マル激!メールマガジン 2026年1月14日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1292回)
日本の教育を地方から変える
ゲスト:鈴木大裕氏(高知県土佐町議会議員)
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 日本は地方からしか変わらないのではないか。その問いを教育の場で実践している1人の研究者がいる。日本の教育を改革するとの強い信念から、それを実践するために高知県の小さな町に移り住み活動を続ける鈴木大裕氏だ。
 人口3,500人の高知県土佐町で、現在は町議会議員を務める鈴木大裕氏は、アメリカの大学や大学院で教育学を学んだ後、それまで住んでいたニューヨークから土佐町に家族で移住。子育てをしながら町の教育体制をよりよくするための活動に奔走している。現在の町長が掲げた「教育で町おこし」という言葉に惹かれたからだという。
 昨年度、日本の不登校の児童生徒数は35万人を超えた。精神疾患による教員の病気休職者も7,000人にのぼる。長時間労働や多忙な業務などが嫌がられ、教員の志望者は年々減り続けている。
昨年9月のマル激(マル激トーク・オン・ディマンド第1276回(2025年9月20日公開)「現行の学習指導要領体制のままでは日本の教育はよくならない」ゲスト:植田健男・名古屋大学名誉教授)で取り上げたように、教育内容を一元的に管理しようとする現行の学習指導要領の下では、現場の負担が増えるだけで教育が疲弊していくことが懸念されるなど、日本の教育の問題は根深い。『崩壊する日本の公教育』の著者でもある鈴木氏は、こうした問題に警告を鳴らし続けてきた教育研究者でもある。
 優良と呼ばれる高校や大学を出て安定した企業への就職を目指すことを至上目的としたこれまでの日本の教育ではユニークな存在になることができないと考え、アメリカの高校への留学を決断した鈴木氏は、そこで出会ったアメリカの全人格的なエリート教育に憧れを覚えたという。その後、日本で中学教師を務めた後、新自由主義的なアメリカの教育改革を学びたいと再渡米、そこではじめて公教育をビジネスに変えたアメリカの負の部分が見えてきたと語る。 
 アメリカの教育改革による市場型の学校選択制は、全国一斉のテストの結果で評価され、塾のような学校を生み出す。富裕層は数多ある学校の中から希望校を選ぶことができるが、日々の生活にも困窮する低所得層にその余裕はない。児童生徒はお客様扱いとなり「よい生徒」の奪い合いが起こる中、ますます学校の序列化がすすむ。テストの点数があたかも「通貨」のように選択の基準となり、学校の評価となっていたと語る鈴木氏は、日本もそのあとを追っていることを強く危惧していたという。
 新自由主義的な教育改革に対抗する発想は、都市部ではなく地方からしか生まれないのではないかと考えていた鈴木氏は、10年前に高知県の土佐町に移り住み、町に1つしかない小中学校で公教育の意義を町の人たちと考えてきた。2019年に町議会議員になってからは全教職員との意見交換会を開くなど、小さな町ならではの活動を続けている。
 そもそも教育は上からの押し付けではなく、それぞれの地域の特色を活かして行われるべきもので、そのために教育委員会制度というものがある。現在は教育長が首長の任命になっているが、地域の教育方針を議論し決定する教育委員会は元来、教育委員の合議制となっている。その地域にとってよりよい教育とはどうあるべきか、豊かな人間性と創造性を備えた子どもたちの育成のために地域は何ができるか、土佐町にはまだまだ可能性があると鈴木氏は胸を張る。
 公教育とは何か、地方からしか教育は変えられないという信念のもと活動を続ける鈴木大裕氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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今週の論点
・地方から日本の教育を変えたいと土佐町に移住した鈴木大裕氏
・アメリカにみる新自由主義的な教育改革の弊害
・塾化した学校では子どもは育たない
・小さな自治体にこそ教育を変えるチャンスがある
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■ 地方から日本の教育を変えたいと土佐町に移住した鈴木大裕氏
迫田: 今日のゲストは高知県土佐町議会議員の鈴木大裕さんです。鈴木さんは『崩壊する日本の公教育』という本を書かれ、また地方から教育を変えたいということで、10年ほど前に高知県の土佐町に移り住まれました。なぜ土佐町だったのでしょうか?

鈴木: 最初に友達が行ったんです。そして新しい町長が「教育で町おこしをする」という旗を掲げているのを見て、アメリカで新自由主義による公教育の崩壊を研究してきた私にとっては「町の存続を次世代の教育にかける」という発想は真逆だったので、ロマンがあると思いました。また市場原理を導入した教育改革に対抗するようなアンチテーゼは都市部からは生まれないのではないかとも思っていました。そうしたことが折り重なり土佐町にしました。

宮台: 教育は行政の単位の中で一番小さい。それは、特に公教育には共通感覚が必要だからです。その意味で、共通感覚でまとまれる単位はどんどん小さくなります。その上には水道やエネルギー供給、廃棄物処理、軍事、外交といったものがあり、どんどん大きな単位になっていきます。

 大都市の教育というのは、既存のシステムにどうやってうまく入り込んで適応するかというものです。しかし日本だけでなく多くの国で、既存のシステムにはもう先がありません。オルタナティブを既存のシステムの中核から提案することはできません。それは民主政だからです。そのため、構造的に地方から教育を変えることで社会全体に波及効果が及ぶように考えるしかありません。
援助交際のフィールドワークをしていた時代にも、高知県全体は非常に重要な場所でした。例えば漁村文化がある場所は農村部とは共通感覚が異なります。高知県や新潟県などはもともと漁村文化で、いわゆる農村部とは共通感覚がかなり違います。

迫田: 土佐町は漁村部ではなく山間部にあり、人口は2025年11月末で3,420人です。幹線道路が1本走っていて、小中学校は1つあります。町役場はありますが、高校はありません。鈴木さんは教育研究者でいて、土佐町の町議会議員でもいらっしゃいます。教育で町おこしということで行かれて10年近くになりますが、この10年間を総まとめするとどのような感じでしょうか。

鈴木: 地方からこういう教育もありなのではないか、あるいは今の日本で行われている教育は過疎地から見るとこのように映るといった発信をしてきました。最初は議員になる気はなく、地域おこし協力隊として行ったのですが、2019年に議員になりました。学校と行政をつなぐ学校行政コーディネーターという役割で地域おこしに参加し、その後、教育系のNPOに移りました。ただNPOは面倒くさく、非営利ですが職員の生活がかかっているのでどこからかお金を持ってこなければなりません。そしてその相手はほとんどが行政なので、批判しづらくなります。

 娘に全国学力調査を受けさせないという記事をネットで書いたところ、それがバズって、教育長がすごく怒りました。そのことがNPOの中でも問題になりましたが、言いたいことが言えないのであれば何のために土佐町に来たのかと。土佐町で剣道を始めたのですが、その先生に相談したところ、「今度、議員選挙があるから出てみん?」と言われました。学生時代から自分のやってきたことは政治だと思ってきたので出ませんと言いましたが、「言いたいこと言うがが議員の仕事やき」と返されました。