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現代浦島後日譚其弐
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現代浦島後日譚其弐

2014-12-30 00:33

    両腕に乳酸がたまり、息が荒れていた俺はしばらくその場で正座し呆然とした。
    さっきまで彼女だったモノは小の字に横たわる。外は日が暮れていた。

    呆然と彼女を見つめ、どうしてこうなったのかこれまでのあらすじを手繰る。
    ああ、俺が殺したのかと気持ちが理解した時には日付が変わっていたと思う。
    すっかり冷静だった俺は死体の処理について考えた。
    幸い、このアパートは空き部屋もあり、民家も離れているため人が少ない。
    夜中になると世界には俺一人しかイないんじゃないかとさえ思える静けさだった。
    まぁ田舎だしあたりまえか。そして車もあるので移動には困らないだろう。
    そう考えた俺はそれを毛布で巻き、仕事で使うため運搬用のカートに載せ、
    アパート横の駐車場まで運んだ。

    殺人事件ではセットと言ってもいいほど「死体遺棄」が罪状に付いてくる。
    今、こんなことをしでかした俺なら今までニュースで出てきた猟奇殺人の
    犯人がどう考え行動に移したのかなどの心理や動機がなんとなくわかる。

    まず、やってしまったことをなかったことにしたい願望。これが大きい。
    そっと蓋を閉じる感覚で自分の目に触れないところに置いておきたいのだ。
    俺は異常性癖は持ち合わせていないのでその後の腐乱の状態を見ても
    興奮しないのだから一旦見えないところに置いたら二度と見たくない。

    次にその腐乱が問題だ。生物はその生命活動を終えるとすべての細胞が
    死んでしまう。いわゆる「土に還る」というやつだ。空気や土などに
    含まれる成分や微生物などにより分解されていくのだが、生きている者に
    とってはこれは五感すべてを刺激するひどく不快で危険な物体となる。
    本能として死体への畏怖や嫌悪もさることながら分解の過程で生まれるもの、
    その副産物すべてを語ることは難しいが、生者がその分解の過程を
    至近距離で見届けることはまずもって不可能なのである。

    よって、それを自信から遠ざけようと考えるのは自明の理なのだ。

    行ってきたよ、福座山と煤ヶ森の間の、名前もない山に。
    そこの地主すら既に死んでて、権利の所在もわからない、山菜も熊も猪も
    その山から採ってきた、捕ってきた、撮ってきたという話は聞いたことがない。
    川はあるがこれもまた沢なのか小川なのか名前もだれも知らない。

    ダム建設の予定なども聞いたこともなく、万が一立ち退きの話が出ても
    沈むべき家がない、そんな山だ。もともとここの地元の人間ではないが、
    地元の人間すら立ち入らない土地だ。しかし何故か国道59号線という
    立派な名前の道路があるのだが、土砂崩れのためか途中で寸断され、
    自治体も直す気が全くない、俗にいう酷道だった。

    車を止めたのは山の中腹、何番目かのヘアピンカーブの最も外に膨らんだ部分。
    ガードレールも蹴飛ばせば崖の下に落ちていきそうな朽ち方をしていた。
    ハッチバックを開け、毛布に巻かれた遺体を肩に担ぎ、躊躇もなくガードレールの先へ、
    谷底へ落とした。十秒くらいの後、ガサガサと木の揺れる音がした。

    一仕事を終えた俺はタバコに火点け、紫煙をくゆらせた。
    それを胸一杯に吸い込み、ニコチンが体を巡ったのを確認したところで
    大きくテンションが上ってしまった。車に戻ると乱暴にキーを回し、
    下り坂だというのにアクセルをベタベタと床に踏みつけた。
    カーステレオから流れるお笑いグループが出したヒット曲に合わせて
    大声で歌った。今度いつもの友人とカラオケで歌おうと思っていたんだ。

    帰宅した時は明け方で、TVをつけるとローカルTV局による、
    放送開始のオープニングが流れていた。しばらくすると日付と時刻が
    アナウンサーによって告げられ、朝の情報番組が始まった。
    もしかすると帰宅がもっと早く、TVからは砂嵐、カラーバーだったら
    上がったテンションの下げどころもなく、不安でどうにかなっていたかもしれない。

    それから数日経過したが普通の毎日だった。
    もしかして俺彼女を殺したりなんてしていないのではないだろうか、
    そもそも俺に彼女がいるわけがないじゃないかと思い込む自分がいた。
    彼女は俺の会社の同僚で、今でこそ支社は変わってしまったが当時の仲間で
    たまに集まっては当時を懐かしんだり、近況を報告しあっていた。
    社内では公認の仲だった。結婚式いつすかーなんてからかわれたっけ。

    そんな「普通」の毎日が終わったのは意外にも早かった。
    その日は遅番のシフトだったので朝9時まで寝ていられたため前日は意味もなく
    夜更かししていた。午前3時に就寝したその3時間後

    ドンドンドン!

    インターホンではなく、直接ドアを叩く音。
    某国営放送の集金対策にインターホンの電源は切っておくのが俺の流儀。
    時計を見るとまだ朝の6時すぎだ。こんな時間にNHKもないだろうに。
    予定のない訪問者、しかも夏が近く夜明けが早いとはいえ寝静まった早朝だ。
    さすがにこれは怖い。しばらく様子を見る。

    ドンドンドンドンドン!

    ドアの音とともに俺を呼ぶ声。ドア先の雰囲気が一人でないことを察する。
    これは明確に俺に用があって来たのだからと仕方なくドアを開ける。

    羊門警察署です。
    殺人事件の重要参考人としてお宅の家宅捜索の令状が出ています。
    あなたも任意同行をお願いしますがよろしいですね。

    恰幅のいいオッサンが目の前に白い紙を突き出しそう言った。
    寝入りばなを叩かれたとはいえ、寝ぼけはしたものの状況は理解できた。
    小さく「はい」」と返事をすると後ろに控えた捜査関係者が数名、10人いたかも
    しれないがどかどかと部屋に入り込み、部屋にあるものをダンボールに
    詰めはじめた。家電製品は持っていかないんだな、引越し屋じゃないもんな。
    証拠品の押収が終わると、俺も一緒に警察署へ移送された。

    早朝6時だというのにアパートの住人が何事かと寝巻き姿でこちらを見る。
    こらこら見せもんじゃねえぞこのやろうと思ったが言うとこれから起こる
    出来事がさらに悪い方向へ行くのではと思い、黙って俯くことにした。

    警察署へ移送される間、住んでいた街の主要な所を通った。
    これでこの景色も見納めなのかな、とかそういうことを考えていた。
    ついにバレたかというより、やっぱり俺、人殺しだったんだという再認識の
    作業が脳内を埋め尽くす。途中の牛丼店のオレンジ色がやけに眩しかった。

    続く
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