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【講演会レポ】火星衛星サンプルリターン計画(JAXA MMX計画)―はやぶさ2の次にくるもの―(後編)
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【講演会レポ】火星衛星サンプルリターン計画(JAXA MMX計画)―はやぶさ2の次にくるもの―(後編)

2019-06-21 23:00
    前編は→コチラ

    葛飾区 郷土と天文の博物館で行われた「第103回 星の講演会 火星衛星サンプルリターン計画(JAXA MMX計画) ―はやぶさ2の次にくるもの―」の講演会レポの後編になります。

    前編ではMMX計画の概要と、火星衛星を目指す理由について触れていきました。後編では、火星の衛星と巨大衝突説、NASAをギャフンと言わせるMMXのサイエンス、将来の探査戦略と、質疑応答の内容を紹介します。


    4 NASAをギャフンと言わせるサイエンス



    現在(上図)および約40億年前(下図)のフォボスとデイモスの軌道(火星赤道面を見た図)
    画像:参考文献[1]


    火星には小さな衛星フォボスとダイモス(ディモス)がある。フォボスは火星のすぐ近くを、ダイモスは火星から見た静止軌道のわずかに外側を公転している。

    フォボスは火星の共回転半径より内側を回っており、1年で2cmずつ火星に近づいている。このままいくと、フォボスは約3千万年後に火星に落下してしまう。ダイモスは共回転半径の外側に位置しているので、少しずつ火星から遠ざかっている。

    フォボスとダイモスの反射スペクトルはD型小惑星に似ており、非常に暗い。

    D型小惑星とは:低い反射率を持つ小惑星で、小惑星帯の外側や木星トロヤ群小惑星に多い。
    ※共回転半径とは:中心惑星(火星)の自転速度と衛星の公転速度が一致する距離のこと

    そのためフォボスとダイモスは長らく、「捕獲された小惑星である」と考えられていた。しかし、火星の2つの衛星はほぼ円軌道で、ほぼ火星の赤道面を公転している。捕獲された小惑星が偶然に、しかも2つとも、赤道上空の円軌道にほんとうになるのだろうか?

    捕獲された小惑星が赤道面を通る確率は、P=0.0003で、0.03%しかない。しかもこの数字は衛星1個あたりの確率であり、2個とも赤道面になる確率はもっと低く、サマージャンボの1等を当てるようなものになる。

    捕獲説によって火星衛星が形成された可能性は、確率的に極めて低いのである。

    (左)近接遭遇した天体を重力によって捉える捕獲説 / (右)巨大衝突によって形成された 破片から衛星が集積する巨大天体衝突説 画像:参考文献[2]

    さて、捕獲説と対立するもう1つの説が衝突説なわけだが、そもそも天体衝突で本当に火星衛星が形成されるのだろうか?

    火星の北半球には、「ボレアリス平原」という大きな盆地がある。この地形は巨大衝突によって形成されたと考えられており、玄田先生たちの研究チームは、この巨大衝突でばらまかれた破片から火星衛星が形成されうることをコンピュータシミュレーションによって確認した。

    下図がシミュレーションで確かめられた、火星衛星形成のシナリオである。
    巨大衝突によって形成された円盤の進化と火星衛星の形成過程の概念図 図:参考文献[1]

    この研究成果は、折しもJAXAがMMXを検討していた2016年7月に発表され、新聞やネットなどのメディアで大きく取り上げられた。

    リンク:東工大など、火星の2衛星誕生を解明−40億年前に衝突・形成 | 科学技術・大学 ニュース | 日刊工業新聞 電子版

    リンク:火星に天体衝突…衛星形成の過程を解明 東工大准教授ら:朝日新聞デジタル

    さて、火星の衛星が巨大衝突で誕生したとすると、火星の衛星は、火星本体と、ぶつかってきた天体の両方の物質が含まれることになる。シミュレーションの結果、二つの天体の物質がだいたい半分ずつ、火星の衛星に含まれることがわかった。(!!!)

    衝突起源説で期待される火星衛星の材料物質(左図)と衝突によって破片円盤としてばらまかれた火星由来物質の初期位置(火星表面からの深さ,右図) 図:参考文献[1]

    これはどういうことかというと、火星の衛星からサンプルを持ち帰ると、衝突してきた天体の物質も、火星本体の物質も手に入る。一石二鳥!ならぬ、一鳥二石!

    さらに火星本体の物質には、衝突の際に火星の深いところから掘削されたマントル物質も含まれている。

    衝突説が正しければ、火星の衛星には衝突天体火星の表面物質と、火星のマントルの3種類の物質が含まれている。MMXは、一回のサンプルリターンで3種類の物質を持ち帰ってくる可能性を秘めた計画なのだ。

    NASAはこれから10年ぐらいかけて火星本体に探査機を着陸させて、火星表面のサンプルを何千億円もかけて持ち帰ろうとしている。我々はそれよりも前、2020年代のうちに火星衛星からサンプルを持ち帰る。衝突説が正しければ、火星本体の物質を半分も含んだサンプルを、わずか数百億円(おおよそ300億円?)で手に入れることができる。MMXは、時間と予算をかけるNASAよりも、早く安くできるポテンシャルを持っている。これを成功させて、NASAをギャフンと言わせたい。本当にNASAがギャフンと言うかはわからないが(笑)

    火星衛星の成り立ち方は、コンピュータシミュレーションを使って見つけた。が、シミュレーションは”検証”をする必要が本当はある。検証してくれるのがMMX。どちらの説が正しいのかは、火星衛星から持ち帰られたサンプルを見るだけですぐ判断がつく。専門の人が見れば巨大衝突説か捕獲説かが一発でわかる。

    画像:https://www.cps-jp.org/~satellite/2018/pdf/kuramoto.pdf

    例えば捕獲説の場合、サンプルは小惑星や隕石のようなテクスチャ(見た目)になっているが、巨大衝突説の場合は溶けていた物質が急冷するので、ガラスのようになっている。
    見た目でもわかるし化学組成を分析してもわかる。

    (これがMMXの強みなのだ…!!このお話を聴いたときはとても気分が高揚しました。)



    なぜ火星の衛星に行くかをまとめると、

    ・火星の衛星の起源がわかってない
    ・火星衛星のことが分かると火星のことも分かる
    ・巨大衝突説が正しかったら、火星の物質も手に入る
    ・工学的には大きなチャレンジになり、今後につながる大きな経験になる


    5 20年後のフロンティア



    2020年代にSLIM(2021~)MMX(2024~)が探査を行い、重力天体へのピンポイント軟着陸と火星圏往復を行う。そして2030年代前半になると、日本は火星本体への着陸探査の準備が整う。

    ここ10,20年の研究で、火星のことがより詳細にわかってきている。大昔の火星には海があったらしいことがわかってきた。NASAやESAは火星表面の河川地形を発見。水が流れたような跡がある地形は火星のいろんなところで見つかっている。

    ESAの探査機マーズ・エクスプレスが撮影した火星の河川地形(オスガ峡谷) 画像:ESA

    詳しい調査の結果、40~35億年前の火星に海があったと考えられるようになってきた。

    さらに現在でも、火星には水が流れているのではないかと考えられている。
    火星のいろんなところで、水が流れたような筋模様が季節変化に連動して見られるのだ。
    リンク:MROが撮影した火星の筋模様のGIF画像

    つまり、今火星の地下には氷があって、夏には液体の水になって、そこに微生物がいるかもしれない。もしかしたら、太古の海に住んでいた微生物の死骸が含まれているかもしれない。

    2030年代、NASAは火星に探査機を送り込み、火星で生命がいそうな場所のサンプルを採取して、火星の重力を振り切って地球に持ち帰り、分析を行おうとしている。
    MMXはそれに先んじて火星衛星のサンプルを持って帰るが、運が良ければ、そのサンプルの中に生命の痕跡(死骸)が含まれているかも(笑)。
    (これが起きたらNASAはギャフン!だ!)

    また、火星の地表に降り立つ探査機にドリルと顕微鏡、生命(細胞膜)に反応する試薬を積んで、火星の表面で火星の生命を探す方法も(海外で?)開発されている。

    最終的には2040年代頃に火星に人を送り込む。ただこれには莫大な費用が掛かるので、世界中の国々との共同プロジェクトになる。日本もこれに関わりたいと思っている人がたくさんいる。しかし仲間に入れてもらうには、お金を出す以外で探査に貢献できる何かが欲しいところ。そこでMMXによる火星圏探査の実績があれば、火星有人探査に対等なパートナーとして参加できる…かもしれない。

    MMXは、MMXの先にある将来の火星有人探査につながる大事なミッションでもある。

    将来的に人類の活動領域を火星へ拡大(イメージ図) / 有人宇宙技術部門 長期ビジョンに係る画像 画像:JAXA

    玄田先生的には、人を送り込む前に、火星に地球外生命がいるのか決着をつける必要があると思っている。
    人を送り込むということは、一緒にバクテリアも送り込んでしまう。火星みたいな貧弱な土地にいる生命はとても弱いと思う。地球で育った微生物はすげー強そう。地球育ちの微生物が火星の微生物を駆逐してしまう可能性がある。だから火星に行くときはしっかり滅菌したものを送り込んで、火星に生命がいるのかある程度決着をつけてからやったほうがよいと思う。

    いずれにしても、日本は火星圏にMMX探査機を送り込んで、MMXを成功させる必要がある。


    MMXの現状について


    現在MMXはプロジェクト化の3か月前。プロジェクト化されるとたくさんの予算がつき、GOサインが出る。今までもいろんな審査を行ってきたが、3か月後(9月)に最終審査の最終決定が下る。JAXAとしては現在プリプロジェクトの段階。

    皆さんのツイートが重要になってくる。


    今盛り上がっているはやぶさ2の次、MMXはどういうサイエンスを秘めているのか、それからMMXの先にどうつなげていくのか。MMXの重要性についてお話しました。
    長時間のお話になりましたが、ご清聴ありがとうございました。



    質疑応答



    この後、質疑応答の時間が30分ほど続きました。自分は今回の講演を聴くにあたり、ツイッターで質問したい内容を募集しており、その内容を質問カードに記入し、提出しました。

    ただ残念ながら、今回は非常に多くの参加者から質問があったため、自分の質問は時間の都合で行われることはありませんでした。

    ツイッターで募集した質問について、答えられる範囲で自分が答えてみたいと思います。


    Q. そもそもフォボスとダイモスは同一起源なのですか?片方、例えばフォボスが巨大惑星衝突の起源だったりダイモスは小惑星捕獲の可能性はありますか?(どこまでもスペースX @dokomademospac1 さんから)

    A. 玄田先生のお話からは、巨大衝突も小惑星捕獲もそれぞれの出来事の結果で2つの衛星が残る、という風に聞こえました。同一起源だと考えているようです。しかしながら、2つの衛星が別々の起源という可能性があるのかは、機会があればしっかり聞いてみたい質問だとおもいます。

    また、他の参加者の質問で、「Q. フォボス、ダイモスの起源で、捕獲説と衝突説以外にもあるのか」というものがありました。その回答は「A. 事実は小説よりも奇なり。実際にサンプルを持ち帰るとどっちの説でもないじゃん!となる可能性もある。その方が逆に面白いと思っている。こういうこと(サンプルリターンで新たな仮説が浮上)がアポロ計画で実際に起こっている。今のところ仮説としては2つが有力で、ほかの仮説は今のところ検討しづらい状況。」とのことでした。

    Q. 目的に「火星圏への往復技術の獲得」とあるが、これは将来的に木星等他の高重力惑星圏からのサンプルリターンも視野に入れての事か。JAXAの(小)惑星探査としてはこれからサンプルリターンがメインロードになっていくのか(田山みきお/他称 失脚 @sikkyaku さんから)

    A. MMXの目的の1つである「火星圏への往復技術の獲得」。これは将来的な火星本体の探査を見据えているようです。講演では将来の火星無人探査、そして国際協力による火星の有人探査に必要となる技術を習得するのがMMXの目的の1つなのだと感じました。ただMMXによる小天体探査技術・サンプルリターン技術を、将来どう活かしていくのかは、大いに気になるところです。


    Q. MMXでもキャラ付けしたTwitter垢は登場するのか(同上)

    A. これに関してはわかりませんでした。ベピコロンボの「みお(MIO)」、はやぶさ2の「haya2kun」のようなアカウントが今後出ていくのか、とても気になりますね。個人的にはキャラ付けしたアカウント同士の掛け合いが見てみたいです。


    Q. フォボスとダイモス、どちらが調査サンプル的に面白くなりそうか、アプローチ的にチャレンジブルか(同上)

    A. 質疑応答の時間に、探査機がフォボスに2回着陸することについての話がありました。

    玄田先生は個人的にフォボスとダイモスの両方に着陸してほしいと思っているのですが、両方に着陸すると燃料が多く必要になり、重量も予算も増えてしまうなどの大人の事情から、フォボスのみに着陸するそうです。

    ほか、下記参考文献[4](PDF)の4~5枚目に、火星衛星への着陸に関する情報が載っていますので参考にしていただけますと幸いです。

    とても興味深い質問をいくつも頂きました。残念ながら回答を得ることができませんでしたが、今年の秋にJAXA相模原キャンパスの特別公開が行われるということなので、その機会を利用して関係者の方に質問したいと思います。

    講演終了後、玄田先生の所に赴いて直接会話できる機会はあったのですが、夜遅い時間だったこともあり、MMXを応援していることと、MMXの理学についてとても勉強になったことをお伝えするので精一杯でした。

    玄田先生自身、MMXが工学的な要素を多分に含んだミッションであることは承知しているようで、MMXの関係者のうち理学に携わる人は1割程度であるとか、工学あっての理学であり、理学は最大限の科学的成果でもって工学に応えるということをおっしゃっていました。

    MMXは技術的に大きな挑戦でリスクも大きいと思いますが、サイエンスの方々はこのことを理解しつつ、科学的成果を最大にするために今から周到に準備を進めている。そう感じました。

    今回の講演会を通じて、MMXのテクノロジーとミッションの凄さはもちろん、火星衛星の起源と科学を明らかにするMMXのサイエンスも素晴らしいということがわかりました。講演を聴いて本当に良かったです。

    MMXの探査がますます待ち遠しくなりました。まずは今年9月のプロジェクト化、そして5年後の打ち上げに向けて、引き続き応援していきます!!



    参考文献


    以下、この講演会レポをまとめる際に参考にした文献を紹介します。

    [1]「火星衛星フォボスとディモスの起源・進化の現状理解/兵頭,玄田」日本惑星科学会誌 Vol. 27, No. 3, 2018 p216-223より
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/yuseijin/27/3/27_216/_pdf/-char/ja

    ↑火星衛星のサイエンスについて、特に衝突説による火星衛星形成のメカニズムとサイエンスについて知りたい方は是非。


    [2]火星衛星フォボスとディモスの形成過程を解明―JAXA火星衛星サンプルリターン計画への期待高まる― | 東工大ニュース | 東京工業大学
    https://www.titech.ac.jp/news/2016/035625.html

    ↑2016年7月の玄田先生らの研究成果のプレスリリース。


    [3]「火星衛星の起源 -ちっぽけな衛星が語る壮大な物語-」東京工業大学 地球生命研究所 玄田 英典 日本地球惑星科学連合ニュースレター誌(JGL) Vol.12 No.4 (2016/11)
    http://www.jpgu.org/wp-content/uploads/2018/03/JGL-Vol12-4.pdf

    ↑今回の講演内容の8割(5以外)がここにあるといっても過言ではない。講演内容を追体験したい方は一読推奨。


    [4]「太陽系ハビタブル惑星の成立を探る火星衛星探査計画MMX/倉本 圭, 川勝 康弘, 藤本 正樹, 玄田 英典, 平田 成, 今村 剛, 亀田 真吾, 松本 晃治, 宮本 英昭, 諸田 智克, 長岡 央, 中川 広務, 中村 智樹, 小川 和律, 大嶽 久志, 尾崎 正伸, 佐々木 晶, 千秋 博紀, 橘 省吾, 寺田 直樹, 臼井 寛裕, 和田 浩二, 渡邊 誠一郎, MMX study team」日本惑星科学会誌 Vol. 27, No. 3, 2018 p207-215より

    https://www.jstage.jst.go.jp/article/yuseijin/27/3/27_207/_pdf/-char/ja
    ↑MMXのミッションとテクノロジーの詳細について。


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