マル激!メールマガジン
植田健男氏:現行の学習指導要領体制のままでは日本の教育はよくならない
2025/09/24(水) 20:00
マル激!メールマガジン 2025年9月24日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1276回)
現行の学習指導要領体制のままでは日本の教育はよくならない
ゲスト:植田健男氏(名古屋大学名誉教授)
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学習指導要領は今のままでよいのか。
10年に1度の学習指導要領の改訂に向けて、今月19日、文科大臣の諮問機関である中央教育審議会(中教審)が「論点整理」をまとめた。今後、これに沿って各教科で具体的な内容の検討が進められ、来年度中に中教審として答申する。その後、小・中・高の学習指導要領が順次改訂されることになっている。
実は、前回から学習指導要領改訂のプロセスが大きく変わっている。中教審のなかに教育課程企画特別部会が設けられ、教科の枠を超えた根本的な課題の議論をまず行うことになった。19日に出された「論点整理」がこれに当たる。次期学習指導要領に向け、主体的・対話的で深い学び、多様性の包摂、実現可能性の確保の3つを基本的な方向性として示し、分かりやすく使いやすい学習指導要領、調整授業時数制度の創設、「余白」の創出を通じた教育の質の向上、などを挙げている。
名古屋大学名誉教授で教育経営学が専門の植田健男氏は、論点整理の内容には一定の評価をしつつも、教育内容を一元的に管理しようとする現行の学習指導要領体制のやり方自体を変えないままでは、現場の負担を増やすだけで逆にますます教育自体が疲弊していくことを懸念する。
植田氏によれば、学習指導要領は戦後間もない1947年に「これまで上から与えられたことをそのとおりに実行するといった画一的な傾向を反省して、下の方からみんなの力でつくりあげよう」と当時の文部省が試案として発表したのが始まりで、当初は地域や児童・生徒の実態に応じて使っていく手引書といった扱いだったという。それが、1958年に文部省告示として「教育課程の基準」とされ、いつの間にか法的拘束力があるような誤った解釈が広がったという。
さらに、教科書検定や全国一斉の学力テスト、大学入学試験なども学習指導要領が基準になっているため、学校現場は学習指導要領に縛られざるをえない状況に追い込まれている。
植田氏は、10年前の前回の改訂時の議論で、この1958年体制ともいえる画一的な学習指導要領のあり方を見直し、地域や子どもたちの実態に応じて一つひとつの学校が創意・工夫を凝らす「教育課程」の重要性が強調されたことに期待していたという。しかし結局は、教育内容や方法を縛る従来の学習指導要領のあり方そのものには手をつけられないままとなっている。
2年前には、子どもたちに合った教育課程を実施していたとされる奈良教育大附属小学校の授業が学習指導要領通りでないとの理由から、文科省や県教育委員会の介入が行われ、教員が異動させられるという事態も起きている。植田氏は、どのような教育課程が作られ、それがどれほど子どもたちに合ったものになっているかという観点から検討されることが重要だったはずだと指摘する。
グローバル化、デジタル化といった時代の変化のなかで教育はどうあるべきなのか、教育課程づくりの重要性を指摘し続けてきた植田健男氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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今週の論点
・中教審「論点整理」で示された方向性
・学習指導要領とは何か
・奈良教育大附属小学校で起こったこと
・学習指導要領体制の限界
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■ 中教審「論点整理」で示された方向性
迫田: 今回は教育の話をしていきます。今日9月19日、10年に1度と言われる学習指導要領改訂の基本的な方向性が中教審で決定しました。教育はすごく大事なのですが、いったいどうなっているのでしょうか。
宮台: 昔の列強や先進国と言われる国では、様々な行政の種類の中で教育行政が最も自治化されるべきものだと言われています。一番小さなユニットで教育の行政的な自治を行うというのが基本なのですが、教科書検定から学習指導要領まで、日本はなぜ国家統制しているのでしょうか。なぜ教育の分権化が合理的なのかというと、国民国家は数千万の規模で人口も多く、地域によって産業も文化的な伝統も違うからです。
例えば日本だと、地域を学ぶための副読本が配られることがありますが、副読本じゃおかしいんです。例えば民俗学や社会学では、東日本と西日本は全く違う社会の作られ方をしていると考えます。それを全て中央行政が把握し、正しいプランとしてフィードバックすることはできません。また10年に1度というのもお笑いですね。
迫田: さて、今日は専門の方に来ていただいています。ゲストは名古屋大学名誉教授の植田健男さんです。植田さんのご専門は教育課程経営で、実際に名古屋大学教育学部附属中高の校長先生もされていました。私のイメージですが、植田さんは今の学習指導要領体制は賞味期限切れなのではないのかとおっしゃっている。しかし学習指導要領の改訂の報道を見ても、そういう話は一切出てきません。
今日、中教審の教育課程企画特別部会が論点整理という形で次期学習指導要領に向けた基本的な考え方を決定しました。
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<フリップ> 論点整理(1)
次期学習指導要領に向けた基本的な考え方
1.「主体的・対話的で深い学び」の実装
2.多様性の包括
3.実現可能性の確保
自らの人生を舵取りする力と民主的な社会の創り手育成
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学習指導要領改訂の基本的な考え方をこのような部会で議論するというやり方は新しいんですよね。
植田: そうですね。正直言って、これまで学習指導要領はほとんど教科だけで成り立っているという考え方でした。こうした総論的な議論は行われずに、数学や理科、社会といった教科にいきなり分けて、それぞれの中でこの先10年間で何を教えるべきなのかということを専門家たちが考えていました。その方法でずっとやってきたのですが、いろいろな矛盾が出てきた。コンテンツだけを問題にして、そこで何点取れるかということだけで能力選抜を行ってきた結果、日本の産業の基盤自体の先行きが見えなくなってきたんです。
それではいけないということで、まず基本コンセプトを固め、これまでの何が課題だったのかを整理した上で各教科に落とし込み、もう一度それを整理するというやり方に変わりました。今回はそのやり方で2回目の改訂です。
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