Steven Wilson/Hand. Cannot. Erase.
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Steven Wilson/Hand. Cannot. Erase.

2015-11-08 13:02



    1. First Regret
    2. 3 Years Older
    3. Hand Cannot Erase
    6. Home Invasion
    7. Regret #9
    8. Transience
    9. Ancestral
    10. Happy Returns
    11. Ascendant Here On...

    UKは首都ロンドン出身のオルタナティブ/アートロック/プログレッシブロックバンドPorcupine Treeの頭脳にしてKscope総裁Steven Wilsonによる4th。本家PT作「The Incident」のリリースと同時に始まったソロへの転向、他にもNo ManやBlackfield等の別バンドでの精力的な活動やKing CrimsonやYesを始めとする70'sプログレレジェンド達の再発に携わったりと各所で引っ張りだこなSW氏でありますが、自身のソロ活動に至っても順調そのもの。計4作目となる本作「Hand. Cannot. Erase.」はDVから逃れるも数奇な運命に翻弄されたジョイス・キャロル・ヴィンセント(Joyce Carol Vincent)という実在した女性のストーリーに基づいて制作されたコンセプトアルバム(国内解説より)となっている。気になって調べてみると2006年ロンドンのアパートにて3年間放置されて孤独死した姿が発見されたとあり、その悲劇を頭に巡らせながら聴くとより理解が深まるに違いない。編成自体は前作とほぼ同じ布陣でありながら、往年のプログレ懐古バンドからの影響が強く受けていた「The Raven That Refused To Sing (レイブンは歌わない)」の超人的なテクニック/技巧やフルートやらサックスといったジャズの要素をふんだんに取り入れたあくまでSWバンドであろうとするものではなく、彼の提唱するポスト/プログレな現代的なスタイル、つまりニュアンスは微妙に異なるかもしれないが、最高傑作「Insurgentes」に漂っていた淡く儚げでときにミステリアスで妖艶な陰鬱感に包み込まれた作風で名作1stに次ぐレベルの凄みを魅せつけている。

    1st路線の回帰と言っても決してまんまなわけではなくて、PTの活動を始めに各サイドプロジェクトやプロデュース業をこなした分の経験を総動員した集大成的な作風ってのが一番的確な気がします。ソフトな雰囲気でありながら惚れ惚れするほどの美しさを併せ持ったインスト1. First Regretを抜け、明快なメロディやアコギによるスケール感のある爽快な幕明けを飾る2. 3 Years Olderは前作におけるプログレ然としたスタイルをベースとしつつも、メロトロンのたゆやかな音色やピアノの旋律に豊かなハーモニー奏でるコーラスパート、そしてPT全盛における大胆なオルタナテイストを遺憾なく発揮した、それこそ「SW全部入り」といった集大成を思わせる楽曲だ。表題曲である3. Hand Cannot Eraseへ移ると、静から動へとダイナミックに広がりを見せるシンフォロック調の楽曲を披露し、今までにないほどにキャッチーな歌メロを取り入れた俄然ポップな聴き心地を持っている。ここまでの序盤を聴くにコンセプトの暗い影は見えてこないのだが、4. Perfect Lifeにて明らかに空気を変えてくる。それは歌詞カードにも写るジョイスの姉との出来事を約2分に渡って淡々と語っていくパートを始め、レーベルメイトであるAnathemaの最新作「Distant Satellites」の作品後半で披露されていたようなエレクトロニカを散りばめながら穏やかな情景をポスト的な音使いでもって描き切っていく。そして中盤の聞かせどころとなる5. Routineでは、イスラエル人シンガーNinet Tayebを招集したデュエットソングとなっていて、本コンセプトの悲劇を代弁するかの如く、その儚くも美麗な歌声は正にAnathemaのバラードソング級の美しさを誇り、まるで彼女がソコで生きているかのような臨場感すら漂います。そしてギタリストGuthrie Govanの激情的なソロパートでもってドラマティックに盛り上げていく後半パートには心動かされるものがあります。しかし、続く6. Home Invasion以降の流れでは3rdのプログレオタクとしての側面やToolとかSoenといったダークでミステリアスなへヴィ風味を取り入れ、レトロとモダンの狭間を自由自在に行き来、スペイシーなシンセやヴィンテージなクラシックっぽいフレーズなんかはある意味ベタにも聴こえてきます。そして後半の山場となる13分を超える大曲9. Ancestralへ突入。まるで近年のIhsahnやLeprousのような演劇的な起伏のある楽曲展開や暴風のように吹き荒れるサックスや重圧でへヴィ極まりないスリリングなインストパートはまるでAnekdotenを聴いてるかのような気分だ。実質ラストとなる10. Happy Returnsは4.にも匹敵するキャッチーなメロディや口ずさみたくなるようなコーラスが印象的なポストロック調の楽曲で、徐々にラストへ向かって優雅なストリングスやジャラジャラと煌めくように弾き語るアコギの泣きフレーズで内に秘めた情熱を静かに解き放っていく至極の一曲。そして1.のイントロに回帰するかのような神聖なクワイヤの光が差し込む11. Ascendant Here On...にて安らかに本作は幕を閉じることになります。それは彼女が救済され天に召されたのを暗示するかのように。

    プログレという音楽ジャンルは大抵複雑な楽曲展開や超絶テクニカル入り混じる難解な作風を得意とする音楽で決して売れる音楽ではないと思う。そんな非メインストリームなジャンルの開祖たちの作り出した土台をしっかりリスペクトしつつも、モダン/エレクトロニカ/ポストロック/オルタナティブと交差させて、現代でも通用するであろう次世代プログレ=Post-Progressiveへといともたやすく作り変えてしまう彼の手腕には脱帽するばかりだ。その特徴の一つであるプログレ然とした展開をもってしてもジャンルの壁など存在しないと言わんばかりにスッと耳に馴染んでくることは彼の手掛けた作品群でも思っていたことなので今更なのですが、ネガティブなコンセプトを持つ本作であってもそのシリアスな側面だけを見るのではなく、ポップなキャッチーさや爽やかでアグレッシブなフレーズもしっかりと取り入れてストーリー性を深め、より彼女の人生をリアルに描き切っていることが1st以来の大傑作という高評価に繋がったわけで、今年リリースでこれを上回る完成度の作品はそうはないと断言出来ます。トータルで聴かせるストーリーありきの作品なのに前作とほとんど同じ布陣で制作されているというあたりも興味深く、現代プログレにおける最重要人物である所以をしっかりシーンに刻み付けた。そんな彼の全てを集結させて作り上げた映画ばりの破格のスケールや過去最高のドラマティックな構成力で聴き手をその世界観にグイグイ引き込んでいく見事な傑作である。速報としては先日早くも来年一月頃に予定された新作「4 ½」のアナウンスがあり、相変わらず彼の創作意欲が衰えないのには驚くばかりだ。


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