いつかの風が吹く場所へ サブストーリー vol.3
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いつかの風が吹く場所へ サブストーリー vol.3

2014-07-21 00:00

    休日の昼下がり、自室で漫画を読んでいると

    花穂「お兄ちゃん入るよー」

    俺の返事を待たずに部屋のドアを開けられる。

    こいつはいつもそうだ。せめてノックぐらいしろといつも言ってるのに、

    見られて恥ずかしい物なんて無いでしょ? だったら平気だね。

    その横暴な自論から聞く耳を持ってはくれず勝手に部屋に入ってくる。

    そんな正直に、見られて恥ずかしい物があるから部屋覗かないでね。なんて家族に言うバカがどこにいる。

    花穂「んーまた少し部屋が汚くなってきたかな? これはまーたお掃除介入が必要かもですねぇ」

    花穂のその言葉に戦慄する。

    隼人「やめてくれ……後でちゃんと自分でやるから」

    以前のお掃除介入という名の無差別掃除テロでは男の子の恥ずかしい本やビデオをありのままさらけ出す事になり。

    パッケージと俺を交互に見ながら、うわぁ……とドン引きした、冷ややかな視線を送ってくる花穂の姿は思い出しくない。

    花穂「できない人は皆そう言うの。ちゃんとやる人は、なにも言われなくても自主的に毎日やってるよ? お兄ちゃんは今出来てない人、分かる?」

    正論の暴力って怖い。

    隼人「ひ、ひとまずそれは置いておこうな、な? それでなんの用?」

    花穂「あ、そうそう。今暇でしょ? 暇だよね? うん、間違いなく暇だ。というわけで買い物行くから付き合って」

    隼人「おい、なんで俺が暇だと決め付ける。俺にだって用事があるかもしれないだろ?」

    花穂「お兄ちゃんが休みの日に行くのは市川さんの家かコンビニの二択しかないでしょ? それに着ている服もよそ行きの物じゃないから出かける意思が見えない。つまり今日は一日中ゴロゴロする予定だった。はい、証明完了」

    グウの音も出ないほどの完璧な証明だ。

    花穂「はい、というわけで服を早く着替えて。さっさと出かけるよー」

    花穂「あ、これ可愛い」

    隼人「さっきのと変わらなくね?」

    商店街の一角にある雑貨店のアクセサリーコーナーで花穂が商品を一つ手にとって眺める。

    花穂「微妙に模様が違うでしょ? 色もちょっと違うし」

    隼人「俺にはほとんど同じに見えるんだけどな」

    花穂「女の子はそういう微妙な変化を楽しむ物なんだよ」

    うーん、よく分からない。

    隼人「で、結局それ買うのか」

    花穂「ううん、買わない」

    隼人「またか」

    手にとったアクセサリーを棚に戻す。さっきからずっとこんな調子だ。

    商品を買わないのかと聞くと、花穂曰く、こういうのは店に並んだ商品を眺めるのが楽しいから買わなくてもいいのとの事。

    それって買い物に来た意味がなくないか?

    花穂「よーし、満足した。次いくよー」

    結局なにも買うことなく雑貨店を後にする。

    花穂「思うにさ、お兄ちゃんは洒落っ気がなさすぎだと思うの」

    隼人「はぁ」

    花穂「女の子にモテたければまずは外見からでも変えていかなきゃ」

    そういう名目で次にやってきたのは、全国チェーンのファッションセンター。

    この店内は婦人服がメインで、セールもどちらかというと女性物の方が多い。

    男物の服もそれなりあるとはいえ店内の奥の方まで行かなければならないそれが意味する事は一つ。

    花穂「あ、このワンピ可愛いー」

    そう、そこまで行くのに花穂の物色を挟みながらの牛歩にならざるを得ないのだ。

    花穂「この服似合うと思う?」

    感想を求められている期待の眼差しだ。

    隼人「……いいんじゃないか?」

    ……

    花穂「さて、お兄ちゃんの服ね」

    そこまで広い店であるにも関わらず、男物のコーナーにたどり着くまで擁した時間が一時間。

    花穂が次々に持ってくる服の感想を述べなければいけなかったから一人で服を見るという選択肢は与えられなかった。

    花穂「さーてここは気合入れていかないとね」

    隼人「いや、俺の服なんか適当でいいよ。ほら、あの辺に飾ってあるマネキン一式くれとか言えばいいんだろ?」

    花穂「それは確かに無難だけど、自分でコーディネート考えなくなるからダメ。自分で服をちゃんと考えるから楽しいんだよ」

    隼人「えー……それめんどくさい。別に服なんてダサくなければなんでもいいよ」

    花穂「あ、この服似合いそう」

    俺の意見は耳には届かないようだ。

    その辺にかけてあった服を手に取って俺の体に当てられる。

    花穂「うーん……赤、いや黒の方がいいかなぁ。ちょっと向こうのズボンと合わせてみよっか」

    手を取られ、強制的に移動させられる。

    なんか俺がマネキンみたいになってないか?

    花穂「んー 満喫したー そろそろ帰ろっか」

    服屋を出た後も百均やら本屋やら、商店街の店という名の店を連れ回され、空の色に陰りが見え始めた頃、ようやく帰路につくことになった。

    隼人「なぁ、なんで何も買わなかったんだ?」

    花穂「えー?」

    これだけ長時間様々な店を回ったというのにも関わらず、俺達の手は手ぶらなままだ。

    服も小物もこれいいなーと手にとって眺めてはすぐ戻す事を繰り返した。

    花穂「んー いいんじゃない? 大事なのは結果じゃなくて過程。こうして誰かと一緒にいる時間が大事なんだよ」

    隼人「そんなの家でもできるだろ」

    花穂「外に出たかったんだよぉ」

    ようするにどこかに外出したかったけど、一人じゃ嫌だから俺も付き添いで来させられたって事か?

    隼人「わざわざその相手が俺じゃなくても友達と来た方がよかったんじゃないのか?」

    花穂「もし、なにか重い荷物買うような事があったのなら男手が必要になるからね」

    隼人「あそ……でも今日はなにも買わなかったから俺は役立たずじゃん」

    花穂「……」

    花穂「もー わかったよ。ちょっと待っててね」

    隣を歩いていた花穂が急にどこかへ行き、そして腕に何かを抱えて戻ってきた。

    花穂「はい、これ持って」

    花穂からひんやりとした赤いパッケージの炭酸飲料の缶の二つあるうちの一つを手渡される。

    花穂「今日付き合ってくれたお礼だよ。ありがとね」

    隼人「そうか、それじゃ遠慮なくもらうことにする」

    プシュッと小気味がいい音が二つ鳴り、俺達は歩きながらジュースに口をつける。

    火照って乾いた体を炭酸飲料が潤し、生き返ったような気分になる。

    花穂「おいしいね」

    花穂が微笑む。

    隼人「そうだな」

    まぁいっか。花穂が楽しかったのなら、それだけでも今日来た価値あったかもな。

    たまにはこうやって家族サービスの一つや二つするのもバチが当たらないだろう。

    花穂「あ、帰りにスーパー寄って帰るからそこで荷物持ちお願いね」

    隼人「マジ?」

    花穂「うん、冷蔵庫の中なにもないから色々買い込まなきゃ」

    隼人「それって結構荷物重くなるんじゃ……」

    花穂「あ、まずい。タイムセールス始まっちゃう。ほら急いで急いで」

    隼人「あ、ちょ、こらおい」

    背中を押され、無理やり走らされる。

    西日に照らされ、並んだ二つの長い影が仲良さげにこの町をかけていった。


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