マル激!メールマガジン 2026年1月7日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1291回)
2026年の年初に壊れ始めた日本の統治機構とその先に来るものを考える
ゲスト:御厨貴氏(東京大学先端科学技術研究センターフェロー)
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 2026年正月、今日本はどこにいて、これからどこへ向かうのか。近現代日本政治史研究の第一人者の御厨貴氏と考えた。
 2度の国政選挙を経て昨年、自民党は衆参両院で過半数を割り少数与党に転落した。自民党が過半数を割るのは初めてではないが、今回の連敗はこれまでとは意味が違うと東京大学の御厨貴名誉教授は語る。なぜならば、これは一過性のものではなく、いよいよ自民党統治の終焉を意味している可能性が高いからだ。
 1955年の保守合同による自民党結党以降、第2次大戦で焼け野原となった日本は高度経済成長を遂げ、先進国の仲間入りを果たした。しかし、その成功体験の呪縛によって、今や日本全体が身動きが取れなくなっている。特に戦後政治を長く担ってきた自民党は、これまで党の権力基盤を支えてきたあらゆる国内外の情勢が変わっているのに、まったくその変化に適応できていない。しかもより深刻なことに、自民党議員の多くはそれが自覚できていないように見える。
 結果的に自民党は2度の国政選挙惨敗の原因となった政治とカネ問題の抜本的な改革にも手を付けられないし、経済政策も古色蒼然としたバラマキで乗り切ろうとしている。それで乗り切れると思っているところが自民党の末期症状たる所以なのだ。
 しかし、両院で過半数を割ったにもかかわらず自民党は下野せず、今も政権にとどまっている。野党陣営には力を結集させて政権を奪取する気概すらない。劣化と衰退を繰り返してきた日本の政治は、今や政権交代の活力さえ失ってしまった。
 戦後の日本は急激な人口増加や、圧倒的なアメリカの軍事力に依存することで軽微な防衛負担で許されるなど、戦後の冷戦体制の恩恵を最大限に享受してきた。自民党の優れた統治能力とか、優秀な霞ヶ関官僚による政策立案のおかげで戦後の高度経済成長が実現したかのような言説が根強く残るが、実際は誰がやっても失敗のしようがないほど、戦後の国内外の情勢は日本にとって有利なものだった。
 ところが冷戦が終わり1990年代に入ると、相対的に国力が低下し始めたアメリカがより大きな軍事負担を日本に求めるようになると同時に、90年代半ばには日本の生産年齢人口が初めて減少に転じるなど、「エコノミックミラクル」が前提としていた好条件が一気に崩れてしまった。
 にもかかわらず、自民党は新たな状況への対応能力を持たず、優秀と言われた霞ヶ関官僚も前例主義を繰り返すばかりだった。結果的に日本は30年にもわたり経済が停滞してしまった。いわゆる「失われた30年」だ。
 御厨氏は、人口減少が避けられない中で成長モデルを掲げ続けること自体が問題だと指摘する。かつては国の政治と個人の生活がたまたま連動し、政治により生活が豊かになる実感があったが、もはや同じ発想では立ち行かない。これからは積極的に移民を受け入れて労働力の減少に歯止めを掛けるか、それが嫌なら低成長を前提とする成熟経済路線を採用するかのいずれかを選択しなければならない。しかし、自民党はその選択ができない宿痾を抱えているように見える。
 番組の後半では、皇位継承問題についても議論した。天皇の生前退位をめぐる有識者会議で座長代理を務めた御厨氏は、これまでとても無理だと考えられていた生前退位が現上皇の強い意志で実現したことによって、「皇室制度は変え得るものだ」という空気感が有識者の間で広がっていると指摘する。その結果、旧宮家の復活なども現実味を増してきていると語る。
 皇位継承問題は日本にとっては喫緊の課題だ。御厨氏は、万が一何らかの理由で天皇が空位となった場合、日本国憲法が機能しなくなることをどれだけの人が真剣に考えているだろうかと問う。天皇がいなければ国会は招集も解散もできず、法律を公布することもできない。ではその時、日本国憲法を停止するのか。停止する場合、誰がその権限を持っているのか。いずれにしても、この議論から逃げ続けることはできないと御厨氏は言う。
 今日本はどこにいて、ここからどこへ向かっていくのか。2026年年初に、日本の現在地と針路について、御厨貴氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・自民党は完全崩壊の一歩手前にいるのか
・高度経済成長の幻想から抜け出せない日本
・人口減少を前提とした低成長モデルを構想する
・激変する安全保障環境と日米関係
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■ 自民党は完全崩壊の一歩手前にいるのか
神保: 明けましておめでとうございます。12月26日に収録をしていますが、2026年最初の番組ということで、日本の現在地を改めて確認しようというテーマでいきたいと思います。また2026年はどちらの方に向かっていくのか、どちらに向かっていかないとまずいのか。端的に言うと2026年はどんな1年になると思いますか?

宮台: どこまで落ちるかだと思います。いつも毎年年始の番組で、今年はどういう年になるかという話をする時に、その時の海抜のようなものを計測していますが、定点観測的にどんどん落ちています。これは日本だけではありません。

神保: 番組の中ではそのまま落ちるだけではなく、何か一矢報いる手はないのかということも議論したいと思っています。ゲストは近現代日本史とオーラル・ヒストリーがご専門の、東京大学先端科学技術研究センターフェローの御厨貴さんです。2026年はどんな年になると位置づけていますか?

御厨: 日本の政治に引きつけて言えば、去年から自民党の崩壊がいよいよ始まりました。これはホップだと思います。今年はステップの年で、もう1年経ったあたりにジャンプということで本当に崩壊すると思います。自由民主党の崩壊過程は始まっていますが、面白いことに自民党自身は崩壊しているという認識が全くありません。それと同時に野党もこれで行けると思っています。特に何のために存在しているのかよく分からないのが立憲民主党です。かつて自社二大政党制の時代に社会党がありましたが、あれよりもひどい。

 社会党は右派と左派に分裂していましたが、それでも色々な役割を担っていました。自民党の汚職などを攻める時には楢崎弥之助のような爆弾男がいました。当時は今のように「週刊誌によると」などという話ではなく、皆自分で調べていました。今そういうことを言っても、向こうも分かっているので猿芝居のようになっています。しかし立憲はこれでダメだとは思っていません。その中で色々な政党が出てきているという状況です。