖かさであったり、人と触れ合うことで伝わる温かさであったりと様々ですが。
    また、冬は静かな季節でもあります。
    それは降る雪が音を遮ってしまうからでもあるのですが、同時に、冬は沈思黙考の季節でもあるからだと、僕は思っています。
    答えのない問題に頭を悩ませるような――ふとした瞬間に、不安になる季節。
    そういうものも冬だと考えて、シナリオのテーマとして「問い」と「答」を組み込みました。
    そして、そういう頭が痛くなるむずかしい問題は、暖かい部屋で炬燵に包まれてミカンを食べていると、案外どうでもよくなったりもするのです。
    今回の「よくあること」については、既に触れたので割愛します。
    兎にも角にも、そういうものを書いてみようと思った3つめがこのシナリオです。

    お話の後も、「翔鶴」は鎮守府に――彼女の居場所に居続けます。

    それはきっと彼女が沈んでしまうその時まで、ずっとそうなのです。
    PC達とは艦隊が別々になったりするかもしれませんが、結んだ絆が消えることはありません。
    時折、彼女を思い出したら、シーンの演出なんかで出してあげてくれると幸いに思います。

    PC達と彼女との素晴らしい艦隊生活がいつまでも続くよう、願っています。
    死が彼らを分かつまで、幸せな時間が続きますように。


    次の季節は「春」、『よくあること』シリーズとしては、最終回にあたります。
    次がいつになるか未定ですが、季節がくれば書きたいと思います。

    このシナリオを遊ぶという方がいらっしゃれば質問や相談はいつでも受け付けます。
    Twitterや配信等で気軽に聞いてください。

    なお、Twitterで御紹介していただけるときは「#艦これRPG」つけていただけると公式展開再開にも微力ながら繋がるかもしれません。私もこっそり確認して嬉しくなります。
    よろしくお願い致します。

    シナリオ製作者:トカゲッコー
    Twitter:@tokagekko モーメント:艦これRPG自作データまとめ



    クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
    この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

    ここまで読んでいただき感謝致します。それでは、良い艦隊生活を!

    某年某月某日、坂本真綾「レプリカ」を聴きながら



    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。