マル激!メールマガジン
仁藤敦史氏:なぜ「万世一系・男系男子」でなくてはならないのか
2026/07/22(水) 20:00
マル激!メールマガジン 2026年7月22日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1319回)
なぜ「万世一系・男系男子」でなくてはならないのか
ゲスト:仁藤敦史氏(国立歴史民俗博物館名誉教授)
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7月17日、国会で皇室典範改正法が成立した。皇室典範の本則が本格的に改正されるのは、戦後初めてのことだ。
今回の改正は、皇族数の減少への対応として議論されてきた。皇族の数が減ったために、皇族一人ひとりの公務負担が重すぎるというのが、その理由だった。そのため、皇族の数を増やすために、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持できるようにすることと、戦後に皇籍を離脱した旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎えることを可能にすることが、その柱となっていた。元々はそういう話のはずだった。
ところが、いざ法案が国会で審議される段階になって、政府から国会に上程された改正法には、養子となった旧宮家の男子に生まれた男系男子に将来の皇位継承資格を認める仕組みが盛り込まれていた。そのため、今回の改正は、皇族数の確保という実務的な課題への対応にとどまらず、皇位継承制度そのもののあり方に関わるものとなった。
改正案のその部分をめぐり、国会では「男系男子による皇位継承が一貫した日本の伝統だった」という考え方が、主に保守系の議員らによって声高に主張され、最終的に法案にもその考え方が採用された。その背景には、「皇統は神武天皇以来2600年、例外なく男系で受け継がれてきた」という特定の歴史認識があるようだ。
しかし、現在、皇族の中には未婚の女性が愛子内親王、佳子内親王を始め5人いる一方で、男性は悠仁親王1人しかいない。皇位の継承を男系男子にしか認めないということになると、現在は次世代の皇位継承者が1人しかいない状態で、皇統の継続性という意味では非常に不安定な状態になる。そこで、旧宮家から天皇の血を引く男系男子を養子に取ることを可能にするという、かなりアクロバティックな案が今回の法改正に盛り込まれた。
しかし、この「男系男子は2600年間日本が守り続けていた伝統」という前提は、歴史学的にはどこまで実証されているのだろうか。
日本古代史を専門とする国立歴史民俗博物館名誉教授の仁藤敦史氏は、「神武天皇以来2600年」という年代観そのものが、7世紀から8世紀にかけて『日本書紀』が編纂される過程で盛り込まれたものであり、歴史学が実証できる天皇の系譜は、それよりかなり後の時代からだと指摘する。また、日本の歴史には8人10代の女性天皇が存在しており、「男系男子」が皇位継承の唯一の原則として制度化されたのは、実は明治期の皇室典範制定以降のことだという。
もちろん、男系継承を重視する立場にも理由がある。保守派は、男系男子による継承こそが皇統の連続性を担保し、それこそが日本の皇室の独自性を支えてきたと主張する。そのため、仮に女性天皇は容認したとしても、女系天皇だけは認められないとの立場を取る人が一定数いることも事実だ。
しかし、そもそも、「万世一系」「男系男子」という考え方は、本当に日本の長い歴史を通じて変わることなく受け継がれてきたものなのか。
皇室典範によって現在の皇室制度の骨格が作られたのは明治期に入ってからだが、実は明治政府が皇室制度を整備する過程で、当時、内閣総理大臣と宮内大臣を兼ねていた伊藤博文の下では、男系が途絶えた場合に女性天皇や女系継承を認める案が検討されていたことが歴史的にも実証されている。しかし、それに対して伊藤の下で法制度の整備を進めていた参事院議官の井上毅らの強い提言を受けて、最終的に「男系男子」が皇室典範に明文化されることになったのだという。
では、井上はなぜそこまで男系男子にこだわったのか。その背景には、当時の明治政府を取り巻く状況が色濃く反映されていたと考えられている。
260年続いた徳川の治世が終わり、薩長を中心に形成された明治政府は、政府の正統性を高めるために天皇の権威を最大限に利用した。そうした中で後に内閣法制局長官の座に就く井上は1886年に伊藤に提出した「謹具意見」の中で、国家の最高権威である天皇だけは政治から切り離された絶対的な存在にすべきだと説き、皇統に疑義が生じないことや王朝交代の可能性を完全に排除するためには、男系男子を制度化することが必要だと進言した。
つまり、「男系男子」は明治政府にとって、自らの正統性を高めるための手段として提案され、そして採用されたものだったと考えられているのだ。
今回の改正では、1947年に皇籍を離脱した旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎えることで皇族の数を増やすと同時に、皇位継承者の数を増やすことが想定されている。しかし、旧宮家の源流は室町時代に成立した伏見宮家にまで遡るもので、数百年前まで遡らなければ現在の皇室との共通祖先にたどり着かない。早い話が遠い遠い親戚でしかない。あえてそうした人々を皇族に迎え、その子孫に将来の皇位継承資格を認める一方で、現在の女性皇族の子どもには継承資格を認めないという制度設計に、今の日本でどれほどの正当性があるのだろうか。
皇室は日本国憲法の下では「国民の総意に基づく」象徴だとされている。その皇位継承制度を考えるとき、私たちは歴史的事実をどのように理解し、何を「伝統」と呼ぶべきなのか。皇室典範改正をめぐる議論を振り返りながら、「万世一系」「男系男子」という考え方はいつ、どのように形成され、どのような形で今日まで受け継がれてきたのか。21世紀に生きるわれわれはその歴史的経緯をどのように受け止め、どう制度に組み入れていくべきなのかなどについて、仁藤氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・なぜいま皇室典範改正なのか
・明治の皇室典範に「男系男子」が書き込まれた経緯とは
・万世一系の物語は歴史学的にどこまで実証されているのか
・天皇の政治利用をめぐる問題を考える
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■ なぜいま皇室典範改正なのか
神保: 今日7月17日は国会も大詰めということで、色々な法案が通りました。今日取り上げる「皇室典範」改正の他にも、法制審議会が上げてきたバージョンの「再審法」や、「国旗損壊罪」法など、立て続けに法律が通っています。
どの法律も問題は多いのですが、皇室典範の改正案については特にちゃんと議論した方が良いのではないかと。本当に話さなければいけないことを話さずに別の話をして、本当に話さなければいけないことを下から入れてくるような状況です。その結果、本音なのか建前なのかがが分からないような法案が通ってしまいました。
宮台: 最初からこれは天皇制を無力化するための策動だと考えられます。上野千鶴子さんは、これは天皇の制度的な延命を図るものだとおっしゃっていましたが、それは全くの間違いです。憲法意思、あるいは立憲意思とは、もしファウンディング・ファーザーズがいま生きていたら何を言うのかということです。もしいま生きていたらということを考え、自分たちを想像的に抑制する機能が立憲意思です。
日本は幕府以降、天皇が何を考えられているのかということが、粗雑な武士たちの幕藩体制を何とか正当化していたということもあります。安倍氏や高市氏は非常に不敬な存在で、とにかく天皇を無力化したくてしょうがないんです。
神保: 皆さんには今日の議論を聞いていただく中で判断していただきたいのですが、今回の皇室典範改正の議論を見ていると、日本の悪いところが出たと思います。意見は世代ではっきり分かれます。若い人たちからすれば「大人は何をやっているの」という感じで、建前ではなく本音を言えば良いのにと思っています。しかし世代や社会の中でどこに所属しているかによって「言わないことになっている」という考えになんです。それがぐちゃぐちゃになった結果、意味不明の法律が通ってしまいました。
きちんと中身や歴史を検証しながら見ていくことが重要だと思いますが、皇室の歴史を聞くにはこの方ほど最適な方はいないと思います。今日のゲストは国立歴史民俗博物館名誉教授で、日本古代史がご専門の仁藤敦史さんです。今日たまたま法案が通り、一連の議論はご覧になったと思いますが、この法案や法案をめぐる騒動をどのように見ていますか?
仁藤: やはり無理がたたっている感じがします。戦後に側室、宮家、女帝がだめだということになり、三方塞がりになりました。そこで何とか続けるために出てきた措置だと思います。
神保: 先生に来ていただいた以上、どうしても伺いたいことがあります。自民党の政調会長が、2600年の歴史、万世一系、男系のみで来たということを国会の場で言っているような状況なのですが、その歴史的な実証性についてきちんと伺いたいと思います。一体いつからそんな話になったのか、どういう目的でそうなったのかということも検証したいと思います。
まずは今日成立した改正皇室典範の中身を見ていきます。上皇が生前退位する際に皇室典範の附則に書き込んだことはあるのですが、本則の改正は戦後初めてのことです。皇室典範はただの法律なので、国会の多数によってもちろん改正もできます。
今回の皇室典範の改正の内容は、大きく分けて2つです。
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