山口に新しいeスポーツのための装置「スポーツタイムマシン」を作った犬飼博士さんと安藤僚子さんのタッグが、制作当時を振り返る連載『スポーツタイムマシン』。今回は、山口と東京で見つけた仲間たちの協力のもと、スポーツタイムマシンが少しずつ形になっていく様子を、犬飼さんの視点から語ります。
こんにちは犬飼です。
今回は前回の安藤さんに引き続きスポーツタイムマシンを作るための山口のリサーチと、主に僕が行った電子プログラム開発部分のお話しをさせていただきます。
展示開始は2か月後です。
YCAMの人たちからは「間に合わせてね」とやさしい言葉と厳しい目つきで指定されております。そんな緊張感ある時期のお話しです。
プロジェクトが目指すゴールのデザイン
ライフバイメディアというテーマの作品であるスポーツタイムマシンの事前リサーチ。つまり山口のライフサイズを調べる活動は、僕たちが山口を知ることと同時にスポーツタイムマシンをいっしょに”作って”、”運営して”、”遊ぶ”ための仲間探しでした。
「こんにちは。突然すみません。」
「こんな場所にこんなマシンを設置しようと思っています。」
「このアイデアはどう思いますか?」
「このマシンを7月にオープンさせるので一緒に作りませんか?」
「物もお金も人も足りないのです。協力してくれませんか?」
こんな会話をあっちこっちでする旅です。
安藤さんは内装というモノ、僕はコトの設計と制作をおこないます。
コトの設計というのは、ある物や者の間にある「関係」をデザインするということです。
スポーツタイムマシンというモノと山口を、人々の関係を作っていく、それがこの時に僕が始めたことです。
今回は電子プログラムだけでなく人や町、商店街そのものがメディアになるための事前リサーチで、人と会う行為そのものが制作になっていきます。
コトをデザインする手法の一つに、僕がずっと携わってきたゲームデザインがあります。モニター画面の中だけのゲームではなく、モニターを飛び出してしまったゲームのデザインです。
ゲームデザインでは、なんらかのゴールと報酬を用意します。
報酬では失礼なのでプレゼントと言い換えます。
山口の人たちに用意したプレゼントは”笑顔になってもらうこと”だと
この段階で決めました。
初対面の人にはわざわざ「笑顔をプレゼントします」とは言いませんが
少し仲良くなって負担を多くかけてしまう仲間には、「あなたを含め、山口の人が自ら行動して内発的に笑顔になってもらうように頑張りましょう」と伝えていました。
僕は当時のブログにこう書きました。
YCAM10周年のお祭りを、YCAM、商店街、山口市、県、県外の人たち全員で参加して盛り上がるイベントにして、みんなを笑顔にしたいのです。
笑顔があればいいです。
ただそれだけなのです。
そして
その先にはもっと大きな
絶対イエーイはあるはずなんです。
(中略)
25年前、石井聰互さんが、キューブリックの「2001年宇宙の旅」等をさして絶対映画というのがあるんだと言いました
その先です
人類はもう25年も拡張をしてきたのです
絶対イエーイ
ジョン・レノンがピースというように、
ジェーン・マクゴニガルがエピックウィンというように
ぼくは絶対イエーイというんです。
つまらないレトリックに聞こえてしまうかもしれませんが、お祭りやスポーツ、遊びで得たい報酬は「楽しくなる気持ち」しかなく、それが得られたとき身体というデバイスに表示されたものが笑顔であり、僕らは“口角の上がり具合”で楽しんでくれたと認識するしかないという意味です。
安藤さんは、この時期しきりに「ゼッテーかわいい物を作る」と言っていました。
安藤さんは“かわいい物”、僕は“笑顔”を。
この2つは、この山口から数年たった今もなおゴールとして掲げられています。
デザインをするメディアの差からこのような言葉の差が生まれます。
安藤さんがなにかをつくると、かわいいものが出来上がってくるのですが
「そのかわいいって何?」という僕の質問にはなかなか言葉が出てきません。
うーんと眉間にしわを寄せて睨んでくるか無視されます。
信じてとにかく任せるしかないのです。信頼しています。待ちます。
ですが、待っているだけでは平行してするべき僕の作業もすすまないので困ることもあります。「それ、かわいくない。」僕はずっとこの安藤さんが何度も口にする「かわいい」について苦心します。
コトのデザインとして内発的な「かわいい」をめぐるデザインのやりとりは、また後の連載でふれたいと思います。
とにかくスポーツタイムマシンを“作って”、“運営して”、“遊ぶ”あいだに「笑顔とかわいい」をプレゼントできるようになることが全員の共通の目標として、山口に触れていったのです。