マル激!メールマガジン
藤井克徳氏:津久井やまゆり園事件の検証は不十分だ
2026/07/29(水) 20:00
マル激!メールマガジン 2026年7月29日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1320回)
津久井やまゆり園事件の検証は不十分だ
ゲスト:藤井克徳氏(日本障害者協議会代表)
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2016年7月26日未明、相模原市の県立障害者支援施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害され、入所者と職員あわせて26人が重軽傷を負った。戦後日本最悪級の大量殺人事件であり、犯人は施設の元職員だった。「障害者は不幸しか生まない」と語ったその考えは社会に大きな衝撃を与えた。事件から10年、私たちは何を検証してきたのか。
裁判を傍聴し、拘置所で犯人と面会し、手紙のやり取りも重ねてきた日本障害者協議会代表の藤井克徳氏は、事件の真相究明はいまだ不十分で、本格的な検証は行われていないと指摘する。
今年7月の国会で高市首相は、事件後の検討チームで事実関係や再発防止策を議論したと答弁した。しかし2016年の厚労省報告書は、措置入院後の支援や施設の防犯体制に焦点を当てる一方、事件の背景や社会に根付く差別意識には踏み込まなかった。国連障害者権利委員会も2022年、日本政府に優生思想と非障害者優先主義の観点から事件を見直すよう勧告しているが、実現していない。
裁判では責任能力が主な争点となり、犯行の背景は十分に解明されなかった。被害者は「甲Aさん」など匿名で扱われ、19人がどのような人生を送り、なぜ標的となったのかも十分には語られなかった。「事件は封印されてしまった」と藤井氏は語る。
犯人の障害者観がどのように形成されたのかを知るため本人と対話を重ねてきた藤井氏は、家庭環境や職歴、社会的背景、精神的要因など複数の要素が重なり合っていたのではないかという。だからこそ、社会全体で事件を検証する必要があると藤井氏は訴える。
今回の事件の背景には、日本社会に根強く残る優生思想がある。優生保護法は1996年まで「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」と定め、およそ2万5,000人に強制不妊手術を行った。優生思想は個人の偏見ではなく、国家政策として制度化されていたのである。
旧優生保護法違憲訴訟では最高裁が国の責任を認め、補償法も成立した。しかし施行から1年半が過ぎても補償認定は対象者のほんの数%にとどまり、被害の掘り起こしは進んでいない。精神医療における強制入院や身体拘束の問題、政府から独立した国内人権機関の未整備なども含め、日本の人権意識は依然として大きな課題を抱えている。
事件を特異な犯人だけの問題として終わらせれば、社会の責任は見えなくなる。生産性や自己責任が重視される現代社会の中で、「内なる優生思想」は誰の中にも潜んでいるのではないか。事件から10年を迎えた今、なぜ十分な検証が行われなかったのか、私たちは何を学ぶべきなのかについて、「人権は与えられるものではなく獲得するもの」と語る藤井克徳氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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今週の論点
・事件から10年経っても十分な検証はされていない
・私たちの社会は優生思想を乗り越えることができたのか
・政策が変われば人々の意識もついてくる
・なぜ国内人権機関の設立が必要なのか
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■ 事件から10年経っても十分な検証はされていない
迫田: 障害者施設の入所者19人が殺害された「津久井やまゆり園事件」から10年が経ちます。衝撃的な事件でしたが、われわれの社会は事件をきちんと受け止めて検証し、教訓を学ぶことができているのか、考えたいと思います。10年ということもあり、少しは新聞報道などもありますね。
宮台: 新聞を見てもほとんど意味がない感じがします。殺人をした植松という男は、もともと比較的リベラルな人間だったとされています。そうでなければ職員になろうとは思わない。彼の内面で何が起こったのか、それが彼の生まれ育ちとどういう関係があるのか、彼がもともとリベラルだったとしても、持っていた世界観がどう影響していたのかという問題を知りなければなりません。そうしなければ植松固有の問題なのか、たまたま植松が引き金を引いてしまったけれど多くの人たちに同じような土壌があるということなのか、分かりません。
迫田: さて、本日のゲストは日本障害者協議会代表の藤井克徳さんです。ビデオニュースでは10年前、事件が起きた翌日に藤井さんにインタビューをさせていただきました。その後、裁判の判決が出る直前に問題点などを語っていただきました。植松に面会もしていて、手紙のやり取りもあったということで、人物像についてもある程度お考えがあると思います。10年という長さの中で社会がどう反応してきたのか、検証はどうだったのかなど、振り返るとどのように感じますか。
藤井: この10年はコロナもあり少し変則的な社会でした。しかしその一方でトランプの2期目が始まり、競争原理や市場原理が一層強まっています。そういう流れの中で植松の問題は単に時間が過ぎたということではありません。むしろ「小さな植松」と言っても良いような、彼の行動や言動を賛美するような声も含めて事態はあまり好転していない。障害分野からは悪化しているように見えます。
迫田: ちゃんとした検証もされていないということですか。
藤井: 検証と名がつく公的な文書は2つ出ています。1つは厚労省が検証したという文書で、もう1つは神奈川県のものです。厚労省の文書は検証とはほど遠い内容です。例えば共生社会をどう作るか、退院した後の生活の場がどうか、措置入院制度に問題があったなどです。
迫田: 植松は措置入院の後に事件を起こしたからということですね。
藤井: はい。措置入院制度に問題があったから精神保健福祉法を改正すれば良いということになっている。また警察官同士の連携が悪かったとか、社会福祉施設の防犯対策が弱かったということしか言っていません。彼の人間像や本当の意味での状態像がどうだったのかについては全く迫られていない印象です。
神奈川県の検証は、事実関係については克明に書いてあります。しかしそれは「検証のための準備」であり、「検証」には手がつけられていません。はっきりしているものは裁判の判決だけだと思います。
迫田: 藤井さんは裁判の終了によって事件は「封印された」という表現をされていましたが、それはどういうことでしょうか。
藤井: 2020年3月16日に横浜地裁の判決が出ました。その後、弁護団は控訴した方が良いと言ったのにもかかわらず、彼はそれを振り切って控訴せず、3月31日午前0時に死刑が確定しました。裁判以外で彼の意見を聞く場はないので、深い闇の方に向かっていってしまったという印象を持っています。
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