マル激!メールマガジン 2026年7月15日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1318回)
この再審法改正で冤罪被害者は救えるのか
ゲスト:稲田朋美氏(衆院議員)
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 日本の刑事司法には、長年「開かずの扉」と呼ばれてきた制度がある。再審制度だ。
 再審とは、確定判決に重大な誤りがあり、新たな証拠などによって有罪認定に合理的な疑いが生じた場合に、あらためて裁判をやり直す制度のこと。日本では再審開始までのハードルが極めて高く、手続きに関する規定も十分に整備されていないため、冤罪被害者やその支援者、弁護士らが長年にわたり法改正を求めてきたが、再審制度を所管する法務省は抜本的な改正に慎重な姿勢を取り続けてきた。結果的に開かずの扉の向こう側で、無実の人間が何十年も塀の中に閉じ込められてきた。
 しかし、袴田事件や福井事件など再審によって一旦は確定した有罪判決が覆る事例が相次いだことで、再審制度を70年ぶりに見直す機運が高まり、現在、再審法(刑事訴訟法の再審条項)の改正案が今国会で審議されている。ところが、提出された法案の中身と、そこに至る審議の過程を仔細に見ていくと、この改正が本当に冤罪被害者を救うためのものなのか、大きな疑問を抱かざるを得ない。
 まず、今回の法改正議論の背景にある冤罪事件のすさまじさを確認しておきたい。
 袴田事件では、1966年の逮捕から2024年の再審無罪確定まで、何と58年もの歳月が費やされた。逮捕から釈放まで実際に袴田巌氏が拘禁された期間は47年7ヵ月に及ぶ。しかもその大半を、袴田氏はいつ刑が執行されるかわからない死刑囚として、恐怖の中で過ごすことを強いられた。
 福井事件はさらに露骨だ。1986年に起きた女子中学生殺害事件で逮捕された男性に対し、検察は客観的な裏付けとなるテレビ番組の放映日を偽った捜査報告書を隠蔽し、事実上有罪判決を騙し取っていた。男性が逮捕から38年を経て2025年に無罪を勝ち取るまでの道のりは、筆舌に尽くしがたいものだった。
 なぜ冤罪被害者の救済にこれほどの時間がかかるのか。要因は2つある。検察による不服申し立て(抗告)が認められていることと、証拠開示規定の欠如だ。裁判所が再審開始を決定しても、検察が抗告を繰り返せば手続きは際限なく長期化する。実際、袴田氏は最初に再審の決定が下ってからも、検察が抗告を繰り返したために、無罪の確定までに9年もの不要な年月を費やすことになった。
しかも検察には弁護側に証拠を開示する義務がないため、被疑者や被告人の無実を証明する証拠が検察の倉庫に眠ったまま、そもそも再審の扉を開くこともできない事態が常態化してきた。
 今回の法改正はこうした状況を正すことが目的、のはずだった。ところが、今回法務省が提出した法案は、被害者救済の観点からは到底満足できる内容になっていない。
 法案では検察の不服申し立ては原則禁止とされているが、「十分な根拠がある場合」には例外的に認めるという大きな抜け穴を残した。もう一つの焦点である証拠開示についても、裁判所が請求理由に関連があると判断したものに限って開示させる「提出命令制度」の新設にとどまっている。さらに問題なのは、証拠の目的外使用を罰則付きで禁止する条項が盛り込まれたことだ。
この規定により、冤罪の第三者検証や、メディアによる報道までもが処罰の対象となる危険性が指摘されている。冤罪被害者を救うための法改正が、冤罪の検証を妨げる道具になりかねないのだ。
 なぜこのような骨抜き法案が提出されることになったのか。実は当初、国会内では超党派の「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が発足し、議員立法による法改正が目指されていた。議連は自民党の柴山昌彦氏が代表を務め、昨年4月時点で与野党の国会議員の過半数を上回る384名が参加するなど、議員立法による法案の提出と可決成立は十分に可能な体制が確立していた。
 議連がまとめた法案は、検察による不服申し立ての全面禁止、請求人への直接的な証拠開示と証拠一覧表の開示を定め、目的外使用の禁止規定も存在しない。冤罪被害者や弁護士らが長年求めてきた「満額回答」と言っていい内容だった。
 ところが、与党自民党は途中でこの議員立法の枠組みから離脱し、法務大臣から法制審議会に諮問する方針へと転換してしまった。法制審議会の事務局を担うのは法務省であり、法務省の中枢を占めるのは検察官だ。要するに、当事者である検察の「組織防衛」が露骨に優先された形となったのだ。結果的に議連案は、野党3党の共同提出という形で国会に上程されたが、自民党を含む反対多数で否決されている。
 議連で幹事長代理を務め、4月6日の自民党会合で法務省に猛抗議して注目を集めた稲田朋美衆議院議員は、権威ある法制審議会ならまともな法律を作ってくれると信じていたが、実態はまったく違ったと憤りを隠さない。法務省に騙されたとの思いを禁じ得ないと稲田議員は言う。
 ここで問われるべきは、より根源的な問題だ。なぜ国民から選ばれた政治家が、一行政機関に過ぎない法務省や検察を適正に統制できないのか。その根底には、政治家の側に深く根付いた、検察の捜査権に対する「恐怖感」がある。日本では公職選挙法や政治資金規正法の解釈にグレーゾーンが広く残されており、検察の裁量や匙加減ひとつで、多くの議員がいつでも捜査の対象にされ得る。検察を統制すべき立場の政治家が、検察に生殺与奪の権を握られているという転倒した権力構造が、そこには存在している。
 日本の刑事司法の現状は、国際的な常識からも大きく逸脱している。欧米の先進国では、検察による意図的な証拠隠匿は、司法妨害や職権乱用として明確な刑事罰の対象となる。翻って日本では、検察が自らに不利な証拠を長期間隠し続け、無実の人の人生を破壊した事実が発覚しても、誰一人として刑事罰に問われることはない。形式的な反省の弁が述べられることはあっても、組織としての真摯な謝罪すら拒み続けているのが実情だ。
 議連案の作成に携わった稲田氏は、与党の国会議員として最終的に法務省案を飲まざるを得なかったことに悔しさをにじませる。自らが作成に参加した満点の議連案に、反対票を投じることになってしまったのだ。しかし、同時に稲田氏は、今回の政府案が成立すれば、70年以上まったく手がつけられてこなかった再審制度における小さな「一歩前進」にはなるかもしれないとも語る。
 今回の改正案だけで冤罪を防ぐことはできないかもしれない。しかし、不十分な法制を今後さらにアップデートしていくと同時に、強すぎる検察権力を政治と社会がいかに民主的に統制していくかという、国家の根幹に関わる課題に、これからも私たちは向き合い続けなければならない。
 今国会で可決が見込まれる再審法改正案に対する評価と、真に正義が機能する司法を実現するために何が求められるのかなどについて、ゲストの稲田朋美氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・再審法改正のゆくえ
・政治家はなぜ検察に恐怖を抱くのか
・超党派議連による議員立法が実現しなかった理由
・間違いを犯しても謝らない検察組織は変わらなければならない
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■ 再審法改正のゆくえ
神保: 今日は議員会館に来ています。いま参議院で山場を迎えている、再審法の改正案について議論したいと思います。一連の冤罪事件を受けての再審法改正が、いよいよ実現するかという瀬戸際ですね。現在の法案が本当に十分なのか、色々と思うところもありますが、理想とはほど遠いかもしれないが一歩前進だという評価もあります。それらも含めて再審法の改正案について議論していきたいと思います。

宮台: 今日は皇室典範改正をめぐる採決も行われました。再審法も皇室典範も、日本で憲法的な体制の本質を貫徹することができるのかという問題です。女系か男系かといった議論は明治維新以降に出てきただけで、元々あったものではありません。「女系天皇ダメ」のような建付けはいったい何のために誰が言っているのか。天皇の政治利用の問題ですが、これも日本が立憲体制である以上、見逃せない問題です。
そういう重大な問題が国会で問題になっているということを頭に留めていただきたいと思います。

神保: さて、本日のゲストは衆院議員の稲田朋美さんです。今回、再審法をめぐり、稲田さんや井出庸生さんなどが積極的に発言をされていました。稲田さんは政府案に対して異議申立てをしていますが、特に再審法改正案に対してそこまで強くこだわっている理由や動機はどこにあるのでしょうか。

稲田: 私が再審法を改正しなければいけないと思ったのは袴田さんの再審開始決定が出た3年ほど前です。それまで刑事訴訟法はほとんど触ったことがなかったので、本当に白地から始めました。やはりこれだけ長く冤罪の被害を救済できないということは、憲法の迅速な裁判を受ける権利や、ずっと密室でやられていたということで公開の原則にも反します。再審法の世界では憲法の精神が生きていないことに驚愕し、改正しなければいけないと思い、取り組み始めました。

 最初の勉強会で鴨志田祐美弁護士と法務省審議官のやり取りを聞き、何十年も冤罪が晴れない事実の重みと、机上の理論をおっしゃっている法務省を比べ、弁護士会が言っていることが正しいと確信しました。その後、私の地元で福井事件というひどい冤罪事件が無罪になったこともあり、これは取り組まなければいけないという思いでやってきました。

神保: 再審法の改正については、長い間動かなかったものがようやく動き始めました。日本ではなぜか再審のハードルがとても高いのですが、改正によって少しは西側先進国として恥ずかしくないレベルになるかなという段階です。
特にそのきっかけとなったのは袴田事件でした。これは事件の捜査自体がめちゃくちゃで、判決では証拠のねつ造まであったということが言われています。袴田さんは無罪が確定するまで58年間、死刑囚の身分でした。再審請求が最初に認められてからも、再審無罪が確定するまでには9年間もかかりましたね。