• 渡辺浩弐のトークエッセイ7月11日 感想文

    2020-07-11 04:50
    渡辺浩弐のトークエッセイ7月11日を見た感想

    渡辺浩弐のトークエッセイとは、小説家であり株式会社ジーティーヴィー代表である渡辺浩弐によるYouTubeライブ。配信チャンネルはGTV

    今回は「渡辺浩弐のトークエッセイ7月11日 2020.07.11 (配信アーカイブ)」の感想を書きます。

    以下の文章はトークエッセイの内容紹介や、それを聞いて私が思ったことなどを記しています。授業を聞いてそれをまとめ、感想を書くようなイメージで書かれています。私が聞いていて解釈を間違えた内容が、間違えたまま書かれている可能性があります。あらかじめご了解ください。

    また、人の会話は文章にした時に削ぎ落とされてしまう部分にも、お話やその人の本質が含まれるものだと思います。未試聴の方はぜひとも動画を見ていただきたいです。


    渡辺浩弐のトークエッセイ7月11日 2020.07.11 (配信アーカイブ)

    トークテーマ(サムネイルより):コーヒーブレイクしましょう。

    コーヒーをおいしく飲むためのコツ

    1. 豆を自分で選んで買うこと
    2. 豆を自分で挽いて、挽いたらすぐに淹れる
    3. 蒸らすのをサボらない(40秒から50秒)

    コーヒーを入れることは極めてゲーム的。淹れ方を変えることで味をコントロールできる。

    コーヒーは酸味と苦みが数値の両極に存在する。同じ豆であっても以下の三要素を変えることで酸味と苦味の度合いを変えられる。

    1. 焙煎の度合い(浅煎りorこんがり)
    2. 豆の粉砕の細かさ(荒目or細かく)
    3. 抽出する際のお湯の温度(ぬるめorアツアツ)

    焙煎を浅く・荒く粉砕・ぬるめのお湯でつくる→酸味の強いコーヒーになる
    こんがり焙煎・細かく粉砕・アツアツのお湯で作る→苦味の強いコーヒーになる

    コーヒー屋さんに並んでいてこんがり焼いているのはイタリアンロースト。浅煎りはライトロースト。中くらいがシティロースト(参考URL)。

    最近はスタバやマックでも、こんがり挽いた豆の苦いコーヒーに砂糖を入れて飲むのが主流。しかし昔は酸っぱいコーヒーが流行っていた。純喫茶と言われる時代の喫茶店のコーヒーは酸っぱかいものが多かった。これは眼も冴える。渡辺さんも最近は酸っぱいのが好き。アメリカンコーヒーはイコール薄いという意味ではない。本来は、酸っぱい味でビジネスマン向けに作られる、さっと淹れられて目を覚ますもの。

    コーヒーは自分でいろいろ試しているうちに、飲む前から味が分かるようになる。また、飲みたい味のコーヒーを淹れられるようになる。味をコントロールすることはゲーム的で面白い。コーヒーは飲む環境や自分の体調で味が変わるように思えるが、コーヒー自体は同条件なら必ず同じものを作れる。複数の豆の配合をそれぞれ何パーセントにするか、どれくらい焙煎するか、粉砕するか、お湯の温度と蒸らす時間をどうするか。これらを同じように設定すれば必ず同じ味になる。必ず同じ味を作れるということは、その時々の自分の気分によって味わい匂いを選んでつくることができる。

    コーヒーに限らず、料理は職人芸のような経験がものをいう世界と思われがち。渡辺さんはコーヒーを10年以上淹れてきて、料理とは本来デジタルに味を規定できるものではないかと考え始めた。

    ともすれば信仰すらされる、職人が持つ秘密の技術などは本当は存在していない。突き詰めればそのような技術もデジタルにパラメータ化できるのではないか。師匠の後ろ姿を何十年見て分かった気になる必要はなく、職人芸すら再現できるはずである。


    理系の立場から数字を用いてコーヒーの価値を記した本が少ないが存在する。

    コーヒーの科学旦部幸博・著

    医学系、バイオ系の研究者。

    コーヒーとはそもそもなんなのか。どういう植物なのか、どんな種類があり、どこで生育しているのか。それをどうやって焙煎・抽出して飲んでいるのか。そういう基礎から紹介されていて、読み物としてまず面白い。そこから徐々に自身の研究室を用いたと思われる数値的な具体的な話も出てくるが、難しいと思わず読んでほしい。

    どう加工・加熱したらコーヒー豆にどのような変化が起こっているのかを図やグラフを用いて記されている。科学者としての分析データのビジュアル化によってそれらがわかりやすい。プロセスから結果まで、理系ならではの立場からコーヒーのおいしさを分析している。

    工学屋の見たコーヒーの世界広瀬幸雄・著

    金属疲労に関する材料強度学の専門家。変わった研究でイグノーベル賞も取った方。

    コーヒーについて匂いや味わいの分析や、抽出条件を変更して液体性の変化を分析している。その反面で自分の好きなコーヒーを世界じゅうをめぐって見つけるという、情緒的な部分もあり面白い。言ってみれば理系の方の文学。味というかたちのないものをデジタルに求めながら最終的に情緒で表現する。渡辺さんはここに本当の文学のヒントのようなものを感じた。ある種の研究書を文学作品として読む楽しさの皆さんに伝えたい。

    文学は情緒だけではだめで、理系的なスタンスの上に情緒を語っていくことがすごく大事。日本の教育は最終的に文系に行く人でも、ある程度の高等数学を勉強する。数値的な教養がコーヒーを飲むときに発揮され、生活が豊かになることもあり得る。三平方の定理なんか一生使わないよと言う人は多いし、実際そうだとも思う。でもそれらの教養が役立つ時もあるのではないか。それは否定できない。

    匂いや味わいを文章として表すと情緒的なものになる。グルメ本は数多く出るようになってきたが、情緒だけで語られる本は面白くなくなってきている。そうではないものが求められてきている。

    情緒による食批評を突き詰めれば、タレントが料理をおすすめしたグルメ本になる。しかし科学的に突きつめていったものが必要になると考える。それを突き詰めていった先に情緒を数値化することが大事である。

    ゲームの評論も同じで「ここが面白い、気持ちいい」だけではなく、なぜ面白いのか、裏側にあるパラメータの設定まで表すことが必要。そのような評論の存在によって、評論を読んだ次世代からゲーム制作にまわっていく人も出てくるのではないか。

    そんなことを思いながら、日々コーヒーを淹れ、ゲームをプレイしている。


    今回の放送ではどのお店のどの豆がいいということは、意図的に言わなかった。

    皆さんがお店に実際に行ってみて、香りがいいとか、試飲させてもらっておいしかったとか、そういうことからいろんな種類を試してほしい。他人のお勧めを摂取することは食べ物でも情報でも、多くあると思うが、たまには自分で選ぶということをしてみてほしい。

    コピ・ルアクは発酵コーヒー。エレガントな味わいがする。

    コピ・ルアクはインドネシアのコーヒー園で作られている。ジャコウネコの糞に含まれているコーヒー豆から作ったもの。ジャコウネコは害獣でコーヒーを食べてしまう存在だった。

    実はコーヒーは果物。我々が飲んでいるのはタネの部分。タネの部分は消化されずに糞に残る。それをコーヒーとして飲んでみたらおいしかった。

    同じように象の糞からコーヒーを作る方法もある(調べたところ「ブラック・アイボリー」というらしいです)。こちらは象にコーヒーを食べさせて作る。象の糞はそれだけで食用になるくらいきれいなもの。臭くもなければ汚くもない。

    ブラック・アイボリーとコピ・ルアクでは、コピルアクの方が高級。ジャコウネコを家畜として作っているわけではなく、偶然できるものなので希少性から高い。今のところコピ・ルアクは工業的に生産されているわけではなく、すべてが天然もの。恐らく大量生産するほどにはニーズがないからではないか。コピ・ルアクは原価で600~1000円。お店では3000円で出しているお店もある。

    同じように美少女にコーヒー豆を食べさせて発酵させるお客さんに提供するという手もある。というのはさすがに冗談だが、コーヒーはパラメーターがいくつも存在するので、タレントや作家のキャラクターコーヒーというのは需要があるのではないか。

    コーヒーは言われているほど胃に悪くない。カフェインは入っているが自然由来でケミカルなものではない。そのためカフェインの常習性も少ない。コーヒーの体への良し悪しについては研究があり、もちろんどちらも存在する。渡辺さんはそれらを確認したが、暴飲しなければ言われるほどに悪いものではないと考えている。

    渡辺さんは自身の経営する喫茶店で焙煎もカフェ内でやろうと考えたことがある。しかし試してみたら、香りが強すぎた。お店に入ってきた瞬間に何もかもがコーヒーの匂いになってしまう。紅茶なんか飲んでいられなくなってしまった。

    バルザックはコーヒーに塩を入れて飲んだ。渡辺さんも試してみたら意外においしかった。癖のないスープのような味わい。

    今日言いたかったのは二つ。

    1. 感覚や感性といった抽象的なものの数値化
    2. 理系の研究家が味を真面目に研究そういうことが文明を一歩先に進める発見発明に結びつくこともあり得るのではないか

    以下、このブロマガ書いている人の感想などです。

    渡辺さんのコーヒートークも久し振りに聞いたような気がします。今回の内容は基本的に「渡辺浩弐の日々是コージ中 第544回 10月30日「ゲームとしてのコーヒー」」 や『パンドラVol.2 SIDE-A』掲載の「シミュレーション・ゲームとしてのコーヒー」の繰り返しとなっています。突き詰めれば最後に語られている言葉の一点目の「感覚や感性といった抽象的なものの数値化」です。

    しかし、この点について新しく語られたと思った部分が一点。先に書いた言葉を使うなら「必ず同じ味を作れるということは、その時々の自分の気分によって味わい匂いを選んでつくることができる」という点です。

    渡辺さんとしては当初から「抽象的なものの数値化」に、この点も含んで書いていたのだと思います。しかし、私は気づいてなかったなーと。音楽で言うとメロディーを強めにして聞くか、リズム隊を強めにして聞くかを自分で選べるようなものですね。寝る前にはメロディー重視でゆったりと。車の中ではリズムを聞かせてノリノリで、みたいな。

    コーヒーの淹れ方がゲーム的であると書かれていますが、今日はどういうプレイスタイル(味)でやりたいのかを 選べること自体が既にゲーム的なのかなと感じました。

     

    キャラクターコーヒーについて。

    渡辺さんは意図的に述べなかったのでしょうが、渡辺さん自身が以前にキャラクターコーヒーを作っています。2008年に講談社BOXとの協力企画で、講談社BOXにまつわる作家さんのキャラクターコーヒー(『パンドラVol.2 SIDE-A』では「作家ブレンド」と称されています)をK-CAFE(当時はKOBO CAFEという名前)で作っています。

    作家さんの依頼内容から渡辺さんがイメージしたコーヒーを作成するというもので、たとえば佐藤友哉さん(『転生! 太宰治』シリーズの最新作がボイスドラマとして発売中!)の「佐藤友哉ユヤタンコーヒー」ではこのような感じ。

    【佐藤友哉ユヤタンブレンド】

    ★依頼コメント★

    酸味が利いているだけ利いているような、栄養のある土を食べているような味で、中華料理にも負けないほど濃厚な感じのブレンドをバリバリのブラックで。鼻にガンガンくるような香りが好きです。でも頭が痛くなるほどの香りは苦手です。

    ☆ディレクションコメント☆

    モカ・キリマン系の豆を浅煎りで80℃くらいの低温で淹れます。若草のような香りが立ちのぼります。最近は酸っぱくておいしいコーヒーが忘れられているように感じていましたから、佐藤さんのオーダーは嬉しかったです。

    ■感想コメント

    あんな怪しいイメージコメントから、なぜこうも美味いコーヒーができたのかが最大の謎。酸味がとっても蠱惑的。カフェイン2倍も実務的。またしても僕内部の渡辺浩弐ポイントが上昇。渡辺さんの実力は青天井や!

    おそらく、KOBO CAFEで各作家さんがフィーチャーされた時にお客さんにも振舞われたのかな?(私は渡辺さんがフィーチャーされた時にしか行けなかったので詳細不明) 昨今では、アニメなどのコラボカフェで各キャラクターの名前がついた飲食物が振舞われることがよくあります。

    しかし、それらは基本的に既製品の名前を変えただけのことが多いです。飲み物なんか紙パックとかペットボトルから注いだだけでしょって感じの。それらを考えると2008年時点で提供物へのしっかりしたこだわりを持っていたカフェというのも先見の明がありますよね。こういう作られ方なら多少高くってもみんな納得するのではないでしょうか。

     

    抽象的なものの数値化と聞いて思い出したのが新海誠監督の『君の名は。』の感情グラフです。『君の名は。』は私もとても面白く見ました。しかし、制作時に既に私たち観客の感情が操作されていたことにびっくりしました。

    感性だけで作られる名作ももちろん存在するのでしょう。しかし誰もが天才ではない以上、綿密な設計図を基に作られる作品も大事であるように思えます。この点ではある点では渡辺さん自身が仰っていた『十三機兵防衛圏』の再生産方法と似通っているように思えました。

     

    KOBO CAFEにまつわるエトセトラをまとめた単行本企画が当時噂されていたように記憶しています。流石に2020年現在にKOBO CAFEの単行本を出しても仕方ないと思いますが、渡辺さんによる喫茶店本はあったら今でも面白く読めるのではないかなと思います。出してもらえないかしら。


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  • 「READING × READING LOFT9 Shibuya ルーキー声優対決の陣」感想

    2020-02-13 10:49

     「READING × READING LOFT9 Shibuya ルーキー声優対決の陣」( https://www.loft-prj.co.jp/schedule/loft9/138176 )に行ってきました!
     めっちゃ楽しかったです! 面白かったことを書いていきたいと思います!

    (イベント自体の紹介は公式の内容を読んでください)


    0.メタデータ

     まずはデータ的なところから。
    (一応わたくし、渡辺浩弐さんのファンサイトをやっているのでデータを残すのも使命なのです)

    一回戦第一試合(ともに乙一さんの作品)
     先攻・川島零士(AIR AGENCY)
      『未来から来た息子』
     後攻・寺田晴名(スワロウ)
      『催眠術』

    寺田晴名さんの勝利!


    一回戦第二試合(ともに斜線堂有紀さんの作品)
     先攻・浅見春那(EARLYWING)
      『その花の意味も知らなかった』
     後攻・柳原かなこ(マウスプロモーション)
      『殺意の融解点』

    柳原かなこさんの勝利!


    決勝戦(ともに渡辺浩弐さんの作品)
     先攻・寺田晴名(スワロウ)
    『父の想いで』
     後攻・柳原かなこ(マウスプロモーション)
    『母の思いで』

    柳原かなこさんの勝利、優勝!!


     朗読終了後は声優さん4人+作者の3人のサイン会が行われました。
     このイベントの物販では、今回朗読に使われた台本6作セット、渡辺浩弐さんの『令和元年のゲーム・キッズ』、斜線堂有紀さんの『コールミー・バイ・ノーネーム』、納谷僚介さんの『声優をプロデュース。』が販売されておりました。『声優をプロデュース。』を除く各作品にサインをして頂けました。(納谷さんはサイン会中列整理をされていました)

    (ちなみに前回のREADING×READINGのレポートは電撃オンラインさんで公開されています→ https://dengekionline.com/articles/17016/ )


    1.ディレクションが面白い!

     一回戦の朗読は、以下のような形で行われました。

      一.声優が自分で考えたかたちで朗読をする。朗読順はじゃんけん。読む作品はその試合に使われる作品に二作品をランダム。
      二.納谷僚介さんが朗読に対してここをこうしたらいい。こういう方向性で読んで下さいと伝える。
      三.声優さんがディレクションを踏まえたうえで再度朗読をする。
      四.審査員による多数決審査で勝者決定。

     決勝戦の朗読は声優さんが自分で考えたかたちの朗読一本勝負です。

    (一回戦審査員は清水彩香さん、斜線堂有紀さん、渡辺浩弐さん、渡部栄一さんの四人。
    決勝戦審査員は清水さんがもともと入っていたスケジュールのため退出。
    代わりに納谷僚介さんを加えた四人で行われました。
    一回戦、決勝戦共に二対二の同数にはなりませんでした)

     何が面白かったかというと「二→三」の流れです! 音響監督の指示があるだけでこれだけ朗読が変わるとは!

     この節では「二」について書きたいと思います。

     指示の中には「緊張しているからか間を取るべきところで取れていない」といった一般人が分かるようなところももちろんありました。「丁寧に読めているけど、淡々に読めているだけで聞かせたいところ、さほど聞かせなくていいところの差が出ていない」というのもその指示を聞いていてなるほど、たしかに、と思わせるものです。

     しかし、プロの音響監督は、それ以上の内容を演者さんに伝えているのですね。

    (以下要約……というか私が受け取ったことですが)
     「この作品は基本的に第三者視点の作品になっているけど、いくつか主人公の台詞と捉えられる地の文がある。そこを境に主人公の狂気が増していくのでそこでトーンを変えてみよう」、「この作品はいくつかの解釈を許すものだけど、今回は私がディレクションを行うのでこっちの解釈で行います。そして、この解釈のオチであるならば、それを響かせるための伏線文章はこれとこれだよね。ここを意識して読んで」などなど。

     特に私が衝撃を受けたのはこの二つ目の指示でした。確かに複数の解釈を許す作品で、演者と裏方の解釈がぶれていたらまとまりがない朗読になってしまいます。今回は朗読なので演者は一人きりでしたが、アニメなどの複数演者がいる現場ではこの舵取り役は絶対必要なんだろうなー、と確かに感じさせられました。

     聞いていれば納谷さんの指示は感性に基づいたものではなく、作品を読み込んだことによって生まれたロジックによるものだと理解できました。そのため、納得感をもって聞くことができました。

     この「他者に納得を与えられる読解」っていうのもすごいですよね。私も小説は多少は読みますけど、正直「どこそこが面白かった」くらいにしか読みませんよ。物語を読むということのレベルの違いも感じさせられる一幕でした。

     逆説的にいうと、作者のみなさんも考えたうえで物語を書いているということになります。今回のイベントは音響監督という存在へのリスペクトも高まりましたが、物語作者へのリスペクトも高まったものとなりました。


    2.勝敗の付き方が面白い!

     話はちょっとそれますが、そもそも声優さんを好きになるってどういうところを好きになっているのでしょうか。

     この問いに対して、一番多い理由ってやっぱりこれだと思います。「この声優さんの声が好き」。これ自体は好きになる理由として間違いなく正しいものだと思います。

     しかし、声が好かれる方がイコールで無条件に「良い声優」さんなのかというと、これはまたちょっと違うようにも思えます。

     じゃあ、「良い声優」さんってなあに、と考えるときにこのイベントの勝敗の付き方はとても面白く感じます。

     前述の通り、一回戦の朗読はディレクションのあとに再度の朗読が行われました。

     そこでの朗読の変化具合(先ほどの「三」の部分ですね)が甚だしいのです。

     一回目の朗読を聞く限りでは「ああ、こちらの方の負けになるのかな」と思っていた方が、再度の朗読では「明らかにさっきよりよくなっている。私が勝敗をつけるのであれば、逆転してこちらの勝利かも」という変貌を遂げたケースもありました。

     職業として声優を考えるのであれば、現場の指示に即応できるのは間違いなく必要な資質の一つでしょう。講評でもこの点を挙げている審査員もいらっしゃいました。

     個人的には一回戦敗退の川島さんと浅見さんのことは、私の「この声優さんの声が好き」に当てはまっていたので一回目の朗読時点は贔屓目もあり勝ってほしいなと思っていました。しかしながら、再度の朗読を聞いたら相手の寺田さんと柳原さんの朗読も化け具合がすごい! 一方に対する「好き」ともう一方に対する「すごい!」がいつのまにか両立していたところに、今回のイベントの真価を感じました。自分の中で声優さんへの視点が一つ増えました。


    3.その他いろいろ

     最後にまとまりない部分をいくつか。

     決勝戦の結果が出たあとだったかと思うのですが、司会の太田克史さんが、「結果もすべて出たのでこのあとはノーサイド(でお互いにリスペクトをもってやっていきましょう)」と言っていたのを聞いてすごくほっとしました。

     今回のイベントは朗読順も朗読作品もランダムだったので、良くも悪くも勝敗が運で決められている部分が多かったです(実際、運営側もくじ運のことを何度もあげていました)。もし逆の作品を読んでいたら、読む順番が逆でになって落ち着いて朗読ができていたら。特定声優さんのファンや、声優さん本人さんは思うところが少なからずあったのではと考えてしまいます。

     そういった気持ちを持つ人間がいる中での「ノーサイド」発言はそれをなくしてくれました。太田は悪くなかった!!


     逆にもうちょっとどうにかしてくれよーという点。

     ちょっとイベント時間が長かったかな? 最後のサイン会を巻きでよろしくという通達も出ていたので、運営側からしても予想以上に盛り上がってしまったのでしょう。

     バトル形式という緊張感あふれるイベントに加え、朗読だからちょっとした音も出せない! という状態で最初の休憩まで2時間座りっぱなしはちょっとつらかったです。トイレ行きたくなるしケツが痛いし。 同じ形式でやるならもうちょっと頻繁に休憩がほしいかな。


     「次もまたやろう」というお話になっていたので、第三回に大期待です。第一回と同じくマチ★アソビ開催になるのかな? でも「次やるなら一日がかりでやろう」なんて発言も出ていたのでそうなるとマチ★アソビでは無理?


    4.朗読の教科書

     納谷さんが言っていた、このイベントはなぜその朗読が良いのか、悪いのかが分かる「朗読の教科書」としてのイベントというのはとても分かりやすく、ためになるものだと思いました。

     朗読の教科書としてはももちろんですが、良い朗読をするための作品解釈は良い読書にもつながっています。今回の納谷さんの作品解釈は小説読みとしてもためになるものでした。

     この声優さんを好き。この作家さんが好き。ファンがそれをいう時、それは絶対嘘ではありません。でもREADING × READINGに参加したら、どの部分がどのように良くて好きなんだよと人に言えるようになれるかも。それはちょっと自分が成長できて嬉しいことでもあります。次回はみんなも行こうな!


  • 『令和元年のゲーム・キッズ』が今でも面白い

    2019-08-06 03:33

    令和元年のゲーム・キッズ』が今でも面白い。

     『令和元年のゲーム・キッズ』は小説家である渡辺浩弐の新作ショートショートシリーズだ。現時点ではネット上に書き下ろされた作品群がまとまり単行本となって発売されている。その他の基本的な説明は過去に書いた記事を見ていただきたい。

    (シリーズ全体を簡単に紹介した記事8話目発表時に書いたおすすめ記事16話目発表時に書いたおすすめ記事24話目発表時に書いたおすすめ記事31話目発表時に書いたおすすめ記事)

     『令和元年のゲーム・キッズ』には、新たに発生した面白いことがまだまだある。今回はそれらを中心に、「今でも面白い」点を紹介していきたい。

    一つ目: 単行本が発売した

     前回のお勧め記事を書いて以降、一番大きく状況が変わったことは単行本が発売されたことである。2019年7月12日に星海社の星海社FICTIONSレーベルより『令和元年のゲーム・キッズ』として発売された。イラストレーターは坂月さかな。執筆の様子が配信された全31作品に加え、渡辺による「附記」が収録され、一冊の単行本となった。また、各作品にはYouTube配信のアーカイブへのリンクを埋め込んだQRコードが付されている。

     単行本化の経緯は、読者の視点から確認できる限りでは、5月18日に渡辺が書籍化をしてくれる出版社を探していることをツイートその8分後に星海社副社長である太田克史が応じさらにその3分後に渡辺が承諾という電撃的な流れであった。

     そのスピード感はイラストレーターである坂月さかなにも求められたようである。坂月は「最速スケジュールでの出版というのもあり原稿が完成次第順次届くような感じだったので、それに合わせて絵を追加したり修正したりした」とツイートをしている。

     執筆開始から二ヶ月半後、執筆終了から一ヶ月半後に単行本が発売された今回のケースを渡辺は「これがほぼ最速のペース」としている。前シリーズである『2013年のゲーム・キッズ』は書き下ろし作品があったものの連載終了から単行本の発売まで3か月程度かかっていることを考えるとそのペースの速さが見てとれる。

     単行本化に際した大きな加筆訂正はないが、誤字脱字は丁寧に直されている(*)。しかし、渡辺のぷらいべったーにアップロードされている作品は発表時のままのようである。誤字脱字がある文章を読むと引っかかってしまうような方には特に単行本版をおすすめしたい。

    (* 記事編者が気付いたところでは「消えた昭和61年」での"村役場"と"町役場"の表記ぶれ、「一新星」での"電磁パルス"を"電磁バルス"の誤記)


    二つ目: 刊行記念イベントが行われた

     2019年8月5日に東京カルチャーカルチャーにて「渡辺浩弐『令和元年のゲーム・キッズ』(星海社FICTIONS)刊行記念! 豪華声優朗読ライブ&本書 解説トーク!」が開催された。渡辺と担当編集者である太田とのトークの他、声優である関俊彦、加隈亜衣による朗読が行われた。

     それぞれの朗読作品は以下の通り(朗読順)

    • 関俊彦「10億人の道連れ」
    • 加隈亜衣「完全なるアイドル」
    • 関俊彦(刑事・夫役)+加隈亜衣(妻役)「犬も食わない」
    • 関俊彦(男性役)+加隈亜衣(女性役)「猫の小判」

     星海社による渡辺作品の朗読には過去にも行われている。特に加隈はその全てに参加している声優である(*)。関は初参加である。また、男性声優が企画に参加すること、二人以上の声優が一つの作品を協力して読むこと、一つの企画のなかで同じ声優が二作品以上の朗読を行うことも初めてであった。

    (* 金曜朗読館、ゲーム・キッズ徳島マチ★アソビ朗読館、ゲーム・キッズ徳島マチ★アソビ朗読館vol.2の3回)

     このイベントはニコニコ生放送で配信されており、記事執筆時点ではタイムシフト機能を利用し、視聴することが可能である。1週間でタイムシフト可能期間が過ぎてしまうため、ぜひともご覧いただきたい。加隈は萌えアイドルから、サイコさんまで。関は世界を救った英雄から犬まで。声優の広すぎる振り幅を見せてくれる。

    3つ目: 設定資料が配布された

     上記のイベントでは、会場限定で『令和元年』の設定資料集である「クロニクル」のpdfが配布された。

     これは5月4日の配信に映りこんでいたものと同一のものであるようだ。昭和時代から令和4X年までのおおよそ100年の作中世界の社会情勢の推移をまとめたものである。

     設定資料内には渡辺の過去作品を想起させる表記がいくつもあり(*)、『令和元年』が渡辺の過去作=シミュレーションフィクションの系譜を確実に受け継いでいることを再認識させられる。

    (* 「死なないということは生きていないのと同じである」(『2999年』科学者の一生)、「団醜の世代」(『2013年』団醜の世代)等)

     そして最も気になる記述は最終行にあるこの一文だ。

     ガンキッズの活躍の背後に、一人の男の暗躍が噂されるようになった……。

     これには二つの解釈が可能だろう。一つ目はこの一文を予告と取り、タイトルが発表されている長編作品である『ガン・キッズ』の新キャラクターとして受け取る。二つ目は既に我々が知っている渡辺作品の男性キャラクターであると受け取ることだ。

     前者であれば、できることは『ガン・キッズ』の発表を待つことだけである。しかし後者であるならば既作品から『令和元年』へのミッシングリンクを考えることと同義である。現時点で『令和元年』と『iKILL』シリーズは接続されていることが明らかとなっている(つまりは間接的に『プラトニックチェーン』シリーズなども接続されていると考えられる)。クロニクルで明らかになった社会情勢だけではなく、個々のキャラクターは『令和元年』にいたるまでどのような人生を送ってきたのだろうか。

     また、渡辺は(設定書面を配布することで)この日の参加者の中から多くの小説家が生まれることを予想しますとツイートで述べており、『令和元年』シリーズをもとにしたある種の二次創作を許容する旨を述べている。

     これは「一人の男」の正体当てをピンポイントで喚起したものでは決してないだろう。しかし正体当てができるのは正解が発表されるまでである。ならば、予想しておいた方が面白い。当たっていれば嬉しいし、外れていたらその意外性に楽しめるものだ。

     ってことで私の予想はベタだけど男の正体は「不完全なアイドル」のオタキリです。『iKILL』シリーズの小田切明かどうかは保留。細かいこと言うと『iKILL2.0』のオタキリが小田切明なのかもよく分かってないし。

     では、『ガン・キッズ』の感想で答え合わせしましょう。


    リンク
    渡辺浩弐のツイッター
    https://twitter.com/kozysan
    小説の『令和元年のゲーム・キッズ』がアップされている場所
    https://privatter.net/u/kozysan
    アマゾン『令和元年のゲーム・キッズ』
    https://www.amazon.co.jp/dp/4065169321


    生放送アーカイブ関連
    YouTube Liveアーカイブ
    https://www.youtube.com/channel/UC2-XAsKmJj8KWmnxqkSDCqg/videos
    ニコニコ生放送アーカイブ
    https://www.nicovideo.jp/tag/%E4%BB%A4%E5%92%8C%E5%85%83%E5%B9%B4%E3%81%AE%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%83%E3%82%BA