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山口でスポーツとITが融合した新しい〈eスポーツ〉のかたちを提示するメディアアート装置「スポーツタイムマシン」を制作した犬飼博士さんと安藤僚子さんが制作当時を振り返るノンフィクション連載、なんと2年ぶりの再開です…! いよいよクライマックスとなる今回、2013年の夏から秋にかけて2期にわたって展開した開催期間中の出来事とその意味を、多くの体験者の皆さんの声をまじえながら語ります。

「スポーツタイムマシン」の連載第5回目です。前回の第4回掲載から、まる2年もの月日が経ってしまいました。読者の皆様には、なんの経過報告もなく時間が過ぎてしまっていたことを心よりお詫びいたします。
 この連載は、2013年夏、山口県山口市の山口情報芸術センター[YCAM]の10周年記念祭での公募事業「LIFE by MEDIA」の選出作品として、犬飼博士と安藤僚子が作家として行ったメディアアート「スポーツタイムマシン」の顛末を記述するものです。YCAM本体のアートセンターの中ではなく、そこから徒歩20分くらいの距離にある山口市中心商店街(の一部である道場門前商店街)の空き店舗を改装して、市民と一緒に新しい遊び場のような「スポーツ」の「タイムマシン」を作り、運営するプロジェクトです。
 これまでの連載では、犬飼と安藤が設営時に別れて行動していたこともあり、それぞれの視点から見えていた風景を交互に執筆してきましたが、今回からはオープン以後、実際に犬飼と安藤が合流して行った活動についてお話しさせていただくため、二人一緒に執筆をさせていただきます。
 今回初めて読まれるかたは、ぜひ第1回から読み返していただけたら幸いです。

「スポーツタイムマシン」過去の連載記事一覧はこちらのリンクから。

オープン前夜の光景

 さて、第4回では安藤さんの視点からオープン前夜(2013年7月5日)まで、山口の地元の方々を巻き込んで一緒に設営し、現地での準備の模様を書いてもらいましたが、本題に入る前に少しだけ時間を遡って補足しておくと、同じころ僕(犬飼)は東京でシステムの開発を進めて1週間ほど前に山口入りしており、残すは現場への実装段階というところまで漕ぎ着けていました。
 機材をすべて現場に送り、安藤さんと山口のみなさんがつくった実際の会場にパソコン、プロジェクター、センサーを導入し、オペレーション手順を決め、山口で出会ったアナウンサー萬治香月さんにナレーションをオープン前夜にお願いしたりしていました。
 メイドプログラマーの岡本美奈子ちゃんと山口の河口隆さん、大石みかげさん、福田達也くんはじめ、現地のITエンジニアたちも現場に合わせてプログラムを拡張し、最後の最後まで手伝って設営してくれました。特に河口さんと美奈子ちゃんが行ったセンサーで撮った「情報」を、現場の現実空間にピッタリ合わせて置いていくキャリブレーション作業は、このスポーツタイムマシンの思想的・技術的なユニークさが顕著に現れている作業であり、とても大変でしたがエキサイティングな作業でした。

 河口さんは、この時の様子をこう振り返ります。

 オープン前夜は、ひたすらキャリブレーションという作業をしていました。スポーツタイムマシンのシステムは、走者のモーションを記録するKinectというセンサーが12台と、出力像を投影するプロジェクターが6台という構成で、つまりプロジェクター1画面に対してKinectが2つあるんですね。その2つのKinectが「ちょうどいい感じ」の位置になるように調整するという作業がキャリブレーションです。Kinectは3Dのデータを記録するので、正面・側面・上面の3点から見た画の位置と大きさをぴったり合わせるようにしなければいけないんです。それが結構難しくて、何を基準に合わせていいのかがわからない。けれど、走り高跳びで使うような長い棒を持ってきて、それぞれの方向を向きながら棒を基準に合わせていくといいぞ、というのを美奈子さんが編み出してくれて。それでひたすら調整していく作業を、4〜5時間はやっていました。
 それに加えて、ケーブル類を通すために天井に開けた穴を隠すという作業を、当日の朝5時くらいまで延々とやっていたんですね。それで、開会時間ギリギリになって、やっとキャリブレーションが終わって、機材が動いたのを確認して、どちらかといえば普段はクールな美奈子さんと抱き合って喜んだのをよく覚えてます。

オープン前夜

スポーツタイムマシンの記憶 つくられていた  4:20Ver

 そんなこんなで、オープン当日の早朝まで、体力の限界の中でなんとか準備を間に合わせた僕たちは、サウンドエンジニアの高橋琢哉さんがつくった軽快でさわやかなBGMの中「私はスポーツタイムマシンです」という音声を聞きながら、皆で会場のセットでもあるゴザで、オープンまで休憩しました。

 ということでバタンキューしてしまった僕たちに替わって、いよいよ始まったスポーツタイムマシン会期初日からの様子は、安藤さんにバトンタッチして語ってもらいたいと思います。

Part.1 「スポーツ」から「祝祭」へ──山口市民の熱狂と共創を巻き起こした第1期

不安と期待との中でオープンした「YCAM10周年祭」初日

 はい、お久しぶりです、安藤僚子です。
 2013年7月6日。ついにスポーツタイムマシンが始まりました。
 YCAM10周年祭として、同じく山口市中心商店街に会場を設置した「YCAM DOMMUNE」と、「LIFE by MEDIA」に選出された他の2作品、深澤孝史さんの「とくいの銀行 山口」と西尾美也さんの「PUBLOBE」も一緒にスタートしています。
 YCAM10周年祭は、7月6日から9月1日までの第1期と、11月1日から12月1日までの第2期とに分かれているのですが、予算や準備などの諸事情で、スポーツタイムマシンは第1期だけの開催の予定でした。だから、とにかくこの夏休みを全力で駆け抜けることしか、私たちの頭にはありませんでした。

 さて、商店街で10周年祭の開会式が行われました。山口市長とYCAM館長の足立明男さん、DOMMUNEの宇川直宏さんが集まっての、賑やかな開会です。
 さっそく、スポーツタイムマシンにもYCAM関係者や製作に協力してくださった地元の人たちが、初日はけっこう走りに来てくれましたが、はたしてこの先どうなっていくのか。これから2ヶ月間、山口の市民たちにウケるだろうか…と不安になりながら、翌7日、ひとまず東京に戻りました。

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▲山口市中心商店街で行われたYCAM10周年祭開会式。


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