
中村秀一氏:年金制度を改革するためには政治の決断が不可欠だ
マル激!メールマガジン 2025年5月28日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1259回)
年金制度を改革するためには政治の決断が不可欠だ
ゲスト:中村秀一氏(医療介護福祉政策研究フォーラム理事長)
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年金制度改正法案が5月16日、ようやく政府から国会に提出された。
法案には厚生年金への加入対象を拡大し、いわゆる106万円の壁をなくすことや、年金を受給しながら働く高齢者が増えるよう在職老齢年金の基準の引き上げなどの改正は盛り込まれたが、最も大きな争点となっていた基礎年金の底上げは先送りされた。
年金制度は5年ごとの財政検証で経済の状況や支え手の減少、受給者の増加など将来の見通しを立てた上で、適正な給付水準を算出することになっている。
2024年7月時点で厚労省が発表した数字では、基礎年金の水準が現時点より3割ほど下がる可能性が指摘されていたが、その問題への対策は今回の法案には盛り込まれていない。
公的年金は、国民全員が加入する基礎年金部分と企業などで働くサラリーマンが加入する厚生年金の報酬比例部分の2階建てとなっている。基礎年金のみを受給するいわゆる国民年金の対象者は、自営業や農業、専業主婦などだ。国民年金は積立金が少なく財政基盤が弱いため、厚生年金の積立金を基礎年金部分により多く配分することで基礎年金の給付水準を底上げする案が検討されていた。
野党は基礎年金の底上げが先送りされたことに一斉に反発している。中でも立憲民主党は修正案の骨子を示し、与党と修正協議を始めている。
与党がなぜ基礎年金の底上げを法案に盛り込まなかったのかについて、元厚労省の官僚で退官後に「社会保障と税の一体改革」に携わった中村秀一氏は、年金問題が政権交代の引き金になった過去の経験がトラウマになっているのではないかと語る。
2009年の総選挙では、消えた年金問題など年金が大きな政治問題となったことが、自民党大敗の一因となったと考えられている。
そもそも年金制度は制度そのものが複雑だ。今回の財政検証にしても、2004年の年金制度改正で盛り込まれたマクロ経済スライドという仕組みを使って調整を行い、物価や賃金上昇率より年金額の上昇率を抑制した結果、基礎年金の水準が下がることになったと説明されているが、その説明を理解し、ましてやそれに納得している人が、果たしてどれほどいるだろうか。保険料の上限を固定して概ね100年間で財政均衡を図るという条件のもとで計算した結果、そうなるのだそうだが。
長い年月をかけて積み立てられている年金制度の改革は、短期間で実現できるものではない。中村氏が厚生省年金課長時代に担当した年金の支給開始年齢を60歳から65歳に引き上げるという制度改正も、1994年から段階的に引き上げて今年やっと男性の支給開始年齢を65歳に揃えることができたところだという。
今回、立憲民主党の修正案を与党が受け入れるとしても、元の政府案より改革時期が遅れることは確実で、しかも就職氷河期世代で非正規の仕事が続いて基礎年金しか頼ることができない人たちの老後の生活を保障する金額にはとても満たない。
いずれにしても目先の損得だけに囚われず将来世代のことまで視野に入れた上で、年金制度が必要としている改革を実現するためには、国民への丁寧な説明が不可欠で、それは政治の責任だ。
政府が提出した年金改革案の評価と問題点、そして公正な公的年金とはどうあるべきかなどについて、民主党政権から第二次安倍政権にかけて内閣官房社会保障改革担当室長を務めた中村秀一氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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今週の論点
・年金制度改革法案によって何がどう変わるのか
・年金の歴史
・このままでは給付水準が下がってしまう基礎年金
・世代を超えて連帯するために
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■ 年金制度改革法案によって何がどう変わるのか
迫田: 今日は、まさに議論の真最中である年金制度改革法案について取り上げたいと思います。与党と野党の間で修正協議が始まり、どうなるのか注目されています。
宮台: 与党対野党という図式だとよく分からない部分があり、また世論が誤解に基づいているという現状もあります。20年近く前にはこのままだと年金会計が破綻すると言われていましたがそんなことはなく、支給金額を減らせば年金会計は永続します。
問題は年金で暮らせるだけの支給ができるのかどうかというところにあります。国際標準的には自分のために積み立てる方式に移るべきなのに、世代が世代を支える賦課方式だと、人口逆ピラミッド状況では若い世代になればなるほど損になるという状況も出てきます。日本は年金の受給年齢も国際的にかなり低いですが、単に比較することはできず、終身雇用を前提とした定年制度との兼ね合いなどもあるため本当に難しい。
迫田: 本日のゲストは、医療介護福祉政策研究フォーラム理事長で元厚労省老健局長の中村秀一さんです。中村さんは退官後に当時の民主党政権に呼ばれ、「社会保障と税の一体改革」の事務局も務められました。
民主党政権から第2次安倍政権に移るところまでずっと、社会保障と税の一体改革に関わってきたということですよね。
中村: 一体改革では当時の菅総理、野田総理、安倍総理にお仕えしました。それは、当時の民主党と自民党、そして公明党の3党が合意して社会保障と税の一体改革をすることになったからです。政党が民主党から自公に戻っても3党合意を続けなければならないということで、引き続き担当していました。
迫田: 政治が混乱している中で担当されていたということですね。さて、政府は先週の金曜日に年金制度改革法案を国会に提出し議論が始まりました。昨日の党首討論では年金制度改革がテーマとなりました。
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