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記事 30件
  • 橘宏樹 GQーーGovernment Curation 第11回 SDGsのわかり方

    2019-08-21 07:00  
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    現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。今回は、最近メディアで目にすることが増えてきた「SDGs」がテーマです。日本では既に進めてきた取り組みと重複することもあり、特に反論もなく国を挙げて推進する構えですが、欧米ではその背景に複雑な政治的動きがあるようです。
     こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
    【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
     またもやちょっと間が空いてしまいました。前回6月号以来、G20の大阪開催、韓国に対する輸出管理施策、参議院議員選挙(PLANETSファミリーの音喜多駿氏も当選おめでとうございました!)、ジャニー喜多川氏の逝去、京都アニメーションの放火事件、吉本興業の闇営業をめぐる一連の騒動、小泉進次郎議員と滝川クリステル氏の結婚、香港での空港封鎖デモなどの話題がメディアを席捲していました。
    ▲今週末の8月24日(土)PLANETS連載「中東で一番有名な日本人」でもおなじみ鷹鳥屋明氏をお呼びしたイベントをします!(詳細)学生は無料。PLANETS CLUBの皆様は割引があります!(詳細はfacebookグループの掲示板ご参照のこと。)好奇心だけで結構ですので、ぜひ聞きにいらしてください。
     さて、今回は、ずばりSDGsを取り上げたいと思います。本年6月21日、持続可能な開発目標(SDGs)推進本部会合(第7回)が開催され、「拡大版SDGsアクションプラン2019」が決定されました。SDGsという単語はかなり日本社会でも浸透が進んだ印象があります。サステナブル・デベロップメント・ゴールズ。持続可能な開発目標。貧困撲滅とか環境保護とか男女平等とか、明らかに良いことがんがん進めていこうっていう世界的な運動でしょ?くらいの認識は共有されているのではないでしょうか。PLANETSファミリーのたかまつななさんも普及運動を推し進めておられますしね。レインボーカラーの輪っかのSDGsバッジをつけてる人は都内に限らず地方でも結構見かけます。
     このままだと、地球と人類が滅びてしまいかねない、誰一人幸せから取り残さないために、全地球的にチカラを合わせて達成していかないといけないことがあるよね、というこの運動。解説ページは既にたくさんあります。僕はこちらのサイトなどがわかりやすいかなと思います。
    イマココラボ SDGs総研 国連広報センター
     そして、日本は今年、SDGsイヤーです。6月の大阪G20のテーマもSDGs。8月末の横浜でのアフリカ開発会議(TICAD)も当然SDGsがメイントピックになります。9月の国連サミット(HLPF:ハイレベル政治フォーラム)では、SDGsの進捗状況を首脳級が初めてフォローアップします。ちなみに、国内のリーダーシップは内閣直下に設けられた推進本部が担っており、国連マターなので、とりまとめは外務省が担当しています。(外務大臣は推進本部の副部長)
     では、日本政府がSDGsのために具体的に何してるのか、という話になると、どうでしょうか。どのくらいの解像度で理解されているでしょうか。各省のHPで資料はたくさん出ています。ちょっとぐぐるだけでも、色々なキャンペーンや情報てんこ盛りPDFがたくさん出てきますね。最も根っこの資料となる「アクションプラン」も2018、2019とあるなあ、どこが違うんだろう、そんでもって、拡大版ってなんなんだよ、って感じじゃないでしょうか。(個人的には、同じ資料にどうしてもSociety5.0の話も混ざってくることが多いので、なんというか読んでいてキャパオーバーてしまいます…。)
     本稿では、そんなSDGsと日本行政について、こうした資料の解説はしません。そのかわり、よそであまり書かれないけれど、主権者としての我々が知っておくべきではないかと僕が思う「SDGsのわかり方」について書きたいと思います。それは、SDGsとは、①行政そのものであること。②EBPMであること。③キャンペーンであること。の3つです。
    ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。
     
  • 今夜20:00から生放送!たかまつなな×松谷創一郎×宇野常寛「テレビと芸能界は変わることができるか」2019.8.20/PLANETS the BLUEPRINT

    2019-08-20 07:30  
    今夜20時から生放送!「PLANETS the BLUEPRINT」では、 毎回ゲストをお招きして、1つのイシューについて複合的な角度から議論し、 未来の青写真を一緒に作り上げていきます。 今回のゲストは、ライター/リサーチャーの松谷創一郎さんと、 お笑いジャーナリストのたかまつななさんです。 ジャニーズ事務所や吉本興業をめぐる一連の騒動から、 芸能事務所のタレントに対するハラスメントや、テレビ局との癒着が問題視されています。 果たしてこれらの事件をきっかけに「テレビ芸能村」は変わることができるのでしょうか? また、日本の芸能は今後どうなっていくのでしょうか。 今回の出来事を振り返りながら、テレビと芸能界の行方を語り合います。 ▼放送日時放送日時:本日8月20日(火)20:00〜☆☆放送URLはこちら☆☆
    ▼出演者たかまつなな(お笑いジャーナリスト) 松谷創一郎(ライター / リサーチャー
  • 鷹鳥屋明 中東で一番有名な日本人 第21回 G20サミットと中東SNS世論形成

    2019-08-20 07:00  
    550pt

    鷹鳥屋明さんの連載『中東で一番有名な日本人』。今回はサウジアラビアからのレポートです。6月に大阪で開かれたG20。サウジアラビアからは、次期国王と噂されるムハンマド皇太子が出席していましたが、2018年にトルコのサウジアラビア総領事館で起きた事件への関与疑惑を日本のメディアが報じたことで、SNSでは大規模なイメージアップ作成が展開されました。
    【告知】▲今週末の8月24日(土)、鷹鳥屋明さんが出演するイベントが行われます。学生は無料。PLANETS CLUB会員には割引があります(詳細はfacebookグループの掲示板ご参照のこと)。ぜひご来場ください!
    G20の裏にあったプロモーション合戦
    少し前のお話になりますが、この6月に雨の降る中、大阪で2019年G20が行われました。中東からはサウジアラビア王国、トルコが参加、招待国の中にはアフリカ連合の代表としてエジプトが参加していました。その中でも次回の2020年11月に行われるG20の議長国となるサウジアラビア王国は写真撮影の席次や、今回のイベント全体での立ち位置などを含めて総合的な印象ではかなりの厚遇を受けているようでした。そしてこの厚遇を受けてメディアやいろんな場所で登場した要人はサウジアラビア王国の次期国王と噂されるムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下でした。
    ▲来日したサウジアラビア皇太子
    さて、この皇太子殿下の来日に合わせて、G20のメディア報道にピックアップされる際に日本のメディアの報道の仕方にかなり偏りが出てきました。かなり意図的なものと思われますが、今回ムハンマド皇太子が各テレビ局のテレビ画面に出る際にテロップや放送内容で出てきたものが「33歳の若さで国内の権力をほぼ掌握、ジャーナリスト殺害事件関与の疑いも」「サウジの皇太子ジャーナリスト暗殺に疑いが?」や「若くして権力掌握を成しえた次期国王」などの全体的にポジティブとは言えない内容がほとんどでした。
    ▲G20サミット、一同勢ぞろいの写真。真ん中に安倍総理、すぐ右手に次回議長国のサウジアラビア
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  • 宇野常寛 NewsX vol.40 ゲスト:石岡良治「現代アニメになにが起きているか」【毎週月曜配信】

    2019-08-19 07:00  
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    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」の書き起こしをお届けします。6月18日に放送されたvol.40のテーマは「現代アニメになにが起きているか」。批評家で『現代アニメ「超」講義』を刊行したばかりの石岡良治さんをゲストに迎え、21世紀アニメで最重要の10作品をピックアップ。この20年で日本のアニメは何を描いてきたのか。その論点を改めて見直します。(構成:佐藤雄)
    NewsX vol.40 「現代アニメになにが起きているか」 2019年6月18日放送 ゲスト:石岡良治(批評家) アシスタント:加藤るみ
    細田守が捨て去った『ぼくらのウォーゲーム』から21世紀アニメを始めよう
    加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは批評家・早稲田大学准教授の石岡良治さんです。よろしくお願いします。おふたりはお付き合いがもう長いんですよね。
    宇野 10年以上の付き合いになります。石岡さんは僕の尊敬する批評家でありオタクとしての先輩でもあって、長い間、僕の媒体に書いてもらっています。 知り合ったのは、僕が物書きとしてデビューしてからで、これはよく話しているんですが、僕は石岡さんみたいな先輩にもっと早く出会いたかった。僕の田舎は北海道の帯広で、中学生のときにアニメにハマってオタクになっていくんだけど、人口15万人ぐらいの街の中学校に、僕みたいなやつが居たら、ダントツ一位のオタク力なんですよ。でも、本や雑誌を見るとオタクの世界はもっと深いわけ。それで高校は函館の寮のある進学校に行くことになるんだけど、高校には素晴らしいオタクの先輩が居て「宇野くん、こんな本も読んでないのか」「こんな漫画も読んでないのか」「こんなアニメも観てないのか」って感じで、毎日読まなきゃいけない本や漫画、観なきゃいけないビデオテープが山のように積まれてオタクエリートに調教してくれるものだと思って期待してたんだよ。ところが函館の高校も大したことはなくて。巨乳の女の子が魔法を使ってゴブリンを倒すライトノベルを読んで、「萌え〜」とか言ってるヌルいオタクがウロウロしているだけだった。「はぁ?」と思って絶望したんです。その後、1人で孤独に函館の古本屋を回る高校生活を送るんだけど、その10年後に石岡さんに出会って、本当にこういう先輩と出会いたかったと思った。石岡さんにオタクエリートとして導いて欲しい人生でしたよ。
    石岡 逆に僕は最初に宇野さんに会ったときに、ガンダムトークでほぼ趣味が一致したんです。年齢はだいぶ下なのになんでこんなに一致するんだって思いましたね。
    宇野 6歳下なんだけどその差は決定的なんです。僕はアニメファンとしては趣味が古くて、80年代アニメブームの頃のアニメが好きなんです。
    石岡 そんな感じで長いお付き合いになっています。PLANETSチャンネルでも毎月番組をやらさせてもらっています。
    宇野 その番組が今回『現代アニメ「超」講義』というタイトルで本になっています。
    ▲『現代アニメ「超」講義』

    石岡良治『現代アニメ「超」講義』 - PLANETS公式オンラインストア

    加藤 本日のテーマはこちらです。「現代アニメに何が起きているか」。本の話も含めて石岡さんに今日はたくさんお話を伺いたいと思います。
    宇野 石岡さんには何年もPLANETSチャンネルで番組をしてもらっています。文化時評の番組なんですけど、最近のアニメについて扱った回をテキスト化して再編集したものが、今回の『現代アニメ「超」講義』になります。おかげさまで素晴らしい本になりました。ここで「現代アニメ」と言っているのは21世紀のアニメのことです。この20年間のアニメについて網羅的にガチで語り尽くしていて、出てくる固有名詞は600個以上もあります。
    加藤 それでもまだまだ語りきれなかったんですよね?
    石岡 逆に「600個は少ない」と思う人もいるかもしれません。私も編集の段階でかなり落としていて。泣く泣く削ったものの一部が特典冊子に載っています。
    宇野 この本は石岡さん以外の人には書けない本です。読んだ人は驚愕すると思う。この1冊でここ20年間のアニメのことが全部わかる。今後この本を抜きにここ20年のアニメを語ることはできないと思う。そのくらいの本が出来上がったので、著者である石岡さんに今日は来てもらいました。
    加藤 最初のテーマはこちらです。「21世紀のアニメ 最重要作品10選」。
    宇野 本書の中では数百作品を取り扱っています。それを40分のトークで語ることは無理なので、最重要である10作品に絞って語ってもらおうと思います。事前に選んでもらったものをボードにまとめています。

    宇野 挙げていただいたのは『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム』『千と千尋の神隠し』『コードギアス反逆のルルーシュ』『けいおん!』『魔法少女まどか☆マギカ』『ソードアートオンライン』『プリパラ』『君の名は』『おそ松さん』『宝石の国』の10作品ですね。このセレクションそのものにも批評性があると思うんですが、今日は順番に語るのではなくランダムでいこうと思っています。時間の許す限りよろしくお願いします! 最初は何からいきます?
    石岡 「21世紀のアニメ」と銘打ちつつ、実は20世紀末年に公開の『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム』から語ってみたいんですね。
    宇野 るみちゃんも大好きな作品なんだよね。
    加藤 大好きです。世代的にも直撃で、何十回と見てますね。
    石岡 今回の『現代アニメ「超」講義』でも、この作品から21世紀を考えたいと思い、この作品を語るところから始めています。監督は細田守です。細田監督はここ十数年、つまり今世紀においては国民的アニメを作っている監督だと思われています。そしておそらく監督の名前を人々に拡めた作品は『サマーウォーズ』だと思うんです。夏休みのお茶の間にいる一家みんなで世界を救うみたいな話ですね。ところが『ぼくらのウォーゲーム』を知っていると、こちらの方が時間も短いし、エッセンスも凝縮されてる。『サマーウォーズ』よりもこっちの方が良い作品だと思うはずなんです。
    加藤 『サマーウォーズ』が夏休みに地上波で放映されるたびに「『ぼくらのウォーゲーム』流してくれよ!」と好きな人は絶対に思いますよね。
    ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。
     
  • 切通理作×宇野常寛 3万字対談 いま昭和仮面ライダーを問いなおす ――映画『平成ライダーVS昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊』公開(勝手に)記念 (PLANETSアーカイブス)

    2019-08-16 07:00  
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    今朝のPLANETSアーカイブスは、「仮面ライダー」をめぐる切通理作さんと宇野常寛の対談です。平成ではなく「昭和」のライダーについて、昭和の特撮作品のスタッフを数多く取材してきた切通理作氏と平成ライダーの評論を手がけてきた宇野常寛が魅力を語り尽くします。(構成:葦原骸吉) ※本記事は2014年3月27日に配信された記事の再配信です。
    【告知】 切通理作さんが阿佐ヶ谷の古書店「ネオ書房」の新店長となりました。 お店を引き継いだ経緯についてはこちら。 切通さんの趣味を全開にした独自の書棚が展開されています。 ぜひお立ち寄りください!
    ■ 原点としての「旧1号編」宇野 今回は映画『平成ライダーVS昭和ライダー』を記念して、歴代の昭和『仮面ライダー』を順を追って語っていきたいと思います。しかし僕は1978年生まれなので、昭和仮面ライダーの第一期、つまり初代『仮面ライダー』から『仮面ライダーストロンガー』まではリアルタイムでは接していなくて、本やビデオの後追いで知った世代なんです。だからまず、なんと言っても初代『仮面ライダー』(1971年)をリアルタイムで目撃した世代の、ファーストインプレッションをまず伺ってみたいなと思うのですが。
    切通 僕は圧倒的に仮面ライダーそのものに魅力を感じます。ライダーのデザインって、石ノ森章太郎(当時は石森章太郎)さんの漫画と実写で微妙に違うんですよ。漫画では触覚がホントの昆虫みたいにしなやかなんですけど、実写の、当時エキスプロにいた三上陸男さんが造型したライダーは、触覚がラジオのアンテナを曲げたみたいで、まるで町の工場で造ったような工作的な感覚に、当時のラジカセや自転車とか僕らの身近にある機械のデザインを見た時のような、なんとも言えない味わいを感じます。大人になってからも、あの顔の写真を一目見ただけで気持ちが持っていかれてしまうんです。
     

    ▲仮面ライダー VOL.1 
     
    宇野 僕も初代『仮面ライダー』の何が一番好きかというと、デザインとスーツの造形なんです。同じ特撮ヒーローものでも石ノ森さんのデザインワークは『ウルトラマン』の成田亨さんのものとはまったく違う。たとえば成田さんの場合、ゼットンは水牛がモチーフで、レッドキングも恐竜がモデルだろうけど、どちらもモデルになった生物の進化したものではなく、あくまで実在のものとはまったく別種の生物になっている。つまり成田さんは現実にはこの世界に存在しない、あたらしい生物を産み出す天才だった。対して、石ノ森さんはすでに存在する二つのモノを組み合わせる天才だった。クモ+人間でクモ男、カニ+コウモリでガ二コウモル、そもそも仮面ライダーのバッタの仮面にライダースーツというデザインを考えついたというだけでもう確実に天才だと思うんです。要するにウルトラマンが世界の外側から来訪した超越者で、仮面ライダーは僕たちのこの世界の内側から産まれ落ちた存在だという物語上の設定がデザインコンセプトにも通底しているわけですね。
    切通 あのライダースーツと一体化したような、レザーのしなりが感じられるボディラインも、見ていてシビれるものがあります。
    宇野 僕はウルトラマンシリーズも大ファンで、昭和ウルトラマンと昭和仮面ライダーの物語のどちらが面白いかと言えばやっばりウルトラのほうなんですよ。もともと昭和仮面ライダーはストーリー重視の番組ではないですしね。しかし、大野剣友会のアクションは洗練されていて何度観ても飽きないし、デザインについても仮面ライダーの方に惹かれるんです。持っている玩具も子どもの頃から仮面ライダーの方が多い。仮面ライダーのキャラクターデザインに接していると、世界との関係について感覚がひらかれるようなところがある。
    切通 なるほど、だから宇野さんの本『リトル・ピープルの時代』の表紙は1号ライダーなんですね。「どちらかといえば平成ライダーを熱く語っているのに、なんで昭和ライダーが表紙なのかな?」って思っていました。
    宇野 あれは装丁家の鈴木成一さんのアイデアですね。僕も出版社の担当さんも、表紙では仮面ライダーがテーマの本であることはむしろ隠して、村上春樹論だと思い込んで買った読者を驚かせようと思っていました(笑)。でも、鈴木さんがここは仮面ライダーのフィギュアを使うべきだと主張して、僕の私物を提供したんです。ちなみに、このフィギュアは海洋堂が昔発売していた1/4スケールの旧1号ですね。原型師は木下隆志さんです。
     

    ▲宇野常寛『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)
     
    切通 そうだったんですね。初代仮面ライダーが始まったとき、僕は小学校二年生だったんですが、クラスで一番優等生だった、みんなと遊ばないような子から、「すごい変な番組が始まった。なんか暗い感じの、キチガイ博士みたいなのが出てきて、人間を改造してる、見たこともないような番組なんだ」って感じに紹介されて、僕も「見なきゃ! いつやってるの?」と初めて見たのが「人喰いサラセニアン」の回(第4話)でした。それ以来毎週見るようになりましたね。女性が植物園で地中に引きずり込まれるのが印象的で、ホラーなテイストで、戦闘員もまだ全頭マスクではなくて、顔にサイケな模様を直接塗ってるし、暗闇にライダーのCアイが光って……スカッとするヒーローものっていうより、怪奇ものって感じの印象を持っていましたね。
    宇野 当時は等身大の変身ヒーローという概念自体がなかったんですね。
    切通 変身シーンもまだバイクで加速して姿が変わるという段階だったし、新しいセンスの番組を見ているという感覚がありました。そもそも『仮面ライダー』って名前が独特じゃないですか。『ウルトラマン』は全部英語、『月光仮面』は全部漢字。後の「キカイダー」や「イナズマン」もそうですが、石ノ森章太郎独特の日本語と英語が混ざったセンス。「仮面」って言葉自体もちょっと復古調で、新しいものと見知ったものがミックスされてる感じ。僕は最初、仮面の人がバイクに乗っている状態を「仮面ライダー」って呼ぶのかと思ってたんですけど(笑)。
    宇野 旧1号編(1〜13話)の前半って、当時の東映+石ノ森だからできた怪奇テイストで、たぶん一番原作の雰囲気を残している。本郷猛は自分が改造人間になってしまったことでずっと苦しんでいるし、ショッカーの作戦も日常の生活風景の中に潜む恐怖として非常にミステリアスに描かれている。この旧1号編前半のシリアスなモードが好きな人って多いですよね。でも、僕が好きなのはむしろ旧1号編の後半なんです。第10話以降は藤岡弘さんが撮影中のケガで降板しちゃって本郷猛のシーンは全部バンク、ライダーの声はショッカー首領役の納谷悟朗さんの弟の納谷六朗さんが演じている。六朗さんは『クレヨンしんちゃん』の園長とか『幽遊白書』の仙水の声で有名ですね。僕はあのときにライダーって従来のヒーローから解放されたところがあったと思うんです。要するに、平成の『仮面ライダー555』や『仮面ライダーディケイド』に続くような、「ライダーの中身は誰でもいい」「誰がライダーに変身してもいい」という感覚が結果的にあのときに生まれたんじゃないか、と。
    切通 藤岡さんの事故は当時とても有名で、子どもの僕も知ってましたが、一方僕は迂闊な子だったので、藤岡さんが事故後の1号ライダー編の新規撮影分には出てないことには気付かなかった(笑)。映像の使い回しで、声だって違ったのに。
    宇野 旧1号編の後半はシナリオの工夫も面白くて、たとえばゲバコンドルの回(第11話)は、当時助監督だった長石多可男さんが適当にでっち上げたストーリーですね。
    切通 藤岡さんが新規に出ないでどういう話が成立するか、助監督さんに書いてもらったストーリーから急遽選ばれたっていう回ですね。ライダーの相棒役であるFBIの滝和也が初めて登場する。
    宇野 意外と好きなのは怪人ヤモゲラスの回(第12話)です。この回はほとんど緑川ルリ子が主役じゃないですか。当時の真樹千恵子(現:森川千恵子)さんってちょっとはっとするような美人で、僕なんかは単に彼女がたくさん映って活躍するのを見ているだけでも楽しいんですよ。
    切通 森川千恵子さんは『アイアンキング』でも、敵の不知火一族十番目の影を演じていて、明るく健康的な風情なのにどこか影を背負った役柄を演じさせられているんですよね。どちらも物語の中途でいなくなるし。彼女の活躍は確かにレア感があります。緑川ルリ子は原作にも登場するキャラクターですしね。
    宇野 この回は、デンジャー光線っていう兵器を開発した博士を、ヤモゲラスが無理矢理ショッカーに協力させようとしてライダーと戦う話なんですけど、最後にヤモゲラスはその博士に反撃されてデンジャー光線で倒されちゃう。この話ではライダーは本当に添え物にすぎなくて、ときどき助けに来て暴れて帰っていくっていう位置づけですよね(笑)。でも、その何でもアリな感じがいいんですよ。
    切通 滝和也登場と、本郷編ラストである13話の間に挟まって、埋もれた感じのヤモゲラス回が宇野さんからすると印象的だというのは、面白いですね。いま見ると、本郷猛の場面を新規撮影できないから、ライダーを添え物にせざるを得なかったんでしょうけどね。
    宇野 それでもちゃんと番組として成立しているのがすごいと思うんです。こうしたエピソードの積み重ねが、結果的にだけれども、ヒーローものの射程というか、『仮面ライダー』という作品で許されることを広げている気がするんですよね。
    切通 そういう見方もあるのか。僕は旧1号編の後半というとやっぱり滝和也の存在が大きいんですけど、生身であれだけ戦える滝がその後レギュラーとして定着していくということ自体が、宇野さんの言う、単体ヒーローものでありながら射程を広げている部分なのかもしれないですね。2号ライダー編以降は、完全に二人のコンビものになっていきます。子ども心に、滝が最後はライダーに怪人を倒す役を譲っているのが大人だなと思ったりして見てました。
    宇野 あとトカゲロンの話(第13話)も大好きですね。後に劇場版や最終決戦に引き継がれていく再生怪人がズラリと並ぶ、あのお祭り感はここで開発されたわけでしょう?
    切通 それまで出てきた怪人が総登場する最初ですよね。戦闘員並みに弱くなってるんだけど(笑)。
    宇野 ショッカーの頓珍漢な作戦も好きです。サッカー選手を改造人間(トカゲロン)にして、その強靭なキック力で爆弾をシュートしてターゲットの研究所のバリアー(なぜか作中では「バーリア」と呼ばれる)を破るのが目的(笑)。爆弾の威力が問題じゃないのかよ、と。
    切通 人間を改造するところから描くんですよね。でも視聴者に同情心を持たせないためか、チームメイトにやたらぞんざいな態度を取る、チンピラみたいなサッカー選手に描かれているところが東映っぽくていい(笑)。トカゲロンは、見てる僕が当時はまだ<怪獣>っていうものがカッコイイんだという概念だけに縛られていたから、怪獣みたいなデザインの怪人が出てきたのが単純に嬉しかったですね。
     後に『クウガ』のプロデューサーとなる高寺成紀さんは、ウルトラマンや怪獣が好きでありながら、いち早くライダー怪人ならではの良さに気づいていたということなんですが、僕はまだそこまで目覚めてなかったのをいまは恥じています。
     
     
    ■主役俳優の事故の生んだ「王道」の確立――「旧2号編」
     


    ▲仮面ライダー VOL.3
    宇野 僕は2号編(14〜39話)の初期も好きなんです。旧1号編って、まず石森色が強い状態で始まって、だんだん東映色に染まっていく過程だったと思うんですね。藤岡さんの事故でこの流れはぐっと加速して、主役交代後の2号編はもう完全に東映+シナリオの伊上勝さんが作った世界になっている。2号編になると「とにかくアクションをCM前と後の二回見せる」「そこから逆算してストーリーを組み立てて行く」という正しい娯楽活劇路線が完全に確立されているんですよね。
    切通 何か起こると一文字隼人が必ずバイクで通りかかるという。端的な導入でパッパッと進む。井上敏樹さんが父親の伊上勝さんを「親父の脚本は紙芝居だ」と言うゆえんですね。
    宇野 たとえば、怪人ピラザウルスの回(第16話&17話)なんてもう、すごいじゃないですか(笑)。ショッカーがプロレスラーを改造して、そのプロレスを見に来た政府要人を毒ガスで暗殺する、という謎の作戦を実行するんですよね。どう考えても、クライマックスにリングで仮面ライダーとピラザウルスが戦うシーンを撮るというアイデアが先にあって、そこに合わせてストーリーを強引にでっち上げている。
    切通 集まった観客の前でリング上の戦いを繰り広げるシーンはめちゃくちゃ興奮した! 先にライダーが倒れるところとかもドキドキしましたし。 
    宇野 最高に燃えるシュチュエーションを作るために、あそこまで強引なストーリーをでっち上げるイマジネーションって素晴らしいと思うんですよね。物語をアクションに正しく奉仕させている(笑)。
    切通 でも、あの話は2号ライダー編にしてはドラマがある方でしたよ。怪人にされたレスラーに弟がいて、最後に兄が元に戻って、弟が「お兄ちゃん怪人だったの!?」って言うと、一文字隼人が「怪人は死に、お兄さんは蘇ったんだ」って答える。一文字自身も改造人間なのに、その弟の前ではあえてそこを切り捨てて言い切っていますよね。そんな一文字に強さ、優しさを感じてジーンとなりました。
    宇野 一文字って終始明るいんですよね。本郷猛って、特に初期は孤独で暗いんだけどその分人間的な深みがあるキャラクターとして描かれていた。あれはあれで格好いいんだけれど、一文字隼人は、仲間や子どもの前でも、背負っているものを全部飲み込んで常に笑顔じゃないですか。あれがいいんですよね。
    切通 一文字のキャラクターには、あの頃の東映のテイストが入っていますよね。当時東映で、宮内洋さんも出てた『キイハンター』(1968〜73年)というアクションもののドラマがあって、ナレーションで「恋も夢も望みも捨てて」って言ってるのに、みんないつも遊んでるように冗談を言い合ってる。本当は、任務で個人の生活を犠牲にしてる部分もあるんだけど、表面は常に明るいっていう。一文字隼人もそんな感じですね。
    宇野 子ども心に疑問だったのが、第39話のクリスマスのエピソードでライダーが狼男を倒したあと、子どもたちへのクリスマスプレゼントとして自分で仮面ライダーグッズを配ってるんですよ。あれがちょっとおかしくて(笑)。今考えるとメタフィクションっぽいですよね。
    切通 当時からべつに感動したとかはないんだけど、でも妙に印象に残る場面ですね。ちゃんと憶えているし。
    宇野 あれって一文字だから配れるんですよね。本郷猛はキャラ的に配れないんですよ、たとえ新1号編の、少し明るくなった本郷でもちょっと無理がある。
    切通 なるほどね。しかもその翌週(第40話)に1号が帰って来る。
    宇野 当時は、いわゆるダブルライダー編ってすごく盛り上がったんじゃないですか?
    切通 やっぱりもうめちゃめちゃ期待して見ましたよ。お正月の放映だったし、お年玉もらったみたいな気持ちになるイベントでしたね。鹿児島ロケで、桜島が舞台でね。
    宇野 ダブルヒーローというもの自体がそれまであまりなかったんですよね。それだけで十分引きがあるのに、あのたった数話の中で、片方のピンチにもう片方が駆けつけたり、片方が一時洗脳されて敵に回ったりと、後の作品で踏襲されていくダブルヒーローものの脚本術がかなり開発されている。それが今観てもすごいなって思うんですよね。あとは、ライダーダブルキックですよね。あれはもう言葉の響きだけで感動します。僕、小学生の頃にレンタルビデオで観るまでは本でしか知らないんですよ。なのにもう、大好きでしたもん。
    切通 そうですよね。やっぱり、ドラマの『仮面ティーチャー』(2013年)や、『スケバン刑事2』(1987年)とかでダブルキックが出てくると妙に燃えるんですが、その原点はあそこでしょうね。ただ、あの回は見ていて「1号ってあんなに黒かったっけ? 最近は2号の方を見慣れてるからギャップ感じるのかな」って思ったんです。でもいま考えると、あれはあの時だけのマスクだったんですね。
    宇野 「桜島1号」と呼ばれるスーツですよね。フィギュアが発売されるときも必ず旧1号とは別のスタイルとして別個に商品化されていますからね。僕は旧1号のほうが好きな造形とカラーリングですけれど、旧2号と並べるのならやっぱり桜島1号じゃないとしっくり来ないものがあります。
     
     
    ■『V3』プロローグとしてのショッカーライダー編――「新1号編」
     

    ▲仮面ライダー VOL.16
     
    宇野 で、その後、本郷猛が本格的に復帰して新1号編(53〜98話)になるわけですね。
    切通 じつは、僕が一番好きなのは新1号編の後半(80〜98話)から、続く『仮面ライダーV3」前半の「26の秘密」編ですね。
    宇野 初代『仮面ライダー』は物語があってなきに等しいのですけれど、一番物語性があったのは初代から『V3』へ移りかわるこの時期ですよね。
    切通 ショッカーライダー編とかだよね。ショッカーに親兄弟を殺された人達が作ったアンチショッカー同盟っていう組織が出てくるんですが、それが、連合赤軍じゃないけど、立花藤兵衛やライダーとも立場が違って、組織としての規律を守るためには個人を犠牲にしようしたりする。三者三様の錯綜した対決の中で、しかも偽仮面ライダーが投入されて「8人の仮面ライダー」っていうタイトルも、敵味方入り乱れて8人っていう……あの辺りの感覚にもどこか興奮しましたね。
    宇野 ショッカーライダーが6人と、それに加えて1号と2号の8人ですね。ちなみに、ショッカーライダーって石ノ森さんの原作版の方が早く登場していますよね。しかも、本郷猛を殺してしまう役どころだった。
    切通 原作のテイストが少し入ってきた、っていう興奮もあったかもしれない。
    宇野 原作漫画だとショッカーが仮面ライダーを量産して、本郷猛が十二人の仮面ライダーに囲まれてフルボッコにされて死んじゃうじゃないですか。そのショッカーライダーの一人が一文字隼人で、戦闘中に脳に衝撃を受けて正気に戻り二代目の仮面ライダーになる。やっぱり仮面ライダーはウルトラマンと違って絶対の存在じゃないんですよね。あくまでショッカーが作った改造人間が一人脱走しただけの存在だから、量産も可能だし、条件さえ満たせば「誰でも仮面ライダーになれる」。この決してオンリーワン「ではない」ヒーローという設定は仮面ライダーならではのものだと思います。これは旧1号編の後半で藤岡弘さんが降板した結果生まれた「誰がライダーになっても構わない」というメタルールが、その後も適用されていると言えますよね。
    切通 だから「8人の仮面ライダー」というタイトルにぞわっとくるのかもしれない。同じライダーなのに敵味方入り乱れて8人いるあたりに、子どもながらにヒーロー性のゆらぎを感じていたのかもしれないですね。
     
     
    ■『仮面ライダー』第9クールとしての『V3』――『仮面ライダーV3』
     

    ▲仮面ライダーV3 
    宇野 当時の感覚だと『仮面ライダーV3』(1973年)は、新番組が始まったというより、『仮面ライダー』の第9クール目のように見えたということでいいんですか?
    切通 そう、だから『V3』の第2話「ダブルライダーの遺言状」が仮面ライダーの第100話なんです。『V3』の序盤には本郷猛と一文字隼人が当たり前のようにいて、V3こと風見志郎は彼らに改造されるわけですよね。で、本郷と一文字が大空に散るのが第2話。『仮面ライダー』の最終回はショッカーを追いつめるという意味での最終回で、『V3』の2話で1号と2号が最後を迎えるという意味での締めくくりになっている。つまり最終回と第1話がシンクロしてるわけですから、盛り上がらない方がおかしい(笑)。
    宇野 『V3』の初期のドラマは独特の緊張感がありますよね。V3はスペック的にはすごく強いんだけれど、風見志郎が経験不足のせいで初期は何かと苦戦するじゃないですか。色々教えてくれるはずの先輩1号と2号は生死不明になってしまうし。
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  • 本日20:00から放送!オールフリー高田馬場 2019.8.15

    2019-08-15 07:30  
    本日20:00からは、オールフリー高田馬場

    今夜20時から「オールフリー高田馬場」生放送です! 「オールフリー高田馬場」は、既存メディアや世間のしがらみにとらわれず、 政治、社会からカルチャー、ライフスタイルまで、 魅惑の週替わりナビゲーターとともに あらゆる話題をしゃべり倒す〈完全自由〉の解放区です! 今夜の放送もお見逃しなく!
    ★★今夜のラインナップ★★今週の1本「高畑勲展 日本のアニメーションに遺したもの」週替りナビゲーターコーナー「井本光俊、世界を語る」and more…今夜の放送もお見逃しなく!
    ▼放送情報放送日時:本日8月15日(木)20:00〜21:00☆☆放送URLはこちら☆☆
    ▼出演者
    宇野常寛井本光俊(編集者)
    ▼ハッシュタグ
    Twitterのハッシュタグは「#オールフリー高田馬場」です。
    ▼おたより募集中!
    番組では、皆さんからのおたよりを募集しています。番組へのご
  • 宇野常寛インタビュー「日常を塗り替える想像力」(PLANETSアーカイブス)

    2019-08-15 07:00  
    550pt

    今朝のPLANETSアーカイブスは、本誌編集長・宇野常寛が受けたインタビュー記事の再掲です。同人誌「PLANETS」の時代から、一貫してサブカルチャーを通して現代の社会のあり方を見つめてきた宇野常寛。「自分の物語」が優位な時代となり、社会とサブカルチャーの関係が大きく変化するなかで、他人の物語を活かし方を考えます。(取材・文 吉田隆之介/初出:「WASEDA LINKS vol.35」)※本記事は2018年3月1日に配信された記事の再配信です。
     「未来は明るいか」と問われたときに、首を縦に振ることをできる人はどれだけいるだろうか。テレビや新聞を見ても、一向に解決しない政治や社会、国際情勢の問題が日々伝えられ、ネットを見ても揚げ足を取り合うだけの炎上が繰り返されている。そして、その閉塞感は日々の生活にも波及してきている。おそらく、多くの人が日常において希望を見出せていないのではないのだろうか。息苦しさを感じる日常を変えるべきか、それとも目を背けて問題を先送りし続けるのか。私たちはそのような分岐点に立たされていると言えよう。
     日本において日常を変えることを選び、社会や文化を面白いものにしていこうとしている人物がいる。評論家の宇野常寛氏だ。彼は日本のサブカルチャーやフィクションを通して時代を見据え、現代社会をよりよく作り変えるための提案を発信し続けている。
     本企画では、宇野氏に「私たちはどのように現実の問題と向き合い、日常を変えていけばいいのか」ということを伺った。
    ――宇野さんは同人誌「PLANETS」や評論デビュー作『ゼロ年代の想像力』の頃から一貫して、サブカルチャーを通して現代の社会のあり方を見つめていらっしゃいます。そのような活動をしていこうと思った背景はどのようなものでしょうか。
     70年代から90年代くらいまでは、時代の空気を敏感に察知することはサブカルチャーを語るということとイコールだったからなんです。
     理由は二つあって、まず、あのころは、今よりも若者が社会の主役だったんですよ。人口比的に先進国はだいたい若者の数が多かった時代だった。そして次にこれらの国々では政治的なアプローチではなく文化的なアプローチで世の中を考える時代だったんです。60年代の「政治の季節」が終わったあと、世界的に「世の中を変えるのではなく自分の内面を変える」ことを考える時代に切り替わっていて、それは日本も例外ではなかったんですね。ある意味ではこの時期のサブカルチャーが革命の代替物だった。だから当時はまだぎりぎり、時代を語ることは、若者向けのサブカルチャーを語るということだったんですよね。
     だから僕が学生の頃っていうのは、どのアニメを支持するかというのは思想的な選択だったんです。例えば「『新世紀エヴァンゲリオン』の結末をどうとらえるか、岡崎京子(注1)の漫画作品の中でどれを一番いいと思うか」という議論は、少し大げさに思想的な選択でもあったんですよ。
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  • 【インタビュー】レジー 夏フェスは日本の音楽シーンの何を変えたのか(PLANETSアーカイブス)

    2019-08-14 07:00  
    550pt

    今朝のPLANETSアーカイブスは、フジロックやロック・イン・ジャパンなどの「夏フェス」について論じた『夏フェス革命』の著者レジーさんのインタビューです。夏の定番イベントとして定着したフェスは、アーティストの露出からファンのあり方に至るまで、日本の音楽業界を大きく変えました。黎明期からフェスに通い続けているレジーさんに、今、フェスで何が起きているのかをお聞きしました。
    【書籍情報】
    ▲レジー『夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー 』
    環境を批評することで見えるもの
    ――昨年12月に刊行された『夏フェス革命』のお話を伺っていきたいのですが、まずはレジーさんの自己紹介からお願いします。
    レジー レジーという名前で音楽ブロガー・ライターをしています。音楽と関係のない会社で働きつつ、社外では音楽についての文章を書いていて、音楽サイトのReal Soundや音楽雑誌などにも寄稿しています。
    ライターを始めたきっかけは、2012年の夏に立ち上げた「レジーのブログ」です。そこでの記事が話題になったことで、商業媒体に声をかけてもらったり、あとはPLANETSの「いま、音楽批評は何を語るべきか」にも呼んでいただきました。会社員をしながらライター活動をするにあたって、宇野さんの「文化系のための脱サラ入門」には大きな影響を受けましたね(笑)。
    ――『夏フェス革命』の内容についても、改めてご紹介をお願いします。
    レジー 夏フェスというものが日本で広く知られるきっかけになったのは1997年、フジロックフェスティバルの第1回が開催された年です。当時「夏フェス」という呼称は存在していませんでしたが、それから約20年の間に、フェスの種類も参加人数も大幅に増えて、音楽業界ではフェスの盛り上がりが非常に注目されるようになってきました。
    世の中に浸透しつつあるフェスですが、初期のフェスに参加していた人と、今現在フェスに行っている人は、だいぶタイプが違うのではないか。毎年フェスに通っている中で様々な変化を感じていたんですが、その背景にある構造を解き明かせないか、と考えたのが本書の出発点です。
    この本では、三つの視点からフェスの本質を明らかにしようとしています。
    一つ目は、「ライブの時代」におけるフェスの位置付けと、それに影響を受けたアーティストたちの活動の変化という音楽業界的な切り口。
    二つ目は、SNSの拡大の中で、フェスがどう変化していったのか。僕がフェスの変化を実感したのは2006〜2007年頃ですが、これはmixiの普及とほとんど同時期なんですね。また最近では、スマホの登場も大きな影響を与えていて、そういった関係性について考える社会学的な視点です。
    三つ目はビジネス寄りの見方です。僕は普段会社で事業のコンサルティングに関わっているので、そういう視点から現在のフェスがビジネスとしてどんな特徴を持っているのかを明らかにしたい。
    この三つの論点からのフェスの分析が、この本の大枠になります。
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  • 今夜20:00から生放送!瀬尾傑×宇野常寛「スローニュースと遅いインターネット」2019.8.13/PLANETS the BLUEPRINT

    2019-08-13 07:30  
    今夜20時から生放送!「PLANETS the BLUEPRINT」では、 毎回ゲストをお招きして、1つのイシューについて複合的な角度から議論し、 未来の青写真を一緒に作り上げていきます。 今回のゲストは、スローニュース株式会社・代表取締役の瀬尾傑さん。SNSを中心に、情報が絶え間なく氾濫する現代において、わたしたちはどんな態度で社会と向き合うべきなのでしょうか?調査報道の支援を目的に今年設立された「スローニュース」のポリシーや、今後目指すものについて。PLANETS編集長の宇野常寛が提唱する「遅いインターネット」の概念とのつながりも交えながら、議論します。
    ▼放送日時放送日時:本日8月13日(火)20:00〜☆☆放送URLはこちら☆☆
    ▼出演者瀬尾傑(スローニュース代表・スマートニュースメディア研究所所長)宇野常寛(評論家・批評誌「PLANETS」編集長)ファシリテーター:たかまつなな
  • 石岡良治×宇野常寛 『君の名は。』――興収130億円でポストジブリ作家競争一歩リード――その過程で失われてしまった“新海作品”の力(PLANETSアーカイブス)

    2019-08-13 07:00  
    550pt

    今朝のPLANETSアーカイブスは、映画『君の名は。』について、石岡良治さんと宇野常寛の対談をお届けします。コアなアニメファン向けの映像作家だった新海誠監督が、なぜ6作目にして大ヒットを生み出せたのか。新海作品の根底にある“変態性”と、それを大衆向けにソフィスティケイトした川村元気プロデュースの功罪について語ります。(構成:金手健市/初出:「サイゾー」2016年11月号) ※この記事は2016年11月24日に配信された記事の再配信です。
    ポストジブリから深夜アニメ、キッズアニメまでを語り尽くす! 石岡良治さん「現代アニメ「超」講義 」好評発売中▲『現代アニメ「超」講義』
    宇野 まあ、身もふたもないことを言えば、よくできたデート映画ですね、という感想以上のものはないんですよね。本当に川村元気って「悪いヤツ(褒め言葉)」だな、と思わされました。新海誠という、非常にクセのある作家の個性を確実に半分殺して、メジャー受けする部分だけをしっかり抽出するという、ものすごく大人の仕事を川村元気はやってのけた。
     新海誠の最初の作品である『ほしのこえ』【1】は、二つの要素で評価されていた作品だと思う。ひとつは、キャラクターに関心が行きがちな日本のアニメのビジュアルイメージの中で、背景に重点を置いた表現を、それもインディーズならではのアプローチで再発掘したという点。もうひとつは、後に「セカイ系」と言われるように、インターネットが普及しつつあった時代の人と人、あるいは人と物事の距離感が変わってしまったときの感覚を、前述のビジュアルイメージと物語展開を重ね合わせてうまく表現していたところ、この二つです。ただ、それ以降の新海誠は、背景で世界観を表現しようというのはずっと続いていたけれど、ストーリーとしてはそうした時代批評的な部分からは一回離れて、ある種正当な童貞文学作家というか、ジュブナイル作家として機能していた。
     今回、久しぶりに過去作を見返したんですけど、意外とというかやっぱりというか、あの気持ち悪さがいいんですよね(笑)。例えば『秒速5センチメートル』【2】でのヘタレ男子の延々と続く自己憐憫とか、『言の葉の庭』【3】の童貞高校生の足フェチっぷりとか。どっちも女性ファンを自ら減らしに行っているとしか思えない(笑)。でもそんな自分に正直な新海先生が愛おしいわけですよ。1万回気持ち悪いって言われても自分のフェティッシュを表現するのが『ほしのこえ』以降の新海誠作品であり、基本的に彼はそこを楽しむ作家だったと思う。
     それが『君の名は。』では、その新海の本質であるところの気持ち悪さの残り香が、三葉の口噛み酒にわずかに残っているだけで、ほぼ完全に消え去ってしまった。おかげで興行収入130億円を達成したわけだけど、あの愛すべき、気持ち悪い新海誠はどこにいってしまったのか。まぁ、それも人生だと思いますが(笑)。

    【1】『ほしのこえ』(公開/2002年):宇宙に現れた知的生命体を調査する艦隊に選ばれ宇宙へ旅立った少女と、地上の同級生男子の、ケータイメールを通じた超遠距離恋愛を描く。宇宙ゆえに、ケータイという身近なツールで連絡を取り合いながらも、それぞれの過ごす時間がズレていくという設定になっている。新海誠にとって初の劇場公開作品であり(短編)、本作で高い評価を受けたことが現在につながっている。
    【2】『秒速5センチメートル』(公開/2007年):新海誠の3作目の劇場公開作。3話の短編で構成される連作。小学校時代に惹かれ合っていた3人が、転校後も文通を重ねて一度は再会するものの、離れ離れになって時が経ち、思春期を過ぎて大人になり……という長い時間が描かれる。
    【3】『言の葉の庭』(公開/2013年):『君の名は。』の前作にあたる5作目。靴職人を目指す男子高校生が、雨の庭園で出会った大人の女性に惹かれてゆき、2人が近づく過程を描く。

    石岡 僕が新海作品でずっと興味を持っているのは、エフェクトや背景の描写です。彼が日本ファルコム在籍時に作った、パソコンゲーム『イースⅡエターナル』のオープニングムービーは、ゲームムービーを刷新した。この当時から空や背景の描写はとんでもなく優れているんですが、自然に迫る美しさとは違っていて、ギラギラした光線をバシバシ見せつけるような、人工的なエフェクトの世界を高めていくものだった。宇野さんが言った「気持ち悪さ」でいうと背景自体も気持ち悪いというか、その方向へのフェティッシュも濃厚でした。なぜ彼の作品が童貞文学的になってしまうかというと、圧倒的な背景描写に対して、キャラクターをあまり描けなくて動かせないからなんですよね。でもその結果、豊かな背景を前に、キャラクターが立ち尽くす無力感が背景そのものに投影されて、観る人はそれに惹かれる仕組みがあった。
     一方で今回は、キャラクターがよく動く作画でありながら、新海監督には由来しない別の気持ち悪さが生まれていると思う。去年この連載で『心が叫びたがってるんだ。』を取り上げた時、田中将賀【4】さんのキャラデザは中高年以上を描けないんじゃないか、という話をしましたよね。『君の名は。』も田中さんなんだけど、作画監督・安藤雅司【5】の力によって、三葉の父親や祖母はさすがにうまく描かれていた。だけどその代わりに、日本のアニメーター特有の病というか、演出的にはいらないはずのシーンでついパンチラを描いているあたりには、また別種の気持ち悪さがあるんじゃないか。

    【4】田中将賀:アニメーター/キャラクターデザイナー。『とらドラ!』や『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』シリーズのキャラクターデザイナー・作画監督を務める。
    【5】安藤雅司:アニメーター。『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』などのジブリ作品や、『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』など今敏作品ほか、数々の人気アニメ作品の原画・作画監督を務めている。

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