マル激!メールマガジン 2026年4月22日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1306回)
永田町と霞が関に翻弄され続けた給付付き税額控除がようやく実現するのか
ゲスト:森信茂樹氏(東京財団シニア政策オフィサー、法学博士)
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20年越しの政策課題が、ようやく動き出すのだろうか。給付付き税額控除のことである。
 高市首相肝いりの社会保障国民会議で、給付付き税額控除の制度設計をめぐる議論がようやく始まった。給付付き税額控除とは、税額から控除しきれない分を現金で給付することで、中低所得者の負担軽減を図る仕組みのことだ。欧米の多くの先進国ではとうの昔に導入されている、ごく当たり前の制度である。
 日本でも2008年のリーマンショック後にその必要性が指摘されるようになり、麻生政権でも民主党政権でも検討され、法律にも書き込まれてきた。先の総選挙では与野党がそろって公約に掲げてもいる。それなのに、なぜ20年も店晒しになってきたのか。
 20年にわたりこの制度の導入を提言し続けてきた元財務官僚で東京財団シニア政策オフィサーの森信茂樹氏によれば、最大の理由は第2次安倍政権下でこの議論そのものが事実上封印されていたことにあるという。もともと給付付き税額控除は、2012年の民主・自民・公明の3党合意で軽減税率と並行して検討されることになっていた。
ところがその後の安倍政権下では公明党が強く主張する軽減税率の導入が優先され、給付付き税額控除は「民主党案件」の烙印を押される形で棚上げされた。民主党政権を「悪夢」と呼んで憚らない安倍政権の下では、永田町からも霞が関からも、この議論を本気でやろうとする動きが出てこないのも当然だった。
 それがなぜいま動き出したのか。高市首相自身がもともとこの制度に関心を持っていたからだと森信氏はいう。自民党総裁選後、野党案を取り込む形で自民党が公約として押し上げ、ようやく制度設計のテーブルに載った。
 もっとも、給付付き税額控除と一口に言っても、国によってこの制度の目的はワーキングプアの若年層の救済や子育て世帯の支援、消費税の逆進性の緩和など、大きく異なる。森信氏は2008年の著書『給付つき税額控除』の中で各国の制度を4類型に整理し、日本で導入するなら目的と対象をまず明確にせよと主張していた。ここが曖昧なまま制度だけを入れると、結局誰のための制度なのか分からなくなってしまう。
 では、日本はどこに照準を合わせるのか。高市首相は施政方針演説で中低所得者の負担軽減を掲げた。しかし同時に、制度導入までの2年間のつなぎ措置として食料品の消費税をゼロにするとも言っている。これでは目的の方向があべこべになっている、と森信氏は指摘する。消費税減税は金額ベースでは高所得者ほど恩恵が大きい。中低所得者支援のための給付付き税額控除に至るまでのつなぎだというなら、消費税減税はそもそも筋が悪い。
 制度導入の障壁としてかねて言われてきた金融資産の把握については、ようやく状況は変わりつつある。今国会で議論されている後期高齢者医療制度の保険料について、金融資産を考慮して負担を求める仕組みが導入される見通しだからだ。同じ仕組みを使えば、給付付き税額控除の所得・資産把握も技術的には十分射程に入る。
 これまで日本が物価高対策と称して行ってきた給付は、結局のところ住民税非課税世帯や児童手当受給者に一律いくら、という粗い方法しか実行できなかった。政府が全世帯の所得を把握できていないため、本当に困っている人を支援する手段がなかったのだ。収入に応じて、本当に必要としている人に支援が届く制度を、この国はようやく手にできるのか。問われているのはそこだ。
 それにしても、制度設計に時間がかかりすぎではないか。新しい制度である以上、ある程度の準備期間が必要なのは当然だとしても、実はここまで話が進まない背景には、別の事情もあると森信氏はいう。この制度の実施には煩雑かつ膨大な事務負担が伴うため、どの省庁も所管したがらないというのだ。霞が関内部で押し付け合いが起きている、というのが実情らしいが、であるならばこの制度の実現には強い政治のリーダーシップが不可欠となる。まさに高市政権にとってはこれが試金石となる。
 年収の「崖」と呼ばれ、働き始めの若者に重くのしかかる社会保険料負担をどう軽減するかという論点も含め、この制度を20年見続けてきた森信茂樹氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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今週の論点
・なぜこれまで給付付き税額控除は実現しなかったのか
・各国の導入例
・人々の就労を促す給付付き税額控除
・給付に不可欠な「ガバメント・データ・ハブ」とは
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■ なぜこれまで給付付き税額控除は実現しなかったのか
迫田: ここ最近、社会保障や消費減税の話をしてきましたが、今日は「給付付き税額控除」がテーマです。社会保障国民会議で議論が始まっています。

宮台: 制度の目的がよく分からないので、税に関する制度なのか福祉の制度なのかよく分からず、良さそうでもあり良くなさそうでもあり、多くの人がぼんやりした頭で考えているのではないでしょうか。僕もそうです。

迫田: 今日は給付付き税額控除を20年以上ずっと提言されてきた、まさに第一人者の方に来ていただきました。東京財団シニア政策オフィサーの森信茂樹さんです。もともと大蔵省で官僚としてずっと税の問題に関わってこられ、財務総合政策研究所長などをされました。

森信: 私が課長の時、民主党の先生から、カナダにはRefundable Tax Creditというものがあり、消費税の逆進性を緩和しているのだが、これについて主税局長の所感を問うという質問が入りました。Tax Creditsは税額控除ですが、減税してもしきれない人に対しては返すということが一体になっていて、すごい制度だと思いました。それから皆で議論をして、「給付付き税額控除」という名前で翻訳をしました。これが日本では初めてだと思います。

迫田: 森信さんが翻訳されたと。

森信: 私というか、課ですね。ですが名前がとっつきにくいとも言われ、ある政党は「日本型ベーシックインカム」という名前で同じ制度を公約に掲げたりしていました。

この制度の言い出しっぺは、保守的な考え方を持ったミルトン・フリードマンという有名な経済学者です。所得税には累進性があり、ある一定の段階を超えた分から課税をしていくことになっています。そこで、社会保障については税金を取らない人には返していけば良いのではないかということで、課税と給付を分けた図を作ったんです。それが給付付き税額控除につながりました。これは良いというということでニクソン政権を経てフォード政権で導入されました。これを大きくしたのはクリントンで、まさにリベラルな民主党でした。