マル激!メールマガジン 2025年4月30日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1255回)
同性婚訴訟の原告たちの背後には声を上げられない多くの当事者たちの存在がある
ゲスト:日高庸晴氏(宝塚大学看護学部教授)
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 同性婚訴訟の高裁判決で違憲判断が相次いでいる。
 地裁段階で唯一「合憲」判断とされた関西訴訟でも、先月25日の大阪高裁で「性的指向による不合理な差別」であるとする違憲判決が下された。これで5つの高裁が同性婚を認めないのは憲法違反であると判断したことになる。原告たちは、婚姻の不平等状態を解消し、直ちに法制化に取り組むよう訴えている。
 全国の自治体で同性パートナーシップ制度が広がり、同性婚に対しての理解が広がっているが、その一方で、未だに偏見と差別の中で苦しむ当事者が多いという現実もある。LGBTQ+の大規模調査に取り組んできた宝塚大学看護学部教授で社会健康医学が専門の日高庸晴氏は、声を上げた人たちの背後に「見えない存在」として社会の中で困難を抱えて生きる人たちがいると指摘する。
 日高氏は1999年にゲイ・バイセクシュアル男性への調査を始めてからこの四半世紀、LGBTQ+と言われる性的少数者の大規模調査を行い、データとして示してきた。国も、2023年にLGBT理解増進法を制定し、性的指向とジェンダーアイデンティティ(性自認)への理解を深めるための取り組みを始めている。しかし、まだ一般社会の理解が追いついているとはいえない状態だ。日高氏の2019年調査では、性的少数者全体で親へのカミングアウトをしている人は26.9%に過ぎない。
 特に重要なのは、10代の子どもたちへの対応だと日高氏は語る。調査では周囲との違いに初めて気付いた平均年齢が、ゲイ、レズビアンで13歳~15歳、トランスジェンダーは平均10歳~12歳であることがわかった。このときに親や学校現場がどういう対応をするかが、将来に大きく影響することは容易に想像できる。
 日高氏の大規模調査では、性的少数者全体で5人に1人が不登校を経験しており、小・中・高校時代にいじめ被害の経験がある人も半数にのぼる。被害の現状はとても厳しい、と日高氏は語る。自殺未遂のリスクも高く、66%の人が自殺を考え、自殺未遂の生涯経験率は14%にのぼるという。
 文科省は様々な通知を出し、学校現場での性的少数者の子どもたちへの対応などに取り組んでいる。ただ、教員を対象にした調査では、同性愛になるかならないかは本人が選べるかという問いに対し、「そう思う」、「わからない」、と答えた人が7割を超えており、性的指向に対しての間違った理解が今も解消されていないことがわかっている。依然として課題も大きいと日高氏は語る。医療現場にも同様なことが起きていて、安心して当事者たちが受診できない状態があり、メンタルヘルスなど当然必要な医療支援が届いていないと言う。
 日高氏が行ってきた大規模調査とそこから浮かび上がる様々な事例を通して、LGBTQ+と言われる性的少数者の人たちが置かれている日本の現状について、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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今週の論点
・違憲判断が相次ぐ同性婚訴訟
・LGBTQ+をめぐる文科省の動き
・大規模調査から見えるもの―当事者が直面する課題の実情
・教育現場や医療現場に求められている配慮
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■ 違憲判断が相次ぐ同性婚訴訟
迫田: 同性婚訴訟の高裁判決では、5件連続で違憲判決が出ています。おそらくこの先も大きく変わっていくのだろうという前提の下、同性婚などについて私たちはどの程度理解が深まっているのか、考えていきたいと思います。

宮台: 最高裁はここ10年くらい、家族の問題については比較的リベラルな方向に推移していますよね。これは統治権力のいわゆる「国策」とは関係なく判断しているということだと思います。最高裁からそういう判断が出ると空気感も変わっていくので、期待できると思います。

迫田: 今回は同性婚に限らずLGBTQ、セクシュアルマイノリティの方々に関する大規模調査を四半世紀にわたり続けてこられた、宝塚大学看護学部教授の日高庸晴さんに来ていただきました。

 先月3月25日に大阪高裁で違憲判決が出され、これが5件目となります。大阪は地裁段階では合憲としていましたが、その後、違憲判決となりました。4月23日、日本記者クラブで記者会見が行われ、憲法学者の木村草太先生は「新しい法制度を考えるべき段階に来ている」ということで、皆で考えるべきだろうと発言されました。
会見では部分違憲と全部違憲という言葉が出てきました。全てが違憲とは言えないが部分的は認めるべきだというものが地裁での違憲判決でしたが、高裁では婚姻による効果を全て平等にする必要があるという判断になりました。

 この会見に至るまでに当事者の方々はさまざまな経験を重ねてこられました。家族に認められるまでに10年近くかかったという方もいて、今はようやく顔を出して話しているということですが、その背景にはそうではない多くの方々がいらっしゃいます。

日高: 表に出られるごく一部の方々ががんばっているという状況で、弁護団の先生方も手弁当に近い形でやられているのだと思います。厳しい戦いが続いていますが、国はなかなか動いてくれません。