マル激!メールマガジン 2025年12月10日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1287回)
人類は地球温暖化という21世紀最大の課題に対応する能力を失い始めているのか
ゲスト:江守正多氏(東京大学未来ビジョン研究センター教授)
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 果たして人類はアメリカ抜きで地球温暖化を克服することができるのか。
 国連の第30回気候変動枠組条約締約国会議(COP30)が2025年11月10日~22日、「アマゾンの玄関口」とも言われるブラジル・ベレンで開催されたが、温室効果ガスの世界第2の排出国であるアメリカはパリ協定からの脱退を表明し、今回のCOPにも参加しなかった。トランプ政権の下でアメリカが脱炭素から化石燃料優遇への傾斜を急速に強める中、世界はアメリカ抜きで21世紀の人類最大の課題ともいうべき地球温暖化問題に対応しなければならない。
 2025年は、パリ協定がCOP21で採択されてからちょうど10年となる節目の年でもある。パリ協定は、産業革命前からの気温上昇を「2度より十分低く、1.5度に抑える努力をする」目標を掲げた。しかし2024年、地球の気温上昇は既に1.5度を超えてしまった。そのためこれからの地球温暖化対策は気温が一時的に1.5度を超える「オーバーシュート」を前提に、一度上がった気温を再び下げることが真剣に議論されなければならなくなっている。
 しかし、一度上がった気温を下げるためには、人間活動による温室効果ガス排出量を長期間にわたりマイナスにする必要がある。東京大学未来ビジョン研究センター教授の江守正多氏は、それを実現することは容易ではないと指摘する。
 一方で、温暖化の影響により世界各地で深刻な自然災害が頻発している。洪水、熱波、干ばつ、森林火災といった気候変動に起因する自然災害は世界各地で頻発し、特に被害を受けやすい途上国への資金支援が喫緊の課題となっている。そこでCOP30の合意文書には、気候変動による災害に対応する資金を3倍にすることが盛り込まれた。そのこと自体は評価すべき成果ではあるが、気候変動に影響を受ける国を支援していこうという方向性は、ややもすればもはや地球温暖化は止められないという国際社会の諦観を反映しているようにも見える。
 江守氏が指摘するように、「1.5度を超えてしまっても下げればよい」、「被害が出ても小さく抑えればよい」という議論が強まることには注意が必要だ。資金支援だけでは根本的に災害を減らすことにはならず、そもそもの排出削減と災害対策の両輪で進めなければならない。
 アメリカのトランプ政権がパリ協定からの離脱を表明し、大統領自身が気候変動など存在しないと国連総会の場で公言する中、アメリカ国内では地球温暖化の懐疑論や否定論が再び勢いを増している。もともと気候変動の懐疑論は、「温暖化は起きていない」、「温暖化は人類の活動ではなく自然変動によるものだ」といった主張が中心だったが、それが今や、経済的利益や政治的利害と結びついたより複雑な構造へと変化していると江守氏は言う。
 懐疑論の広がりというアメリカでの現象は一時的なものではない。その背景には国際機関やエリート、リベラルに対する不信もあるが、さらに根底にあるのは「自国が世界に対してそこまで責任を負う必要はない」という考え方だ。
 江守氏は、気候災害の激化により難民が増え、移民排斥の雰囲気が強まり、右派ポピュリズムが台頭し、結果として気候変動対策が後退し、ますます気候変動が進むという悪循環を懸念する。さらにその先には、後戻りできない気候変動の転換点(ティッピング・ポイント)が来て、もはや自分の国だけ対策をしても無駄なのでやらないという諦めが広がる恐れもある。アメリカが気候変動対策から手を引き始める中、2025年をティッピング・ポイントに突き進んでいく最初の年にしてはならない。
 政府レベルの地球温暖化対策が堂々巡りの議論の中で停滞するのを横目に、企業やNPO、地方自治体といった非国家アクターの活躍が一層際立っている。COP30の現地に行ったWWFジャパンの田中健氏は、アメリカ政府代表団が不在の中でも、州を中心とする非国家アクターが、自分たちがアメリカ合衆国のパリ協定の実施を進めると強く発信していたと言う。もはや国が機能しないのであれば、非国家アクターがどこまで国家に取って代われるかがカギを握るようになっている。
 アメリカ不在のCOP30で何が議論され、世界はどこへ向かおうとしているのか。気候変動対策をめぐりアメリカ国内では何が起きていて、日本は何をすべきかなどについて、東京大学未来ビジョン研究センター教授の江守正多氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・アメリカ不在のCOP30で議論されたこと
・一度上がった気温を下げることの難しさ
・後戻りできない「ティッピング・ポイント」を迎えるわけにはいかない
・地球温暖化懐疑論が広がるアメリカで何が起きているのか
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■ アメリカ不在のCOP30で議論されたこと
神保: 地球温暖化をめぐる締約国会議COPが11月22日までブラジルで開かれていました。アメリカがパリ協定を離脱した後の会議だったということもあり、どのような雰囲気だったのか、またその影響などについて話したいと思います。

 これまで地球温暖化については人類共通の課題として取り組んできました。日本も含めて多くの国で気候災害がすごく、干ばつ、熱波、洪水、森林火災も含めて被害が増えています。二酸化炭素の濃度が上がっていることは科学的にも分かってきていて、その「確からしさ」はほぼ確実だというコンセンサスもあります。

 ただ今回、取材していて、もしかしたら2025年がある流れの転機の年になってしまうかもしれないと思い始めました。COPは毎年開催されるので毎回番組をやる必要はないかもしれませんが、今回はちゃんとやろうと思ったのは、まずは現実を見た上で、やり方を変えなければこれまでの努力が失われてしまう可能性があるのではないのかと思ったからです。

 人類にとっては歴史的に最大の危機といえる地球温暖化問題について、何をしなければいけないのか、何を考えなければいけないのか、議論していきたいと思います。ゲストは東京大学未来ビジョン研究センター教授の江守正多さんです。江守さんの専門は気候科学のシミュレーションで、気候変動に関する政府間パネルIPCCの第5次、第6次の評価報告書の主執筆者を務められました。また第7次では査読編集者になられました。

 アメリカは第1次トランプ政権で一度パリ協定を離脱し、バイデン政権になって復帰、またトランプ政権になって離脱している状態です。アメリカの離脱は初めてではありませんが、今回は前回のように思いつきで離脱したという感じではなく、政権内部も固めた上での離脱だったのでより深刻なのかなと思います。

 今回はCOP30ですが、COP15では宮台さんと一緒にコペンハーゲンに行きました。COP3は1997年に京都で開かれ、そこでは京都議定書ができ、その後のパリ協定に移行していきました。今回のCOP30はアメリカがいない中で中国の存在感が際立ち、日本は相変わらず化石賞をもらったということもありましたが、江守さんはCOP30をどのように評価していますか?

江守: まず、ブラジルで行われたということで森林などが注目されました。また今回は、2年前のCOPでのグローバル・ストックテイクでこのペースでは全然目標に足りないということになったのを受けて、野心を引き上げて2035年目標を出して集まろうという会だったんです。そういった色々な期待からすると、物足りなかったという評価が多かったと感じます。

 よく言われているのは「化石燃料からの脱却」ですが、これはCOP28のドバイで決まりました。その行程表を作ることについて、ブラジルの議長は頑張ったのですが、できませんでした。結果的に今回COP30の合意文書には、COP28でそういうことを言ったという参照はありましたが、それ以外では、ほとんど化石燃料という言葉は出てきませんでした。

 やはり産油国がいるところで化石燃料脱却を合意することは極めて難しく、2年前は産油国が議長だったのでまとめなければいけず、逆に妥協があったのかもしれません。基本的に化石燃料からの脱却は、化石燃料を買っている国が再エネでやっていけるからもう要らないと変わっていくことによって実現するのではないかと思っています。