香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。香港では民主派議員の議員資格が剥奪され、著名な若手活動家たちに禁固刑が言い渡されるなど、大きな変化が起こっています。民主を目指し活動する周庭さんが、改めて香港の未来について考えます。(翻訳:伯川星矢)
御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記
第11回 議員資格剥奪・収監・反権威主義運動
わたしが書いた文章を掲載するのはとても久しぶりとなってしまいました。前回はブラック・バウヒニア行動と返還記念日デモのお話をしました。7月1日の返還記念日から今日までの間で、香港の政治情勢はまた大きく変わってしまいました(恐らく日本でも同じですが)。今回は、この変化についてお話をしたいと思います。
民主派議員の議員資格剥奪
まず7月14日、香港の最高裁判所は香港衆志のネイサン・ローを含む4人の民主派議員の議員資格剥奪の判決を下しました。この件についてあまり詳しくない読者もいるかもしれませんので、簡単に説明したいと思います。昨年の10月、香港の律政司は「香港独立」を主張する二人の立法会議員が就任する際の宣誓内容に不備があると称し、議員資格の有効性について司法審査を要請しました。11月、全人代は基本法の内容に対して解釈権を行使しました(実際は解釈のみではなく新たな制限を設けており、実質的には改正でした)。12月、香港政府はさらに4人の民主派議員の議員資格の有効性について司法審査を要請しました。その結果、現在合計6人の民主派議員の資格が剥奪となりました。
▲雨傘運動3年集会の様子
なぜ香港政府は民主派議員の資格を剥奪したのでしょうか。香港では選挙グループ別投票という方式が採用されています。立法会70人の議席のうち、半数は地方直接選挙で選出された議員、もう半数は職能別選挙によって選出された議員によって構成されています。選挙グループ別投票では、この2つの選挙グループで、同時に過半数の票を獲得しなければ議案を通すことができません。親中派はもともと職能別の議席で優勢を保っていますが、直接選挙議席では民主派の方が1議席多く持っています。そのため、ギリギリのところで政府の企みを阻止していたと言えます。しかし、今回の資格剥奪により、民主派の議席(地方直接選挙議席5席、職能別選挙議席1席)が取り消され、親中派の議員が2つの選挙グループで過半数となりました。このため、補欠選挙が行われるまで、親中派の思い通りに議案が可決されてしまう恐れがあります。
市民的不服従活動の参加者、禁固刑へ
それ以外に起こった大きな出来事は、ジョシュア・ウォンとネイサン・ローを含む市民的不服従活動に参加した16人の参加者に禁固刑が言い渡されたことです。
▲裁判前のジョシュア・ウォン氏、周永康氏、ネイサン・ロー氏
16人の参加者のうち、ジョシュア、ネイサン・ロー、周永康は3年前の雨傘運動中の「公民広場奪還行動」に参加したことにより起訴されました。その他香港衆志の林朗彦を含む13人は、郊外土地開発反対活動に参加し起訴されました。市民的不服従運動に参加するということは、逮捕及び収監される覚悟を持っているということです。それが市民的不服従の基本です。
ただ、今回16人が禁固刑になったのは、単なる裁判所の判決による処罰ではなく、香港の律政司が報復行為を行いたかったためである考えられます。この16人はもともと社会奉仕命令を言い渡されていましたが、それに対して律政司が「処罰が軽い」と不服を申し立て、刑期に関する司法審査を要求しました。その結果、全員禁固刑となったのです。東北(地方開発反対活動)の13人は8〜13ヶ月、公民広場奪還活動の3人は6〜8ヶ月の禁固となりました。
▲ジョシュア氏らの投獄に抗議し、「政治犯を応援する」大規模なデモ行進が行われた
なぜ律政司がこんなことをするのか、どんな政治的意図があるのか、理解できない方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、律政司には検察側として、司法審査を申し出る権利があります。ただ、律政司の行う行動全てに税金がかかっているため、公衆の利益に関係している案件であることが大前提でもあります。なぜ律政司はこの16人の参加者のみ刑期に関する司法審査を要請し、親中派の傷害事件などは対象外となるのか? 2ヶ月前、メディアの報道によれば、律政司司長袁國強は部下の反対を押し切り、活動参加者の刑期審査を強行したようです。香港の法律制度では、検査側は判決後の14日以内に刑期審査を申し出る必要があります。公民広場活動については、政府側は14日以内に二度も審査を要請しました。すなわち、一度目の要請が却下された際、即時に二度目の審査要請を行ったことになり、明らかな政治的報復だと思われます。
彼らを見せしめとして収監することにより、市民と政治組織がデモ活動を行う際に恐怖心を与え、躊躇させることが期待されたようです。また、こうすることで著名な活動家であるジョシュアやネイサン・ローなどの選挙参加を阻止することもできます。香港の法律では、実刑判決が3ヶ月以上ある場合、今後5年間選挙への出馬が認められません。6人の議員資格剥奪により、政府は来年補欠選挙を行う予定となっています。今回のように知名度が高い若い顔を消し去ることは、明らかに民主派への大打撃を狙っています。
しかし、彼らが収監されたことにより香港人は恐れることはありませんでした。むしろより強くなりました。今年の8月、香港衆志を含む様々な団体が集まり政治犯を声援・政治的な起訴を反対するデモ行進を行い、数万人の香港市民が参加しました。10月1日、中国の国慶節、わたしたちはさらに「反権威デモ行進」を企画し、議員資格剥奪や、活動参加者の収監などの政府の政治的弾圧に抗議しました。ここでさらに数万人がデモに参加し、国慶節と言う名の偽った繁栄に喝を入れたのです。
親中派が議事規則を改正し発言の制限を企むことや、香港で建設される中国大陸高速鉄道駅で中国法律を一部適用するなど、これからは様々な弾圧を受けることになると思います。でもこういうときこそ、香港の民主派が団結し、共に未来を考える大きな機会であるとも思います。
(続く)
▼プロフィール
周庭(アグネス・チョウ)
1996年香港生まれ。社会活動家。17歳のときに学生運動組織「学民思潮」の中心メンバーの一員として雨傘運動に参加し、スポークスウーマンを担当。現在は香港浸会大学で国際政治学を学びながら、政党「香港衆志」の副秘書長を務める。
『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』これまでの連載はこちらのリンクから。
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