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山田玲司のヤングサンデー【第228号】ウサギコウモリのおにぎり
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山田玲司のヤングサンデー【第228号】ウサギコウモリのおにぎり

2019-03-04 07:00
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山田玲司のヤングサンデー 第228号 2019/3/4

ウサギコウモリのおにぎり

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私が地球に探索に来てからもう30年が経つ。


その間に地球は「ウサギコウモリ」ばかりになってしまった。


ウサギコウモリは、黒か灰色で赤い目をしている。

ウサギコウモリはとにかく真面目に働く。

人達の不幸が大好きで、気が付かないように「血」を吸う。

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ウサギコウモリは「本当のこと」を言わずに生きる事に慣れている。

絶妙にその時の空気に合わせて「普通」の事を言う。

そしてその「いかにもまともそうな発言」は、大抵は底の浅い単純なモラルと「絶妙な悪意」が混じっている。



そんなウサギコウモリばかりになってしまって、私は面白くなかった。

おまけに気がつくと自分まで「ウサギコウモリ」になってる日がある。


「これはまずい」

危機を感じた私は、昔からの友人「レッド」に会う事にした。


レッドは私より10歳年下の男で、ハンサムで、あらゆる事に関してセンスが良い人間だった。

性格は華やかで、どんな場でも彼が来ると一気に明るくなるのだった。

当然、女性にも人気があり「愛される事」に事欠かない人間だった。


こんな時は彼に会って、あの頃みたいに馬鹿話をしたい。

私は彼と飲みに行く約束をしてから、ウサギコウモリについて調べ始めた。



『人間がウサギコウモリになるのは「悲しみ」と「諦め」が、臨界点に達したから』

という研究論文を見つけた。


なるほど。なんだか納得できる。

この30年、地球は「悲しみと諦め」で満ちている。



約束の店は駅前のスペインバル風の飲み屋だった。

店に着くと私はオリーブをつまみにビールを飲みながら彼を待った。


そして10分後、レッドは現れた。

レッドは「ウサギコウモリ」になっていた。


「そうか」

おそらく私も同じようになっているに違いない。


ー悲しみと諦めの臨界ー


みんな「ウサギコウモリ」になってしまったのだ。




ウサギコウモリのレッドは、ろくに食べないまま最近の自分の状況を明るく話し始めた。

その話し方とは裏腹に、彼の現状は壮絶なものだった。

慰謝料、養育費、示談金、裁判所、差し押さえ・・

出てくる言葉がとにかくハードコアだ。


しかも彼は朝から晩まで働きづめで、お金はない。

「明るく話さないと死んでしまう」とばかりに、そんな恐ろしい現状を語るのだ。



「それはともかくさ」

彼はいきなり話題を変えてきた。


「俺の使ってる駅に、サルガイがいてさ」

「サルガイ?」

「珍しいでしょ?都会にはいるけど地方のマイナーな駅にサルガイって」


「サルガイ」とは、ウサギコウモリの進化系だ。

悲しみと諦めにエネルギーを吸われ、何もできなくなり、仕事も財産も住む家も失って路上生活をしているものたちなのだ。

「ヤドカリのようになったサル」という見た目をしている。

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「そのサルガイさ、ボロボロのまま駅前で寝てるんだよ。すげえ寒いのに、死んじゃうって思うじゃん。気になってたんだけど声かけるタイミングなくてさ」

「わかるよ。気にはなるもんな」

「そう。そしたらある日駅前の自転車置場に行ったら、そのサルガイさんがいるんだよ」

「ほう」

「その日もめちゃめちゃ寒くてさ、サルガイさん自転車のカゴあさって食べ物探してるみたいなんだわ」

「そうだろうね」

「でさ、俺聞いたんだよ『お腹へってます?』って・・ははは。変な感じだけどさ」

「そしたら?」

「うなずくんだよ。こっちを警戒してる感じなんだけどさ。で、俺ちょうどその時、彼女に作ってもらった「おにぎり」持ってたんで『これどうぞ』って渡したのね・・」

「そしたら?」

「その人『これ毒入ってないか?』って言ったんだよ」

「・・・・・・」

「それでさ。なんかムカつくというよりショックでさ。この人どんだけひどい目にあってきたんだろう、って思っちゃってさー」

「だね」


「そんでさ、それから何かとそのサルガイさんに差し入れするようになってさ」

「ほう」

 
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素晴らしい文章でした。書いていただいて、誠にありがとうございました。田中隆浩

No.1 62ヶ月前
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