マル激!メールマガジン 2025年11月26日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1285回)
元兵庫県議を死に追いやった悪質な誹謗中傷とSNS上の拡散に日本はどう対処すべきか
ゲスト:郷原信郎氏(弁護士、元検事)
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 NHK党の立花孝志党首が11月9日、名誉毀損の疑いで逮捕された。この逮捕は、立花氏による悪質な街頭演説やそれに乗じた大量の嫌がらせの電話やメール、SNS上での誹謗中傷を苦に自ら命を絶った、元兵庫県議の竹内英明氏の遺族が、立花氏を名誉毀損の疑いで刑事告訴したことを受けたものだ。
 竹内元県議はなぜ自ら命を絶つほどまでに追いつめられてしまったのか。ことの発端は2024年3月、兵庫県の西播磨県民局長が、斎藤元彦・兵庫県知事に関する7つの疑惑を記した内部告発文書を一部の県議や報道機関に送付したことだった。斎藤知事は直ちに犯人探しを開始し、告発者が西播磨県民局長の渡瀬康英氏であることを突き止めると、告発内容を「嘘八百」と断じ、局長の公用パソコンなどを調査した上で、局長を懲戒処分にした。
 2024年6月、この問題を調査する百条委員会が兵庫県議会に設置されたが、元県民局長は7月に「死をもって抗議する」とのメッセージを残して死去した。自死とみられる。
 竹内元県議はこの百条委員会の委員を務めていた。元県民局長の死を受けて斎藤知事への批判が高まると、9月には県議会で斎藤知事に対する不信任決議案が可決されたが、知事は議会を解散せず失職し、出直し選挙に臨んだ。この兵庫県知事選に「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首が、斎藤元彦氏を応援することを目的として「2馬力選挙」を実行するために自らも出馬したのだ。
 立花氏は知事選の街頭演説で「竹内県議が斎藤知事のありもしない噂話を作っている」などとし、告発文書問題の黒幕が竹内氏であるかのような発言を繰り返した。その発言に触発された人々が竹内氏の事務所に「竹内が黒幕」「責任を取れ」といった大量の電話や手紙やメールなどを送りつけるなどしたほか、SNS上でも竹内氏は夥しい数の誹謗中傷に晒された。
 2024年11月17日の出直し選挙では斎藤元彦氏が圧勝し、竹内氏は自身や家族への誹謗中傷に耐え切れず県議を辞職したが、その後も「説明もなく辞めた」「やましいことがあったのではないか」といった、竹内氏に対するSNS上の攻撃は止まらなかった。
 12月になると立花氏は、自身が出馬した大阪府泉大津市長選の街頭演説などで「竹内氏が兵庫県警の取り調べを受けて逮捕される予定だった」などと発言し、竹内氏が元県民局長の妻名義の文書を偽造したかのような批判を行った。これらの情報がSNSで拡散され、追いつめられた竹内氏はうつ状態と診断され、2025年1月18日、自ら命を絶った。
 しかし、竹内氏が死去した後も立花氏は竹内氏に対する攻撃の手を緩めなかった。立花氏が竹内氏の逮捕が予定されていると発言したことに対し、兵庫県警の本部長が県議会で「全くの事実無根」と否定する異例の事態となった。その後、立花氏自身も「逮捕が近づいているのを苦に命を絶ったことは間違いだった」と認めているが、その後も「誹謗中傷でなんで死ぬねんって話じゃないですか」などと、自身の攻撃によって竹内氏が自殺したことを否定し続けた。そして2025年6月、竹内氏の妻が立花氏を名誉毀損で刑事告訴した。
 竹内夫人の告訴代理人を務める郷原信郎弁護士は、立花氏が死者に対する名誉毀損は有罪になるハードルが高いことを知った上で、亡くなった後の竹内氏に事実無根の批判を浴びせたことを許してはならないと訴える。公の場で人の社会的地位を低下させるような発言をすれば、生きている人に対する発言ならその内容が事実であってもなくても名誉毀損は成立するが、亡くなった人の場合はその内容が虚偽であり、かつ虚偽と分かって発言していなければ名誉毀損にはならない。
 郷原弁護士によると、日本ではこれまでに死者に対する名誉毀損が処罰された例はないという。それほど死者に対する誹謗中傷を立件するハードルは高い。しかし、今回のような悪質な行為が刑法で処罰できないというのは、社会通念上も許されないことだと郷原氏は主張する。
 竹内氏を追いつめたもう1つの大きな原因はSNS上での誹謗中傷の拡散だった。SNSでは匿名のアカウントを中心に、常識では考えられないような誹謗中傷やデマを含む投稿が瞬く間に拡散される。その拡散を防ぐためには投稿の場を提供している業者、つまりプラットフォーム側にそれを防ぐ仕組みが不可欠となる。欧州やオーストラリアなどではプラットフォームに対する規制が厳格化しているが、ほとんどの何の規制もないアメリカに倣っているのか、日本は規制が非常に緩い。
 日本でも2025年4月から「情報流通プラットフォーム対処法」が施行され、誹謗中傷投稿の申し出があった場合、7日以内に判断することがSNS事業者に義務づけられたが、例えばドイツなど明らかに違法な投稿を24時間以内に削除する義務を課す国もあり、まだまだ日本の規制は甘い。
 しかし、その間もネット上の誹謗中傷は繰り返され、その圧力に堪えきれずに自殺に追い込まれたり、うつ状態になったり、あるいは社会的な生活が送れなくなるような人が後を絶たない現状を、いつまでも放置するわけにはいかないだろう。
 表現の自由との兼ね合いもあり、一律に厳しい規制をかけることが正しいとも思えないが、その一方で、誹謗中傷による個人攻撃によってSNSが炎上すればするほど、結果的にプラットフォーム業者やそれを仕掛けているインフルエンサーに経済的な利益がもたらされる現在の構造を放置するのは、表現の自由を守る上でもマイナスだ。
 兵庫で何が起こったのか、竹内元県議はどのような被害を受けたのか。死者への名誉毀損が許されないのはなぜか、SNSでの誹謗中傷をなくすためには何が必要かなどについて、郷原信郎弁護士と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
 なお番組の冒頭では、11月21日に新潟県の花角知事が東京電力柏崎刈羽原発の再稼働を容認したことの問題点と、11月18日に公開を義務づける法案が米議会で承認されたいわゆる「エプスタイン文書」についても取り上げた。

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今週の論点
・兵庫県の斎藤元彦知事をめぐる一連の事件を振り返る
・竹内元県議を追いつめたSNSでの誹謗中傷
・日本のSNSプラットフォーム規制は十分か
・SNSによる選挙への影響をどのように制御していくべきか
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■ 兵庫県の斎藤元彦知事をめぐる一連の事件を振り返る
神保: 今日のゲストは番組ではおなじみの、弁護士で元検事の郷原信郎さんです。奇跡の復活ですね。夏場に病院に行った時は、もうどうなるかと。

郷原: 7月中旬に緊急入院をした時はICUで管に繋がれて、人工透析という状態だったので、当分まともな活動はできないと思い、悪性リンパ腫の病名を公表しました。本当に多くの皆さんに励ましの声をいただいて、抗がん剤が非常によく効いて2カ月で退院することができました。

神保: 本当に戻ってこられて何よりです。さて、郷原さんは兵庫県の問題で2つの刑事事件に関わっています。公選法の事件については上脇先生と刑事告発をされ、自殺された竹内英明元県議の事件については刑事告訴された奥様の代理人をされています。

郷原: 竹内英明元県議の方はNHK党の立花孝志氏が逮捕に至ったのでこれから検察マターになります。公選法違反の方は、不起訴になったのに対して2日後に検察審査会に申立をしました。

神保: 公選法違反で兵庫県知事がPR会社を使ったことが買収にあたるのではないのかという事件ですよね。

 まず、竹内元県議の方を見ていきます。自殺された竹内元県議の奥様が名誉毀損で刑事告訴をされました。名誉毀損は民事での損害賠償請求もありますが刑事もあります。民事と刑事は何がどう違うのでしょうか。