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現代浦島後日譚其参
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現代浦島後日譚其参

2014-12-30 19:00

    そこからの話はスムーズだった。
    警察署の取調室、あのカツ丼を食う所に入ってからすぐに自分のしたことを話した。
    それまで一人で黙っていたためか、聞いてほしいという願望もあったのかもしれない。
    その後の調べで山の道路のスリップ痕と車のタイヤが一致、死体遺棄について
    供述の通り遺体が発見されたことでそのまま逮捕となった。

    一介のサラリーマンには特別な弁護士をつける余裕もなく、勝手に決められた
    当番弁護士が弁護についた。起訴事実そのものではなく情状酌量を求めることとなった。
    検察側の証人として、彼女の両親や新たに彼氏になったばかりだった後輩君が出廷し、
    静かに俺を非難し続けていた。お前人の彼女寝とっといてなんだその言い分は。
    弁護側としては会社の同僚が駆けつけてくれ、
    普段の仕事ぶりや当時の二人の仲の良さ、俺がどれだけ彼女を愛していたのかを
    何かの本を朗読するかのように語ってくれた。それでも有りがたかった。

    彼女の遺体写真を見た時は絶句した。
    高さの分からない崖から毛布に包んだまま落下させたため、物理法則に従った
    ランダムな損壊が行われたため、それは凄惨なものだった。
    彼女の両親がそこで泣き崩れ、俺を罵倒し、そのため退廷させられていった一幕もあった。
    およそ2ヶ月後に出た判決は懲役16年。求刑20年に対し妥当であると控訴はしなかった。

    刑務所生活は世間一般のイメージほどは酷くなかった。
    食事は別段臭いということはなく、ただ大食らいの俺には「おかわり無し」が
    辛かった。ある年まで毎年2kgずつ減ったと思う。
    工場でひたすら文鎮のような金属に穴を開ける作業は辛かったがまじめにやった。
    数年で模範囚扱いとなり、班長として新米受刑者への指導も任された。
    楽しみといえばたまに両親が面会に来てくれては甘いモノを置いていったのだが
    同じ房のみんなで「お土産」を持ち寄り、夜中にこっそり食べたりしたことくらいか。
    両親といえば、借家住まいで老い先短いので何か残してやりたいと思い、
    俺のアパートの家賃は払い続けてくれているのだそうだ。母親がたまに掃除して
    いるという話を聞いて布団の中で一人泣いたこともあった。

    仮出所の日が来た。
    金属に穴を開けるだけの仕事を真面目にやったのが認められ、約16年の刑期だった。
    当時28だったのがもう40歳を過ぎていた。男として一番脂の乗った時期をこの灰色の
    空間で過ごしてしまったわけだ。言い方は悪いが反省はしているが後悔はなかった。
    父は服役中に亡くなり、母は認知症が進み特別養老保険施設にいると聞いていた。

    それにしても刑期が終わったら本当に刑務所からポンと放り出されるんだな。
    人の身長の3倍はあろうかという門扉の開け閉めを任されている刑務官に
    「もう戻ってくるなよ」みたいなことを言われることも特になく。
    だいたい刑務所なんて繁華街の真ん中、駅前にあるというわけでもないから
    どこへ行くにしても遠くにある最寄り駅へ向かうことになる。出所直後の元囚人なんて
    金持ってるわけがないと思われているからか、タクシーも通らないじゃないか。
    いくら懲役刑の手当が少ないといっても月3000円、12年分かけてみろ
    シャバで無駄に借金できない分最低でも数十万円は手元にあるんだぞ。
    と息巻いてもしかたがないので1時間ほど先の駅まで歩いた。
    何度も言うが刑務所のある地域にターミナル駅があるわけもなく、
    そこは1時間に3本あるかないかのローカル線の小さな駅だった。
    これだけ寂れた駅だけに改札に駅員がいない。切符は誰が切ってくれるのだろう。
    しばらく様子を見ているとガラス面に表示された金額の切符をお金を入れて買い、
    それを改札にある細長い機械に入れているではないか。なるほどそうやるのか。

    そうは言っても元々IT関連、当時はマルチメディアとか言ってたっけ、
    この類の機械がド素人というわけではない。ほれぴこぴこ。がしゃーん。
    改札を抜けるともう電車が待っていた。中は人もいなければ中吊り広告もなかった。
    これはどんなに都会の電車に乗り換えても変わらなかった。
    昔は週刊誌の見出しを見るだけで国内の関心事が一目でわかったものなのだが。
    これでは新聞のあった刑務所のほうがどれだけマシなのか。

    しばらく電車に揺られているとそのうち数人が乗客としてやってきた。
    学生とサラリーマン。あと若い女性がいた。みな無口で手のひらを見つめていた。
    遠くてよく見えなかったが手の甲を外にして手のひらに親指を乗せて動かしていた。
    なんだあれは。最近流行の頭を柔らかくする体操か何かだろうか。
    驚くほど俺以外の全員がその「体操」をやっていた。
    ふむ。上級者は両手でやるのか。と、俺も手のひらを見つめてみたが
    特に刺激を受けるような動きを見つけるでもなく何も面白くなかった。

    そうだあれは知ってるぞ。ポケベルだ。流行に敏感な女子高生が
    公衆電話にかじりついてメッセージを送っていたあれだよ。なるほどね。
    しかし時代とともにああいうものは小さくなっていくはずなんだが
    よくみると手のひらより大きいことに気づいた。ははーん、わかった。
    あれはゲームウォッチとかゲームボーイとかの携帯ゲームが進化したやつだな。
    それなら厚みが極端にスリムになっていることも理解できる。

    それにしても「老」はいないんだが若男女が乗車中ずっといじっているのが気になるな。

    大きな駅に着いた。
    塀の中の風呂がごとく人がひしめいていた。
    仕事へ向かう者、故郷へ帰る者、様々なのだろう。
    先ほどのゲームボーイを駅の構内を歩いている人までもがいじっているのには驚いた。
    スリとかひったくりに遭ったりしないのだろうか大丈夫なのか。
    器用には歩いているがそれほどまでに熱中するあのゲームが気になるな。
    いい大人がジャンプを読んでるくらいの恥ずかしさすら微塵も感じないのが怖い。

    続く


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