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その日の横浜は晴れ。
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その日の横浜は晴れ。

2017-09-25 23:34
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 地獄。
 悪夢。
 絶望。
 ありとあらゆる負の言葉が渦巻く。
 アイドルの野球とは、これほどに禍々しいものだったのか。
 マウンドとは、これほどに過酷な場所だったのか。


 1回表。Coチーム先発。背番号18、北条加蓮。1イニング4失点。
 1回裏。Paチーム先発。背番号24、依田芳乃。2/3イニング6失点。
 悲劇は初回では終わらなかった。
 2回表。Coチームピッチャー、神谷奈緒。2本のホームランを浴び、4失点。
 互いのピッチャーがことごとく連打、長打を浴び、マウンドで打ち砕かれていった。

 
 この展開はある意味、予想されていたことでもあった。
 一回戦。Coチームを迎え撃ったCuチームの先発は小日向美穂。最速162キロの豪速球、さらにキレる変化球をも繰り出す「左腕」である。こんな左腕は日本球界はおろか、MLBにも極めて少ない。
 同じく一回戦。Paチームと対峙した世界チームのエースはヘレン。最速168キロの直球と、信じがたい落差のフォークを武器とする豪腕である。彼女もまた怪物だった。
 そんな二人が先発して、結果はどうだったか。単純である。打たれて負けた。
 北条加蓮、依田芳乃が悪い投手であったとは言わない。しかしあんな二人を打ち崩してきた打線を相手にするには、残念ながら不足があったということは認めざるを得ないだろう。


 この試合はまともに決着するのか。そんな戦慄が渦巻く中で、Paチーム監督、本田未央は、この試合を決定的に左右する一つの、―そして”パッション”チームにおよそ似つかわしくない冷徹な決断を下していた。
 依田芳乃の後を受けたリリーフ、赤城みりあの続投である。


 本田の決断が意味するもの。
 それは「誰が打たれ、誰を出せば抑えられるのか、もう全く予測がつかない」という点に起因していた。だったら、先発がたった1イニング投げ切れなかったこの試合で、どう継投をしていくべきか。
 抑えられたピッチャー、つまり赤城はそのまま、打たれるまでひたすら続投させる。潰れるまで投げたら、次のピッチャーを出す。そのピッチャーが打たれたら次を出し、次の「抑えられるピッチャー」を探り出す。そうやって失点を極力少なくして9回までを消化する。これが本田の戦略だった。
 勝つためだけで言えば、この状況下では最善の策に思えるこの継投だが、早い話がPaチームの中継ぎには、たった二つの結末しか与えられないというものだった。つまりは「滅多打ちにされてマウンドに沈む」か、「潰れるまで引っ張られて選手生命を失う」しかない。
 果たしてそこまですべきなのか。いくら相手の打線が強力であるといっても、それを抑えられるセオリー通りの継投を組めず、こんな行き当たりばったりの下策を強行していいのか。その結果、自チームの中継ぎはどんな目に遭うというのか。
 チーム内からすら、その作戦と、本田の能力には疑問の目が向けられた。露骨に抗議をした選手さえいる。


 結論から言おう。
 そうあるべきだったのだと。
 本田は、ただそうあるべきことを、そうあるべきこととして行ったに過ぎない。


 ボールとグラブを持ってマウンドに上がった以上、年齢も性別も何もない。
 彼女らは、倒し、討ち果たし、朽ち果てさせるため、そして倒され、討ち果たされ、朽ち果てさせられるためにそこに立った。
 それが、全てなのだ。
 彼女らは―散り果てた北条加蓮、依田芳乃、神谷奈緒、白坂小梅、大和亜季らは自らの持つカードに己の全てを賭けた。そして自らをすった。ならば、沈むしかない。
 己の全てを賭け、勝った者が生き残り、負けた者は失う。それがありとあらゆる「真の」闘争行為の摂理であり、契約なのだ。契約は正しく、等しく履行された。彼女らは討ち果たされなくてはいけなかった。
 そこにいた者はみな、自らの足でこの晴れた横浜スタジアムに足を踏み入れた。である以上は、適当に終わる、済ませることなどできない。神も悪魔も、人も天使も、アイドルも。
 恐らく本田はそのことに誰よりも早く、そして誰よりも深く気づいていたのだ。時が来れば自らも、この地獄に立たねばならなかったのだから。

 
 そんな中で躍動した二人の変則派、左下手投げの赤城みりあ、ナックルボーラー堀裕子については、よくぞ己の役割を果たしたと賞賛されるべきだろう。何をどこに投げても打たれるという相手に投げるなら、「どう」投げるかを考え、編み出すしかない。二人にはそんな力があった。
 だが、その二人同様、北条も、依田も、神谷も、そして全てのピッチャーたちも、彼女らと対峙したバッターたちも、等しく美しかった。
 全員、全てを賭けていた。
 真剣勝負はいつでも美しい。敗者が残酷に沈み、勝者が全てを得るからこそ、それに挑む者たちの背中には、他では見られない美が存在するのだ。
 そして、あえて言おう。その美しさを失えば、彼女らに存在価値などないのだと。当然だ。彼女らはみな、アイドルなのだ。美しくないアイドルなど、一体誰が見に行くというのか。己の全てを捧げないアイドルになど、何の魅力もありはしない。


 試合はPaチーム3点リードで迎えた最終回、ストッパー本田未央が3連打を浴び、無死満塁と絶体絶命まで追い込まれたが、クリーンナップを片付けて無失点で切り抜け、全てを決着させた。
 その日の横浜スタジアムは晴れ。
 星々の瞬きだけは、いつもと変わらなかった。

(文 寝込坂猫丸)
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アイマス野球2013のあの超絶バカ試合にならなかっただけマシだと思います
46ヶ月前
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