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三宅陽一郎 オートマトン・フィロソフィア──人工知能が「生命」になるとき〈リニューアル配信〉 第九章 社会の骨格としてのマルチエージェント(後編)
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三宅陽一郎 オートマトン・フィロソフィア──人工知能が「生命」になるとき〈リニューアル配信〉 第九章 社会の骨格としてのマルチエージェント(後編)

2020-10-09 07:00
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    (ほぼ)毎週金曜日は、ゲームAI開発者の三宅陽一郎さんが日本的想像力に基づく新しい人工知能のあり方を展望した人気連載『オートマトン・フィロソフィア──人工知能が「生命」になるとき』を改訂・リニューアル配信しています。今朝は第九章「社会の骨格としてのマルチエージェント」の後編をお届けします。
    前編に引き続き、役割を与えられた人工知能・エージェントについての議論です。人工知能に欠落している社会的自我と実存的自我の統合による「主体性」の獲得、そしてその先にある、人間の代わりに人工知能によって構成された社会のあり方について構想します

    (5) 社会的他我(me)と実存的主我(I)を持つ人工知能エージェント

     マルチエージェントとして外側から役割を与えられたエージェントと、自律した世界に根付く人工知能の間には、乖離があります。これは、社会の側が要請する知能と、存在としての根を持つ知能には乖離があるからです。
     一方で、人間もまた、誰しも外側から期待される自分と、個としての内側に抱く実存としての自分の間のギャップに苦しんだことがあるかと思います。
      ジョージ・ハーバード・ミード(1863-1931)はその論文「社会的自我」(1913年)の中で、社会に対して持つ自我を社会的他我、それをmeと名付けました。また、個として深く世界に根ざす自我を主我(I)と言いました。
     社会的他我(me)と実存的主我(I)は常に緊張関係にあり、混じり合わず、その間に溝があります。知能の持つ自我には、この二つの極があり、その極の緊張関係によって、我々の知能は巧みなバランスの中で成立しています。
     社会的他我と実存的主我は知能に二面性をもたらします。しかし、どちらも自分の真実の姿なのです。二つの自我は衝突しながらも、緊張関係を生み出します。一つは存在の根源から、一つは社会的・対人的な場から生成されます。我々は時と場合により、どちらかを主にしながら、さまざまな局面を乗りきります。そのような二つの自我はお互いを回る二重惑星のように回転し、とはいえ、外から見れば一つのシステムとして機能します。

     人工知能の研究開発においては、自律型知能としては「実存的主我」(I)を、マルチエージェントの研究としては「社会的他我」(me)を、別々の領域として研究してきました。このような乖離は、実際の知能の像とはほど遠いものです。人の知能はある程度自律的に育ちつつ、社会や他者から影響を受けながら形成されるものだからです。
     そして、まさにそのことこそが、人工知能の研究の進捗を阻害している一因でもあります。歴史的には、これは計算パワーやメモリの制限によるものでしたが、現在ではそうした制約はありません。乖離している二つの自我を統合することで、総合的な知能を目指すという方向は、これからの人工知能を導く指針になりえます(図9.8)。

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    ▲図9.8 社会的主我(me)と実存的他我(I)

     エージェントの役割は外から与えられます。まさにそのことによって、エージェントは最初から社会的な存在です。エージェントを社会に、そして世界にどれだけ食い込ませることができるかが、マルチエージェントとしての知的機能の高さということになります。
     そのような社会的他我を持つエージェントに、実存的主我を融合させるということは、与えられた役割を脱するベクトルはありますが、それを完全に放棄するわけではありません。また、単に独立したスタンドアローンな存在になることでもありません。社会に連携した存在であると同時に、世界に自律した根を持つ存在となることこそが、知能を本当の意味で知能らしくさせるのです。
     無意識から立ち上がる実存的意識と、社会的な要請に規定される社会的他我がもたらす意識の相克を人工知能に持ち込むことが、新しいステップへ人工知能を導くことになります。

    (6)人工生命とエージェント


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    最終更新日:2024-11-13 07:00
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