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現代浦島後日譚其壱
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現代浦島後日譚其壱

2014-12-30 00:29

    1998年の春頃、俺は人を殺した。
    相手は女だ。半年くらい前から薄々おかしいとは思っていたのだが、
    ある寒い日に他に好きな人が出来たと携帯電話のメールで告げられた。
    俺は浮気したりしなかったが、もうこいつと結婚して子作りして
    それなりの家庭を持つものなのだろうと勝手に想像していたのだが
    今思うとなんと愚かなんだろう。

    その勝手な想像から、婚約を口にする前から既に、空気扱いしていた感が
    あったことは否定できなかった。彼女に対する扱いが雑だったと思う。
    そもそも婚約をすることはなかったのだが。

    別れのメールを見たその瞬間は別段腹をたてることはなかった。
    もしかしたら愛情などとうになくなっていたのかもしれない。
    メールの文面はこうだ。

    前に話した大学時代の後輩とつきあうことにしました。
    いままでありがとう。

    6年近く付き合っていたものがたったこれだけだ。
    怒りというよりも呆れて本当にどうでも良くなってしまった。
    なので、わかりました。さようならとだけ返信した。
    これで終わったはずだ。

    しかし、話はこれでは済まなかった。
    あろうことか、俺が打った返信にさらに返信が来たのだ。

    たったこれだけ?
    事情を説明させてもらえないの?

    まぁ頭の悪いクソビッチの考えそうなことだ。
    「事情の説明」をすることで自分自身への贖罪をしようとしているのだ。
    今や用なしとなった俺を使って。

    頼みもしないのに長文のメールがじゃんじゃん届く。

    6年も付き合っててさようならしかいうことがないなんてひどい
    そもそもあなたが私を向いてくれないから気持ちが移った。

    別れたいのはお前だ。さようならで済むなら簡単でいいじゃないか。
    気持ちが移った原因は俺にあるのは否定しないのでそれでいいだろう。
    返事はしないまでも考えなくてもいいことが頭を巡る。

    その彼とは大学時代の後輩で街でばったり会った。
    実はあの頃私の事が好きだったと言ってくれた。
    故郷が同じということもあり、年末年始の帰省を一緒にしたり
    帰省先でお茶を飲んだりしているうちに男と女の関係になった。

    いやいや、本当に聞きたくないことまでなんでもバラすな。
    文字だからって伝えていいことと悪いことがあることくらい分かれよ。
    こういう頭の悪さが目立つから結婚も躊躇していたというのに。
    はいはい、女をないがしろにした俺が痛い目みましたよ。これでいいか?

    最後にメールじゃなくて会ってちゃんと話がしたい。

    俺の心を殺すに十分な情報が頼みもしないのに揃っていた。
    これはさすがに出来心の浮気とは違う。
    もう未練がましくするのもみっともない。できるならこのまま一生
    顔を合さないほうが幸せなはずだった。お互いに。
    しつこいにも程がある。いいかげんにしろとよせばいいのに音声通話で
    怒鳴りつけてやろうとした。

    電話口の彼女は泣いていた。
    もらい泣きするどころか俺にはその理由がさっぱりわからない。
    ただ次に「さようなら」と言って電話が終わることだけを望んでいた。
    こいつにしてみれば都合のいい男に乗り換えて幸せなはずだろう。
    その涙に一切の呵責も感じられない。お前は一生泣いてろ。
    夜にありがちな別れの儀式とやらをひと通り済ませたのだから
    もういいだろう。開放してくれないか。

    長い沈黙。俺にとっては本当になんの得にもならない時間が過ぎていく。
    挙句、やはりどうしても最後に対面でお別れがしたいと言う。
    てめえこのやろういいかげんにしろと電話を叩ききった。
    これで女を寝取られたみじめなおっさんの物語も終わりだな。

    翌日、彼女が俺のアパートに乗り込んで来た。
    理由は言うまでもなかった。あいつの自己満足に何故この傷心の
    俺が付き合わねばならぬのか。そんな義理はもはやないはずである。
    しかしまあ通り一遍話を聞いてやれば気が済んで帰ってくれるだろう。
    俺は話を黙って聞いてやることにした。今思うと本当に甘かった。

    彼女から出る話は涙とともに俺への不満と、いかに新しい彼氏へ気持ちが
    動いたのか、あろうことかベッドの中の会話に俺が何度も出てきていたことまで
    本当にいらんことの極みだった。薄ら寒い。
    しつこさのあまり、俺の中で何かが切れた。体が軽い。

    気がついたらもう両手が彼女の首を絞めていた。
    足をばたつかせ、手は俺の手を引き剥がすような動きをしてきたが、そのうち
    俺の手の甲を掻きむしるようになった。痛いので捕まえてる首を大きく横に振り、
    買ったばかりのラグを敷いている床に引き倒す。手に何かが折れる感触。
    見開いた眼球は左右に揺れ、彼女の長い髪は逆立っていた気がする。
    あ”がっ・・あ”・・という嗚咽。口角から泡、よだれ。
    特定できないツンとした匂いがしたところで絶命した。

    続く


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