マル激!メールマガジン 2026年4月8号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1304回)
すべてが石油でできている世界で石油が足りなくなると起きること
ゲスト:岩間剛一氏(和光大学経済経営学部教授)
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 世界は石油でできている。
 そう言っても過言ではないほど、われわれの身の回りは石油由来製品で溢れ返っている。プラスチックの生活用品は言うに及ばず、洋服も洗剤やシャンプーも、さらに医薬品から農業用品にいたるまで、今やわれわれは石油を着て、石油を食べて、石油に囲まれて暮らしていると言っても誇張ではないほど、石油に頼って生きている。
 そんな世界で石油の主要な生産地である中東で戦争が始まってしまったのだから、世界中が影響を受けないはずがない。特に原油の95%を中東に依存する日本にとって、それは死活問題となるのは当然だ。
 世界が一刻も早い停戦を期待する中で注目された4月2日のトランプ大統領の声明が、単なる攻撃継続の表明に終わったことに世界中が落胆し、原油市場も他の金融市場も敏感に反応している。株価は依然全面安でガソリン価格の上昇はとどまるところを知らず、生産現場でも医療現場でも、様々な製品価格の高騰や品不足を引き起こしている。
 石油不足についてはメディアがガソリン価格のことばかり大きく報じる中、高市政権は市民を動揺させないために、また政権の支持率を落とさないためにも、多額の補助金を入れることでガソリン価格がリッターあたり200円を大きく超える事態を何とか回避しようとしている。現在1リットルあたり約48円の補助金が注ぎ込まれることで、ガソリン価格は辛うじて170円前後を保っているが、これは単にガソリン代を税金で補填しているだけであり、財政負担を考えるといつまでも人為的に価格をコントロールし続けることはできない。
 誰の目にもわかりやすいガソリン価格が「危機」の1つの指標となるのは避けられないとして、実はより深刻なのは「素材」としての石油不足の影響だ。
 私たちの身の回りを見渡せば、プラスチック、ゴム、合成繊維、洗剤から化粧品に至るまで、ほとんどが石油由来の製品だ。実際、木材や鉱物、皮革、綿などの天然素材でできたもの以外は、ほぼすべてが石油由来製品と言っていいだろう。これらの多くは原油を精製して得られるナフサを原料としている。つまり、石油不足とは単なる燃料価格の問題ではなく、社会の物質基盤そのものが揺らいでいるのだ。
 中でも医療分野への影響は深刻だ。
 手術用マスク、注射器、カテーテル、医療用グローブ、人工呼吸器、点滴バッグ等々。これらはすべて使い捨てのプラスチック製品であり、石油からできている。また、それを輸送するためにも石油が必要だ。すでに一部の医療現場では、供給不安の兆しが出始めている。さらに、麻酔薬や医薬品の多くは、原料や製造過程で石油化学製品に依存している。これはいずれも人命に関わる重大な問題となる。
 ガソリン価格は原油価格にほぼ即時に反応する。しかし、ナフサ由来の製品はそうではない。むしろ問題は、数カ月単位で遅れてやってくる。最初は価格上昇という形で現れ、やがて供給不足に変わる。そして気づいたときには、日用品や医療資材、食品包装などが手に入らなくなる。
 石油問題に詳しい和光大学経済経営学部の岩間剛一教授は、日本では1970年代のオイルショックの教訓から戦略物資でもある石油は254日分(国家備蓄が約146日分、民間備蓄が約101日分、産油国共同備蓄が約7日分)が備蓄されているが、ナフサは民間依存のためせいぜい20日分ほどしか備蓄がないと指摘する。税金を投入して一時的にガソリン価格の高騰を抑え込んでも、時間の問題で石油由来製品に依存する現場では危機が訪れることが避けられない。
また254日というのは、これまで通りのペースで石油を消費した場合、約8カ月ということにすぎない。考えたくないことだが、それまでに中東情勢が安定しホルズ海峡の封鎖が解かれなければ、日本では石油の供給自体が完全に止まってしまう可能性すらある。
 岩間氏は、今回の状況は1973年の第1次オイルショックよりもずっと深刻だと語る。その理由は、オイルショック当時は産油国が政治的判断で輸出制限をしたために石油価格が暴騰し、日本経済は大きな打撃を受けたが、実は日本向けの石油の供給そのものは維持されていた。石油の値段は上がったがモノ自体は入っていたのだ。しかし、今回の石油危機はホルムズ海峡という物理的な輸送路が遮断されることで起きている。
つまり今回は、「価格の問題」ではなく「そもそも届かない」という問題になりつつあると岩間氏は言う。しかも石油に対する日本の中東依存度はオイルショック当時の約78%から、現在は約95%にまで高まっている。
 70年代のオイルショックは、日本社会に省エネという強烈な教訓を残した。しかしその後、原油価格が安定し、供給が拡大すると、その記憶は急速に風化した。
 石油は極めて効率がよく、扱いやすいエネルギーであり素材でもある。石油が果たしている役割をそれ以外の代替品に置き換えようとすると、莫大な手間とコストがかかる。石油の手軽さと便利さのおかげで、われわれは大量生産、大量消費、大量廃棄という文化をとことん享受するようになった。しかし、その一方で、石油は地球温暖化やマイクロプラスチックといった深刻な環境問題も引き起こしている。また、何よりも地政学的なリスクが大きい。つまり私たちは、持続可能性を犠牲にしながら、石油が提供する便利さに飼い慣らされてきたということだ。
 今は歴史上の出来事のように語られることが多い、1970年代のオイルショックを超えるほどの深刻な石油危機に直面した今、われわれは果たしてこれまで通りエネルギーや食料を海外に依存し続けていて本当にいいのか、いくら便利で安いからといって、これまで通り石油由来製品に依存した生活を送り続けていていいのかを、自問すべき時に来ているのではないか。今のわれわれの生活がどれだけ石油に依存しているのか、そのリスクは何なのかなどについて、石油の専門家の岩間氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・石油とはそもそもどのような資源なのか
・現在のホルムズ海峡封鎖が1970年代の石油危機より深刻な理由
・ガソリン補助金の功罪
・大量消費、大量廃棄の石油依存生活を続けることのリスク
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■ 石油とはそもそもどのような資源なのか
神保: イラン問題が起きてから石油については色々な動きがありますが、今日はどちらかというと石油備蓄やガソリン価格の話よりも、われわれがここまで石油に依存するようになった現状に目を向けたいと思います。これは食にも関係してくることですね。

 この企画を考えたきっかけは、歯医者さんから麻酔が品薄だという話を聞いたことでした。これについては別の理由もあり、国内シェアの7割を占めている製薬会社の製造プログラムに不具合があったため出荷が制限されたということなのですが、麻酔が石油由来だというのはあまり考えたことはありませんでした。
医療品にはものすごく石油由来のものが多い。医療用の手袋やカテーテル、消毒用のエタノールなどはすべて石油由来です。遠くのイランで起きている問題が、日本の医療現場にも大きく影響してくることになります。それが食品やその他のものにも影響してくることは間違いありません。石油というとガソリン代などを考えますが、ガソリンだけではなく、われわれは石油を着て石油を食べる生き物になってしまっているのではないのでしょうか。

宮台: 燃料というよりも色々なものの原材料になっているということですね。

神保: 短期的には物価が高くなるということですが、4月1日のトランプ大統領の演説を見ていると出口の目途が立っていないように見えます。4月2日は陸軍のトップを解任したという話もあり、無茶な上陸作戦に反対したトップを切ったのではないかと。最後に大きく戦い、一方的に勝利宣言をして終わったことにするというシナリオが現実に起きそうなことを思わせる演説でした。
この2~3週間は上陸を含めた非常に熾烈な攻撃をすると言っています。そうなればアメリカ側も含めて多くの人命が失われます。アメリカが一方的に攻めて目的を達成したと言ってもイランはそれで納得するわけがありません。何万発、何千発の爆弾を落としたところで、イランが「石器時代」に戻るということはありません。イランのリスクはかえって大きくなっていく。