マル激!メールマガジン 2026年4月1日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1303回)
法秩序が崩壊した世界を日本はどう生き抜くか
ゲスト:柳原正治氏(九州大学名誉教授、放送大学名誉教授)
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 ウクライナ、ガザ、ベネズエラ、そしてイラン。いま世界で起きているのは単なる地域紛争の連鎖ではない。20世紀の2度の世界大戦という惨禍の反省の上に80年かけて積み上げてきた国際法秩序そのものが、根底から揺らいでいるのだ。
 本来、国家による武力行使は国際法上、原則として禁止されている。例外は基本的に2つしかない。国連安全保障理事会の決議に基づくものか、自国が攻撃を受けた場合の自衛権の行使だ。これはいわば、戦争を法で縛るための最低限のルールだった。
 しかし現実には、そのルールがもはや機能していない。ロシアによるウクライナ侵攻。イスラエルによる軍事行動。そしてアメリカによるベネズエラ侵攻とイラン攻撃。いずれも、あからさまな国際法違反と見るべき事案だが、決定的なのは、今の世界ではそれを止める仕組みも、裁く仕組みも機能していないことだ。言い換えれば、国際社会はすでに「無法状態」と化しているのだ。
 今回のイラン攻撃についてアメリカは「自衛権の行使」を主張している。しかしここで問題になるのが、国連憲章第51条の解釈だ。自衛権も無制限ではない。一般的な国際法解釈では、「差し迫った武力攻撃」に対してのみ認められるとされている。
 では、今回のケースはどうか。アメリカに対する「差し迫った脅威」が具体的に存在したのか。この点については、アメリカ国内からも疑義が出ている。アメリカの対テロ対策の責任者を務めていたジョー・ケント氏は、イラン攻撃の正当性に疑問を突きつけて職を辞している。米国際法学会も、明確な根拠が示されていない以上、国際法違反の可能性が高いとの見解を示している。つまりここで起きているのは、「違法かもしれない」という問題ではなく、違法であっても止められない世界が現実化しているということなのだ。
 一方、ヨーロッパでは明確な変化が起きている。EUのウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は、ヨーロッパの戦略的自立の必要性を訴え、防衛力強化に舵を切った。いわば、アメリカ一極に依存してきた安全保障体制からの離脱を模索し始めている。
 これは極めて重要なシグナルだ。同盟国であっても無条件に追随する時代ではなくなっているのだ。
 では、翻って日本はどうか。
 政府は、今回のイラン攻撃についての法的評価を避けている。同盟国アメリカへの配慮があることは理解できなくもないが、問われているのは、日本が「法の支配」を守る側に立つのか、それともその破壊者側に付くのかという、国としての根本的な立ち位置だ。同盟とは従属ではない。むしろ、同盟国だからこそ、誤りがあれば指摘する責任があるのではないか。
 これから国際秩序はどのように変わっていくのか。国際法の権威として知られる柳原正治・九州大学名誉教授は、歴史的に見て、秩序の大転換は常に大戦争の後に起きてきたと指摘する。確かに人類は大きな戦争がなければ新しい秩序を築くことができていない。しかし、だとすれば、今起きている秩序の崩壊は、次の大きな戦争への序章ということになってしまうではないか。
 国際法が機能しない世界で、日本は何を拠り所にすべきか。何があってもアメリカに抱きついていくだけで本当にいいのか。同盟と自立のバランスをどう取るのか。国際法の第一人者である柳原正治氏を迎え、崩壊しつつある国際秩序の現実と、その中で日本が取るべき選択について、神保哲生、宮台真司が徹底的に議論した。

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今週の論点
・大国による国際法への「挑戦」
・イラン攻撃は国際法上、正当化な武力行使だと言えるのか
・こうまでアメリカがイランを敵視する理由
・アメリカからの自立を模索するヨーロッパ
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■ 大国による国際法への「挑戦」
神保: 今日はあえて国際法をテーマにしてみました。今回のイラン攻撃もそうですが、ロシアによるウクライナ侵攻、ガザ攻撃、ベネズエラ攻撃などを見ると、ほぼ無法状態になっているのではないかという思いがあります。「国際法違反だ」とはよく言われますが、そもそも国際法とは何なのかということをちゃんと押さえられていない部分があるかもしれません。今日はそこをきちんとやっておきたい。
また、それが崩れた世界がどのようなものなのか、その中で日本はどのような選択をすべきなのかを含めて議論したいと思います。

宮台: 国民国家に限らず「法治」という概念は主権国家の内部の話なので、国際法は主権国家の中の概念には馴染みません。国際法は基本的に慣習法で、その慣習法を守ろうという国際連合が戦後にできたというだけなんです。

神保: ゲストは国際法の権威で、九州大学名誉教授、放送大学名誉教授の柳原正治さんです。直近ではイラン攻撃がありますが、その前にベネズエラ、ガザ、ウクライナでも同じようなことがありました。それ以前は、湾岸戦争など色々なことはあったものの、比較的平和な時代を過ごしてきたと思っていた。イランのような状況が当たり前の時代に入ったように見えます。国際法の専門家としては、今の世界状況を総論的にどのように見ていますか。

柳原: 冷戦が終わった時、国際法学者はこれで世界に平和が訪れると考えました。私は1983年から1985年まで西ドイツに住んでいましたが、東西ドイツはいつ1つになるのかと周りに聞くと、今世紀中は無理だと言われました。しかしたった5年でできた。この喜びは世界中に広がっていたと思います。
しかしその後湾岸戦争がありました。あれが合法だったのかどうかは、国際法上、非常に大きな議論がありました。日本の国際法学者の中でも反対を表明する人が多く、理論的な論争が巻き起こりました。

 その後も1999年にはNATOによるユーゴ空爆、2001年にはアフガニスタン紛争、2003年にはイラクに対する米国などの武力行使がありました。2014年にもイスラム国(IS)に対するシリア領内での空爆があり、いくつもの大きな戦闘が起きていました。

 確かに2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、ここ2年は特に中東で大きな動きがあります。ここ2~3年が目立っているというのは間違いありませんが、『プラクティス国際法講義』という教科書の序文では何年も前から、今は国際法に対する危機ではないのかということを書いてきました。特にロシア、中国、アメリカといった大国が既存の国際法に対する挑戦を行っているのではないか。ここ2年ほどはそれが特に際立った形で出ていると見ています。

神保: 国際法では本来、かなり特別な場合を除いて武力攻撃が禁止されています。しかしこれだけ武力行使が行われている。しかも、ロシアのウクライナ侵攻以外はほとんどアメリカとイスラエルが関わっています。このような無法状態の中でも、日本はアメリカに守ってもらうしかないという考え方が今の高市政権の路線だとすれば、日本は法の破壊者側に立つことになるのではないかという心配があります。

宮台: これについてチョムスキーは、第2次世界大戦後は国連を中心とした国際法があるとされているが、一方的に破り続けているのはアメリカであると指摘しています。しかし重要なことは、それでも国際法があるという前提で議論できたという点です。たとえ「やってる感」であっても、それができるのは重要なことです。法は暴力的威嚇に基づく命令ですが、国際法は相互期待です。信頼したことにしているので、自分がそれを破ると国の正当性がなくなり、攻められても文句が言えない状態になります。

柳原: 国際法学者として冷戦以降の状況を見ると、どの国も国際法上の正当化理由を出します。国際法上違法ではないという論理を見つけようとしていて、それはプーチンも同じです。彼ですら国連憲章51条の集団的自衛権を使い、自分は国際法に反したことはしていないと主張します。

 そういう意味で私が驚いたのは今年1月のトランプ氏のニューヨークタイムズでのインタビューです。自分を止めることができるのは自分のモラリティとマインドだけであり、国際法はいらないと発言しました。これは国際法学者にとってショックな発言でした。日本のマスコミではその部分だけが取り上げられていましたが、その後に「トランプ政権は国際法を守らないのか」と問われ、「守る」と答えています。「しかしそれは定義次第だ」とも言いました。それでも、国際法を守ると言ったことには一縷の望みがあるかもしれません。