• このエントリーをはてなブックマークに追加

記事 23件
  • 〈小山田圭吾をカツアゲするhide〉の構図はどのようにして生まれたか(市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず』第5回) 【不定期連載】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.644 ☆

    2016-07-15 07:00  
    550pt
    チャンネル会員の皆様へお知らせ
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。

      〈小山田圭吾をカツアゲするhide〉の構図はどのようにして生まれたか(市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず』第5回)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.15 vol.644
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは市川哲史さん、藤谷千明さんによる連載『すべての道はV系に通ず』をお届けします。90年代V系ブームを下支えした今井寿・hide・SUGIZOらバンドマンたちの音楽性の源泉について、同時期の渋谷系と比較しながら語りました。
    ▼プロフィール
    市川哲史(いちかわ・てつし)
    
1961年岡山生まれ。大学在学中より現在まで「ロッキング・オン」「ロッキング・オンJAPAN」「音楽と人」「オリコンスタイル」「日経エンタテインメント!」などで歯に衣着せぬ個性的な文筆活動を展開。最新刊は『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』(シンコーミュージック刊)。
    藤谷千明(ふじたに・ちあき)
    1981年山口生まれ。思春期にヴィジュアル系の洗礼を浴びて現在は若手ヴィジュアル系バンドを中心にインタビューを手がけるフリーライター。執筆媒体は「サイゾー」「Real sound」「ウレぴあ総研」ほか。
    『すべての道はV系に通ず』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。 
    前回:地方局、ライヴハウス、ご当地フェス――80年代バンドブームを演出した「周縁の力」(市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず』第4回)
    ◎司会:編集部
    ◎構成:藤谷千明
    ■〈小山田圭吾をカツアゲするhide〉の構図はどのようにして生まれたか
    ――前回はロックバンドがツアーを廻って全国にファンを増やしていき、最終的にバンドブームを起こした――という話をしましたが、バンドブーム後のヴィジュアル系も同じような経路で盛り上がっていったのでしょうか。
    市川 だってほら、V系はライヴを観ないと始まらないでしょ(苦笑)。「うわ、なんだこの恰好この演奏!」みたいなのが醍醐味だから。現在20歳ちょいの女子学生って当然、XもBUCK-TICKもLUNA SEAも観たことないわけ。でも授業で昔のXやらのライヴを観せるとウケてしまう。初体験なのに。1991年頃の、BUCK-TICKが“スピード”唄ってるライヴ映像なんかもう、〈魔王〉櫻井敦司に瞬殺されちゃって「この黒髪のカッコいい人誰ですかーっ♡」みたいな。すごいな日本女子の美形好きDNAは(呆笑)。
    藤谷 「美形」は普遍的なんですね……。
    市川 でまあ、ライヴハウスの敷居が低くなって〈普通の少年少女〉が通えるようになり、ライヴ人口が徐々に増え始めた結果、V系の洗礼を受ける機会も増したという流れですよ。バンドはバンドで、対バンで相手のファンを根こそぎ奪うのが勢力拡大の手っ取り早い手段なので、「対バンで目立ったもん勝ち」みたいな風潮になり。その場合田舎ではやはり、コジャレでイキったものより、おもいきりベタな方が単純明快だしヤンキーだし祭りだし、受け入れられるわけだよ。
    藤谷 全国区になるには「大衆性」が必要ということでしょうか。
    市川 うん、徹底的な大衆性が要るね。もう〈カッコイイ〉の解釈とボーダーラインが違うんだよ、地方と都会じゃ(失笑)。だって90年代の初頭に都心在住で普段洋楽しか聴かないお洒落さんが、Xの“紅”観て「わぁ、カッコいい!」って思うわけないじゃん! V系って、〈洗練〉から最も極北にあるわけだからさ。
    藤谷 90年代前半って、ビーイング、TKプロデュース、Mr.Childrenがミリオンヒットを飛ばす等々、色々なムーブメントがありましたが、その中でもV系が流行する一方で、スノッブの権化のような〈渋谷系〉も存在していたじゃないですか。
    でも90年代初頭って、ド田舎の人間からみると〈V系〉〈渋谷系〉という括りがまだあんまりなかったような。なぜかというと、雑誌メディアでは『FOOL’S MATE』の1990年5月号がここにあるのですが、筋肉少女帯が表紙、Xの渋公レポートを巻頭ぶち抜き、フリッパーズ・ギターと電気グルーヴが載っている……みたいな内容だったりして。
    市川 そりゃ田舎者が多数派を占める当時のV系村住人からすれば、「見る物聴く物みーんな好き」で渋谷系と一緒でも全然平気だろうけど、その逆はないから。渋谷系からすれば侮蔑の対象でしかなかったから、V系は(愉笑)。でね、渋谷系はLUNA SEAのデビュー(1992年)の頃から徐々に徐々に盛り上がり始めてって、その存在が一般に認知されたのはV系ブレイクのちょっと前という感じかなあ。私が『音楽と人』を創刊したのが1993年なんだけど、hideと小山田圭吾が胸ぐら掴みあってる〈V系vs渋谷系全面抗争勃発(失笑)〉の表紙号を作ったのが94年10月。

    ▲『音楽と人』1994年11月号(当時の発売元はシンコー・ミュージック・エンタテイメント)。hide・小山田対談は、hideがコーネリアスを愛聴していたということから起ち上がった企画だった。お互いに洋楽少年だったことで盛り上がり、小山田がhideに対して「人に舐められないようにするには?」と相談するエピソードも。市川氏は当時、『ロッキング・オン・ジャパン』→『音人』誌を通じてV系のことを〈美学系〉と呼んでいた。
    ――hideが文化系男子の小山田圭吾をカツアゲしている絵面にしか見えないですね(笑)。
    藤谷 これって「文化系=渋谷系/ヤンキー=V系」という構図が、94年末の段階ではすでに成立していたってことなんですよね。ただ、「ロッキング・オン」のインタビュー(1994年1月号に掲載)で実は小山田圭吾はティーンの頃はいじめっ子だったということを語っているので、あくまでイメージの話というか。

    【ここから先はチャンネル会員限定!】
    PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は今月も厳選された記事を多数配信します! すでに配信済みの記事一覧は下記リンクから更新されていきます。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201607
     
  • 一億総中流はファミリーセダンの夢を見るか――「いつかはクラウン」から新型プリウスまで/日本の大衆車・前編(根津孝太『カーデザインの20世紀』第12回)【毎月第2木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.643 ☆

    2016-07-14 07:00  
    550pt
    【チャンネル会員の皆様へお知らせ】
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。

    一億総中流はファミリーセダンの夢を見るか――「いつかはクラウン」から新型プリウスまで/日本の大衆車・前編(根津孝太『カーデザインの20世紀』第12回)【毎月第2木曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.14 vol.643
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガはデザイナー・根津孝太さんによる連載『カーデザインの20世紀』第12回をお届けします。今回から前後編にわたって取り上げるのは「大衆車」。前編では、カローラからプリウスまで戦後のファミリーセダンの歴史を振り返りながら、大衆と自動車の関係を考えます。
    ▼プロフィール
    根津孝太(ねづ・こうた)
    1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社、愛・地球博 『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年(有)znug design設立、多く の工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、企業創造活動の活性化にも貢献。賛同 した仲間とともに「町工場から世界へ」を掲げ、電動バイク『zecOO (ゼクウ)』の開発 に取組む一方、トヨタ自動車とコンセプトカー『Camatte (カマッテ)』などの共同開発 も行う。2014年度よりグッドデザイン賞審査委員。
    ◎構成:池田明季哉
    本メルマガで連載中の『カーデザインの20世紀』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。
    前回:現実を目指して疾走するフィクション――フューチャーカーとジャパニーズ・メカデザイン(根津孝太『カーデザインの20世紀』第11回)
    今回から前後編の二回に分けて「大衆車」を取り上げてみたいと思います。この連載ではこれまで水陸両用車からフィクションのなかの車まで、さまざまな個性的な自動車について語ってきましたが、誰でも少し頑張れば手が届く価格帯の大衆車も、なかなか面白い存在なんです。
    例えばスポーツカーは常に速さに価値を置いていますし、高級車は贅沢さに価値があります。速さや贅沢さというのはある意味では絶対的なもので、時代を経てもあまり変わることがありません。
    ところが大衆車の場合はそうではないんです。多くの人々に求められるものだからこそ、社会の波風の影響をまともに受けて、考え方の軸が次々と移り変わっていきます。言い換えると、大衆車とは「自動車が大衆にとってどんな存在なのかを如実に反映しながら変化してきたもの」なんですね。それゆえの面白さと難しさが大衆車にはあると思います。
    現代日本の大衆車の代表格は、トヨタ・プリウスだと思います。軽自動車を除けば新車販売台数ランキングの1位をずっと走り続けている大ヒット商品ですね。そのプリウスが、昨年末に4回目のモデルチェンジを果たしました。相変わらず販売台数は非常に好調だと言われているのですが、大胆に変更されたその新しいデザインが賛否両論となっています。そのことに、今の大衆車が置かれている難しい状況が表れている気がしています。
    今回は常に時代と共にあった大衆車の移り変わりを考えながら、プリウスの新しいデザインについても少し触れてみたいと思います。

    ▲トヨタ・プリウス(4代目)。その特徴的なフロントマスクが議論を呼んでいる。(出典)
    ■戦後日本大衆車の中心を占めた「ファミリーセダン」
    大衆車と一口に言っても様々なものがあるのですが、戦後日本において中心にあったのは「ファミリーセダン」というタイプの車たちでした。なかでもトヨタ・カローラは、戦後日本社会をある意味で象徴する存在だと思います。


    ▲トヨタ・カローラ(9代目)。典型的なファミリーセダン。5人乗りで、ドアは後部座席に乗りやすくするため4枚である。後部には独立したトランクルームにアクセスするためのトランクリッドが見える。(出典)
    「ファミリーセダン」というのは、家族で乗るセダンタイプの車という意味です。自動車は基本的に、エンジンがあって、人が乗るところがあって、荷物を入れるところがありますよね。多くはこの3つをそれぞれ別の空間に分けた「3ボックス」という構造で、なおかつ2列の座席を持ち、4-5人が快適に乗れるように作られた自動車が、「セダン」と言われているものです。
    セダンと対照的なのは「クーペ」というタイプの車で、こちらはスポーツカーによく採用されます。多くは1列2人乗りで、後部座席はないか、あっても補助的なものです。トランクも独立していない「2ボックス」タイプのものもあります。現在では形式も多様化していて、細かな分類や中間的な車もたくさんあるのですが、居住性能を大切にしたのがセダン、走行性能やスタイリングを追求するのがクーペ、と大まかに分類することができます。

    ▲シボレーのコルベット・スティングレイ。2人乗りスポーツクーペの一例。空力を高めて走行性能を追求した流れるようなラインに加えて、ドアが左右2枚となっている。(出典)
    ■人生と共にステップアップしていく車
    日本の大衆車の黎明期、1960年代に大活躍したのが前にもお話ししたスバル・360でした(参照:連載第5回「そして小さいクルマは立派になった〜黎明期国産軽自動車のトライ&エラーとその帰結」)。ドイツのフォルクスワーゲン・タイプ1をお手本に作られた軽自動車です。政府が作った「国民車構想」に並べられた非常に高い要求をクリアし、当時としては破格の高性能と低価格を両立して大人気となりました。スバル360は軽自動車ではあるのですが、定義上はセダンでもあります。今に続くファミリーセダン的な発想の原点にある車だと思います。

    ▲スバル・360。1958年に発売。全長約3000mm、重量365kgの小型自動車。ちなみに57年後の2015年末にリリースされた4代目プリウスは、全長およそ1.5倍、重量はおよそ3.7倍である。(出典)
    その後、ファミリーセダンは60年代〜70年代の高度成長期に生まれた「一億総中流」という幻想と結びついて、ある種の特別な車として本格的に大衆に受け入れられていきます。高度経済成長に合わせて、大衆の求める車もだんだんと大きくなっていきました。誰もが「未来には今よりも豊かな生活が待っている」と期待することができた高度成長期に、車も同じように「ステップアップしていく」という価値観が一般的になっていきます。
    例えばトヨタなら、最初は小さなスターレットからスタートして、次はカローラを買って、その次はコロナ、さらにその次はコロナ・マークIIに乗り、そして最後のゴールとしてクラウンがありました。トヨタ以外のメーカーでも、だんだんと大きな車に乗り換えていく、という基本的な構造は同じです。社会のなかでより上へ上へとステップアップしていくような人生に合わせて、ステータスの象徴として自動車を乗り換えて行くことが、大衆にとって憧れとなりました。

    ▲初代トヨタ・カローラ。写真は1969年から生産された後期型。(出典)
    ■「いつかはクラウン」へと辿り着く人生
    こうしたヒエラルキーのトップに君臨していたクラウンという車は、特別な立ち位置にありました。「いつかはクラウン」という有名なキャッチフレーズが示すとおり、戦後中流的な人生のゴールを象徴する存在だったのです。

    ▲トヨタ・クラウン。写真は1967年から1971年まで生産された3代目。「日本の美」をテーマにデザインされた。(出典)

    【ここから先はチャンネル会員限定!】
    PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は今月も厳選された記事を多数配信します! すでに配信済みの記事一覧は下記リンクから更新されていきます。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201607
     
  • 『妖怪ウォッチ』と〈拡張現実〉的想像力の未来(中川大地の現代ゲーム全史・最終回)【毎月第2水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.642 ☆

    2016-07-13 07:00  
    550pt
    チャンネル会員の皆様へお知らせ
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。

    『妖怪ウォッチ』と〈拡張現実〉的想像力の未来(中川大地の現代ゲーム全史・最終回)【毎月第2水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.13 vol.642
    http://wakusei2nd.com


    本日は『中川大地の現代ゲーム全史』最終回をお届けします。〈拡張現実の時代〉にほぼ同時に登場した『妖怪ウォッチ』と『Ingress』。そして『ポケモンGO』を機に両者の感性が合流していく先のゲームの未来を展望します。
    さらに、約3年に及んだ本連載をまとめた書籍版『現代ゲーム全史〜文明の遊戯史観から』が8月24日に発売されます。そちらもお楽しみに!
    ▼執筆者プロフィール
    中川大地(なかがわ・だいち)
    1974年生。文筆家、編集者。PLANETS副編集長。アニメ・ゲーム関連のコンセプチュアルムックの制作を中心に、各種評論・ルポ・雑誌記事等を執筆。著書に『東京スカイツリー論』(光文社)。本メルマガにて『中川大地の現代ゲーム全史』を連載中。
    第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
    2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(8)
    前回:位置情報ゲームの展開と『Ingress』(中川大地の現代ゲーム全史)
    ■『妖怪ウォッチ』が継承した古層
     『Ingress』の登場で世界中の先覚的な大人たちがエージェントに覚醒し、それまで人類が感知できずにいたスピリチュアルなエネルギー物質をめぐって目には見えない世界での競争と協調に東奔西走しはじめていた頃、日本の子供たちもまた不可視の存在とのコミュニケーションを可能にするウェアラブルデバイスがもたらしたブームに熱狂していた。2013年夏にニンテンドー3DS版の第1作ゲームが登場し、「月刊コロコロコミック」でのマンガ連載や翌14年から放映開始されたテレビアニメとのクロスメディア展開により、同年最大のヒットコンテンツとして一世を風靡した『妖怪ウォッチ』である。

    ▲『妖怪ウォッチ』(レベルファイブ 2013年)(出典)
     その名の通り、普通の人間には見えない妖怪の姿が見えるようになるレンズの付いた不思議な腕時計を題材にした本タイトルは、同様の手法で人気を博した超次元サッカーRPG『イナズマイレブン』(2008年)、メディアのみならず劇中に登場するホビーロボのプラモデルとの連動を目玉としたプラモクラフトRPG『ダンボール戦機』(2011年)と、携帯機用ゲームソフトを核に同様のクロスメディア型コンテンツを成功させてきたレベルファイブによる、第3の児童向けシリーズにあたる。
     ローティーンの少年主人公が、様々なキャラクターやギミックを収集・育成してチームデッキを組み、死には至らないバトルを繰り返しながらストーリーを進めていくというコレクション型RPGとしての基本骨格は、前2作とほぼ変わるところはない。『妖怪ウォッチ』が注目を集めたのは、その同工異曲の意匠替えとして、使役ユニットに何百種類もの愛らしいオリジナルのイマドキ妖怪を据えた題材選択の傾向が、こうした児童向けコンテンツ手法の元祖にして王者にあたる『ポケモン』の地位に真っ向から挑む格好になったことが大きい。事実、ビジネス系のメディア等では、両作の看板マスコットである地縛霊猫妖怪「ジバニャン」と電気鼠「ピカチュウ」を並べながら、『妖怪ウォッチ』の『ポケモン』超えの可能性を取り沙汰するといった論調の報道も散見された。
     『妖怪ウォッチ』が『ポケモン』と大きく異なっていたのは、子供たちへの人気の核になったプロダクト展開として、劇中で妖怪ウォッチを通じて発見した妖怪を仲間にすると手に入るという設定の召喚アイテム「妖怪メダル」が実体玩具としても発売された点である。玩具の妖怪メダルにはQRコードが付されており、これを3DSで読み取るとゲーム中で新しい妖怪を入手できる「妖怪ガシャ」を回せるコインが得られたり、別途発売の「DX妖怪ウォッチ」にセットしてゲームやアニメと同じ妖怪種別の召喚ソングや登場ボイスが再生されたりと、劇中世界と現実空間での体験性をリンクさせるようなプレイバリューが盛り込まれていた。この仕掛けが大当たりし、かつての「たまごっち」などのブームを彷彿とさせる人気の爆発で、全国的な品薄状態がさらに話題性を煽るといった光景が繰り広げられたのである。
     このようなデジタルゲームと実体玩具との重ね合わせによって表現されようとした『妖怪ウォッチ』の世界観は、言ってみれば人々が〈拡張現実〉的なテクノロジーを用いて、「どんなふうに現実を拡張したいのか」あるいは「何を見たいと思っているのか」の欲望の具体像を、きわめてベタなかたちで呈示したものだとも言えるだろう。すなわち、日本の妖怪ファンタジーの定型として連綿と受け継がれてきた「子供の時にだけ見ることができた不思議なものとの出会い」。そのテクノロジカルな道具立てとして、いわば全感覚ARデバイスとしての妖怪ウォッチが造形されたわけである。

    【ここから先はチャンネル会員限定!】
    PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は今月も厳選された記事を多数配信します! すでに配信済みの記事一覧は下記リンクから更新されていきます。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201607
     
  • 大見崇晴『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』補論 記号と階級意識 〜消費・要請・演技・自意識・幸福・アルゴリズム〜【不定期連載】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.641 ☆

    2016-07-12 11:00  
    550pt
    チャンネル会員の皆様へお知らせ
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。

    大見崇晴『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』補論 記号と階級意識〜消費・要請・演技・自意識・幸福・アルゴリズム〜【不定期連載】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.12 vol.641
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガでは大見崇晴さんの『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』の補論として、「記号と階級意識 〜消費・要請・演技・自意識・幸福・アルゴリズム〜」をお届けします。1980年、村上春樹が『1973年のピンボール』を発表した年に、田中康夫は『なんとなく、クリスタル』で鮮烈なデビューを果たします。都市生活における洗練を描いたその作品の背後には、連続ピストル射殺事件の永山則夫という陰画が貼り付いていました。大量消費社会の黎明期に何が起きていたのかを「文学」と「事件」の両面から問い直します。
    ▼プロフィール
    大見崇晴(おおみ・たかはる)
    1978年生まれ。國學院大学文学部卒(日本文学専攻)。サラリーマンとして働くかたわら日曜ジャーナリスト/文藝評論家として活動、カルチャー総合誌「PLANETS」の創刊にも参加。戦後文学史の再検討とテレビメディアの変容を追っている。著書に『「テレビリアリティ」の時代』(大和書房、2013年)がある。
    本メルマガで連載中の『イメージの世界へ』配信記事一覧はこちらのリンクから。
    前回:『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』第5回 記憶・神話・イメージ
    ■ 0.記号と消費社会
     村上春樹の小説は記号に溢れている。
     同世代のクリエーターにとって、それは清新なものだった。
     たとえば、1980年に発表された『1973年のピンボール』には、極めてスノビッシュな一節が数多と現れる。その一つを引用しよう。

     十二の歳に直子はこの土地にやってきた。一九六一年、西暦でいうとそういうことになる。リッキー・ネルソンが「ハロー・メリー・ルウ」を歌った年だ。その当時この平和な緑の谷間に人の目を引くものなど何ひとつ存在しなかった。
    (村上春樹『1973年のピンボール』)

     引用した文章において、登場人物たる直子に関する情報はほとんどなく、極めて冗長なものである。直子が「平和な緑の谷間」に移り住んできたこと以外(リッキー・ネルソンや「ハロー・メリー・ルウ」)は、蛇足とも言える。もしかしたら、年頃のおしゃまな女の子がボーイフレンドを探しているという歌詞が、直子のイメージに重ね合わせられるかもしれない。しかしそれは、村上春樹と同年代(1940年代、戦後間もない生まれ)でなければ共感しづらいところだろう。今日では「ハロー・メリー・ルウ」のような穏やかな歌詞の歌も、平和な緑の谷間も探し出しにくい。
     仮に村上が意図した(と思われる)方向で読み解いていた読者がいたとしても、それは少数だろう。とはいえミニコミ的に、カルト的な解釈を望む作家として村上春樹は登場し、そして実際に読者が期待どおりに没入し、数えきれない程の謎本が登場したのが村上春樹という作家なのである。日本人の大多数はリッキー・ネルソンも「ハロー・メリー・ルウ」も知らなかったのだから。
     このようなスノビッシュな文体を採用した村上春樹について、春樹のデビュー作『風の歌を聴け』(1979)を掲載した雑誌『群像』の新人賞候補として肩を並べた野崎六郎は、当時を以下のように振り返る。

     純粋に技法上の処理に限定されるにしても、「あのような文体」によって作品が可能だったという事実に、わたしは羨望に近いものを感じたのだった。七〇年代のわたしらのつたない二十代の経験が、贋金つくりのようなキッチュなスタイルで語りうるという事実にたいして、である。
    (野崎六郎『世界の果てのカレイドスコープ』)


    【ここから先はチャンネル会員限定!】
    PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は今月も厳選された記事を多数配信します! すでに配信済みの記事一覧は下記リンクから更新されていきます。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201607
     
  • 月曜ナビゲーター・宇野常寛 J-WAVE「THE HANGOUT」7月4日放送書き起こし! ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.640 ☆

    2016-07-11 07:00  
    550pt
    チャンネル会員の皆様へお知らせ
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。

    月曜ナビゲーター・宇野常寛J-WAVE「THE HANGOUT」7月4日放送書き起こし!
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.11 vol.640
    http://wakusei2nd.com


    大好評放送中! 宇野常寛がナビゲーターをつとめるJ-WAVE「THE HANGOUT」月曜日。前週分のラジオ書き起こしダイジェストをお届けします!

    ▲先週の放送はこちらからご覧いただけます!

    ■オープニングトーク
    宇野 時刻は午後11時30分を回りました。みなさんこんばんは、宇野常寛です。そして松岡茉優さん、今夜も生放送お疲れ様でしたー。松岡さんに謎のチラシを見せられたんですが、それはなんのチラシですか? ニッチェ単独ライブ「たまごかけごはん」。さっき「AVALON」のゲストに来ていた方のチラシですね。大前提として、松岡さんが勧めるんだったら、というか、もし月曜AVALON FIGHTING DREAMERSのイベントがあるんだったら、僕は当然行きますよ。言ってしまえば、僕ってFIGHTING DREAMERSのブレーンみたいなものじゃないですか(笑)。形式化されていないかもしれないですけれど、事実上の最高顧問的な何かですよね。なので、呼ばれればいつでも馳せ参じるので、呼んでください。なんでしたら、他のリスナーとかは全然呼ばなくていいですよ。2人きりでも僕は全然問題ないですからね。
    そういえば『真田丸』も観ました。松岡さんが出ていたのは一瞬でしたね。でも僕は、放送に追いつかなきゃと思って、今週までの録画を全部観ましたよ。すごく期待していますので頑張ってください。
    いやーでも、なんて言ったらいいんですかね。こういう展開が僕の人生にあるとは思っていなかったですね。この興奮を表現するために、先週に引き続き、今週も『真田丸のテーマ』をかけようと思ったのですが、ガラスの向こうでディレクターのスーさんが「その辺にしておけよ、お前」みたいな視線を、さっきから僕に送ってくるので、とりあえず一旦スタートしたいと思います。宇野常寛がお届けする「THE HANGOUT」、本日もスタートです。
    〜♪
    宇野 先週、衝撃的な事件があったんですよ。いつものように、木曜日の日本テレビの「スッキリ!!」というワイドショーに出たんです。朝8時から放送があって、事件についていろいろと喋って、「今日も終わったー。帰るかー」と思ってエレベーターに乗ったんですよ。そしたらね、そこで乗り合わせたんですよ。アンパンマンとバイキンマンの二人組と。おそらく何かの番組の宣伝で、それに出演するところだったんでしょうね。僕は「うわー、アンパンマンとバイキンマンがいるよ。さすが日テレだな」と思いましたね。それで、せっかくだし話しかけてみようと思って、ちょうどお腹が空いていたから、アンパンマンに「あの、すみません。お腹が空いているので、顔もらえますか?」と言ったんですよ。そうしたら、なんとアンパンマン、差し出してくれましたね。顔を。無言で頭をグッと下げて突き出すようにして、「僕の顔をお食べよ」という風にね。もちろん着ぐるみの顔をもいで食べることはできなかったけれど、これにはちょっと感動してしまいました。


    【ここから先はチャンネル会員限定!】
    PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は今月も厳選された記事を多数配信します! すでに配信済みの記事一覧は下記リンクから更新されていきます。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201607
     
  • 京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録 第5回 補論:少年マンガの諸問題 (毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.639 ☆

    2016-07-08 15:00  
    550pt
    チャンネル会員の皆様へお知らせ
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。


    京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録第5回 補論:少年マンガの諸問題
    (毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)

    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.8 vol.639
    http://wakusei2nd.com


    本日は「京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録」をお送りします。今回は、前回までの少年マンガ論の補論です。部数的なピークを過ぎた「週刊少年ジャンプ」が、自身を題材にすることで、ある種の限界を露呈してしまった『バクマン。』。そして、高橋留美子の『うる星やつら』の世界、ラブコメの母胎的な箱庭を相対化した、押井守の映画『 ビューティフル・ドリーマー』について取り上げます(この原稿は、京都精華大学 ポピュラーカルチャー学部 2016年4月29日の講義を再構成したものです)。
    毎週金曜配信中! 「宇野常寛の対話と講義録」配信記事一覧はこちらのリンクから。

    前回:京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録 第4回〈ジャンプ〉の再生と少年マンガの終わり
    (毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)

    ■『バクマン。』の七峰くんは本当に「悪」なのか?
     さて、ここまで「週刊少年ジャンプ」を中心に少年マンガについて考えてきました。「少年ジャンプ」の歴史はこの国の消費社会の歴史でもあり、とくにその中で「成熟」や「老い」という問題が作家や編集者の意図を超えたところで現れてしまっているところがあります。
     ただ、僕が最近強く感じるのは現在のジャンプは、この授業で取り上げたようなかつてのものからはかなり変わりつつあるように思います。たとえば最近『バクマン。』の映画版がヒットしていましたよね。この作品は『DEATH NOTE』を送り出した大場つぐみと小畑健の原作、作画コンビが自分たちの体験を素材にしたマンガで、主人公はマンガ家を目指す二人組の少年です。舞台はそのものずばり集英社の少年ジャンプ編集部で、彼らは次々と交代する担当編集者と格闘し、そして毎週の読者アンケートの結果に一喜一憂しながら作家として一本立ちしていく。なかなかよく出来た作品で、二人の少年がプロデビューしていく過程がそれこそ「少年ジャンプ」のバトルマンガのようにスピーディーでメリハリの効いた展開で描かれています。マンガ家の世界も分かりやすく紹介されていて、知識欲も程よく満たしてくれる。しかし、端的に言ってこれって「ジャンプ礼賛マンガ」になってしまっている感は否めない。
     たとえば、主人公たちの最大の「敵」に設定されるのは、「七峰くん」という同世代の少年マンガ家です。彼は外部スタッフを活用して組織的に、そして集合知的に作品を作り上げていくスタイルを採用しているのだけど、なぜか『バクマン。』では彼のスタイルは「卑怯なこと」であるかのように描かれてしまっている。
     でも、僕には考えれば考えるほど、七峰くんのどこが悪なのかさっぱり分からない。っていうか七峰くんのやっていることって、「マガジン」の手法ですよね。もっと言ってしまえば樹林伸の手法です。彼は外部のスタッフを含めた集団によるマンガ制作のノウハウを確立しようとした。しかしジャンプは作家主義を貫いてきたことにプライドを持っている。だから七峰くん=マガジン的な手法はすごく嫌いなんですね。要するにライバル雑誌のノウハウを「悪」として描くことでこの作品は成立している。これはちょっとかっこ悪いんじゃないか、というのが僕の正直な感想です。「自分たちの歴史最高!」とか「僕らが今まで積み上げてきたものをリスペクトしなさい」って自分で言うのってカッコ悪くないですか?

    【ここから先はチャンネル会員限定!】
    PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は今月も厳選された記事を多数配信します! すでに配信済みの記事一覧は下記リンクから更新されていきます。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201607
     
  • 脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第18回「男と男7」【毎月末配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.638 ☆

    2016-07-08 07:00  
    550pt
    チャンネル会員の皆様へお知らせ
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。

    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第18回「男と男7」【毎月末配信】 
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.8 vol.638
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは平成仮面ライダーシリーズの脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』第18回です。若かりし日の敏樹先生を振り回し続けた、大手映画会社のプロデューサーSのエピソードも今回で最終回。突然、大手映画会社を退職した彼は、なんと単身フィリピンに渡ります(今回の『男と×××』は6月末配信分となります。読者の皆様には配信が遅れましたこと、深くお詫び申し上げます)。

    【発売中!】井上敏樹 新作小説『月神』(朝日新聞出版)
    ▼内容紹介(Amazonより)
    「仮面ライダーアギト」「仮面ライダー555」をはじめ、
    平成ライダーシリーズの名作を送り出した脚本家による、
    荒唐無稽な世界を多彩な文体で描き出す、異形のエンターテインメイント! 
    (Amazonでのご購入はこちらから!)
    PLANETSチャンネル会員限定!入会すると視聴できる井上敏樹関連動画一覧です。
    (動画1)井上敏樹先生、そして超光戦士シャンゼリオン/仮面ライダー王蛇こと萩野崇さんが出演!(2014年6月放送)
    【前編】「岸本みゆきのミルキー・ナイトクラブ vol.1」井上敏樹×萩野崇×岸本みゆき
    【後編】「岸本みゆきのミルキー・ナイトクラブ vol.1」井上敏樹×萩野崇×岸本みゆき
    (動画2)井上敏樹先生を語るニコ生も、かつて行なわれています……!仮面ライダーカイザこと村上幸平さんも出演!(2014年2月放送)
    【前編】「愛と欲望の井上敏樹――絶対的な存在とその美学について」村上幸平×岸本みゆき×宇野常寛
    【後編】「愛と欲望の井上敏樹――絶対的な存在とその美学について」村上幸平×岸本みゆき×宇野常寛
    (動画3)井上敏樹先生脚本の「仮面ライダーキバ」「衝撃ゴウライガン!!」など出演の俳優、山本匠馬さんが登場したニコ生です。(2015年7月放送)
    俳優・山本匠馬さんの素顔に迫る! 「饒舌のキャストオフ・ヒーローズ vol.1」
    (動画4)『月神』発売を記念し行われた、敏樹先生のアトリエでの料理ニコ生です!(2015年11月放送)
    井上敏樹、その魂の料理を生中継!  小説『月神』刊行記念「帝王の食卓――美しき男たちと美食の夕べ」
    ■井上敏樹先生が表紙の題字を手がけた切通理作×宇野常寛『いま昭和仮面ライダーを問い直す』もAmazon Kindle Storeで好評発売中!(Amazonサイトへ飛びます)
    これまでPLANETSチャンネルのメルマガで連載してきた、井上敏樹先生によるエッセイ連載『男と×××』の記事一覧はこちらから。(※メルマガ記事は、配信時点で未入会の方は単品課金でのご購入となります) 
    ▼執筆者プロフィール
    井上敏樹(いのうえ・としき)
    1959年埼玉県生まれ。大学在学中の81年にテレビアニメの脚本家としてのキャリアをスタートさせる。その後、アニメや特撮で数々の作品を執筆。『鳥人戦隊ジェットマン』『超光戦士シャンゼリオン』などのほか、『仮面ライダーアギト』『仮面ライダー龍騎』『仮面ライダー555』『仮面ライダー響鬼』『仮面ライダーキバ』など、平成仮面ライダーシリーズで活躍。2014年には書き下ろし小説『海の底のピアノ』(朝日新聞出版)を発表。

    前回:脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第17回「男と男6」

      男 と 男 7   井上敏樹
    さて、6回に渡って大手映画会社のSの話を続けて来たが、今回で終わりである。私が大学在学中に脚本家としてデビューして以来、Sとの付き合いは十数年に及んだ。その間、おかげ様で多くの仕事をし大いに遊び良くも悪くも多くを学んだ。当時は怒りや反発も覚えたが、今思えばSが恩人であることは間違いない。Sがいなければ私は脚本家にはなっていなかったろうし、酒の飲み方やその他、覚えなくてもいい遊びを覚える事もなかったかもしれない。男にとって覚えなくてもいい遊びを覚えるということは、実は大変重要な事なのだ。そんなSからプロデューサーを辞める、大手映画会社を辞める、と聞いた時は大変驚き、同時に私は責任を感じた。『お前のつまらない本を読むのも飽きたしな。おれは第二の人生を生きるのだ』新宿のバーでウイスキーを飲みながらSは私にそう言った。『いや、違うな。お前の本はつまらなくなくなって来た。それがつまらない。おれはお前のつまらない本が好きだった』そう言った。
    『それで………辞めてどうするのですか』Sの突然の言葉に驚きながらも私としては当然の問いだ。すると、Sは、『フィリピンに渡る。日本はおれには狭過ぎる』などと言う。フィリピンと聞いて私には思い当たる節があった。その前年、私はSと脚本家仲間と三人でフィリピンに旅行していたのである。言い出しっぺは私であった。フィリピンのセブ島でダイビングをしたい。青い海と空が見たい、そうダダをこねたのだ。初めてのフィリピンにSは大喜びであった。海は美しく、酒はうまい、人は優しい。人々が優しいのは我々が旅行者である点が大きいと思うが、とにかくSはフィリピンが気に入ったのだ。

    【ここから先はチャンネル会員限定!】
    PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は今月も厳選された記事を多数配信します! すでに配信済みの記事一覧は下記リンクから更新されていきます。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201607
     
  • エリートの自滅――問われるコミュニティブ・リーダーシップの真価(橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第9回)【毎月第1木曜日配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.637 ☆

    2016-07-07 07:00  
    550pt
    チャンネル会員の皆様へお知らせ
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。

    エリートの自滅――問われるコミュニティブ・リーダーシップの真価(橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第9回)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.7 vol.637
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは橘宏樹さんの連載『現役官僚の滞英日記』をお届けします。今回のEU離脱国民投票で民意をコントロールしきれなくなっていることが明らかになった英国のエリートたち。これまで社会をリードしてきた彼らが今後どのような動きを見せていくのかを占います。
    ▼プロフィール
    橘宏樹(たちばな・ひろき)
    官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
    本メルマガで連載中の橘宏樹『現役官僚の滞英日記』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。
    ※本稿の内容(過去記事も含む)に関して、皆様からのご質問や、今後取材して欲しいことを受け付けたいと思います。こちらのフォームまたはTwitter(@ZESDA_NPO)にお寄せいただければ、できるかぎりお応えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
    前回:EU離脱「決定」の報道は間違い!? ここからが英国政治の真骨頂(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』特別号外)
    こんにちは。オクスフォードの橘です。最近は、試験の打ち上げもかねて、同級生と卒業旅行に行ってきました。地中海のコルシカ島(フランス領)で泳いできました。イギリスの空とはまったく異なり、地中海は焼け付くような陽射しでした。まだシーズン前で人も少なく、適当に鄙(ひな)びた遠浅のビーチで泳いだり昼寝したりと、みんなで遊び倒してきました。小学生のように日焼けして、現在、肌がずる剥けになっています。忘れられない楽しい思い出ができました。
    そして、7月25日には遂に最終帰国することになります。帰国後は派遣元の役所の業務に戻ります。修士論文の締切は9月1日ですけれど、帰国後は浦島太郎状態でバタつくでしょうから、それまでにあらかた書いてしまわねばなりません。お世話になった方々への挨拶回りも始めました。最近ロンドンに滞在した際、約2年前に最初に暮らしていた場所(クイーンズウェイ・ベイズウォーター周辺、ハイドパークのそば)に宿泊しました。矛盾するようなことを言うようですが、懐かしい街を歩いていると、これから何を得られるだろうか、不安だったり期待に胸を膨らませていたりしていた連載第1回の頃の気持ちを、まざまざと思い出すような気もする一方で、今はまったく忘れてしまった別の人物になっているような感もあります。
    (参考)橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第1回:なぜイギリスなのか
    いずれにせよ、僕はこの2年間で、当初の想像を遥かに超える成果を得られたと思います。少なくとも、時間は一秒たりとも無駄にしなかったと思います。毎日キャパ・オーバーするまで何かをしていました。学識や経験だけではなく、特にロンドンで築き上げた人間関係は「拠点」とすら言えるものが得られたと思いますから、帰国後も継続して(むしろ帰国後こそ)官業やNPO活動との相乗効果を発揮していくと思います。
    帰国後の挨拶では「留学での学びや経験を今後の業務に活かして~」などの口上が定番でしょうが、僕は「イギリスの人脈や情報源を今後の業務に活かして~」と述べることになるでしょうし、事実として必ずそうなると思います。ぜひPLANETSにも還元していきたいと思います。
    さて、イギリスのEU離脱の国民投票結果を受けて号外を緊急寄稿させていただいた後も、激動は続いています。日本の皆様のもとにも、毎日のように最新情報が断片的に届いて「どうなってしまうんだろう」と思われているのではないかと思います。
    国民投票のやり直しを求める運動が起きたり、労働党はイマイチ熱心に残留運動をしなかったコービン党首の責任を追及したり、中国における香港のようにロンドンだけ「独立」してEUに加盟する一国二制度案が出されたり、スコットランドや北アイルランドも独立してEUに残留(独立的に再加盟)しようとしたりと、てんてこ舞いです。EU側も、イギリスに妥協的な姿勢を示して他のメンバー国が同様に離脱されては困るので、独仏伊は連携してイギリスに対して強硬な姿勢を取っています。
    こうしてみると、改めて「限りなく離脱に近い残留」というのがイギリスの真のコンセンサスだったように思われます。そもそもこれまでも、独立通貨しかり、他のEU諸国に比べて、かなり特別なポジションを確保してきていたと思います。EUから見れば「ホント、どこまで自分勝手なの?」と苛立ちが抑えきれないところでしょう(目立った失言をしないメルケル独首相ってオトナだなあって思います)。
    今回の失敗の評価をめぐり、衆愚的・感情的ポピュリズムの脅威と見たり、英国エリートの質の低下を指摘したりと、批判の観点も百出しています。

    ▲Wolfson College の”ball”と呼ばれるお祭り(もとは舞踏会)です。みなドレスアップして参加します。会費は食事なしでも約12000円程度かかります。移動式メリーゴーランドが運び込まれ一晩中飲んだり踊ったりの宴が続きます。50周年記念ということもあり盛大でした。Brexitで巷が揺れているなか、ここは別世界なのだなと感じられました…。

    【ここから先はチャンネル会員限定!】
    PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は今月も厳選された記事を多数配信します! すでに配信済みの記事一覧は下記リンクから更新されていきます。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201607
     
  • 『ドラがたり――10年代ドラえもん論』(稲田豊史)第12回 反戦・冷戦・核・原発【毎月第1水曜日配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.636 ☆

    2016-07-06 07:00  
    550pt
    チャンネル会員の皆様へお知らせ
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。

    『ドラがたり――10年代ドラえもん論』(稲田豊史)第12回 反戦・冷戦・核・原発【毎月第1水曜日配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.6 vol.636
    http://wakusei2nd.com


    本日は稲田豊史さんの連載『ドラがたり』をお届けします。『ドラえもん』の物語に何度も登場する、東西冷戦を背景とした「戦争」や「核」といったモチーフ。特に、エコロジー思想に傾倒する以前の作品では、藤子・F・不二雄が得意とする、辛口のアイロニーとブラックユーモアを堪能できます。いまだ色褪せることのない社会派SFとしての、往年の名エピソードの数々を論じます。
    ▼執筆者プロフィール
    稲田豊史(いなだ・とよし)
    編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年にフリーランス。『セーラームーン世代の社会論』(単著)、『ヤンキーマンガガイドブック』(企画・編集)、『パリピ経済 パーティーピープルが市場を動かす』(構成/原田曜平・著)、『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(構成/原田曜平・著)、評論誌『PLANETS』『あまちゃんメモリーズ』(共同編集)。その他の編集担当書籍は、『団地団~ベランダから見渡す映画論~』(大山顕、佐藤大、速水健朗・著)、『成熟という檻「魔法少女まどか☆マギカ」論』(山川賢一・著)、『全方位型お笑いマガジン「コメ旬」』など。「サイゾー」「アニメビジエンス」などで執筆中。
    http://inadatoyoshi.com
    PLANETSメルマガで連載中の『ドラがたり――10年代ドラえもん論』配信記事一覧はこちらのリンクから。
    前回:『ドラがたり――10年代ドラえもん論』(稲田豊史)第11回 土地とカネの物語
    ●みじめで滑稽な独裁者のび太
     「『ドラえもん』は大人の鑑賞にも堪える作品」という文脈の中で、必ず話題にのぼるエピソードがある。てんコミ15巻「どくさいスイッチ」(「小学六年生」77年6月号掲載)だ。こちらの連載を大幅に加筆修正した書籍が発売中です!
    『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』☆★Amazonで詳しく見る★☆ 
  • 猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉第10回「〈外部〉のない世界へ!」【毎月第1火曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.635 ☆

    2016-07-05 07:00  
    550pt
    チャンネル会員の皆様へお知らせ
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。

    猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉第10回「〈外部〉のない世界へ!」【毎月第1火曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.5 vol.635
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは、チームラボ代表・猪子寿之さんによる連載『猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉』の第10回です。今回は、シリコンバレー出張版の特別回。本メルマガ編集長の宇野が、チームラボがシリコンバレーで開いている展覧会に足を運びました。世界初公開の新作を現地で批評しながら、これまでのチームラボ作品の変遷と、その先に見えてきた「新たな空間表現の可能性」について語り合いました。
    ▼プロフィール
    猪子寿之(いのこ・としゆき)
    1977年、徳島市出身。2001年東京大学工学部計数工学科卒業と同時にチームラボ創業。チームラボは、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、絵師、数学者、建築家、ウェブデザイナー、グラフィックデザイナー、編集者など、デジタル社会の様々な分野のスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。アート・サイエンス・テクノロジー・クリエイティビティの境界を曖昧にしながら活動している。
    47万人が訪れた「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」などアート展を国内外で開催。他、「ミラノ万博2015」の日本館、ロンドン「Saatchi Gallery」、パリ「Maison & Objet」など。2月からシリコンバレー「teamLab: Living Digital Space and Future Parks」、イスタンブール「Borusan Contemporary」、5月はバンコク「Central World」、また3月からシンガポールで巨大な常設展「FUTURE WORLD: WHERE ART MEETS SCIENCE」開催中。
    http://www.team-lab.net
    ◎構成:稲葉ほたて
    本メルマガで連載中の『猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉』配信記事一覧はこちらのリンクから。
    前回:猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉第9回「混沌を混沌のまま進化させたい!」
    ■Pace Art + Technologyの現地評
    宇野 今日はこの連載の第7回でも触れた、シリコンバレーにあるPace Art + Technologyで開催中の、チームラボの展覧会に来てるわけだけど、せっかくだし今日見た新作を中心に話していきたいね。ちなみに以前の話では、この展覧会は”超ウェルカム”で受け入れられたという話だったよね。現地の批評家たちからはどんな評価をもらったの?
    (参考)第7回「ウォーホルのように〈美の基準〉を変えることで、世界を変えたい!」
    猪子 今回、超大御所のBen Davisという批評家がこの展示の批評を有名なアートメディアに書いてくれたんだよね。その人が長い批評を書いたことだけですごいんだけど、内容としても概ね絶賛!
    だから、こちらとしては超ラッキーという感じだったけど、もちろん批判的な部分も多少はあった。
    (参考)How teamLab's Post-Art Installations Cracked the Silicon Valley Code/artnet news
    宇野 なんて書かれていたの?
    猪子 まずは、「この展覧会が大ヒットしてるのは、ここがシリコンバレーだからなんじゃないか」みたいに書かれていたね。つまり、シリコンバレーのクリエイターたちは自分たちのことをアーティストだと思っていて、だから自らがアーティストになれるこのチームラボの展示はシリコンバレーではウケている、みたいな話だった。
    宇野 なるほどね。どちらかといえばこの展示を、西海岸発の新しいアート運動の可能性というよりは、既存の西海岸カルチャーの枠内で回収したいという感じなんだね。カリフォルニアの人たちははしゃぎたがりだから、的な。個々の作品に関してはどんなリアクションだったのかな。
    猪子 「チームラボアイランド -学ぶ!未来の遊園地-」の作品たちが絶賛されている一方で、「追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして分割された視点 ‒ Light in Dark」(以下、「カラス」)に関しては批判的な書かれ方もされていたね。「チームラボスタイルのアートは現代の文化的な現象。スーパーヒーローが登場したり派手な特殊撮影を使ったり、大雑把なテーマで作ったハリウッドの大作映画のひとつを思わせるかもしれない」って書いてある。
    宇野 ああ……あの作品が単に『トランスフォーマー』の戦闘シーンと変わらないものに見えてしまってるわけね。
    でもさ、これはあまりにもったいない批評だね。チームラボの作品はハリウッドの劇映画を中心に発展してきた、物語を用いた感情移入とは異なる回路での映像表現、平面表現への没入を追求してきたわけで、そこには人間の視覚情報の認識や感情移入のメカニズムについての深い洞察と繊細なコントロールがある。そこをぜんぜん分かってないな。僕も批評家としてがんばらないと……。
    ■なぜ「Black Waves」は飛ぶように売れたか
    宇野 それはそうとして、「カラス」以降のチームラボの作品は次のステージに行ったことも間違いないと思う。ひらたく言えば二次元の視覚体験から、三次元の空間体験へ対象が移ってきている。それこそ、初期作品の「Nirvana」や「Flower and Corpse / 花と屍」から、比較的最近手掛けることが多い空間系のインタラクティブな作品との間に、「カラス」があると思う。あれはターニングポイントだったんじゃない?
    猪子 確かに「カラス」以降、「平面にいかに没入させるか」というテーマ以外の作品を多くつくっている。そういう意味では、今回展示している新作「Black Waves」という作品が、その系統としては久しぶりにつくったものになるかな。

    ▲「Black Waves」
    【YouTube動画】
    猪子 これは「Universe of Water Particles / 憑依する滝」のシリーズにあたるような作品で、三次元上の水の動きをシミュレーションすることによって波を構築して、さらにその波の表層に線を描いたの。でも、純粋に軌跡を空間に描いちゃうと波だってことがよくわからなくなっちゃうから、それを3次元上の波の表面に描いてこういう作品に仕上げた。
    宇野 これ、実は今日見たものの中で一番いいと思った。
    「カラス」は初期のチームラボの「平面にいかに人間を没入させるか」というテーマの集大成だよね。「超主観空間」のレイヤー的構造をパネル分割で表現して、そこに板野サーカス的な視線誘導を加える。これまで培ってきたテクニックがてんこ盛りになっている。

    【ここから先はチャンネル会員限定!】
    PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は今月も厳選された記事を多数配信します! すでに配信済みの記事一覧は下記リンクから更新されていきます。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201607