Well-to-Wheelという燃費の考え方『科学者のニュースの読み方』vol.22
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Well-to-Wheelという燃費の考え方『科学者のニュースの読み方』vol.22

2013-05-12 09:00
    『科学者のニュースの読み方』vol.22
    Well-to-Wheelという燃費の考え方

     最近はもっぱら憲法の話が話題の中心になっていて筆者は若干飽き気味。たまには得意のエネルギー関連の科学技術の話でもピックアップしてみます。なるべく専門用語を使わずに噛み砕いて書くように注意します。

     自動車といえば、従来はガソリン車とディーゼル車の2択、日本ではほぼガソリン車の1択だったのが、近年は電気自動車とガソリンに加えてブレーキロスを電池に蓄えるハイブリッド車が選択肢に増えました。まだほとんど走っていませんが燃料電池車も話題にあがりますし、液化石油ガス(LPガス)で走っているタクシーがたくさんあることが地味に知られていなかったりと、車輪を回すための駆動メカニズムにはたくさん種類があります。しかしどの自動車も、メーカーは売り文句として燃費が優れ、同時に環境負荷が小さいことも必至にアピールします。「ガソリン1リットルでxxキロメートル走れる!」とか「充電した電気はxxパーセント車輪に伝わる!」とか。しかし熱や動力、さらには静止しているものまでエネルギーの塊に見える筆者のような人は「いや、それだけじゃわからないから」と即答するのがお約束です。
     "Well-to-Wheel"という考え方があります。直訳すると「井戸から車輪まで」です。ガソリン、電気、水素はいずれも元をたどると原油ですし、それらが動かすものは車輪であるという起点と終点が同じエネルギー媒体です。エネルギー消費が上がるとほぼ比例的にコストも上がっていきますので、燃費を考えるにあたってこの"Well-to-Wheel"に注目するのはとても重要です。

     では、ひとつずつ説明します。まずはガソリン。原油は油田から勝手に噴出してくるものですのでここのエネルギーロスは小さいものです。この原油から蒸留という操作でガソリンになる成分を得ることができますが、それでは需要を満たせないので他の成分を化学反応して作り足して得ます。これらのプロセスはすべて熱をかける操作でさほどの吸熱は起こらないので、そのままエネルギーロスとなります。ガソリンスタンドまで運ぶにあたっては、元々液体なので特別な操作が必要なくロスは輸送用燃料のみできわめて小さいものです。エンジンでは空気と混合し、着火させ、爆発したときの推進力を車輪に与える仕組みでガソリンが消費されます。爆発なのでかなりの熱を生じ、これもそのままエネルギーロスになります。実際はこの廃熱は排ガスを浄化する化学反応に使われるのでまったくの無駄ではないのですが、車を動かす目的のための燃費には関係ありません。車内の駆動パーツで生じる摩擦もエネルギーロスになりますが、これはどの駆動機関でも同じです。

     次に電気です。石油発電が残っていますが、これからはほぼ天然ガス発電に移っていくのでこちらを主に考えるとします。天然ガスも原油と同じく噴出してくるものなので採掘にかかるロスは小さいものです。日本は基本的に天然ガスを液化天然ガス(LNG)としてタンカーで輸入していて、一度天然ガスを圧縮して液体にするプロセスが必要です。圧縮するためには当然エネルギーが必要です。気体は圧縮したときに発熱しますが、これは元に戻すときに同じだけ吸熱するのでここでエネルギー収支を気にする必要はありません。ちなみに日本に到着したLNGを気体に戻したときに生じる吸熱は、水産物を保管する巨大冷蔵倉庫に応用されているというのは余談です。発電所ではこの天然ガスを燃やしたときの推進力と、生じた熱で水を蒸発させたときの推進力をあわせてタービンをまわし、電気にします。ここのエネルギー効率はかなり低いものですが、近年の革新的な技術進歩もあって、建て替えが進めばみるみる効率が向上することが期待できます。発電所で発生した電気は電線を伝って各所にエネルギーを伝える媒体となりますが、ここでもロスが生じます。自動車内ではモーターを動かすことになりますが、ガソリン車のような内燃機関に比べれば小さいロスです。

     最後に燃料電池車に用いる水素です。水素は天然ガスと水の化学反応で得るもので、石油精製や肥料の元となるアンモニアを合成するのに必須な中間原料として日常的に大量に生産されています。天然ガスを日本に持ってくるまでのプロセスは既述のとおりで、同じエネルギーロスがかかっています。天然ガスと水の反応は大きな吸熱なので高温を要しはしますが蒸留操作に比べれば小さいエネルギーロスです。これを水素ステーションに運ぶのが難点で、水素は体積あたりのエネルギーが小さいので圧縮して輸送や保管をしたいところですが、液体にならないのでできる限り圧縮するという現状で、かなりのエネルギーをかけています。ちなみに、水素を効率的に貯蔵できる材料やプロセスはまだ研究段階です。水素は燃料電池でエネルギーを電気に変換してモーターを回すのに消費されますが、燃料電池内でおきている化学反応は水素と酸素の反応なので大きな発熱を伴います。寒い季節ならばこの熱は車内の暖房にそのまま使えるのですが、そうでなければ利用価値のない廃熱です。

     どうでしょう、意外なところでたくさんのエネルギーロスがあってようやく自動車が動いていることがわかっていただけたら嬉しいものです。
     ここまでの3つの例で具体的な数値を一度も出さなかったのは、なんだかんだいってこの調査をする組織にもそれなりな利害関係があって、意図的に都合のいい計算方法をとっていることが疑えてしまうからです。実際"well wheel"でググってみると、たくさんグラフが見つかります。一応筆者が信用している"Well-to-Wheel"値を書いておくと、どれも同じくらいで15%程度です。ちなみにハイブリッド車は25%くらいになるらしい。5年くらい前に聞いた値を少し盛ったので、今の正確な値は自動車会社や石油会社に勤めている人に聞くのをおすすめします。
     ガソリン代と電気代のどちらがという話題が決着しないのは"Well-to-Wheel"でみたときの燃費がほとんど同じだからなんですね。そうなると、一度燃料を補充したら長距離を走れるガソリン車を選択するのが普通です。電気自動車や燃料電池車がなかなかガソリン車を置き換えないのは、燃費とは別のところにあるわけです。電気自動車は発電所のスペックが上がること、燃料電池車は水素貯蔵技術と燃料電池の発電効率を追求することが大事ですという説明でした。

     おまけの話ですが、冒頭に書いたLPガスで走るタクシーの件です。都心では地下パイプラインが整備されて天然ガスが都市ガスと名前を変えて運ばれるようになっていますが、少し地方へ出ればボンベでガスを買って使っている家庭ばかりになります。これがLPガスなのですが、残念ながら石油精製プラントで余りがちな成分なのです。これは燃料として使えるのですが、むしろ燃料としてしか使えない価値が低いもので、ガソリンよりは安くて天然ガスよりは高いという序列。排ガスのきれいさもガソリンより優れ、天然ガスに劣るという順序。こういう燃料は走行量の多いタクシーに相応しいということで、LPガス自動車というのができて、人知れず街中を走っていたりします。地味にエンジン音が普通のガソリン車と違うので、知らなかった人はこんどタクシーに乗るときに気にしてみてください。

    ■Amazonマーケットプレイス便利ですね

     中学生のとき近所の友人に貸したままだった音楽CDをすっかり忘れていたのに先日返されたのですが、音楽も本もダウンロードで購入するのがデフォルトになった今の私には物理的な媒体は邪魔なので、眠っていた他の音楽CDと合わせて売り払うことにしました。しかしどれも古く、ただブックオフに持っていったのではペプシ代くらいにしかならない。
     そこで、以前誤って購入したデバイスを転売するために利用したAmazonマーケットプレイスを思い出しました。調べてみると、まだまだ数千円で出品されているものが多々あるではありませんか。目的はどちらかというと処分なので割安な値段をつけてみたところあっさり買い手がつきました。もうちょい丁寧に包装すればよかったかなと思いつつもきちんと緩衝材に包んで発送。調子に乗って、わりときれいなのに、すっかり使わなくなったPC周辺機器も出品してそこそこ売れました。当初大満足だったKindle Paperwhiteもだんだん不満になってきたので売ってしまおうかなあ。

    Y. Izutsu / みもそ
    Twitter: mimoso4
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