マル激!メールマガジン
権丈善一氏:「社会保障は重すぎる」は本当か
2026/02/25(水) 20:00
マル激!メールマガジン 2026年2月25日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1298回)
通念を疑うことが政治の暴走に歯止めをかける
「社会保障は重すぎる」は本当か
ゲスト:権丈善一氏(慶應義塾大学商学部教授)
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2月20日の施政方針演説で高市首相は、「社会保障と税」をテーマに国民会議を立ち上げ、国民的議論を行う考えを示した。制度の持続可能性が問われる中での議論の場づくりは一見、前向きに映る。しかし、そこでどのような前提や認識が共有されるのかによって、議論の方向性は大きく左右される。結論ありきの会議にならないかは、十分に注視する必要があるだろう。
近年の選挙戦や政策論争では、「手取りを増やす」「年収の壁を壊す」といった、わかりやすく拡散力の高い言葉が躍り、やたらと社会保障の負担感が強調されてきた。しかし、果たして日本の社会保障は本当に過重なのだろうか。
社会保障を専門とする慶應義塾大学商学部教授の権丈善一氏は、現在広く流布している社会保障をめぐる言説の多くが、「事実というより通念」だと指摘する。つまり、事実とは異なるということだ。
象徴的なのが、高齢者を支える現役世代の負担を説明する際によく使われる比喩だ。かつては6人で1人の高齢者を支える「おみこし型」、次に3人で1人を支える「騎馬戦型」、将来は1人で1人を支える「肩車型」になると説明されてきた。しかし権丈氏によれば、実際に「就業者1人が何人の非就業者を支えているか」を示す就業者ベースの比率は、過去も現在もおおむね1対1であり、将来も大きく変わらないという。背景には、女性の就業拡大や高齢者の就労増加がある。
税と社会保険料を合わせた国民負担率、あるいは社会保障給付の対GDP比で見ても、日本はOECD諸国の中で中位に位置している。決して日本だけが突出して社会保障負担が大きいわけではない。それにもかかわらず、国内では社会保障が若者を苦しめているというイメージが独り歩きしている。
権丈氏は、「広く受け入れられているもっともらしい話が、必ずしも正しいとは限らない」と警鐘を鳴らす。特に懸念するのが、通念が若い世代にもたらす年金不信だ。
一般には「今の若者は将来、年金をほとんどもらえない」と語られがちだ。しかし社会保障審議会年金部会の分布推計によれば、現在20歳の人が65歳になったときの給付額は、現在65歳の人が受け取っている平均年金額よりも大きくなる可能性が高い。厚生年金への加入期間が長くなる人が増えれば、給付水準も相応に高まるからだ。
それでも「年金は破綻する」「若者は損をする」という事実とは異なる誤った通念が広がり続ければ、制度への信頼は損なわれ、結果として制度そのものを弱体化させる政治的圧力につながりかねない。また、その不安が年金不払いなどを引き起こせば、それが原因で年金制度が本当に破綻してしまいかねない。
権丈氏は、経済学者ジョン・K・ガルブレイスが指摘した「通念(conventional wisdom)」の概念を引きながら、社会で広く受け入れられている「常識」の危うさを説く。通念は、人気を集め、聴衆の賛同を得ることで強化される。しかし、それが事実と乖離していれば、誤った認識に基づく政策決定が行われ、長期的に社会に深刻な影響を及ぼす。
社会保障をコストとしてのみ捉え、負担削減の対象とみなす議論が強まれば、再分配や生活保障といった本来の機能が見失われる。その結果、かえって格差が拡大し社会的分断が進んでしまう。
4月から徴収が始まる子ども・子育て支援制度、今後検討される給付付き税額控除など、社会保障をめぐる制度設計は大きな転換点を迎えている。私たちは、それらを「負担増」としてのみ捉えてはいないか。政治やメディアの言説によって、事実が単純化・歪曲されてはいないか。
社会保障の機能と現実、通念に支配された政治の危うさなどについて、権丈善一氏と社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
また番組冒頭では、捜査機関が証拠を捏造することは考えられないとの理由から、冤罪の疑いが濃厚となっている飯塚事件の再審請求を福岡高裁が却下したことの問題点を取り上げた。
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今週の論点
・私たちが信じきっている社会保障の「通念」
・「若い世代は年金をもらえない」という通念を疑う
・ポストトゥルースポリティクスの時代
・子育て支援は何のためにあるのか
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■ 私たちが信じきっている社会保障の「通念」
迫田: 今日は「社会保障の通念を斬る」といった内容の番組をやりたいと思います。今日2月20日、高市首相による施政方針演説がありました。今回、通常国会が冒頭解散され異例の選挙が行われましたが、選挙中は繰り返し社会保障の問題や物価高が言われていました。施政方針演説では国民会議を設けるという話がありました。
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<映像> 2026年2月20日 施政方針演説
高市首相: 手取りの増加に向けた対策も講じます。いわゆる103万円の壁について、働き控えの解消と手取り増加の観点から、178万円に引き上げます。税・社会保険料負担や物価高に苦しむ中所得・低所得の方々の負担を減らすため、給付付き税額控除の制度設計を含めた社会保障と税の一体改革について、超党派で構成される「国民会議」において検討を進め、結論を得ます。
人口減少・少子高齢化においては、社会保障制度における給付と負担の在り方や所得再分配機能について、国民的議論が必要です。国民会議において、与野党の垣根を越え、有識者の叡智も集めて議論し、結論を得ていきます。
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迫田: 「国民会議を設ける」という話が2回出てきています。1つ目は超党派で構成される国民会議において給付付き税額控除を含め、社会保障と税の一体改革を議論すると言っていて、国会議員だけでやるような雰囲気です。もう1つは給付と負担のあり方について与野党の垣根を超え、有識者の叡智も集めてやると言っています。これが同じものなのかどうかは分かりません。1つ目の超党派でやると言っているものは国会でやっても良いのではないかと思えるような議論です。
宮台: 専門家を呼びたくないのかなと思ってしまいます。専門家で議論してある種の合理性を貫徹するという形では結論が出せないので、国会議員たちが超党派で議論して合意したという正当性を調達したがっていると推定できます。
迫田: その超党派も全党派なのかどうかは分かりませんし、それならば国会で議論しても良いのではないかという意見もあります。
宮台: 国会議員は何の専門性もなく、彼らが議論しても意味がないのでやめた方が良いと思います。
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