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些々暮さん のコメント

大海原の真ん中に建てられた高層病院。
その最上階へと連れられ今日からこの場所で暮らすのかと一抹の不安があった。

部屋の壁が全面窓になっているため眺めはとても良いが、地震が来たらどうしようとか、ちょっと下を見るだけでこのまま吸い込まれてしまいそうな心地がする。

私は高所恐怖症なのだ。

夫が選んだのか、それとも私が希望したのかは分からないがとても広い個室だ。値も凄く張るだろう。

それに病院で過ごすといっても身重の私に何が出来るのか分からない。
今の私にとって有意義な過ごし方は専ら某文庫を読み漁るくらい…。
しかし彼処には最新の詩集なんかは置いていないわけで…仕方ない、夫が来てくれる時にでも頼もうか。

この部屋まで連れて来てくれた看護師も退出し、現在ここには私とお腹の中にいる子供だけ。
まだ触れることも話すことも出来ない命と二人きりなのは少し心細い。
勿論、母として何があってもこの子を守るという硬い決意はある…が、夫と共に過ごせないのはやはり寂しくて堪らなかった。

今日の海はとても穏やかで此処から地平線だって望める。
そうか、私は母になったのか。
ぼんやりと夫の顔が浮かんだ。金色の髪をしている。
まさか私があの人と結婚することになるなんて、いったい何があったのか。

私には何も分からなかった。
ただ夫は漁師であること、私は妊婦で今日からこの海の上の病院で暮らすということ。

何も分からないが不思議と嫌な気持ちはなく、ただ海を見ていると夫の働いている姿が見えるかもしれないと無性に嬉しくなって、胎児を腹越しに一撫でする。
私はこの瞬間、世界で一番幸せだと思った。

幸福と深い安堵の狭間で揺蕩っていた私はいつもと変わらぬ自室の天井と目があった。
どうやら全て夢だったらしい。
No.11
54ヶ月前
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もうかれこれ一日半何も口にしていない。 というのも、戒律によって無謀な断食を強いられていた訳では決してなく、ただただ部屋の中で眠りもせず深く沈潜していたが故に食べるのを忘れていたのだが、しかしこうして文字に起こしてみると、だらしのない生活パターンが透けて見える一方、思考という霞を食して生きているかのようにも見え、いよいよ自分も仙人めいてきたなとほくそ笑んでいたら、腹がぐうと鳴った。 さて、寝食を忘れ物思いに耽るまでにその心惹かれるものとは一体何か。読者諸氏におかれても気になるところであるとするがよろしいか。 昨日、用事ついでに隅田川沿いを通った時のこと。折しも雨が降り、傘の弾く雨粒の音を聞きながら寂しげな川沿いをぼんやり歩いた。 暫くして、男とすれ違った。傘の隙間から見えたその男の胸から下は、どうやらこの雨の中、傘もささずに歩いてきたようで、ずぶ濡れであった。振り返るも、彼がどんなドラマ
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