鴉と出汁と反知性主義
なんていうか、人間の出汁(ダシ)がやっと効いてきたっていうか、わかるようになってきたっていうかさ。
昨日九州遠征から直行して見た「Black Crowes」のライブ、めちゃくちゃ良かった。
今回の熊本遠征が決まる前からチケット取っちゃってて、福岡オフ会あったけど後ろ髪引かれる思いで熊本から立川に飛んで帰ったんやけどさ、お陰様でこの10年でいちばん素敵な音楽体験をさせてもらいました。
もしヤンサンファミリーでサザンロック好きで、これいけた人は本当によかったね。
個人的に今まで見たロックバンドのライブの中で、ダントツに出汁を感じたというか、初めて本物のサザンロックを聞いたよね。
デビューアルバム「Shake Your Money Maker」の30周年記念ツアーに合わせて言うなら、30年寝かせたバーボンの、完全に角が取れてただただまろやかになった極上のハーモニーに酔わせてもらった感じ。
もう伝統芸能というか民族音楽みたいなもんで、シャンソンやタンゴを聴いた時の感覚と似てた。
日本で言うと前川清や細川たかしの歌の味わいに近いんだけど、あっちは日本語の歌で酔わせてくれる分そりゃ酔いやすいんだけどさ、Black Crowesはホントに演奏だけで飛ばしてくれた。
マジで全盛期じゃねぇの?って思えるくらい凄まじい完成度で、物心ついてからずっとサザンロックやり続けて40年くらい経つとこんな魔法かけれるんだっていうさ、「Wiser Time」とかもうまろやかすぎて脊髄溶けたもんね。
でもそれは音楽だけ聴いてきても絶対ワカンねぇやつだなって、思ったわ。
人間の味わい、みたいなものを、ひとりでじゃなく、わかり合うということ。
これがとにかく、ぽっこり抜けてたんだよ、このコロナ禍の3年間。
先日、というかもう2ヶ月も前か。
「ワールドトリガー回」という形を借りての氷河期世代論をやったんだが、なかなか反響があって、それがとても香ばしかった。
YouTubeのコメントも普段の放送よりかなり多く、それぞれ何かしら熱いものが書き込まれていて、素直にやってよかったなと思った。
ただ俺自身はあのあと、何か物足りなさも感じていて、言いたいことはほぼ言えたんだけれど、だからこそ足りないことの気配に気付くことができたというか、残尿感のようなものも感じてた。
うまく言えなくて申し訳ないが、このコロナ禍の3年間でうっすら感じていた、音も形も色も臭いもない何かの、その気配をやっと認識できることができた。
そんな風に言うとなんか”ぼんやりした不安”みたいなものを想像した人がいると思うけど、あれじゃないのよ。
あればぼんやりしてるからこそすぐわかるので、そうじゃなくて、感じようとしないと感じれない程度の、あってもなくてもまぁいいんだけども、でもめちゃくちゃ大切な気がしないでもないアトモスフィア。
その感覚のまま森川ジョージの兄貴と出会い、アントニオ猪木が往生し、主題歌選手権があり、ヤンサンが9年目に入り、相棒に亀山くんが帰ってきて、科捜研の女が23年目にしてまた新たに熱い季節を開いたところに、アッコ先生が来て相変わらずワイワイやった。
そして「三島由紀夫vs東大全共闘」である。
三島回は、ヤンサンの2年目かな。
2015年の命日にも一度ヤンサンでやった。
久世が初登場の回だったような気がする。
あの時は未熟ながらも俺なりに三島を語らせてもらったが、あんなもの見なくともこの映画を見ればもう「三島由紀夫」という人がどういう人だったのか、理論でなく感性でわかってもらえるだろう。
もちろん、芥正彦をはじめとする全共闘の若者もそうである。
月並みな言い方になるが、みんな熱い想いを持って生きていたんだなと。
それと並行してこの一年、ずっと「映像の世紀 バタフライエフェクト」というNHKスペシャルを見てきた。
それはきっと憶えている人も多いだろうあの「映像の20世紀」という90年代のNHKスペシャルの傑作シリーズを、今の映像技術でリマスターして、現代までの歴史的事件の映像と繋ぎ、さらにテーマごとに再編集して45分ずつにまとめたドキュメント番組である。
ベルリンの壁崩壊とメルケル、スターリンとプーチン、宋三姉妹と江青と蔡英文、ルー・リードとベルベット革命、ヒトラーとチャップリンなど、20世紀このかた世界と歴史を彩った様々な傑物たちが映像の中に生きている。
彼らはとにかく人間として圧倒的に濃く、良くも悪くも「人間の傑作」だった。
悲劇も喜劇もその陰影が凄まじい。
人間の個性を限界突破したキャラクターのオンパレード。
先日の「三島由紀夫vs東大全共闘」も含めて、そういう歴史の“沸点”の中心にいた人間たちは、皆一様におもしろく、濃密だ。
それを味わい続けることはブルーチーズを養命酒で楽しむみたいな感じで、わけのわからない“歴史酔い”みたいな酩酊状態になるんだが、生来歴史好きの自分としてはぜんぜん嫌いじゃなく、心地よい陶酔でむしろ調子が良かった。
しかし、「ワートリ氷河期回」の後に感じた、何か足りないものがあるなという予感は、その酩酊があろうとなかろうとずっと頭の後ろに、うっすら感じていた。
……そんな中、約3年半ぶりに、ヤンサンの遠征に出かけた。
熊本県芦北町に招かれて、村枝賢一先生と玲司さんの対談をやりつつ、芦北町の魅力を語り合うためだ。
そのついでに…と言うと何か語弊があるが、せっかく遠征に行くのだから、玲司さんの個展の関西での開催のためにいくつかギャラリーを回りたかったのもあって、長らく顔を出せてなかった関西にも寄ってゴルパンのオフ会を開いた。※「ゴルパン」とは山田玲司のファンサロン「ゴールドパンサーズ」のことで、今回の関西のオフ会は毎月定期で行われるゴルパンオフ会の11月の回でした
個人的にも久しぶりの関西なので俺だけ前乗りして、実家に帰ったり大阪や京都のギャラリーを回り、そして神戸、である。