マル激!メールマガジン 2025年4月23日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1254回)
日本のコメに何が起きているのか
ゲスト:小川真如氏(宇都宮大学農学部助教)
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 コメの値段が高騰している。スーパーで販売されている5kgあたりの精米の平均価格は4,214円と、1年前の2倍以上に跳ね上がっている。
 これまでコメはいくらでも安く買えて当たり前な、いわば空気や水のような存在だったため、われわれはコメやコメ市場に何が起きているのかについてやや無関心過ぎたのではないか。今回のコメ価格の高騰を奇貨として、日本人の食生活に欠かすことのできないコメに今何が起きているのかを議論した。
 コメは2023年の夏前の日照不足と夏場の猛暑によって1等米の収量が大きく下がる一方で、コロナ明けのインバウンド需要や外食産業の需要が急回復したことで、全般的に品薄状態が続いていた。
 宇都宮大学農学部の小川真如助教は、2024年末からの価格高騰の背景には品薄になったコメを巡る業者間の集荷競争があったと指摘する。コメ農家はより高い価格を提示した業者にコメを渡すため、集荷競争が起こると必然的に価格はつり上がる。コメが品薄になったタイミングで南海トラフ地震への注意を呼びかける臨時情報が広く発表されたことで、昨年末から今年初めにかけて集荷競争が更に激化し、小売価格が高騰したのだという。
 そのような一時的な要因で米の価格が上がっているのであれば、早晩その価格は元に戻っていくかもしれない。しかし、小川氏は、日本のコメは「田んぼ余り」という構造的な問題を抱えており、今後コメの価格が下がったとしても、その問題が解決するわけではない点は注意が必要だと言う。
 戦後の食料不足を乗り切るため、日本は食管法の下で国が農家から買い取ったコメを安く国民に供給する体制を整備した結果、1967年にはコメの自給が達成された。しかし、自給が達成された瞬間に、コメ余りが始まった。国が買い上げたコメが売れ残れば、自ずと国の財政負担は増える。
 そこで政府は1978年から本格的に減反政策を始め、コメの生産量を削減したり、麦や大豆などに転作した農家に対して補助金を出すようになった。その結果、国内ではコメを作らない田んぼが増えていった。
 1993年にはGATTウルグアイラウンドが妥結し、コメについても徐々に市場メカニズムが導入されることとなったが、田んぼについては「食料安全保障」や「洪水防止機能」などを理由に、政府による保護が続いた。
 今はたまたまコメ不足が問題となっているが、小川氏はむしろ日本の問題は、コメ余りへの対応が考えられていないことだと言う。これまで政府はコメが不足した場合を想定してさまざまな対応策を打ってきたが、コメが余った場合については十分に考えられてこなかった。減反はコメが不足もしないし過剰にもならない状態を維持するための政策だが、そこには余ったときにどうするかという発想はない。減反によってほどほどにコメが足りている状態を作ろうとすると、気候や外的要因など何らかのストレスが加わると、たちまちコメ不足に陥ってしまう。
 むしろこれからのコメ政策は、余った場合を想定して、輸出の推進など多角的な方策を考えていかなければならないと小川氏は指摘する。
 さらに小川氏は、人口減少によって日本の食料安全保障のために必要な農地の面積が実際の農地面積を下回り、田んぼだけでなく農地全般が余る時代が来ることが予想されると指摘する。田んぼ余りの轍を踏まないためにも、余った農地をどうするのかを今のうちに考えておく必要があると小川氏は言う。
 今回のコメ価格高騰の背景には何があるのか。日本のコメが抱えるより本質的な構造問題とは何か。コメの安定供給を実現するためにはどうすればいいのかなどについて、宇都宮大学農学部の小川真如助教と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・コメ価格高騰の背景にあるもの
・日本のコメをめぐる歴史
・「備蓄米」放出方法の問題点
・「余った農地をどうするのか」考えておくことが必要だ
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■ コメ価格高騰の背景にあるもの
神保: 今日はコメの話をします。コメは今まで空気のようなもので、なくなって初めてやばいという話になりました。これまで国民が関心を持っていなかったためにチェックが入らなかったのかもしれませんが、これをきっかけに良い方に向かう可能性もありますね。

宮台: 本来であれば国民が見ていなくても行政官僚がそれなりの専門性をもって適切な政策を営めば良いのですが、誰が見ても馬鹿げた政策をしているので、それを私たちがチェックしなければならなくなったということが真相だと思います。

神保: なぜコメはそうなのかということも知りたいですよね。ゼロからの勉強という部分と構造の部分を色々と伺いたいと思います。ゲストは宇都宮大学農学部助教の小川真如さんです。小川さんの『日本のコメ問題』という本を拝見して、出演をお願いしました。

 コメは毎日食べているものなのに、色々なことを知りませんでした。コメ行政というのは、これまでうまくいっていたからあまり問題にならなかったということなのでしょうか。

小川: そうですね。それから、価格がずっと落ちてきたということがあります。価格が落ちている時は文句は何もありませんが、上がると問題になります。

神保: 今、一番問題になっているのはコメの平均価格が上がっていることです。2022年7月の段階では5kgあたり2,000円を切っていましたが、今では4,214円です。

宮台: 昔の5kgの価格が今の2kgの価格になってしまいましたよね。

神保: 小川さんのようにずっとお米を見ている人にとって、この価格は想定外の事態なのでしょうか。

小川: そうですね。収穫後にこれだけ動くというのは異例の事態です。お米は基本的に1年に1回しかとれないので、値段が動くとしてもそこまで大きく動くことはないのですが、収穫後にここまで上がっているということがポイントです。

神保: これは需給関係による値上がりなのでしょうか。つまりコメが足りないから値段が上がっているということなのでしょうか。

小川: 値段が上がってきた理由は1つではありません。最初は安すぎたので上がったということもあります。2023年の夏以降は品薄になったことで高くなり、その価格の水準を維持しながら新米の値段が決まり、昨年末から今年初めにかけては集荷競争が激化したことで最終的に調達コストが小売価格に転嫁されてここまでの値段になりました。