神保町映画祭リターンズWEB配信に伴い、監督の睦涼さんへ「呼び声」についてのお話や監督自身のことをインタビューさせていただきましたので、配信とあわせてお楽しみください。
「呼び声」の制作経緯についてお聞かせください。
いままで私の映像作品は「人」が一切登場せず、会話もない、ただ延々と風景やオブジェが映るものばかりで、当然、普通の映画にあるようなストーリーもない抽象的な作品だったのですが、ゲーム制作をやるようになり作品の中での「物語」ということに向き合いました。
それをきっかけに、一度で良いから自主映画でも俳優が演じるストーリーのある作品に挑戦したいと考え始めていたところ、主演の吉村康弘さんから、もし何かを撮るのなら、出演してくださるとの言葉を頂き、彼のナレーションを主体にした15分程度の短編ならば行けるんじゃないかと考えました。
ようやく映画を撮ることへ向けて本格的に動き出しました。
吉村さんは自主映画の定期上映会などでお世話になっていた誘拐映画社のメンバーなのですが、同じ融解映画社のメンバー島村元康さんにも出演して頂けることが決まり、彼らが演じる様子を頭に思い浮かべながら、「呼び声」のシナリオを完成させました。
「呼び声」は、このお二人が生み出してくれた作品です。
誘拐映画社についてお聞かせいただけますでしょうか。
誘拐映画社はかれこれ20年近く続いている自主映画制作チームで
毎月「融解座」という上映会を江古田のフライングティーポットというお店で開催してます。私が参加したのはここ数年ですが、いろいろな方が持ち込みで上映されるので、とても刺激を受ける場所であり、また一緒に映画をつくる仲間に出会える場所でもあります。
上映会で吉村さんと島村さんの共演を何度も観ていたので、馴染みのある2人の芝居が脳内再生できて、シナリオを書くのも思いの外スムーズにすすめられました(笑)。
タイトルの由来について教えてください。
「誰かを呼ぶ声」というものを、時折妙に気持ち悪く思う瞬間があります。
例えば、見知らぬ人が道路や線路の向こう側からこちらに居る誰かへ呼びかけたのを、一瞬自分が呼びかけられたと勘違いした時とか。
遠くからはぐれてしまった誰かを必死に探す声が延々と聞こえてくるとか。
偶然、自分と良く似た名前を呼ぶ声が聞こえた時や間違い電話の相手から、見当違いの名前を呼びかけられた時など。
タイトルの「呼び声」は、強いて言えば、そんな気持ち悪さの象徴みたいなものです。
ストーリーはどのように考えたのですか?
ストーリー映画に挑戦するのなら、ジャンルは自分の好きなホラーが良いと前々から考えていました。
登場人物が二人のみで制作期間として取れる日数もあまりないといった制約が予め課されていたため、構想段階からストレートに「幽霊が自分を殺した男に復讐する」というシンプルな話で行くことに決めました。
舞台を団地にしたのは、子供の頃から団地というものに対して抱いていた恐怖感を盛り込みたかったからです。同じような建物が立ち並んだ様子がまるで巨大な迷路のようで、見上げると空が狭くて――自分にとって団地は、ちょっとした非日常空間でした。
現場での変更点はありましたか?
団地の中での撮影だったので、人通りなどの関係から当初想定していた場所とは別の所を探さなければならないことも何度かありました。最も大きな変更は、二人が会話をするシーンの場所です。あそこは当初、団地の広場にある階段に二人が座ることになっていました。最終的に島村さんが代わりの場所を提案してくれましたが、結果的に変更後の方が絵的にずっと良いものになりました。あれはとても嬉しい「予定外」でした。
撮影または制作の苦労話があればお聞かせください
ちょうど夏になってからの撮影で、日中の気温も厳しかったので何度も疾走したり、強い日差しの下リテイクを重ねたりした結果、全員危うく熱中症に倒れかけました。
こだわったシーンはございますか?
男が逃げたグラサン男の後を追いかける一連のシーンです。あそこは適切なショットがなかなか思い付かず絵コンテを何度も書き直しました。
実際の撮影も一番しんどかったです。
撮影日数はどのくらいかかりましたか?
役者の登場するシーンに2日、その他のシーンに3、4日かかりました。
撮影中のエピソードがあればお聞かせください
撮影には一部を除いて全編Digital Harinezumi2+++を使用しました。
このカメラはコントラストの強い独特の色合いが素晴らしい反面、暗い場所や充分な光源のない室内の動画撮影には向いていません。
夜の室内撮影で、そのことを軽んじていたため、充分な照明を用意しませんでした。そして、いざテスト撮影に臨むと、真っ暗な画面しか映らなかったのです。どうしたものかあれこれ悩んだ末、最終的にiPadの液晶画面の光を照明代わりに顔の近くで照らして何とか乗り切りました。
映画を撮りはじめたきっかけ。いつ頃からですか?
撮りはじめたのは大学に入って間も無くです。大学の視聴覚ライブラリーでヤン・シュヴァンクマイエルの「アッシャー家の崩壊」を観たことが最大のきっかけでした。
親のビデオカメラと、マッキントッシュのiMovieを使って撮った5分程度の短編がおそらく最初の作品だったと思います。
「呼び声」は何作品目でしょうか?
作ったものの未公開に終わった作品や、撮り始めた頃のものまでも含めると正確な数は自分でも把握していません。PV的なものを除けば、7作目くらいになるかと思います。
しかし、物語があってそれを演じる役者を撮った、いわゆる一般的なイメージの「映画」はこれが初回になります。
影響を受けた作品、監督は?
映画を撮りはじめるきっかけとなったヤン・シュヴァンクマイエルの「アッシャー家の崩壊」。
アンドレイ・タルコフスキーやデレク・ジャーマンの作品、それからアレクサンドル・ソクーロフの「孤独の声」には映像・音響面で多大な影響を受けました。
ストーリーやホラー方面への関心はジョン・カーペンターの作品や「学校の怪談」(平山秀幸監督)、「ヒルコ/妖怪ハンター」(塚本晋也監督)から多くのものを得ました。
作品づくりで大事にされてることがあれば教えてください
可能な限り客観的な視点に立って見直してみても、「面白い」と思えるものを作ることです。作っている時は面白いと思っていたものが、時間を置いて冷静になってみたら見るに耐えない愚作だった、なんてことは日常茶飯事なので。
新作の予定などありましたらお聞かせいただければ幸いです。
アイデアは幾つかありますが、まだノートの隅に書き留めている断片の域を出ないものばかりです。その内の一つでも何かしら形になってくれれば良いのですが…。
今後、挑戦したいジャンル
ホラーについては自分の中でまだまだ描き切れていない、という思いがあります。映画に限らず、今後も挑戦し続けたいジャンルです。
ただ、他人が書いた全く異なるジャンルのシナリオを基に映画を撮ってみる、なんてことも機会があれば挑戦してみたいかなと考えています。
日本映画全体、自主映画について感じていること
最近はコンピューターやソフトウェアの進歩もあって、すごい映像の作品はそんなに珍しいものじゃなくなりました。けれども、すごい音響世界の作品はまだまだ少ないように感じます。それこそ、小林正樹の「怪談」やデヴィッド・リンチの「イレイザーヘッド」みたいに、別の世界から聞こえてきちゃったような、このまま聞いてるとここではないどこかへ飛ばされてしまいそうな音…。
音に集中して楽しむのならやっぱりセリフは字幕無しの方が良いので、もっと日本映画にそういうすごい音の作品が出てきて欲しいです。
睦監督にとっての映画づくりとはなんでしょうか?
自分がこの目で見てみたい(この耳で聞いてみたい)と思った世界を実現させるためのチャンスです。映画は映像から音楽音響まであらゆる表現手段を一つの作品内に導入できるので、自分の頭の中で思い浮かべた架空の世界を他のメディアよりも具体的な形で実現出来ると考えています。
取材・文 向日水ニャミ子
神保町映画祭リターンズWEB配信に伴い、監督の睦涼さんへ「呼び声」についてのお話や監督自身のことをインタビューさせていただきましたので、配信とあわせてお楽しみください。
「呼び声」の制作経緯についてお聞かせください。
いままで私の映像作品は「人」が一切登場せず、会話もない、ただ延々と風景やオブジェが映るものばかりで、当然、普通の映画にあるようなストーリーもない抽象的な作品だったのですが、ゲーム制作をやるようになり作品の中での「物語」ということに向き合いました。
それをきっかけに、一度で良いから自主映画でも俳優が演じるストーリーのある作品に挑戦したいと考え始めていたところ、主演の吉村康弘さんから、もし何かを撮るのなら、出演してくださるとの言葉を頂き、彼のナレーションを主体にした15分程度の短編ならば行けるんじゃないかと考えました。
ようやく映画を撮ることへ向けて本格的に動き出しました。
吉村さんは自主映画の定期上映会などでお世話になっていた誘拐映画社のメンバーなのですが、同じ融解映画社のメンバー島村元康さんにも出演して頂けることが決まり、彼らが演じる様子を頭に思い浮かべながら、「呼び声」のシナリオを完成させました。
「呼び声」は、このお二人が生み出してくれた作品です。
誘拐映画社についてお聞かせいただけますでしょうか。
誘拐映画社はかれこれ20年近く続いている自主映画制作チームで
毎月「融解座」という上映会を江古田のフライングティーポットというお店で開催してます。僕が参加したのはここ数年ですが、いろいろな方が持ち込みで上映されるので、とても刺激を受ける場所であり、また一緒に映画をつくる仲間に出会える場所でもあります。
上映会で吉村さんと島村さんの共演を何度も観ていたので、馴染みのある2人の芝居が脳内再生できて、シナリオを書くもの思いの外スムーズにすすめられました(笑)。
タイトルの由来について教えてください。
「誰かを呼ぶ声」というものを、時折妙に気持ち悪く思う瞬間があります。
例えば、見知らぬ人が道路や線路の向こう側からこちらに居る誰かへ呼びかけたのを、一瞬自分が呼びかけられたと勘違いした時とか。
遠くからはぐれてしまった誰かを必死に探す声が延々と聞こえてくるとか。
偶然、自分と良く似た名前を呼ぶ声が聞こえた時や間違い電話の相手から、見当違いの名前を呼びかけられた時など。
タイトルの「呼び声」は、強いて言えば、そんな気持ち悪さの象徴みたいなものです。
ストーリーはどのように考えたのですか?
ストーリー映画に挑戦するのなら、ジャンルは自分の好きなホラーが良いと前々から考えていました。
登場人物が二人のみで制作期間として取れる日数もあまりないといった制約が予め課されていたため、構想段階からストレートに「幽霊が自分を殺した男に復讐する」というシンプルな話で行くことに決めました。
舞台を団地にしたのは、子供の頃から団地というものに対して抱いていた恐怖感を盛り込みたかったからです。同じような建物が立ち並んだ様子がまるで巨大な迷路のようで、見上げると空が狭くて――自分にとって団地は、ちょっとした非日常空間でした。
現場での変更点はありましたか?
団地の中での撮影だったので、人通りなどの関係から当初想定していた場所とは別の所を探さなければならないことも何度かありました。最も大きな変更は、二人が会話をするシーンの場所です。あそこは当初、団地の広場にある階段に二人が座ることになっていました。最終的に島村さんが代わりの場所を提案してくれましたが、結果的に変更後の方が絵的にずっと良いものになりました。あれはとても嬉しい「予定外」でした。
撮影または制作の苦労話があればお聞かせください
ちょうど夏になってからの撮影で、日中の気温も厳しかったので何度も疾走したり、強い日差しの下リテイクを重ねたりした結果、全員危うく熱中症に倒れかけました。
こだわったシーンはございますか?
男が逃げたグラサン男の後を追いかける一連のシーンです。あそこは適切なショットがなかなか思い付かず絵コンテを何度も書き直しました。
実際の撮影も一番しんどかったです。
撮影日数はどのくらいかかりましたか?
役者の登場するシーンに2日、その他のシーンに3、4日かかりました。
撮影中のエピソードがあればお聞かせください
撮影には一部を除いて全編Digital Harinezumi2+++を使用しました。
このカメラはコントラストの強い独特の色合いが素晴らしい反面、暗い場所や充分な光源のない室内の動画撮影には向いていません。
夜の室内撮影で、そのことを軽んじていたため、充分な照明を用意しませんでした。そして、いざテスト撮影に臨むと、真っ暗な画面しか映らなかったのです。どうしたものかあれこれ悩んだ末、最終的にiPadの液晶画面の光を照明代わりに顔の近くで照らして何とか乗り切りました。
映画を撮りはじめたきっかけ。いつ頃からですか?
撮りはじめたのは大学に入り始めて間も無くです。大学の視聴覚ライブラリーでヤン・シュヴァンクマイエルの「アッシャー家の崩壊」を観たことが最大のきっかけでした。
親のビデオカメラと、マッキントッシュのiMovieを使って撮った5分程度の短編がおそらく最初の作品だったと思います。
「呼び声」は何作品目でしょうか?
作ったものの未公開に終わった作品や、撮り始めた頃のものまでも含めると正確な数は自分でも把握していません。PV的なものを除けば、7作目くらいになるかと思います。
しかし、物語があってそれを演じる役者を撮った、いわゆる一般的なイメージの「映画」はこれが初回になります。
影響を受けた作品、監督は?
映画を撮りはじめるきっかけとなったヤン・シュヴァンクマイエルの「アッシャー家の崩壊」。
アンドレイ・タルコフスキーやデレク・ジャーマンの作品、それからアレクサンドル・ソクーロフの「孤独の声」には映像・音響面で多大な影響を受けました。
ストーリーやホラー方面への関心はジョン・カーペンターの作品や「学校の怪談」(平山秀幸監督)、「ヒルコ/妖怪ハンター」(塚本晋也監督)から多くのものを得ました。
作品づくりで大事にされてることがあれば教えてください
可能な限り客観的な視点に立って見直してみても、「面白い」と思えるものを作ることです。作っている時は面白いと思っていたものが、時間を置いて冷静になってみたら見るに耐えない愚作だった、なんてことは日常茶飯事なので。
新作の予定などありましたらお聞かせいただければ幸いです。
アイデアは幾つかありますが、まだノートの隅に書き留めている断片の域を出ないものばかりです。その内の一つでも何かしら形になってくれれば良いのですが…。
今後、挑戦したいジャンル
ホラーについては自分の中でまだまだ描き切れていない、という思いがあります。映画に限らず、今後も挑戦し続けたいジャンルです。
ただ、他人が書いた全く異なるジャンルのシナリオを基に映画を撮ってみる、なんてことも機会があれば挑戦してみたいかなと考えています。
日本映画全体、自主映画について感じていること
最近はコンピューターやソフトウェアの進歩もあって、すごい映像の作品はそんなに珍しいものじゃなくなりました。けれども、すごい音響世界の作品はまだまだ少ないように感じます。それこそ、小林正樹の「怪談」やデヴィッド・リンチの「イレイザーヘッド」みたいに、別の世界から聞こえてきちゃったような、このまま聞いてるとここではないどこかへ飛ばされてしまいそうな音…。
音に集中して楽しむのならやっぱりセリフは字幕無しの方が良いので、もっと日本映画にそういうすごい音の作品が出てきて欲しいです。
睦監督にとっての映画づくりとはなんでしょうか?
自分がこの目で見てみたい(この耳で聞いてみたい)と思った世界を実現させるためのチャンスです。映画は映像から音楽音響まであらゆる表現手段を一つの作品内に導入できるので、自分の頭の中で思い浮かべた架空の世界を他のメディアよりも具体的な形で実現出来ると考えています。
―本日は取材のご協力ありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしております。
取材・文 向日水ニャミ子
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