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私の改革の動機付け=やりたいこと(志事)を持つ ──(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革 第11回〈リニューアル配信〉
2021-07-26 07:00550pt
(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。働き方を変えるには、まずは自分が変わることが大切だと分析してきました。今回は自分を変えるための習慣づくりと、それを行うための動機づけについて考察します。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉第11回 私の改革の動機付け=やりたいこと(志事)を持つ
あらすじ
私の働き方改革を実践する「働き方イノベーター」になるには、3つの行動特性(キャラクター)を身につけること、つまり「私の改革」が必要です。 その第一歩として私がまず提唱したいのは、自分が時間を注ぎたいこと(志事)を明確に抱くというものです。 今回は、その必要性や事例についてご紹介したいと思います。
私の改革は「習慣」づくり
前回までは、それまでの組織的な働き方改革推進を成功させる上での最後のピースとして「一人ひとりの性質」に着目しました。また、その性質(私の働き方改革の実践者としての行動特性)を3つのキャラクターで表現し、それらは誰もが今からでも身につけることができると解説しました。 そうした自分の行動特性の改革、すなわち「私の改革」が実現できれば、会社が整えてくれた型・場・技づくりの仕組みを活かし、もしくは会社の制度や環境をうまくハッキングして、自らのやる事・やり方・やる力をアップデートする「働き方イノベーター」として一歩を踏み出すことができるようになります。 この「私の改革」は、やろうと思えばすぐに変えることができる「やる事・やり方・やる力の見直し」による働き方改革の後押しとは異なり、一朝一夕では実現できません。 「私の改革」とは、ある意味ダイエットと同じです。ある程度の期間をかけて、特定の「習慣」を持つ(もしくは特定の習慣をやめる)ことが必要です。 例えば、間食という習慣を改めて毎食時に野菜から摂取するルーチンを定着させるように。毎朝軽く運動をする習慣を「当たり前」になるまで繰り返していくように。自分の人生のこれまでになかった、もしくは明確に意識して繰り返し実践してこなかった行動を実践し、習慣として定着させることが必要になります。 そうすることで徐々にですが確実に「私の改革」を進めることができると考えています。
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働き方改革者の性質(キャラクター)とは ──(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革 第10回〈リニューアル配信〉
2021-07-19 07:00550pt
(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。今回はリスクテイクの精神や、複数のコミュニティを横断することを参考にしながら、「働き方改革」が実行できる人物の性質(キャラクター)を明らかにしていきます。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉第10回 働き方改革者の性質(キャラクター)とは
あらすじ
前回は私の働き方改革を実践する上で、本人の性質(キャラクター)がある程度影響していることに着目し、そしてそれは先天的なものではなく、自ら変えることができると宣言しました。 そこで今回は、「私の働き方改革を実践できている人はどういう性質があるのか?」について明らかにしていきます。 つまり、「どうやれば自分の性質を変えられるのか?」の前に「どのような性質に変わるとよいのか?」について定義しておくことで、この後の章で「ではその性質になるには何をすればよいか?」とより具体的な解説につなげたいと思います。
働き方改革者は「中二病」?
「私の働き方改革」を実践している働き方改革者に共通する行動特性の一つは「変わり者であろうとする」もしくは「変わり者となることを躊躇しない」という点です。 伝統的なやる事・やり方を見直し、自らの働き方を変えていくという行動の裏には、合理性とか正義感とは別の次元にある「変わったことがしたい」という熱情があるのかもしれません。 つまり、もし多くの人がAという道を選ぶなら、たとえリスクがあろうともBの道に進めないかと考える性質です。これはAという道を選んだ多くの人にとっては「変」な行動をする人だととらえられるでしょう。しかし本人は「皆がAを選んでいる」状態に違和感を抱いており、たとえ王道から外れた「外道」になろうとも、何か違う道はないものかと探すことのほうが「自然」なのです。 そして彼らは、周りから「変」と思われることにも快感を覚えるようになり、王道への違和感だけでなく「変人扱いされること」が半ば目的になって、道を選ぶ際の意思決定をするようになります。 そういえば私も昔から「変人」でした。 私は小学校のころ毎日の通学コースをころころと変えて学校に通っていました。実はこれは、人付き合いが苦手な私として、「少しでも人と会話せずに登下校ができる道で通学したい」という残念な欲求から生み出された行動なのですが、このころから「人と違うこと」を好む性格が形成されていったのではないかと振り返っています。 ある日利き腕の骨を折ってしまってギプス生活をするはめになったのですが、「クラスで一人、ギプスをしていること」に快感を覚えたものです。要は小学校時代から「中二病」だったんですね。ちょっと思い出すたびにおなかのあたりがキューっとなりいたたまれなくなる記憶ばかりです。 なぜそんな子になったのか? 自分なりの仮説としては、私が母子家庭で、かつ貧乏だったからかもしれないと考えています。皆と同じようにランドセルを買ってもらって背負うことなかったし、塾にも行っていませんでした。 こうした状況の中で、子供の私はあえて「人と違う」ことを受け入れ、自分の誇りとする必要があったのかもしれません。「人と違うことは自分のポリシーなんだ」と言い聞かせるように、人と違うこと、違うやり方を率先してやることにハマっていきました。
会社に入ってからも、この中二病は治らず、それどころかどんどん症状が拡大していきました。 入社2年目のころ、当時の私の所属部署はフリーアドレスなオフィスではなく、一人ひとりに自分のデスクがありました。そこにガンダムのフィギュアを並べて悦に入っていました(まだ美少女フィギュアではないだけ、理性が働いているわけですが)。 また、会社から支給されているPCとは別途、やけにスタイリッシュなPCを購入し、とくに使うわけでもないのにそれを机上に置いて、「2台のPCを使いこなしている風」にしてみたり、LEDライト内蔵で光り輝くゲーミングマウスを使ってみたりしていました。 こうした中二病、すなわち「王道を外れて人と違う道を進む」、「周りから浮いている」ことへの憧れのような意識が、「伝統的なやり方とは違うやる事・やり方をしたい」というモチベーションにつながっているのかもしれません。
それでは、この「中二病」という性質は、後天的に身につけることはできない「天賦の才」なのでしょうか? いえ、そんなことはありません。人はだれでも、そしてたとえ社会人になった今からでも、中二病になることができるのです。いえ、だれもが心の奥底に中二病の自分を抱いているはずであり、その解放の仕方を忘れてしまっているだけなのです。 その手法については、後の章で詳しく解説するとして、私の働き方改革実践者の共通している性質(キャラクター)は、中二病だけではありません。
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私の働き方改革実践の最後のピース=「私」の改革 ──(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革 第9回〈リニューアル配信〉
2021-07-12 07:00550pt
(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。働き方を改革する上で最後の障壁となるのが個々人の「性質(キャラクター)」。実際に仕事との関わり方を変えていった人々の調査から、自らの「性質」を変え働き方を改革していく糸口を探ります。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉第9回 私の働き方改革実践の最後のピース=「私」の改革
あらすじ
ここまで、私の働き方改革とは何か、そしてそれを組織的に進めるための課題と成功の鍵についてご紹介しました。これらの取り組みによって、一定数の組織メンバーは自らの「私の働き方改革」に注目し、動き出すことができると思います。 しかし、組織メンバーの意識・価値観が確実に変化し、フル活用できる制度や環境が整った中でも、全員が一斉に働き方改革に挑み始めるかというと、そうもいかないでしょう。 私の働き方改革に向けた一歩を踏み出す上で最後のボトルネックは「一人ひとりの性質(キャラクター)」であると考えます。 ここでいう「性質」とは、意識・価値観といった「なんらかのきっかけで大きく変わる」ことができるものよりももっと深い部分、「無意識」の領域に近い行動習慣や意思決定の傾向といったものです。 ここからは、この「性質」を変える(もしくは上書きする)上での考え方やアクション例をご紹介していきます。
私の働き方改革の最後のピース
ここまで、働き方改革とは自分で自分の働き方をアップデートする、いわば「私の働き方改革」であるべきと解説してきました。そしてそれを組織的に推進する上では、単に場や型をつくるだけでなく、技づくりにも着目するべきであると整理し、そのためには政治的・論理的・心理的なアプローチを組み合わせて、一人ひとりが「私の働き方改革」に着手できるような後押し施策に取り組むことが必要であるということを、事例も交えながらご紹介しました。 しかしながら、「私の働き方改革」はあくまで「私自身」の一人ひとりの意識・行動変容がゴールであり、どんなに周りからお膳立てをされても、それを機会として生かして一歩踏み出さなければ働き方改革は実現しません。 私がアドバイザーとしてお手伝いさせていただいているお客様からも「結局は社員一人ひとりが坂本のように、自分で自分の働き方改革を見直せる『意識の高い人』にならないと変わらない」「たとえ型・場・技づくりを進めても、そんな意識の高い人間に変わってもらうことは無理な話なのではないか?」といった問いかけをいただくことも少なくありません。 この問いかけに対しては助走をつけて全力で「そうではありません」とお答えしています。 なぜなら、私自身、意識が高くない人間であり、世の中の「意識高い系」には嫌悪感すら覚える「非リア充」なオタクだからです。 私は長年自分の働き方改革に取り組んできていますが、実のところそのモチベーションの源泉は「アニメを観たい」からですし、組織や周囲に働きかけて新しいやる事・やり方に挑戦しているように見えるのは、「空気を読めないから」です。 「意識高い」と言われている人によくあるような「自分を成長させたい」とか「社会や会社に貢献したい」「働き方改革というキーワードで色々な人とつながりたい」といった欲求はひとつもありません(それはそれで問題かもしれませんが……)。それなのに「坂本は意識が高い」なんて言われると、自分のアイデンティティを否定されているような気すらしてしまうくらいです。
……と、「坂本は意識が高いかどうか?」の水掛け論はともかくとして、私自身がこれまでにコクヨという組織の中で「私の働き方改革」を実践してきたことは事実です。そして、弊社の中でそうした「私の働き方改革」をまだ実践できていない人がいることも事実です。 また、私がお手伝いさせていただいている企業でも、型・場・技づくりが進むにつれ、自ら働き方改革に取り組む人が発生し始める一方、なかなか行動には現れてこない人もいることも事実です。 つまり、「私の働き方改革」を組織的に進めていく上でも、個人として勇気をもって一歩踏み出して私の働き方改革に挑戦できるようになるためにも、何かもう一欠片足りていないピースがあることは間違いありません。 ここからは、この「最後のピース」は何なのかという問いに着目し、「できている人は意識が高いからだ。どんなにお膳立てをしてもできない人はできない」という単純かつ解決策のない答えで終わらせずに、「たとえ今できていなくても、いつかできるようになるには何をすればよいか?」について、深く考察を進めたいと思います。
最後のピースとは「人の性質(キャラクター)」
先述したように、私がお手伝いさせていただいている政治的・論理的・心理的アプローチを駆使して型・場・技づくりを進めている企業内でも、「私の働き方改革」に挑み始める人(実践者)とそうでない人(非実践者)に分かれています。 しかし、この非実践者についても、型・場・技づくりの効果がまったくないということではありません。 つまり、働き方改革に無関心・無理解だったり否定的というわけではなく、働き方改革の本質について理解し、その取り組みの必要性も実感していることが多いにもかかわらず、「行動に移す」ステップには至っていないという状況が多いのです。
ここで、人が行動変容に至るまでの段階についてモデル化した「行動変容段階モデル(トランスセオレティカルモデル)」に照らし合わせて整理してみると、図にあるように、多くの人は働き方改革というものに次第に関心を持つようになり(関心期)、かつ必要性も実感して「取り組みたい」と周りにも言い始めてはいるのです(準備期)。
これは社内で改革意識アンケートをとってみても明らかでした。組織的な型・場・技づくりを進める前と後では、確実に働き方改革について正しく認識し、その必要性を感じ、「なんらかの動きをしたい」と考えている層が増えていたのです。 こうした「意識は高まっているがまだ行動に移せていない層」にヒアリングを行ったところ、こういうセリフをよく耳にしました。 「やりたいし、やれそうなんだけれども、キャラ的に難しい」と。 すなわち、型・場・技づくりによる意識改革や行動変容の後押しが功を奏して、一人ひとりが自らの行動を変えるかどうかには、「本人の性質(キャラクター)」も少なからず影響しているということです。 そして、その「人の性質」というものがもしどうやっても変われないとするなら、ここまでせっかく解説してきた「私の働き方改革」も最後は本人の生まれ持った性質次第ということになってしまいます。 もちろん、この連載をそんな結論で終わらせたくはありません。そこで、ここからは本人の性質は決して「不変のもの」ではなく、自分自身で変えることができるということを示していきたいと思うのです。 本連載の読者の皆様も、たとえ組織的に働き方改革を推進する担当者であっても、「頭ではわかっていても、自分自身、自分の働き方を変えることに不安がある」「最後の一歩が踏み出せない」という方も多いと思います。 この先の解説をお読みいただくことで、そうした最後の一歩を踏み出す後押しにつながれば幸いです。
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「私の働き方改革」の具体的な推進施策 ──(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革 第8回〈リニューアル配信〉
2021-07-05 07:00550pt
(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。上からお仕着せられる、単なる労働時間の削減だけに終わらない「私の働き方改革」を組織的に進めていくためのアプローチは、具体的にはどんなふうに行っていけばいいのか。そのイメージの解像度をさらに高めるために、実際に行われた3つの事例をケーススタディとして紹介します。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉第8回 「私の働き方改革」の具体的な推進施策
あらすじ
ここまで、組織内で「私の働き方改革」を推進する上での課題やその課題を乗り越えるための3つの推進手法について解説していきました。 今回は、より具体的な取り組み施策の例示をしながら、型・場・技の改革や政治的アプローチ、論理的アプローチ、心理的アプローチの実施方法についてより解像度を高めたイメージができるように解説をしていきます。
ケーススタディ1 某不動産会社における働き方改革プロジェクト
この事例では、「型づくり・場づくり・技づくり」という3つの改革対象について、どのような改革を行ったかに着目してご紹介します。 こちらも老舗の大手企業で、2015年ごろ、本社オフィス移転という大きなイベントを機に働き方改革に本格的に取り組み開始。 改革当初は「場づくり」に注力。従来の硬くて狭くて古いオフィス環境から、非常に見晴らしもよく快適で、フレキシブルに働くことができるオフィスに移転。フリーアドレスの導入や瞑想ルーム、夜はお酒も飲める素敵な食堂、さらに先進ICTの整備など、まさに「改革」レベルで空間・ツール環境を刷新しました。 完成した場にはメディア取材が殺到。革新的なオフィスを評価する日経ニューオフィス賞なども受賞。経営層や従業員も「我慢から自慢のオフィスへの改革」に心躍り、会社が本気で働き方改革を進めようとしていることを実感。ある意味この「場」の改革こそが、大きな心理的アプローチ(改革しようという意識の盛り上げ)になっていたと思います。 しかし、オフィス移転後しばらくして「場は変わったけれど、生産性ややりがいが変わっていない」という状況でした。 社内アンケートでもオフィスの満足度は高いものの、仕事の生産性や働きがい・やりがいについては思ったほど高まっておらず、会議の非効率さや資料作成に時間がとられ過ぎていることへの不満、忖度ばかりして意思決定が遅いことへの問題意識などが高いままでした。 場(オフィス・ツール環境)の改革だけではこれらの改革は進まないと判断したプロジェクトメンバーは、型づくり(制度・仕組みづくり)や技づくり(知識・スキル向上)も本格化。 まず型(制度・仕組み)づくりとして、各自の業務効率化を支援するサポートセンターという仕組みを設置。サポートセンター員(コンシェルジュ)が、各部署の資料作成を代行したり、社内の情報を集め発信する活動を行うことで、一人ひとりの時間効率化を直接後押し。 また、「部署密着サポート」という働き方改革を支援する制度を構築。毎年手を挙げた部署には、働き方改革のノウハウ豊富なコンサルタントが半年間密着して、その部署の固有課題についてアドバイスや実行のお手伝いをするという「狭く深い支援」を行うことで、確実な働き方改革実現につなげています。 こうした「型」を整えることで、場の改革によって盛り上がっていた意識と相まって、各部署・各自のやる事・やり方の改革が進むようになりました。 また、技(知識・スキル)づくりとして、従来行ってきた人材開発研修に加えて、ICT活用テクニック講座や、部署内での情報共有活用の進め方ノウハウ講座、テレワークにおけるコミュニケーションの高め方講座などの働き方改革スキル研修を実施。さらにそれら研修を録画編集した動画コンテンツも配信し、「変わりたいけれど、変わり方がわからない」といった声に対応しています。 こうした、型・場・技それぞれを改革する施策を進めることで、この数年で明らかに「私の働き方改革」への着目度や実践度が高まっています。
ケーススタディ2 某大手老舗メーカーにおける働き方改革プロジェクト
この事例では、「政治的アプローチ」、「論理的アプローチ」、「心理的アプローチ」という働き方改革のプロセス(進め方)に着目します。 創業100年を超え、グループ全体で国内1万人の従業員を抱える素材メーカーA社で、2017年に生産性とやりがいの両輪での向上を掲げて、グループを挙げた働き方改革プロジェクトが発足しました。
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「私の働き方改革」を組織的に進めるための手法 ──(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革 第7回〈リニューアル配信〉
2021-06-28 07:00550pt
(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。実際に個々人の人生の充実につながる「私の働き方改革」を組織的に進めていくためには、どんなところから始めればよいのか。何かしようとするとすぐに「変わりたくない」ムードに覆われてしまいがちな日本企業の特徴をふまえつつ、「政治的」「論理的」「心理的」の3つのアプローチから、有効な改革推進の手法を筋道立てて提案します。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉第7回 「私の働き方改革」を組織的に進めるための手法
あらすじ
「私の働き方改革」を組織的に進める上では、やはり一人ひとりの意識と行動の変容を後押しすることが不可欠です。 自らの成果を再定義し、やる事・やり方・やる力を自ら見直し、働きかけるという意識行動を促すためには、どういった施策が求められるのでしょうか? 今回は、これまで私が経験してきた働き方改革推進プロジェクトの成功例・失敗例を踏まえつつ、その成功の鍵として、「政治力」「論理力」「心理力」の3つのアプローチに着目し、解説していきます。
私の働き方改革を後押しするためには、「型」「場」「技」の三位一体改革が必要
前回述べたように、これから企業は生き残りをかけて、過去の伝統によって培われた価値観や行動原理(不動の根っこ)の変化スピードを高めていくことが求められます。 集団の指示に従い、周りと合わせて「変化しない」ことを選択するのではなく、一人ひとりが自らの成果を再定義し、自分自身のやる事・やり方・やる力を見直し、周囲に働きかけてそれらを実際に変えていくこと、すなわち「私の働き方改革」ができるように、後押しをしなければなりません。 しかし、これまで紹介した失敗事例のように、単に「型(制度)」や「場(環境)」を変えるだけでは、なかなか私の働き方改革は進みません。なぜなら、型や場が変わっても、一人ひとりの意識・価値観・行動原理にダイレクトに変化をもたらすには不足があるからです。 私はこの「意識・価値観・行動原理」のことを「技(わざ)」と表現して、働き方改革推進には、「型、場、技の三位一体改革が必要」と考えています。
そもそも「型」と「場」の両立も難しい
「技」の改革については後述するとして、実は三位一体以前に、「型」と「場」を一体的に推進することも多くの企業でなかなか実現できていません。すなわち、制度だけの改革や、オフィスなど環境だけの改革でとどまっていたり、制度改革と環境改革が連動していないというケースも多いのです。 その理由は「管轄が違う」からです。多くの大手企業では「型」すなわち制度や会社の仕組みを作る役割は、人事部や経営管理部といったセクションが担っています。働き方改革に関連する就業規則の見直しや評価制度改革、採用育成の仕組みの変更などは、それらの部門が企画し、経営層に上申して、労働組合とも協議し合意形成を図りながら現場に展開していきます。
一方、「場」つまりICT環境やオフィス環境については、それぞれ情報システム部門と総務部門が担うことが慣例的です。そうです、「場」の改革だけでも管轄が二つに分かれるのです。例えばフリーアドレスな環境を構築する上では、オフィスの内装や什器備品を入れ替えるだけでなく、どこにいてもコミュニケーションがとりやすいチャットツールの導入や無線LANの構築などICT環境改革が欠かせません。しかし、両者の管轄が異なっていると、そもそも何のためにフリーアドレスにするのかから意識合わせができていなかったり、目指す状態にズレがあるまま環境構築を進めてしまい、いずれかに不足が発生したり、逆に過剰スペックになってしまうということもあります。 そして、オフィスとICT環境が完成し、現場に活用してもらおうにも、オフィスの物理的環境は総務部から、ICTは情報システム部からそれぞれ説明会やマニュアル発信がされ、現場社員としては情報が錯綜しているように感じてしまい、次第に疲れて無関心になってしまうこともままあります。 場の改革だけでも足並みが揃いにくい中で、さらに型の改革も一体的に進めるとなるとますます難易度があがります。例えば、フリーアドレスな環境では、一人ひとりが自律的に最も生産性の高い環境を選択し働こうとすると、「上司や同僚から離れて静かに集中して働く」という選択に偏りがちになります。これでは偶発的な情報共有や課題発見が起こりづらくなり、長期的には組織の生産性・創造性の低下につながるおそれがあります。 これを防ぐには、各部署が「この環境を生かしてうちの部署はどのように働くべきか?」を考え、対話し、何らかのローカルな「型」を作ることが肝要です。そして、各部署が自らの型を作ってもらうには、組織評価制度や管理職の360度評価制度を生かして、部署長が率先してそうした型づくりを進めることを制度的に後押しすることも重要です。 しかし、総務部にも情報システム部にもそうした後押しをするには経験値と権限が不足しており、人事部や経営管理部が登場して、フリーアドレスのメリット最大化とリスク防止に向けたマネジメント改革を進めていくことが求められます。
このように、一つの働き方改革施策においても、総務や情報システム、人事、経営管理、さらには各現場の部門長といった「セクション」を超えた一体的な推進が必要になるわけです。しかしながら、そもそも各セクションは「決められた仕事を最も効率的・継続的に進めるために役割分担する」ことを目指して設立されているので、その枠を超えて変化のために共同するという経験が少なく、どうしてもぎこちなさが生まれてしまいます。 そしてそのぎこちなさは、確実に現場にも伝わります。それは、「会社の本気度が伝わらない」という結果につながり、「技(意識・価値観・行動)」の変化の後押しにならずに、「うまくやり過ごして、今の働き方を維持しておくほうが安全だ」と無意識的に動いてしまう原因にもなってしまいます。
働き方改革の推進手法 ①政治的アプローチ
こうしたセクションを超えた一体的な改革において、「足並みが揃わない」というリスクを防いでうまく進めるためには、「政治的アプローチ」が必要であると考えます。 「政治」というキーワードを耳にすると、今の日本の政治ニュースでよく見るような、組織間の利害調整や「顔を立てる」ことを主眼として、能力を度外視した体制づくりをしたり、姑息な根回しや権力闘争の構図が頭に浮かぶかもしれません。しかしここでいう「政治」とは、その言葉の本来の意味合い、つまり「より良い状況を目指し、仕組みやルールを作る意思決定を、責任をもって行う」ということを指します。 すなわち、政(まつりごと)を司る経営トップらが大きな意思決定をして、今の組織体制を超えた新たな体制を作り上げるとともに、従来組織のトップらのベクトルを合わせる目標を定義することが重要です。 これは単に新たに「働き方改革推進部」を作ればよいというものではありません。誰をどのポストに置いてどの部署の誰をメンバーとして参画させればうまく連携が進むかを必死に考え、「人」に着目し、適材適所を企むことが重要になります。
具体的には、型づくりを担う人事部門や経営管理部門、そして場づくりを担う総務部門や情報システム部門から中堅かつ意思決定力のある人材を登用し、専任に近い形で推進プロジェクトメンバーとしてアサインすることが必要となります。このとき、プロジェクトリーダーは、各部門を統括し、一つ上のレイヤーで意思決定ができる役員や社長本人が担うことが望ましいと思います。 さらに大手メーカー企業の場合は、本社部門とは別途、各事業部内にも型づくりや場づくりを担う企画管理部門や品質管理部門、営業企画部門といった業務運営部門が存在するので、そこからも兼務メンバーとしてアサインし、意思決定や現場へのプロモーション推進を担ってもらう体制にできれば進めやすいでしょう。 また、型・場づくりだけでなく、一人ひとりの意識・価値観の変化を促す「技」づくりも重要であり、社内広報担当として広報部門が参加し、かなり高い頻度で社内全体への情報発信を行っていくことが望ましいと考えます。
また、政治的アプローチのもう一つの柱は「大義名分」を定めることです。 「とにかく働き方改革をせよ」という指示では、混成集団である働き方改革推進プロジェクトは一枚岩になって動きづらく、各所属部門として「できそうなこと」や「やってきたこと」の延長で施策を立案しようとしてしまいます。 そうならないようにトップ自ら方向性を示し、単に制度づくりや場づくりで留めず、一人ひとりの社員が「私の働き方改革」に意識をやり、やる事・やり方・やる力の見直しや周囲への働きかけが実践できるようにプロジェクトのゴールを設定することが重要です。
働き方改革の推進手法 ②論理的アプローチ
こうして、経営トップが指針をしっかり示して適切な推進体制を整備した後は、論理的アプローチで進めていく必要があります。
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働き方改革が進まないワケ ──(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革 第6回〈リニューアル配信〉
2021-06-21 07:00550pt
(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。2010年代後半からコロナ禍にかけて、上からのスローガンで進められてきた働き方改革ブームは、一人ひとりの人生を充実させる「私の働き方改革」の成果には、必ずしも結びつきませんでした。そうした改革の機運を有名無実化させてしまう日本の土壌とは何なのか、それを組織として変えていくためには何が必要なのか、改めて考えていきます。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉第6回 働き方改革が進まないワケ
あらすじ
「場」の改革や「型」の改革だけではなかなか「私の働き方改革」は進まない。それではどうすれば私の働き方改革は進められるのでしょうか? そもそも「私の働き方改革」とは、自分が自分自身の成果(働く時間も含めた人生全体の充実)を高めるために、自分のやる事・やり方・やる力を見直して周囲にも働きかけていくことである以上、組織としてそうしたことを後押しすることは不可能で、個々人に任せるしかないのでしょうか? 今回は、その問いに答えるべく、なぜそう簡単には「私の働き方改革」が進まないのか、その原因をひもときながら、「ではどうすればよいのか?」についても考察を進めていきたいと思います。
原因はホメオスタシス(恒常性)?
ここまで、働き方改革を目指して導入されたオフィス空間やICT、制度がうまく機能せず、本質的に働き方を変える、すなわち、一人ひとりが自分のやる事・やり方・やる力の見直しを始め、周囲に働きかけ、より充実した仕事・人生になったと感じるるようになるには至らなかった事例をご紹介しました。 なぜこうした事態が起こってしまうのでしょうか? 私としては、理性や理論では太刀打ちできない「本能」のようなものが「変わることを拒絶している」ように思えてなりません。つまり、個人としても組織としても、環境が変わっても今の自分たちの状態を保とうという、生物学で言われる「恒常性(ホメオスタシス)」のようなものが、働き方についても機能しているのではないでしょうか。 例えば、海外では業務改革ツールとして広く活用されているERP(企業統合管理)と言われるシステムを、日本企業が導入するときにもそうしたホメオスタシスが機能しがちです。本来ERPとは、そのシステムに自分たちの仕事のプロセス(会計処理や決裁、など)を当てはめながら、プロセスを見直していくものであり、いわば「働き方改革強制ギブス」のような役割を果たすツールです。しかし、日本企業のERP導入においては「ERPのほうを自分たちの働き方に無理やり合わせようとして、膨大なカスタマイズが発生して大変」という状況がシステム導入部門の嘆きの声としてよく聞かれます。 オフィス改革も制度改革も同様で、「今の働き方ありき」で変化した環境をその働き方に合わせようと工夫する性質があるように思います。コロナ禍においても、テレワークやハンコレスという大きな「やり方」の変化はありつつも、「やる事」としては基本的には従来の踏襲でした。オンラインツールを駆使してこれまで同様に週次の定例ミーティングが開催され、上位階層の定例会議で交わされた情報の伝言ゲームが行われ、権限移譲しきれないまま数万円の決裁まで部長クラスが電子上でチェックを行い、チャットにはスマホではとても読み切れない長文の文章がポストされています。 そうして、テレワークでも、「今まで通りに働ける」ことに安心しているのです。 この、現状維持に対する「執着」と言っても過言ではないレベルの状況は、もはや「日本企業はそれが本能だから」と思考放棄をしたくなるほど、枚挙にいとまがありません。
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コロナ禍でも、「私の働き方改革」は進んでいない ──(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革 第5回〈リニューアル配信〉
2021-06-14 07:00550pt
(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。2020年からのコロナ禍という危機をバネに、強制的に働き方改革が進展したようにも見える現在。たしかにICT活用が飛躍的に進み、テレワークの選択肢が当たり前になりましたが、それは本当の意味で一人ひとりの働き方を向上させることにつながっているのでしょうか? 「私の働き方改革」の観点から、改めて現状を整理します。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉第5回 コロナ禍でも、「私の働き方改革」は進んでいない
あらすじ
コロナ禍によって世界は大きく変化したことは確実です。 個人や組織の働き方についても、ICT活用が大幅に進展し、テレワークが当たり前の選択肢になりました。 コロナ禍前に多くの企業が頭を抱えていた「ICT活用不足」「柔軟な働き方が浸透しない」といった難問たちは、これまでの働き方改革推進部署の努力をあざ笑うかのように、一気に解消されました。 果たしてコロナ禍で、働き方改革はもはや「過去のテーマ」になってしまったのでしょうか? 今回は、「私の働き方改革」の視点から、コロナ禍の変化について整理しながら、やはりまだまだ「私の働き方改革」には至っていないのではないかという投げかけをしていきたいと思います。
コロナ禍が生み出した新たな熱狂
最近こう聞かれることがあります。「坂本さん、コロナ禍によって強制的に働き方改革ができてしまった中で、働き方改革のコンサルティングってもういらないんじゃないの?」と。 私の答えはNOです。 2021年春、世界はCOVID-19(新型コロナウイルス)による経済社会の大混乱の最中にあります。疫病という外敵によってもたらされた社会経済活動の強制停止は、個人の生活、そして企業の生産活動に未曾有の被害をもたらしました。 通勤、登校、集会、外食など、これまで息をするように当たり前に営まれていた様々な活動が禁止や自粛に追いやられ、生活習慣の抜本的な見直しを迫られています。 そうした中で、意識が高い人たちは「ピンチはチャンス」と口を揃えわめき立て、「withコロナ時代のニューノーマルとは?」と問いを掲げ、毎日オンラインセッションを開催しながら、これからの世界を予測し合って「政府はこうすべきだ」「社会はこうなっていくべきだ」「コロナによって日本の働き方改革が強制的に実行されてしまった」と盛り上がっています。 この状況は、日本中で働き方改革がブームになった2016年前後の状況を彷彿とさせます。 当時も今と同じく、メディアの論客や経営者、コンサルタントたちがこぞって「働き方改革とはこうあるべし」と持論を展開して、政府や企業への提言を“あさっての方向”に向かって発信していました。違ったのは、その発信の仕方がオンラインセッションではなく、広い会場を貸し切りしたシンポジウムであったことくらいです。
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働き方改革とは、働く制度を変えることでもない ──(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革 第4回〈リニューアル配信〉
2021-06-07 07:00550pt
(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。「働き場所」の改革に加えて、多くの企業の働き方改革の現場で行われたのが、在宅勤務やフレックス、はたまたMBO型の評価スキームなど、制度を作ることでした。そうした「型」から入っていくやり方が機能しない場合が多いのはなぜか、改めて検証していきます。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉第4回 働き方改革とは、働く制度を変えることでもない
あらすじ
前節では働く「場」の改革だけでは、本質的な働き方改革(私の働き方改革)は進まないことが多いと解説しましたが、この節では「型」を変えるだけでも同様に私の働き方改革は進みづらいということを、事例を示しながら解説したいと思います。 「型」とはすなわち、制度やルール、仕組みのことです。 多くの企業がコロナ禍前から在宅勤務制度やフレックス制度を導入していましたが、自ら進んで「やる事・やり方・やる力の見直し」に向けてそれらの制度を活用する人は少なかったと思います。 また、評価制度の欧米化についても、「型(外見)は変われど中身(運用)は変わらず」で、その成果を実感できている人は限られています。 こうした状況を整理しながら、なぜこうした状況に陥りがちなのか? についての考察につなげていきたいと思います。
働く制度の改革も、働き方を変えるには至っていない
働く場所についてと同じく、この数年新たに作られた制度たちも、「お蔵入り」状態もしくは、「特定の人だけのためのもの」となっている事例が見受けられます。フレックス制度、在宅勤務制度、副業制度などがそれに該当します。 ただし、コロナ禍によって、「在宅勤務」は当初想定していた狙いを超えて、フル活用されるようにはなりました。しかしこれは、「在宅勤務制度」を社員一人ひとりが進んで活用した結果在宅勤務が増えたわけではなく、感染拡大防止のために上からの強制によって実現したまでであり、制度改革によって働き方が変わったわけではありません。 ちなみに数年前、コロナ禍発生前のことですが、某通信会社さんから、「社員が在宅勤務制度を使ってくれない」というお悩みをいただいたことがあります。当時の私としては、「別に、在宅勤務の必要性がないなら、制度を使わなくってもいいんじゃないですか?」と疑問に思ったのですが、さすが通信会社さん、一歩先を見据えていらっしゃいました。 「もし誰もが在宅勤務を当たり前のように使える組織になっていなければ、どうしてもその制度を使わなければならないときにも、おそらく不安になり、堂々と活用できないかもしれない。これからの介護問題や震災などでの通勤困難に備えて、今のうちから家でも働けるような慣習を染みつけることが大事だ」とのことでした。今になって思えば非常に先見性のある課題提起です。コロナ禍によって多くの企業が在宅勤務を余儀なくされ、少なからず混乱が発生していましたが、もし多くの企業がこうした視点に立って、コロナ禍の前から全員で在宅勤務に慣れていることができていたら、そうした混乱は抑えることができたのかもしれません。 ではなぜコロナ禍前に、多くの社員は在宅勤務制度を活用しなかったのでしょうか。 この答えも簡単です。「現状のやり方でも仕事が回っていて、あえて働く場所を変えて在宅勤務にしなくてもただちには困らないから」です。
評価制度やコミュニケーション改革も、型の変化だけに留まっている
バブル崩壊以降、企業・組織における評価制度やそれに伴う上司と部下のコミュニケーションのあり方もある意味強制的に変化しています。 評価制度については、成果主義に始まり、評価の視点はますます「個別的」「短期的」になっています。個々人のスキルやキャリア意識に応じて、部署のミッションとすり合わせ、MBO(Management by Objectives:客観的に測定できる目標設定管理)に落とし込まれ、「今年は〇〇を何件やります」といった宣言が行われるようになりました。 合わせて、上司は毎期1~2回、「1on1」と称した個別面談を部下と二人きりで行うことが求められ、部下は評価面談実施後に、その面談が有意義だったかを人事部に報告しなければならなくなりました。 これらは決して悪いことではなく、従来の曖昧で不透明、画一的で横並びの評価制度を改革する大歓迎な変化であるはずでした。 しかし、ふたを開けてみると、ぱっと見では1on1がまじめに行われているものの、内容としては「上司からの指導タイム」だったり、上司に腹を割って話すことに抵抗のある部下は、当たり障りのない仕事の会話に終始したり、目標設定シートの体裁は変われど、なるべく従来の記載内容を踏襲しようというパワーが働いていたりと、形は変われど中身は変わらずといった状況の企業さんのお悩みが後を絶ちませんでした。 また、MBOや成果主義などの評価制度についても、結局運用するのは職場の上司と部下一人ひとりであり、彼らの意識・行動が変わらなければ「これまでの評価視点、これまでの評価方法」で運用することは十分に可能であり、従来の働き方に飲み込まれてしまうケースもよく見受けられました。 私は働き方改革アドバイザーとして長年直面してきたこれらの経験から、型を変えるだけでも、「私の働き方改革」を促すには至らないようだと考えるようになったわけです。
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働き方改革とは、働く場を変えることでもない ──(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革 第3回〈リニューアル配信〉
2021-05-31 07:00550pt
(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。この数年間の「働き方改革」ブームで盛り上がったのが、フリーアドレスオフィスやICT活用などの「働く環境」の改革でした。しかし、多くの現場で、必ずしもその試みが奏功したとは言えない状況があります。なぜ「働く場」を変えてもうまくいかないのか、鋭くメスを入れていきます。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉第3回 働き方改革とは、働く場を変えることでもない
あらすじ
弊社の事業の一つは、ワークプレイスの改革によるワークスタイル改革を支援することです。 しかし、いえ、だからこそ、私はこう思います。「オフィスを変えただけで働き方は変わらない」と。 多くの企業で、「フリーアドレスを導入したけれど、使われない・成果が出ない」というお悩みを聞きます。さらに言えば、ICTツールを導入しただけでもなかなか働き方は変わらないというケースも多いようです。 本節では、「私の働き方改革」を推進する上で、物理的環境(場)の改革だけでは不足であることを事例で示していき、その理由についても考察したいと思います。
フリーアドレスブームの到来
長時間労働の是正とは別として、もう一つ、働き方改革ブームで熱を帯びるようになった取り組みがあります。すなわち、「フリーアドレスオフィス」の乱立です。「フリーアドレス」、つまり、デスクは個人に紐付けず、毎日自分の席を自由に選んで働けるというオフィス運用スタイルです。以前から営業部門など自席にいる時間が短い職種では、オフィススペースの効率化や賃料削減を目的として、フリーアドレスオフィスがちらほら導入されていました。 それがこの働き方改革ブームの中で、「新しい働き方」として脚光があたり、民間企業も自治体も「働き方改革といえばフリーアドレス」といった感じで、オフィスのデスクから引き出しを撤廃し、椅子の数は従業員数よりも少ない数に設定して、従業員は朝来ると空いている席を探して毎日席替えしながら働くことが「改革的」であるということで、一部でもてはやされるようになりました。 もちろん当社にとってはありがたいブームでした。従来型オフィスから脱皮してフリーアドレスオフィスへの改築が進むということは、オフィス家具の売り上げアップにつながるわけですから。
フリーアドレスオフィスが使われないというお悩みもブームに
しかしながら、そのブームに比例して私たちのところに、「フリーアドレスにしたのに、皆いつも同じ席に座るので困っている」「フリーアドレスにしたら、部下が管理職から離れて座るようになって、チームの会話が減って困っている」「フリーアドレスで期待した、チーム間のコミュニケーションが起こらない」というご相談も増えるようになりました。 最も多いご相談が「フリーアドレスオフィスなのにフリーアドレスな働き方にならなかった」というものです。フリーアドレスなオフィスになったはずなのにいつの間にか皆自分なりの「自分の席」を見つけ出して固定席になっていき、結果として集中エリアやコミュニケーションエリアが使われないままの状態になっているケースが多いです。 さらには、本来フリーアドレスなオフィスでは「自分の席」を持たないため、デスクの引き出しをなくして、書類などは個人ロッカーに都度片付ける働き方になるのですが、「毎回片付けをするのは生産性を下げる」と言い出す人が現れ、足元に引き出し代わりに段ボール箱を設置し、そこに書類が収納されていくケースもあります。 こうした「フリーアドレスの固定席化」はわかりやすい問題ですが、一見フリーアドレスな働き方ができていても、働き方改革視点で見ると「実は根っこは変わっていない」というケースもあります。
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働き方改革は、誰かがしてくれるものではない ──(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革 第2回〈リニューアル配信〉
2021-05-24 07:00550pt
(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。現在の「働き方改革」の現場で、ほとんどのケースが上からの「働かせ方改革」一辺倒に陥ってしまうなか、何をターゲットにすればアウトプットの生産性を落とさずに、働く時間の充実度を高めていけるのか。まずは坂本さんが追求する「私の働き方改革」の条件を定義します。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉第2回 働き方改革は、誰かがしてくれるものではない
あらすじ
働き方改革とは、やる事・やり方・やる力を見直し、生産性を高めながら、より充実した時間の使い方にシフトすることであると私は考えます。 では、そのやる事・やり方・やる力を見直すのはいったい誰なのでしょうか? 会社? 人事部? それとも上司? 答えは「自分」です。といっても、「会社や上司に言う前に自分でやれ!」という体育会系的な話ではありません。 経営者も管理職も一般社員も、それぞれの立場で自分の仕事の成果を改めて定義し、自分なりのやる事・やり方・やる力を高めていくとともに、個人でできる領域を超えた範囲については周囲に「働きかけていく」ことが重要ということです。 こうした働き方改革を、世の中一般で認識されている働き方改革(組織が推進し、従業員がそれに従う構図)と区別して、「私の働き方改革」と名付けたいと思います。
「働かせ方改革」によって自分の働き方を改革する仕方を忘れた私たち
そういえば2017年ごろ、「働き方改革より先に、働かせ改革をすべきだ。」という論調もありました。しかしこの論調は私から言わせれば「何を今さら」なのです。 日本企業はこれまでは「働かせ方改革」一辺倒でした。OA、ICT、制度改革などなど、会社側は色々な環境改革を行い、従業員の仕事内容、仕事方法を変えてきました。その流れに浸かった多くの働き手は、「働き方というのは、自分で変えるものではなく、上が変えるべきもの」という固定概念を抱くようになったのかもしれません。 以前は環境が変われば仕事が変わりました。もしくはそれら環境を使わないと仕事が進まないので、環境が変われば働き方も変わることが必然でした。 そうした中で、労働者は自らの働き方を自分で変えられるという意識は薄れ、次第にマニュアル化・標準化された仕事をこなすようになり、上司も、決められたプロセス通りに仕事をすることを管理する「現状維持管理人」になっていきました。
2020年に世界中の暮らし方を大きく変えたCOVID-19のパンデミック、通称「コロナ禍」によって、日本企業の働き方も大きく変わりました。しかしここにおいても、上(外)からの半ば強制的な環境変化とそれに従いマニュアル的にテレワークを取り入れる従業員や管理職たちという構図は変わりませんでした。 コロナ禍発生当初から自分たち自身で現状の環境をある意味「活かし」て、会社に言われるまでもなく進んでテレワークを導入し、そのやり方を考え、会社や上司に働きかけて自分の働き方を変えていった個人や組織は少なかったと思います。 しかし、今の時代、「自分たちで自分たちの働き方を変える」ことに着目することが必要だと感じています。
働き方改革の主語は「それぞれの私」
つまり、働き方改革とは、一人ひとりが「〇〇のため、自分の働き方をもっと良くしたい」というパッションのもと、自らが改革者となって自身や周囲「やる事・やり方・やる力」を変えていく(生産性を高めていく)活動であるべきと私は考えています。 言うなれば「私の働き方改革」です。決して「会社の働き方改革」ではなく。 これは「働き方改革は自己責任だ。文句言っていないで一人ひとりががんばれ!」という精神論や経営責任放棄の話ではありません。私はそうした「社畜的な考え」は大嫌いです。 「自分で自分の働き方を変える」というのは、部下への押し付けではありません。経営も管理職も従業員も、それぞれが自分自身でできる改革をして生産性を高める活動をするべきだし、自分自身でどうしようもないことについては、上の階層など然るべき部署・担当・経営層に働きかけるべきだと考えます。 つまり、「自分や組織がより充実することに時間を振り向けられるようになるために、各自が自分の職制に沿って自分や周囲へ働きかけ、生産性を高めていく活動」が働き方改革なのです。
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